山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

未成年者の深夜のネットが禁止に? 草案発表 ほか~2017年1月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にも分かりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

VPNを含むインターネット規制強化を発表

 中国政府が主に中国国内の未許可のインターネットVPN提供業者の摘発粛清を強化する。中国の情報産業省にあたる「工業和信息化部」という部署が「関于清理規範互聯網接入服務市場的通知(インターネット接続サービス市場の整理・規範化に関する通知)」を発表した。また、後日、工業和信息化部はこの通知の補足として、「国際的な企業や貿易企業が業務のために適切な事業者による専用線などを利用すれば問題はない」などと発表した。VPNは中国国内からGoogleやFacebookなどに接続する“壁越え”用途で利用されている。

 発表では即日より実施となったこの摘発強化だが、2月中旬現在でも外国人向けのVPNサービスを店頭で販売している業者は複数確認できる。過去にも同様の摘発強化は発表されているが、完全にはVPNが利用できなくなることはなかった。「ネットリソースの又貸し」業者を批判していることから、中国国内でVPNサービスを販売・提供する業者に対して摘発を行うと予想される。

FacebookやTwitterを使わないと商売にならない外国人に対応した店も

インターネットユーザーが7億3125万人に、大都市などでは普及率は7割以上

 中国ネットワークインフォメーションセンター(CNNIC)は1月22日、2016年末における中国のインターネット利用状況をまとめた「第39次中国互換網発展状況統計報告」を発表した。

 中国における2016年末時点のインターネット利用者は7億3125万人。1年間で4299万人増加した。インターネット普及率は53.2%。都市部での利用者は5億3100万人で、普及率は69.1%。北京、上海、広東省では普及率が70%を超えた。これに対し、農村部での利用者は1年前より526万人増加の2億100万人で、普及率は33.1%。スマートフォンなどモバイル機器によるインターネット利用者は6億9531万人で、1年間で7550万人増加した。

インターネットユーザー数の推移

 利用用途別では、フードデリバリー、ネット医療、eラーニングの利用者が目立って急増した。主な利用用途を挙げると、チャットは6億6628万人、ニュースは6億1390万人、動画視聴は5億4455万人、オンラインショッピングは4億6670万人。

4G加入者数は7億7000万人に

 工業和信息化部は、2016年末時点での4G加入者数は7億6994万、3G加入者数は1億7080万と発表した。2015年末に比べ、4Gは3億3956万増、3Gは1億492万減。3Gからの移行と新規増加で、急激に4G加入者数が増えている。携帯電話加入者数は13億2193万で、普及率は96.2%。固定ブロードバンド回線数は2億9720万で、前年より3774万増加し、うち2億2765万がFTTHだという。

 ただし、最近のキャンペーンでは、固定ブロードバンドに加入すると、4G契約が3回線付いてくるキャリアもあり、実際の利用数よりも水増しされている可能性はある。

中国政府、ネット通信のさらなる普及を目指す5カ年計画を発表

 工業和信息化部は、情報通信業とIoT産業についての5カ年計画を発表した。その内容は2020年までの目標についてとなっている。

 2015年から2020年にかけての目標として、「モバイル高速インターネットの普及率を57%から85%に」「固定ブロードバンド普及率を40%から70%に」「1人当たりの月平均モバイル利用データ容量を389MBから3100MBに」「都市部でのブロードバンド提供を20Mbpsプランから100Mbpsプランに、農村部の半分で4Mbpsから50Mbpsに」「各行政地域の光ケーブルカバー率を75%から98%に」「アクティブなアプリ数を600万から900万に」「ドメイン数を3100万から5300万に」「情報産業市場を1兆7000億元から3億5000兆元へと倍に」「ネットサービス産業規模を1兆元から3兆元に」「5Gの標準化と商用化サービス開始」「IoT、クラウドコンピューティング、ビッグデータ各技術の強化」といった目標となっている。それとは別に2018年までの計画も発表し、大都市で100Mbps以上、1GBbpsクラスも視野に入れたブロードバンド提供を目指すという。

 なお、ここでいうブロードバンド回線の速度はダウンストリームであり、アップストリームは1Mbps、2Mbps程度のサービスが一般的。

春節突入。お年玉「紅包」のほか、レンタル彼女も

 今年の春節(旧正月)は1月末。ミニブログ「微博(Weibo)」やチャット「微信(WeChat)」での新年のコミュニケーションが増え、SMSの利用は減った。特に微信によるお年玉「紅包」が急上昇。1月27日の大晦日には、前年比75%増の142億通の紅包が送付された。最も人気の送金額は、中国人にはめでたい「8」の数字を活用した「8.88元(145円)」に。

 春節の紅包といえば、今年は騰訊(Tencent)のチャットアプリ「QQ」が、Pokémon GOのようなARと位置情報サービスを組み合わせて紅包をゲットするサービスを限定リリースして話題に。テクノロジーに敏感な人々がスマートフォンで地図を見ながら、紅包をゲットした。なお、1月には「中国音像与数字出版協会遊戯出版工作委員会」と国家広電総局は、「国家安全面の脅威からPokémon GOのようなゲームは出ない」と発表している。

今年のネット紅包サービスはARや位置情報サービスなどを活用したものに

 また、多くの人が帰郷する中で、帰郷せずとどまる人の孤独感を解決するレンタルスタッフサービス兼アプリ「来租我バ」(バは口へんに巴)がニュースに取り上げられた。登録しているのは若い女性が多いが、春節期間中のレンタル価格は1日3000元~1万元(4万8000円~18万円)と値段が急騰した。ニュースによれば、来租我バのほかにも同様のアプリがあるほか、チャットの微信やQQほか、掲示板の「百度貼バ」でもやり取りが見られるという。

大学生の現金離れ、電子マネー活用し賢い消費

 EC最大手の阿里巴巴(Alibaba)の支払いサービス「支付宝(Alipay)」を、1990年代生まれの世代の約92%が利用しているという。支付宝はPCでの第三者支払いサービスとしてスタートしたが、現在はスマートフォンとQRコードを活用したリアルショップでの支払いに多く使われている。

販売店や飲食などで電子マネーは当たり前のように対応している

 支付宝を運営するバ蟻金融(バは虫へんに馬)による、1990年代生まれの大学生を対象とした支付宝の利用実態の調査結果で、(主に都市部の)若者の現金離れが明らかになった。大学生の支付宝利用(買い物、他行への振り込み、投資商品購入など)の平均金額は4万839元(約67万5000円)で、2015年のほぼ倍となった。また、大学生が昨年、阿里巴巴のECサイト「淘宝網(Taobao)」で購入したものは、服が20.77%、通話料が11.02%、化粧品が8.04%などだった。デジタル製品やスマートフォンも4%程度あり、大学生はデジタル系製品購入に消極的ではなさそうだ。

大学生と電子マネー利用調査

 この調査結果を紹介した中国青年報は記事で、お釣りが出なくて済むことから、お菓子などの数元のものでも支付宝を利用していると紹介。また、社会人と比べて収入は十分でないため、11月11日のオンラインセールの日だけ高価なスマートフォンを買う大学生や、国内旅行ばかりを楽しんだ大学生など、支付宝を活用した一点豪華主義的な大学生を紹介している。

未成年者の深夜のネットが禁止に? 草案発表

 中国政府のネット関連の部署「国家インターネット情報弁公室」は、未成年の深夜0時から朝8時までのネット利用を止めるための草案を発表した。オンラインゲームサーバーや公共のネット端末への夜間年齢制限機能の追加ほか、スマートフォンへの専用管理アプリの実装を狙う。中国政府側は理由として、ポルノや暴力などの不良コンテンツから離すことや、夜間の攻撃的な書き込みを避けるためとしている。プリインストールやショップでのインストールを促すとしている。一方で別の部署である工業和信息化部は昨年12月、アプリはアンインストールできるものでなくてはならないという規定を発表している。このあたりの既定の衝突はどうなるのか気になるところだ。

 ソフト実装を強制しようとしたことは過去にもあり、例えば全PCへのインストールを試みてユーザーの反対にあって事実上の失敗となった、通称「グリーンダム」というPC向け検閲ソフトが有名。

ネット大手、続々と銀行業に参入

 12月末から1月にかけて中国のネット大手が続々と民営銀行の営業許可を受けている。1月5日には百度が参画する中信百信銀行、12月末にはスマートフォンで知られる小米が参画する「四川新網銀行」、ECサイトでも台頭している大手家電量販店の蘇寧電器の「江蘇蘇寧銀行」、クーポンサイト兼口コミサイト美団点評の「億聯銀行」がそれぞれ民営銀行営業許可を受けた。また、EC大手で台頭した京東もネット銀行参入に意欲を見せている。2014年に阿里巴巴の浙江網商銀行と騰訊の微衆銀行を出して以来の大きな動きだ。新たなフィンテック周りの環境が変わっていくのか、気になるところだ。

中国語ドメイン名の登録数が100万を突破

 CNNICによると、中国語ドメイン名の登録数が100万を突破した。例えば「迪士尼.中国」をブラウザーのアドレスバーで入力すると、中国ディズニーのサイトが表示される。トップレベルドメインでは「.net」に相当する「.網址」、「.info」に相当する「.信息」もあり、さらに「.在線」「.中文網」「.集団」「.我愛ニ」(二は人偏に尓 )などもあるそうだが、中国語ドメイン名自体が実際普及しておらず、導入する企業や団体はまだ少ない。

 なお、中国でのドメイン名登録数(中国語以外も含む)は4000万を超える程度だという。

著名企業の中国語ドメイン名が第三者から売られていることも

「微信」内で動くアプリプラットフォームを正式リリース

 騰訊は、「微信」内で起動するクラウドアプリプラットフォーム「微信小程序」をリリースした。「程序」はプログラムの意味。それ以前もプラットフォームはあったため、今回は正式リリースとなる。微信小程序はアプリをインストールする必要はなく、使いたいときにアクセスすればいいことを長所として挙げている。これまでも百度や奇虎360などが軽応用(「応用」はアプリの意)という名称で出していた。

 キラーアプリとして、フードデリバリーの「美団外売」、ECの「京東」、シェアサイクルの「Mobike」、配車アプリの「滴滴」などの定番サービスがあり、実生活である程度活用できる状態にある。

山谷 剛史

NNA所属。中国アジアITライター。現在中国滞在中。連載多数。著書に「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。