山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿
阿里巴巴の新規SNS「生活圏」スタートも、「女性への投げ銭」で失敗 ほか~2016年12月
2017年1月24日 06:00
本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にも分かりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。
2016年のネット事件総括が各IT系サイトから
2016年の中国IT業界を回顧するニュースを、複数の中国メディアが報じた。特に話題になったもので、かつ筆者としても実感がある2016年の話題としては、急激な普及をした「シェア自転車の普及」、昨年の急激なネットサービス普及後、法規制・ルールが次々と出された「実況動画の興隆と規制」や「普及する配車サービスの規制強化」、急激に盛り上がったが冷めた「VR」が挙げられる。また、以前から続く「コンテンツの強化から、ユーザーのコンテンツ支払意識の向上」をニュースの1つとしたメディアもあった。
2016年に起業したネット企業は前年比77%減の2677社で、大幅に少なくなった。また、投資を受けた会社は同26%減の5644社と、こちらも少なくなり、去年よりもネットベンチャー企業の勢いがなくなった。
ほかにも2016年に話題となった中国ネットニュースはいくつかあった。当記事では、以下で2016年全般を回顧するニュースを中心に紹介していく。
ネット実況の規制が強化される一方で、荒稼ぎする女性も
荒稼ぎといえば、中国版YouTuber“網紅”も話題となった。2015年末からトーク上手な実況主「Papi醤」が大ブレイクし、2016年初めには当局が規制をかけたが、Papi醤の大ブレイクを見て、多くの若い女性が自身の美貌を武器に参入。実況ブームにより、かわいい部屋に変える即席の壁紙や、実況用マイクなど関連商品も登場した。当初は若い女性が自身の部屋でトークをし、動画サイトのシステムにある投げ銭システムで収入を得たが、やがて網紅のトレンドは、動画で商品を紹介するオンラインショップでの広告塔に。
「58同城」と競うクラシファイドサイト大手「赶集網」は、網紅の収入に関する調査結果を発表。網紅の17%は月収が1万元(約16万6000円)以上、1.4%が2万元以上だとし、11月11日の中国最大のECセール日「双十一」では網紅の41.4%が月収1万元を超えたという。
ポルノ性が強いほど多くの投げ銭をもらえることから、グレーゾーンな実況動画を配信する女性も続々登場。11月には行き過ぎた動画を実況したとする網紅に対し、4年の実刑判決と罰金10万元の判決がされた。また、11月4日には、ポルノ性など違法性のある実況を禁止するルール「実況動画サービス管理規定」が発表、12月1日から施行された。
赶集網によれば、網紅の80%が、網紅は短期的な仕事ととらえ、将来は別のことをすると回答している。
阿里巴巴の新規SNS「生活圏」スタートも、「女性への投げ銭」で失敗
阿里巴巴(Alibaba)の電子マネー「支付宝(Alipay)」が11月末に新機能としてSNS機能「生活圏」を追加した。
生活圏では、支付宝と連携し、SNSの「いいね!」の代わりに、チャージされたお金から「投げ銭」を行うことができる。かつ阿里巴巴は「信用あるインターネットづくり」を目指す中、ネットでの過去の支払いの行動などからポイントが高くなるとさまざまな特典がある「信用ポイント」システムを生活圏に導入。一定の信用ポイントがある人しか書き込めないという機能を付けた。つまり、「信用ある人同士が、阿里巴巴のSNSでつながって、情報を交換し、新しい取引を作り出す」。阿里巴巴の生活圏はそんな未来を描いていたのだろう。
ところが蓋を開ければ、生活圏の中に設定された女性会社員の交流の場「白領日記」や女子大生の交流の場「校園日記」などで、投げ銭目当ての女性の写真が大量に投稿され、一部にはポルノ性の高い写真も投稿された。前述したような、ネット実況の投げ銭システムと同じことが起きたわけだ。しかも女性の交流の場なので男性は投稿できず、かつ男性がコメントをするのには非常に高い信用ポイントを積み上げた人しか利用できないとし、多くの男性が「これはひどい。男性を選りすぐりするのか」と声を上げてネットで話題となった。高得点を積み上げた男性のコメントにしても、誉めるコメントだけでなく、女性の連絡先を求めるコメントがあるなど、出会いの場となっていた。
サービス開始後、生活圏のサービスが問題視されるや、問題ある写真投稿を次々と削除したが騒ぎは収まらなかった。サービスは終了され、12月には生活圏責任者が謝罪し、処分された。
第2の阿里巴巴セール日、12月12日は実況動画販売をプッシュ
阿里巴巴が仕掛けて定番化したセール日「双十一」(11月11日)に続き、第2のセール日「双十二」(12月12日)も定番化しようと、今年はリアルショップでの電子マネー「支付宝(Alipay)」の利用と実況動画による販売をプッシュ。
支付宝については、さまざまなリアル店舗の対象店舗で支付宝を利用して支払うと、支払金額が半額になるなどのお得なキャンペーンを実施した。1000店舗近い大型ショッピングセンターが参加したほか、日本や韓国やタイなど海外の支付宝対応店でもキャンペーンを実施。これによる利用者は1日で4900万人となり、特に1985年より後に生まれた若い利用者が参加した。
また、実況動画では、阿里巴巴の「淘宝網」がネット実況セールを仕掛け、動画配信者“網紅”の多くのが、動画で商品をアピールし商品を売りさばいていった。淘宝網はサイト「LIVE直播」や「巴士在線」と提携し、LIVE直播の登録者は当日急増。同時視聴者数は平均25万人、説明された商品などへの「いいね!」の数は7000万件となり、実況動画による売り上げは1日で2100万元となった。
「金持ち」が理由で義援金を募った結果ネット炎上
金持ちという理由で、娘の医療費目当ての義援金を募った男性がネット炎上で謝罪する騒ぎがあった。
2016年9月、中国では莫大な治療費が必要な白血病を患った5歳の娘を助けようと父親が「微信(WeChat)」で記事読者に対して義援金を募った。このときは読者も少なかったが、11月にネット金融ベンチャーがその話に乗り、微信で「5万元を上限に1回転載につき企業が1元募金する」と宣言。微信のシステムにより5万元が上限となっているのにもかかわらず、システムの不備で結果200万元を超える義援金がたまることに。
ところが11月末、微信で文章を書いたこの父親は家を3つ、車を1台所有していることを理由に、「金持ちが義援金を募るのは何事か」と義援金詐欺だとネットで大炎上し、父親が謝罪し返金するまでに。この事件により「新手のビジネス登場でネットの信頼回復がまた難しくなる事件」だと解釈するメディアも。
高額な医療費という敏感で情に流されやすい話題とはいえ、ネット金融ベンチャーが話に乗った後に直接ユーザーからは義援金をもらうわけではなく、微信のシステムにも不備があった中で、金持ちが義援金を募った結果ネット炎上を引き起こした事件だった。
フードデリバリーでは宅配人も荒稼ぎ
2014年ごろから人気となったフードデリバリー(中国語で「外売」)は2016年も安定した。著名サイトは「餓了me(eleme)」「百度外売」「美団外売」などがあり、前年までと大きな変動はない。大都市を中心にフードデリバリーサイトのロゴがあるかごを積んだ出前の自転車が行き交い、多くの食堂でサイトロゴシールやサイトのポスターが貼られ、フードデリバリー対応していることをアピールする。以前から調理現場が見えないことをいいことに、非衛生な調理をする業者が参入していたことが問題視されたが、2016年も問題解決は見られなかった。
クラシファイドサイト大手「58同城」が発表した、2016年のサービス業給与ランキングでは、北京・上海・深セン・広州でのフードデリバリー/オンラインショッピング人気による宅配ドライバーの給料は約7000元、日本円にして12万円弱で、高所得な職業であると紹介した。なお、トップとなった職業はマッサージ師で日本円で月収30万円弱。
配車サービス、各都市で新ルール
2014年以降盛り上がる「滴滴打車(didi)」などの配車サービスに対し、北京・上海・深セン・広州・杭州など中国各地の都市でルールがつくられた。各地でルールは異なるが、車についてサイズや排気量などを一定以上としたり、ドライバーについて地元戸籍の人のみとしたりといったものとなっている。またドライバーへの試験も各地で開始。各地では初の配車ドライバー向け試験がニュースとなった。
定番フォトレタッチアプリの「美図」、香港上場
フォトレタッチソフト/アプリで絶大な人気の「美図秀秀」を提供する美図が12月15日、香港証券取引所に上場した。以前は海賊版のPhotoshopが中国で人気だったが、美図秀秀は自撮り写真を美しくするなど機能を絞り、かつ無料とあって定番のアプリに。そのため美図秀秀の上場は、普段は上場ニュースを扱わないIT系メディアも紹介した。
ふたを開ければ同社サービスの利用者は4億5600万人いるものの、美図の売り上げの90%近くが同社スマートフォンの売り上げで、しかも販売台数は134万台と、中国のスマートフォンメーカーとしては非常に少ない数字となり、読者を震撼させた。
百度の年間検索ランキング、「福原愛結婚」「熊本地震」なども
「百度」の年間検索ランキングが発表され、ニュース系では、日本がらみでは「福原愛さんの結婚」や「熊本地震」がランクインした。また、全体では南シナ海問題、米国大統領選挙、英国のEU離脱、リオオリンピック、「神舟11号」「長征7号」のロケット発射成功、杭州開催のG20サミット、武漢での大水害などが話題に。テクノロジー系では、VR、AlphaGo、無人運転車、ビットコインなどが話題に。百度の評価を下げた医療検索広告事件「魏則西事件」(本連載2016年5月20日付記事の『百度、検索結果を金で操作しているとの指摘』参照)や、実況動画の立役者「Papi醤」もランクインした。
アニメ検索では、「ワンピース」「NARUTO」「ドラゴンボール超」「FAIRY TAIL」「BLEACH」が人気。中国のアニメでは、子ども向けの「熊出没」がランクイン。ニコニコ動画似の「bilibili動画」は2000年生まれ以降の若い世代の間で注目された。また、入力された単語で最も多かったのは「とりあえず買っちゃえ」といった意味の「買買買」が1位に。