山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

EC大手「淘宝網」で日本のゲーム販売禁止の通達 ほか~2017年8月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にも分かりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

中国、国内仮想通貨によるICOを禁止

 9月4日、中国の中央銀行である中国人民銀行など7部署が連名で、中国国内の仮想通貨によるICOを当面は全面禁止にすると発表した。ICO(Initial Coin Offering)とは、独自の仮想通貨発行による資金調達。イメージとしては株の代わりに独自通貨が発行されるというもの。中国資本が多く入っていたビットコインなどの仮想通貨取引価格は、この発表後、日本円で2兆円超減少した。また、日本人が主導するICOもあり、中国語サイトを閉鎖する動きも。

 さかのぼること7月25日に貴陽で開催された「区塊鍵ICO行業生態体系建設研討会(ブロックチェーンICOに関する検討会議)」で、中国国内でICOによる融資に注意を呼び掛けていた。さらに8月には、中国人民銀行が証券監督管理委員会を招集(18日)、国会にあたる国務院がバーチャルマネーによる融資で、違法性があるなら政府関連部門が調査可能となる草案を発表(24日)、インターネット金融協会がICOによる融資リスクについて発表(30日)と、ICO規制の動きが強まる動きが次々と出た。9月2日には政府インターネット金融リスク対策グループが各省各市の金融担当部門に対して、ICOを整理整頓するように伝えている。

 中国人民銀行金融研究所の孫邦峰所長はメディアの取材に対し、「フィンテックは大きなリスクがあり、中国国内での管理を強化しなければならない」とコメント。中国当局による可視化が必要だと示唆した。

EC大手「淘宝網」で日本のゲーム販売禁止の通達

 ECサイト大手「淘宝網(Taobao)」が8月4日、同サイトでの日本語のゲーム販売を禁止するよう各ショップに通達したと、複数の中国ニュースサイトが伝えた。中国政府の担当部署の通達によるものだとしている。同月8日までにショップ自身で出品情報削除をするよう通知したが、その後はシステム側で削除するとしている。

 その後の淘宝網では、中国国外からのハンドキャリーなどによる日本向けPlayStation4や中国国内向けには販売されていないNintendo Switchなどが、ソフトハードともにまだまだ売られている。中国のゲームショップの実店舗でも、Nintendo Switchが多数売られている。

「淘宝網」ではファミコンも現役

キャッシュレス社会推進も「現金お断り」店舗は違法

 スマートフォンでQRコードを読み込んで支払う電子決済対応店が増える中国。街では、阿里巴巴(Alibaba)系のアントフィナンシャルによる「支付宝(Alipay)」と、騰訊(Tencent)のメッセンジャー「微信(WeChat)」の一機能である「微信支付(WechatPay)」が普及しているが、続く第3の存在になろうとデビットカードとクレジットカードで知られる銀聯(Unionpay)が、利用促進キャンペーンを行っている。

 8月8日は、支付宝と微信支付が「無現金デー」を提唱する日だ。もともと2年前に微信支付が提唱したが、支付宝もそれに便乗した。今年は支付宝は8月1日から8日までの1週間、「無現金都市ウィーク」を提唱。複数の都市で参加企業と提携し、PRを行った。しかし、行き過ぎたキャッシュレス化の対応店舗に中国人民銀行は、「中国人民元管理条例では法定貨幣は人民元(現金)で、現金を拒むのは違法行為である」と警鐘を鳴らした。これに対してアントフィナンシャルは、「無現金の概念は、現金をなくすことではなく、支払いの選択肢を消費者に与えること」と回答している。

VAIOとAQUOSとBlackBerry、EC大手「京東」で独占発売発表

 EC大手の「京東(JD)」は、8月8日の午前中にVAIO Zを、午後にシャープのAQUOS S2を、夜にBlackBerry KEYoneの同サイトでの販売を発表した。VAIOはソニー時代に一度撤退し、3年ぶりの中国での新製品とのこと。シャープのAQUOS S2はベゼルレスで、中国の5.5インチディスプレイのスマートフォンとしては最小。

「京東」で発売される「VAIO Z」限定版
シャープの新ベゼルレススマホ「AQUOS S2」

 京東は元は家電に強い、阿里巴巴の「天猫」に続く総合ECサイト。今年年始にはNokia 6が同サイトで販売された。また、近年では自社倉庫のスマート化、無人化やドローンによる配送でも話題を呼んでいる。京東と天猫はネット専業だったが、中国全土でのリアル店舗出店を加速する予定だ。

 京東の2017年第2四半期の3カ月間での同サイトでの取引総額は2348億元(約3兆9000億円)で、前年同期の1604億元(約2兆6500億円)に比べ、700億元(約1兆1500億円)以上上回った。取引総数は5億9120万で、前年同期の4億1890万から41%増。アクティブユーザー数は2億5830万で、前年同期の1億8810万から7000万人程度増えた。

交通系オープンプラットフォームが続々登場

 2017年の上半期を総括する記事では、交通系ネットサービスに関する話題が目立ったとするものが多かった。

 まとめると、シェアサイクルでは、大手の「Mobike」や「ofo」が日本など外国に進出。中国国内では大都市では上海、深セン、広州、杭州など7都市で地元政府がシェアサイクル投入を規制。また、シェア獲得のために1カ月数元(1元=16円強)で乗り放題のプランもMobikeやOfoが出し始めた。地方都市ではサービス拡大の動きもある。ただし、シェアサイクルの故障率は大都市で5~10%だったのが、中小都市で20%に上がるとし、修理にかかるコストが上がると頭をかかえる。

 また、交通系のオープンプラットフォームがこの期間に続々と発表された。シェアサイクルのMobikeやOfoのほか、配車サービスの「滴滴(Didi)」、それに地図サービス大手「高徳地図」「百度地図」それぞれが、他社サービスを取り込もうとオープンプラットフォームを発表。電気自動車(EV)など新エネルギー車開発のためのオープンプラットフォームも登場した。例えば、百度による自動運転車開発の「阿波羅(アポロ)プラットフォーム」では50社が登録している。8月8日には、車販売仲介やレンタカー事業などを行う神州優車集団が、同社のスマート交通オープンプラットフォームを発表。同社の車関連事業で得た、3000万ユーザー・数百万台の車走行データを、自動運転やスマートシティに活用していくとしている。

インターネット利用者は7億5100万人、普及率は54.3%

 中国ネットワークインフォメーションセンター(CNNIC)は8月4日、2017年6月末における中国のインターネット利用状況をまとめた「第40次中国互換網発展状況統計報告」を発表した。

 中国における2017年6月末時点のインターネット利用者は7億5100万人。半年で2000万人弱増加した。インターネット普及率は54.3%。スマートフォンなどによるモバイルインターネット利用者は7億2400万人で、インターネットユーザーのほとんどがスマートフォン(とパソコン)でインターネットを利用している。1週間の平均インターネット利用時間は26.5時間。

 利用用途別では、オンラインショッピングが5億1100万人、スマートフォンによる実店舗での電子決済利用が4億6300万人、オンラインゲームが4億2200万人、オンラインバンキングが3億8300万人、フードデリバリーが2億9500万人、配車サービスが2億7800万人、ライブストリーミングが3億4300万人、シェアサイクルが1億600万人。

 また、同レポートでの2017年上半期のインターネット業界の傾向を総括。「EC市場では、購入者はスマート製品、新製品、高品質を好む傾向が見えた」「オンラインとオフラインの融合が進み、各プラットフォームではビッグデータ向けのデータ収集を重視する傾向が強まった」としている。

移動回線の平均データ利用量は1.4GB、固定回線では50Mbpsプラン以上が急増

 情報産業省にあたる工業和信息化部は、7月末の中国の通信契約状況を発表した。これによると、3Gと4G契約者数の合算は契約回線総数の13億7000万の66.3%にあたる10億6000万で、今年に入り1億1461万増加。シェアが最大の中国移動(ChinaMobile)によると、同社の契約数は5億9400万。また、同社の利用者の月間平均データ利用量は1.4GB。

 固定回線については、工業和信息化部によると、契約回線総数は3億2600万で、今年に入り2861万増加。20Mbps以上のプランの加入者が契約者全体の87.2%、50Mbps以上では1億8900万で、今年6208万と急増した。

本連載「山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿」は今回が最終回となります。連載を見ていただいた読者の皆様、どうもありがとうございました。気付けば2006年から11年も連載していました。当初は「事件簿」の名の通り、事件だらけだったのですが、近年では中国における重要なネットニュースをまとめてお伝えするかたちとなりました。来月からは、現状により合ったかたちでの新シリーズを予定しています。どうぞよろしくお願いいたします。

山谷 剛史

中国アジアITライター。現在中国滞在中。連載多数。著書に「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。