山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

尖閣諸島漁船衝突事件の動画公開、中国の反応は薄く ほか
2010年10月


 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国在住の筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

尖閣諸島漁船衝突事件の動画公開、中国の反応は薄く ほか

 尖閣諸島漁船衝突事件のビデオが11月5日未明、YouTubeにアップされた。中国ではアップから半日程度様子見なのか情報統制をしていたが、その後中国の動画共有サイトでもアップ、ニュースサイトでも紹介するようになった。この話題に関する掲示板では「日本を潰せ」「日本製品不買」「なぜ中国はロシアの北方領土対策を見習わないのだ」といった反日コメント一色となった。

 ノーベル賞平和賞受賞や、Googleの中国撤退のニュースでは、中国の体制批判を含むメッセージを書き込み、共有したいユーザー達が、回線速度がはっきりとわかるほど遅くなってもネット検閲の壁を越えてtwitterを利用した。

 しかし、この件については中国人によるtwitterの書き込みも非常に少なかった。積極的に動画を閲覧しようとする中国人はかなり少数であるようだ。

尖閣漁船衝突ビデオ漏洩の特集記事

奇虎360、中国で最も人気のソフトをアンインストールするセキュリティソフトをリリース

 たびたび物議を醸し出している新興のユーティリティソフト・セキュリティソフトベンダーの奇虎360。過去に百度や金山軟件(キングソフト)のソフトをセキュリティ上危険として、両社のソフトをアンインストールする仕様をしたことから、両社との間で訴訟問題に発展した。

 利用者はさほど多くないながらも、大手ながらインターネット利用者に人気がいまひとつの百度や金山軟件に正面きって勝負する奇虎360は、インターネット利用者の支持されて話題となった。

 奇虎360は10月に、中国で最も人気のあるソフトであり、誰もがインストールしているといっても過言ではないチャットソフト「QQ」を、同様に危険なソフトとして認定。「QQ」をアンインストールする仕様としたことで、奇虎360とQQのベンダーである騰訊(テンセント)の対立は決定的になった。

 「QQ」は、中国ではインターネットの普及を牽引したと言われるほどの人気ソフト。それだけに、この件は中国国内では10月のインターネットニュースの話題を独占し、インターネット非利用者のニュース情報源となる新聞各紙までこれを大きく報じた。

 ネットの反応を見ると、今回も中国サイトでのアンケート上では奇虎360を支持、QQのアンインストールもやむなしとするインターネット利用者が多数派となった。

 なお、海外の華人メディアはこの話題について「奇虎360もQQも検閲プログラムが組み込まれている」とし、どちらの導入もお勧めしないと報じている。

 中国においてチャットはメール以上に普及しており、仕事用プライベート用といった具合に複数アカウントを持っているユーザーが当たり前。調査会社の易観国際(Analysys International)によれば、2010年第3四半期におけるアクティブユーザーアカウント数は8億5800万。

2010年第3四半期までの中国チャットソフトアカウント数の推移(出典:易観国際)

農場育成ゲームの影響を受けた野菜泥棒逮捕。農場育成ゲーム廃止検討へ

 9月29日、農場育成ゲームを利用している甘粛省天水市の女性が、リアルな農場で現実との見分けがつかないのか、農作物を盗んだとして逮捕された。

 日本でもサンシャイン牧場をはじめとして農場育成ゲームは人気だが、中国では同種のゲームは「農場育成ゲーム」ではなく「野菜盗みゲーム」という名称のジャンルとして認識されている。ちなみに、中国においては2009年をピークに人気は下降気味だ。

 この事件を受け、10月12日に中国政府文化部担当者は「智力を高めるわけでもなく無益」とし、農場育成ゲーム(野菜盗みゲーム)を許可しないようにするという検討を開始した。また、中国政府の動きにあわせ、農場育成ゲーム(野菜盗みゲーム)は必要か否か、中国メディアがアンケートを実施。「不要」という意見が多数派を占めたと、中国メディアは報じている。

農場育成ゲームの影響で登場した野菜泥棒についての新聞記事

楽天の中国サイト「楽酷天」、サービス開始

 易観国際(Analysys International)が10月26日に発表した調査結果によれば、2010年第3四半期の中国オンラインショッピング市場は、前年同期のほぼ倍増となる1342億元(約1兆6500億円)を記録。今年第1四半期から第3四半期までで既に3474億元(約4兆3000億円)となっており、昨年1年間(4半期)の2527億円を大幅に上回っている。

 調査開始以来、右肩上がりを続けているオンラインショッピング市場だが、10月19日に楽天が百度と提携、「楽酷天」という名称で中国オンラインショッピング市場に参入した。

 先行するYahoo!Japanは、圧倒的シェアの「淘宝網(Taobao)」と提携しており、Yahoo!Japanは中国の商品が購入できる「Yahoo!チャイナモール」を、淘宝網は日本の商品が購入できる「淘日本」のサービスをそれぞれ開始している。

 したがって、日中2カ国で「楽天&百度」対「ソフトバンク&アリババ(淘宝網)」の構図ができ上がった形だ。

 とはいえ、百度も淘宝網も、日本の商品が購入できることをプッシュしていない。楽酷天では淘日本のように日本の商品が買えるのが売りではなく、日本の楽天で培ったノウハウを基に「信頼できるオンラインショッピングサイトで買い物を楽しむ」ことを売りとしている。

 筆者自身もさっそく同サイトを利用したが、サイトデザインやシステムは日本っぽいわりに、日本の商品は少ないのが現状だ。まだ中国の消費者向けにローカライズしきってない感じを受けた。

淘宝網、マイクロソフトと提携し、検索サイト「淘網」をリリース

 「淘宝網(Taobao)」が、マイクロソフトと提携し構築した検索サイト「淘網」のベータテストを開始した。

 淘網ではウェブページの検索もできるがその検索結果表示には消極的。むしろ淘宝網での商品検索の結果や、Q&Aサイトや掲示板の検索結果など、ウェブページ以外の検索結果をアピールして、顧客を囲い込もうとしている。

 なお、淘宝網はヤフー中国(雅虎中国。親会社はアリババホールディングス)の兄弟会社にあたる。今年に入りYahoo(米国)がアリババホールディングスの株を大量取得する動きがあり、アリババホールディングスはヤフー中国を冷遇するニュースをしばしば聞く。

淘宝網の検索サイト「淘網」Yahoo(米)によるアリババ株購入の話題

 2010年第3四半期の検索広告市場規模は、易観国際(Analysys International)が10月26日に発表した調査結果では前期比18%、前年同期比57%増の31億5000万元(約390億円)。

 別の調査会社「iResearch」が10月19日に発表した調査結果でもほぼ同額の31億3000万元。易観国際によれば、サイト別シェアではトップが「百度(73.0%)」、以下「Google中国(21.6%)」「捜狗(0.9%)」「捜捜(0.6%)」「有道(0.3%)」「その他」と続く。

2010年第3四半期の中国検索サイト市場、サイト別シェア(出典:易観国際)2010年第3四半期までの中国検索サイト市場推移(出典:易観国際)

百度、ハウツーを共有する新サービス「百度経験」をリリース

 中国検索サイト市場で圧倒的シェアを握る百度中国は12日、ハウツーを共有することを目的とした「百度経験(http://jingyan.baidu.com/)」をリリースした。料理・観光・ペット・ゲームなどあらゆるジャンルにおいて自らのハウツーを写真付きで公開、読者はそのハウツー記事に対して自ら試してみて「成功」ないし「失敗」をクリックするというもの。

百度経験

大量に増えたグルーポン型サイト、登録方式に

 中国政府商務部は、数十サイトから1000サイト以上にふくれあがったグルーポン型サイトの現状を踏まえ、31日にスタートした「商務部中国国際電子商務中心」を介してのみグルーポン型サイト運営を許可するようにした。

 商務部中国国際電子商務中心の認証にGroupOn型サイトは年6000元、クーポンを提示するサイトは年450元を支払う必要がある。商務部中国国際電子商務中心の審査に通るのは、15サイトに1サイトとも言われている。一部の中国メディアは、商務部中国国際電子商務中心に対し、「中国政府と関係のない団体が行っている権威のない機関ではないか」と指摘、暴利をむさぼっていると批判している。

 そんな中で、GroupOnにそっくりな中国の大手グルーポン型サイトを運営する数社に、本家GroupOnが提携関係を結ぼうと関係者が訪中。上海で商談していると中国メディアが報じた。

動画供給サイト「優酷(YOUKU)」、有料チャンネルを開設

 中国で人気の動画共有サイト「優酷(YOUKU)」は有料チャンネル(付費頻道)を開設。月20元で同チャンネルを利用することが可能というサービス、中国の動画共有サイトでは初めての試みとなる。同チャンネルでは、映画コンテンツと教育コンテンツが提供される。

 10月24日に易観国際(Analysys International)が発表した動画サイト市場の調査統計によると、2010年第3四半期の動画サイト市場(動画サイトの総収入)は前年同期比148%増、前期比20.3%増となる6億2100万元(約77億円)。

優酷(YOUKU)の有料コンテンツチャンネル

中国リサーチ会社、ネットを利用する主婦の実態を発表

 調査会社「iResearch」は、中国のインターネットを利用する主婦についての調査結果を発表した。今回の調査で対象とした主婦は25~45歳。

 調査結果によれば、インターネット利用者全体と比べて、インターネットを利用する主婦は、高学歴・高所得。また、インターネット利用者全体では、1日平均の利用時間は2.7時間だが、インターネットを利用する主婦では1日平均4時間と利用時間が長いことがわかった。大都市の主婦に限ればさらに長く、平均5時間、平日の日中を中心にインターネットを利用している。

 オンラインショッピングについては、大都市では14.9%の主婦が、中国全体では9.5%の主婦がインターネットで日用品を購入しているという。


関連情報


2010/11/12 06:00


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」。