山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

GREEの中国撤退~騰訊の方針転換で提携解消 ほか
~2013年5月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

騰訊、方針転換しGREEとの提携を解消。GREEは中国から撤退

 5月14日、GREEが中国から突然撤退を発表した。2011年に中国オフィスを開設してから2年余りでの閉鎖となった。

 中国国内での報道によると、撤退の要因としては「リソースもゲームも分散させすぎた」、「日本のゲームを中国語化したものは不評だった。栄誉征途(Crystal Throne)も不人気だった」、「フィーチャーフォンからスマートフォンへの転換が緩慢だった」という点に加え、特に「トップから管理職までその多くが日本人で傲慢だった」ことが挙げられている。

 6月28日には全業務が終了となる。加えて、GREEと提携していた億単位のユーザーを抱える騰訊(Tencent)との提携も解消した。

 その騰訊(Tencent)は、同社のLINEのようなコミュニケーションサービス「微信(WeChat)」をベースとしたゲームプラットフォームを展開すべく、米国での事業縮小を発表。世界でのFacebookなどのSNSとの連動は目指さず微信を柱としたビジネスを目指すようだ。

 その余波は、騰訊を有名にしたチャットソフト「QQ」にも影響している。

 QQの最新バージョンが微信とよく似たものとなったため、既存のユーザーからは過去にないほどの酷評を受けた。騰訊では、QQと微信で開発チームが異なっており、競争した結果、同じ会社の製品同士で中国的模倣が行われたそうだ。その微信に関しても有料サービス化が論じられるほか、「ユーザーが微信に書き込んだ作品の著作権は騰訊のもの」といった利用規約が問題視されており(たとえば新浪微博の場合、書いた作品の著作権はユーザーにある)、「QQが酷いままだと脱騰訊を目指す」と別サービス利用を示唆するユーザーも出てきている。

評判の悪い新バージョンのQQ

中国スマートフォンユーザーの15.5%がサムスン製品ユーザー、14.6%がアップル製品ユーザー

 CNNIC(China Internet Network Information Center)は、中国のスマートフォンやタブレットなどを利用したモバイルインターネットについての調査レポート「中国移動互聯網発展状況報告」を発表した( http://cnnic.com.cn/hlwfzyj/hlwfzzx/qwfb/201305/t20130514_39488.htm )。

 2012年末におけるモバイルインターネットユーザー数は4億2000万人となり、2013年2月末時点でのスマートフォンユーザー数は3億3000万人となった。OS別では、多い順に、Android(68.8%)、iOS(14.6%)symbian(13.6%)となった。メーカー別では、サムスン(15.5%)、ノキア(15.1%)、Apple(14.6%)が拮抗し、以下HTC(7.2%)、ファーウェイ(6.3%)、レノボ(6.4%)、Coolpad(4.0%)、OPPO(3.8%)、ZTE(3.7%)、小米(3.2%)、ソニー(2.7%)、モトローラ(2.0%)となった。

 スマートフォンユーザーの利用時間は、半数以上が「1日に1時間以上」と回答、また4人に1人が「1日4時間以上」と回答、また頻度においても6割のユーザーが「1日何回も利用する」と回答している。

 億単位のユーザーがよく利用するようになったが、有料コンテンツの支払経験については、85%のスマートフォンユーザーが「未経験」としている。15%の有料コンテンツ購入者が購入したコンテンツは、多い順に、ゲーム(64.1%)、電子ブック(29.8%)、アプリ(14.7%)、動画(6.4%)、情報サービス、ライフサービス(3.6%)となった。

 支払に関しては「ソフトに初回払(39.3%)」が最も好まれ、以下「月払い(22.8%)」、「データに初回払(18.8%)」、「データに月払(18.0%)」の順となった。スマートフォン向け広告については「見たことがない(45.5%)」、「積極的に広告をクリックしたことがない(35.5%)」、「意図せずクリックしたことがある(13.8%)」、「積極的に広告をクリックした(5.2%)」となった。

 モバイルインターネットの利用用途についても触れられているが、「中国のネットユーザーは5億6400万人、人口の4割超える、都市でモバイル加速」の記事(http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20130116_581875.html)で紹介したデータと同様なので、そちらを参照いただきたい。

 追記すると、LINEのような無料通話可能なコミュニケーションソフト「微信(WeChat)」の人気が急上昇しているが、微信の普及による既存のチャットソフトの利用状況においては7割が「変化なし」、2割が「若干利用しなくなった」、1割が「かなり利用しなくなった」と回答。また、微信の普及でQRコードが活用されるようになったが、QRコードについては「聞いたことがない(38.8%)」、「利用したことがある(38.2%)」、「聞いたことはあるが、使ったことはない(23.0%)」となった。

モバイルインターネットユーザーの1日の利用時間
モバイルインターネットユーザーの所得

水面下で電子ブックコンテンツの引き抜きが行われ話題に

 スマートフォンかフィーチャーフォンかを問わず、地下鉄内やバス内では、電子ブックを見て時間を潰す人をよく見るようになった。多くの電子ブックコンテンツが作られ、有力プロバイダーも立ち上がる中、著作権まわりの環境も整備されてきた。動画や音楽同様に、海賊版が出れば正規版コンテンツホルダーが提訴するという動きが出てきている。

 そんな環境下、有力電子ブックサイト「盛大文学」の子サイトで、同じく電子ブックサイトの「起点中文網」で著作権を管理する羅立氏が、別の電子ブックプロバイダーに安価に版権を転売したとして訴えられたことが5月末に話題となった。しかも、その販売先は起点中文網を辞めた社員が立ち上げた企業であり、その企業は騰訊に下にある企業だった。電子ブックサイトを立ち上げようとした騰訊が、盛大のコンテンツの引き抜き工作を行ったと言われている。

起点中文網

かつて中国を席巻でしたAngryBirds人気下降が顕著に

 中国の特殊なネット環境に苦労するのは日本企業だけではない。中国で長きにわたって最も人気のスマートフォン・タブレット向けゲーム、フィンランドRovioが提供する「Angry Birds」。5月頭の最新作「Angry Birds friends」リリースも注目を浴びる時間が以前のAngryBirds関連のタイトルよりも短くなっており、勢いが落ちている。その理由を中国メディアはこぞって「中国企業と提携をしないので、中国国内での展開がうまくいっていない」と指摘している。

AngryBirdsの検索数の変化

中国スマートフォンメーカー、高価格高性能と大量販売を目指すメーカーに2極化

 レノボ、ファーウェイ、ZTEなどの人気の中国スマートフォンメーカーは内容よりも低価格で評価されてきた。今までは個性がさほどない機種ばかりが特に売れていたが、低価格モデルで中国市場シェアを確保したところで儲けは少なかった。そんな中、中国メーカー数社は現状から脱却すべく、各社様々な目標を掲げた。

 レノボは5月中旬に発表されたフラッグシップモデルのAtom Z2580搭載のスマートフォン「K900」を突破口に、アップルやサムスンにも引けを取らないメーカーであることをアピール、高価格帯製品を販売し、2年内にサムスンを超えたいとした。家電メーカー大手の康佳(KONKA)は携帯電話では有名ではないが、独自ROMのリリースのほか、全世界でテスターを募集し、ユーザーエクスペリエンスを改善していくという。

 政府においても情報産業省にあたる中国政府工業和信息化部が5月30日、今後3年から5年かけて、独自スマートフォン向けOSと音声認識に注力をして開発していくとし、独自OSの推進を発表した。

 中国では、本体は安い機種を選び、ソフトはOSも含め自分好みに変えてしまうユーザーが多い。高価格製品を出してもそう売れるわけではなくiPhoneに流れがちで、消費者の心理が変わらない限り、ハイエンド製品を売っていくのは難しいだろう。一方、全てのメーカーが付加価値を持たせるベクトルに向かうわけではなく、CoolPadやTCLを筆頭に、低価格機種を含め、利益が薄くともより多くの数を売っていくことを目指すメーカーもある。

5月のスマートフォンの注目度ランキング
キャリアショップでも中国メーカーが目立つ

スマートテレビにも価格競争の波か?

 3月にも低価格で注目のセットトップボックス2機種が楽視網というコンテンツベンダーからリリースされたことを本コラムでご紹介したが、5月には60インチで約11万5000円(6999元)と、約3万3000円(1999元)という低価格なスマートテレビ「楽視TV」2機種がリリースされた。

 低価格だが、シャープのパネルや米クアルコム製の1.7GHzクアッドコアCPU「Snapdragon」搭載などパフォーマンスも高く、それなりに注目されているようで、まずは5月16日に200台、次に6月19日に2万台の予約販売を完了させた。

 過去にはキングソフトの雷軍氏が立ち上げた会社「小米(Xiaomi)」により、1メーカーが1~2機種に絞って高性能なスマートフォンを大量生産し低価格で販売するというビジネスモデルが定着した。現在は小米のほかいくつかの企業がこのビジネスモデルを採用している。楽視の仕掛けにより、いくつかの企業が参入しスマートテレビにおいても価格競争の波が訪れるかが注目されている。

楽視TV

オンラインショッピング、翌日配達を年内に実現へ

 「淘宝網(TAOBAO)」との兄弟サイトで、信用が売りのオンラインショッピングサイト「天猫(TMALL)」は、中国郵政集団や民間の10大宅配業者と提携。天猫で購入した商品は翌日内の配達を実現するという。対象の都市は中国全土の100都市超で、これにより天猫利用者の7割をカバー。今回の提携で翌日配送が実現することにより、新たに200億元(約3200億円)の新規開拓を見込む。

天猫サイト

大型連休「五一節」商戦はスマートフォンが鍵

 5月1日からの労働節(メーデー)は一大商戦期となる連休だが、今年の連休は家電販売は控えめで、スマートフォンが注目を浴びたようだ。車の運転時には電話を持つと交通違反になるというルールが年初からスタートしたことから、スマートフォンとセットでBluetoothのヘッドセットも売れたようだ。また連休とあって多くの人が旅行に行くが、PCでホテルやチケットを事前に予約購入をし、PCで下調べした上で、今年はさらにスマートフォンを持ち歩くという旅行のスタイルが一般化したという変化が見られた。

 ネットでの予約が増えたことを受け、最安値のエアチケットが出たら通知するPC向けソフトやスマートフォン向けアプリがリリースされ、人気を博した。一方で、安く賢く旅行しようとする旅行者を狙い撃ちした、マルウェアに感染する偽サービスも登場している。

格安航空券販売アプリ
割引チケットを販売するアプリ

山谷 剛史

海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。