山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

犬猿の2大動画サイト「優酷網」「土豆網」が合併 ほか~2012年3月


  本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

犬猿の2大動画サイト「優酷網」「土豆網」が合併~版権価格上昇に終止符か

 3月12日に中国で最も人気の動画サイト「優酷網(YOUKU)」と「土豆網(TUDOU)」が合併を発表。土豆網の株を優酷網の株に交換し、土豆網は上場廃止となる。いずれもインターネットユーザーであれば、誰もが利用したことがあるサイトだ。事前情報がまったくなかったこともあり、ふだんニュースに関心を持っていない人でも興味を持つほど、インターネットユーザーを驚かせた突然の発表だった。新企業名は「優酷土豆」で、「優酷」と「土豆」のそれぞれのブランド名は残るという。

 当連載でも何度となく紹介しているが、正規版無料コンテンツ配信(広告配信による収入)が当たり前となった昨今、各動画サイトは多くの人が視る注目のテレビドラマ・映画・アニメなどのコンテンツの独占配信権を得るべく、版権価格が上昇の一途を辿っていた。本誌2011年11月の記事で、テレビ東京がアニメを土豆網での配信の合意したことを伝えているように、日本のコンテンツホルダーも正規配信契約を結んでいる。今回の合併により、動画サイト市場では2位以下を圧倒的に引き離すシェアを持つ1強体制となるため、版権価格の購入合戦に終止符が打たれるだろう。

2011年第4四半期の中国動画サイトシェア。21.8%のシェアの優酷と13.7%の土豆が合併する。易観国際(Analysys International)調べポータルサイト「新浪」の優酷と土豆の合併についての特集ページ


ミニブログ「微博」、4月1日に返信機能を一時停止。背景に政治スキャンダル?

 中国ではTwitterライクなサービスは「微博」と総称され、中国で2億4900万のアクティブアカウントがある(2011年末。調査会社の易観国際;英名Analysys International調べ)。微博サービス大手2社「新浪微博」「騰訊微博」サイトが、同時に「評論(twitterの「返信」にあたる)」機能を停止した。

 停止期間は3月31日午前8時から4月3日午前8時までだが、突然停止が発表されたため利用者は驚いた。微博を運営するポータルサイト「新浪(Sina)」と「騰訊(Tencent)」は、それぞれ自サイトで「うわさやデマなど違法な有害情報があり、悪質な情報を削除するために停止した」と発表している。

 中国では「愚人節」と呼ばれるエイプリルフールをはさみ、この日は毎年(冗談半分とはいえ)嘘情報が飛び交うので、微博で変な嘘が広まらないための処置ではないかとも言われている。また、一部の中国国外メディアは、「重慶における王立軍副市長の米国総領事館駆け込み事件から、薄熙来共産党委員会書記解任までの一連の政治スキャンダルの影響ではないか」と分析している(これもよからぬ「うわさ」かもしれない)。

 検索サイトトップシェアの百度が提供する、特定の検索ワードについての検索傾向がわかるサービス「百度指数」(簡単に言えばGoogleトレンドの百度版)では、「ホットなニュース」「ホットな人物」としていずれも「王立軍」が挙がっており、2月より検索されていることがわかる。

 微博の一部機能停止は今回が初めて。また、中国のネット規制に気づいていないユーザーに対して、表立って情報のコントロールのためにユーザーに不便をかけるのも、政府がPCへの強制インストールを進めたフィルタリングソフト「グリーンダム」以来となる。


3月15日の世界消費者デーにPR業者は荒稼ぎ

 中国では、3月15日の世界消費者デーを「3.15」と呼び、中国産・外国産を問わず、問題のある製品やサービスをテレビ番組や新聞紙面、ニュースサイトなどで紹介する。百度は今年、トップページで虚偽情報を流しているサイトをリストアップし、注意を促した。また、最も権威あるメディアであるテレビ局の中国中央電視台は、消費者の苦情が最も多かったジャンルを紹介した。

 ネット関連では、「広告の内容と届いた商品が一致しない」「ニセモノを掴まされた挙げ句、店が夜逃げ」「購入後無保証」といった苦情が集まったオンラインショッピングを筆頭に、「ネットの回線速度の理論値と実測値が違いすぎる」「携帯電話本体のクオリティが低い」といった苦情が集まった通信サービスも対象に。オンラインショッピングに関連して、「遅配がひどい」「価格設定が不明瞭」「中のモノが壊れた」などの苦情が集まった宅配サービスも槍玉に挙がった。

 世界消費者デーでは例年、ここぞとばかりに消費者が企業や製品に不満を吐き出し、ネット専門の国内PR業者は稼ぎ時となる。どういうことかというと、消費者の依頼を受けて最も効果的な掲示板などに企業や製品を問題視する声を書いたり、「いいね!」ボタンを押したりする一方、企業からは3月15日にメディアに晒されないよう、告発の書き込みを徹底的に消すよう依頼される。いわば、自ら不評をばらまき、不評を消すことで冨を得ているわけだ。このタイミングで車や家を買うPR長者も次々にレポートされた。

3月15日に百度が紹介した不良サイトリスト


大手ポータル、Googleストリートビュー酷似サービス開始するも反応はいまいち

 QQを提供する騰訊(Tencent)は3月、Googleストリートビューにそっくりなサービスを本格的にスタートした。サービス名は「騰訊街景」。Google(中国では「谷歌」)ストリートビューは「谷歌街景」となっているので、意訳すれば「QQストリートビュー」ないしは「Tencentストリートビュー」といったところか。

 2011年年末のリリース時には、広東省深センとチベット自治区のデータを公開していたが、3月に入って、北京、上海、広州、杭州、南京、武漢、成都、重慶各都市のデータを公開した。主要都市のデータ公開により、様々なメディアが報道したものの、ユーザーの反応はいまひとつ。5年前の写真データではないかと検証する記事もあった。区画整理が頻繁に行われ、古い建物が次々に壊されるため、GPSの地図データですら更新が追いついていないのが実情で、建物画像付きの地図サービスの更新はさらに難しい。「データが古すぎる」という不満も出る中、急速な街の変化に対応できるのか、気になるところだ。

 余談となるが、騰訊はGoogleストリートビューに似た「騰訊街景」に限らず、他社サービスそっくりの模倣サービスを開始することが、たびたびネット世論の中で話題に上がる。同社の模倣サービスは、同社の抱える莫大なユーザーを自社模倣サービスに誘導し、その結果、ベンチャー企業がどんなに頑張っても騰訊のシェアが高くなってしまうという結果につながっている。こうした背景から、3月21日の騰訊の営業発表会では、「騰訊の模倣に抗議」「騰訊の悪意ある競争姿勢に抗議」と抗議する集団が現れニュースとなった。

騰訊の模倣に反対する声を紹介するニュース


モバイルインターネットユーザー、3億5558万人に

 CNNIC(China Internet Network Information Center)は、「中国移動互聯網(モバイルインターネット)発展情況調査報告」を発表した。それによると、モバイルインターネットユーザー数は前年比5285万人増の3億5558万で、都市農村別では都市部が8割、農村部が2割を占める。

 PCも含めたインターネットユーザー全体では男女比はほぼ1:1だが、モバイルインターネットユーザーは男性(58.1%)の利用者が多く、年齢別ではインターネットユーザー同様10代~30代に利用者は集中している。

 搭載OS別では「Symbian(61.3%)」が最も多く6割を超える。次いで、「Android(20.8%)」が2割、「iOS(13.5%)」が1割強で、上位3種で95.6%を占める。以後はわずかなシェアで、「Windows(1.8%)」、「Linux(1.5%)」、「Meego(0.6%)」、「Meego(0.6%)」、「BlackBerry(0.5%)」と続く。

 利用用途(複数回答可)は、「チャット(83.1%)」が8割超、「検索(62.1%)」と「ニュース閲読(60.9%)」が6割を超える。次いで、「音楽視聴(45.7%)」、「電子ブック(44.2%)」のコンテンツ利用が続く。その後、「SNS(42.8%)」「微博(38.5%)」「オンラインゲーム(30.2%)」「掲示板(29.7%)」「メール(24.1%)」とコミュニケーション系サービスが続く。

 11位以後は、「ビデオ視聴(22.5%)」「オンラインペイメント(8.6%)」「オンラインバンキング(6.6%)」「オンラインショッピング(6.6%)」。人気の利用用途におけるサービスは、チャットでは「手机QQ(99.5%)」「手机飛信(23.8%)」、SNSでは「人人網(58.6%)」「騰訊朋友(44.0%)」「開心網(24.8%)」。

 インストールしているブラウザーでは「QQ瀏覧器(65.7%)」「標準ブラウザ(50.9%)」「UC瀏覧器(46.7%)」が3強となり、。それ以外のブラウザはOperaも含めて1桁台に止まる。微博はアプリからよりもブラウザーから利用する人が多い。

 無線LANを利用するスマートフォン利用者は、スマートフォン利用者全体の14.8%。アプリや音楽などモバイル向けコンテンツを購入したことがある人はモバイルインターネットユーザー全体の2割弱にとどまり、購入の半数以上が着信音の購入となっている。

スマートフォン(智能手机)とフィーチャーフォンユーザー(非智能手机)それぞれの1ヶ月の利用データ量スマートフォン(智能手机)とフィーチャーフォンユーザー(非智能手机)それぞれの収入分布


北京上海広州深セン4都市における3G利用者について、各スマートフォンOS別でみた収入分布北京上海広州深セン4都市における3G利用者について、各スマートフォンOS別でみた利用データ量


大手書店サイトと大手家電量販店が提携。B2C通販サイトはオールジャンルを目指す

 3月末の調査会社の易観国際の発表によると、2011年のB2C市場の規模は2401億元(2兆9000億円)。以前は中国のオンラインショッピング市場といえば、ヤフーオークションのようなC2C(個人対個人)サイトだったが、2011年のC2C市場は3883億元で、オンラインショッピング市場全体でB2C(企業対個人)市場の占める割合が増えつつある。

 デジタル家電を柱とする人気のB2Cサイト「京東商城」は、旅行予約サービスを開始したもののつまづいている。同サイトのクーポンコンテンツの中で「浙江省紹興旅行&高級ホテル」などの商品を1元で販売、1万人を超える購入者が出た後、京東商城は「テストページだった」と販売を拒否。購入者がネットで団結し抗議する事態に。また鉄道切符予約販売を3月末に開始したが、4月に入って早くもサービスを停止した。そんな京東商城は不動産販売も始めるなど、試行錯誤の状態が見てとれる状態だ。

 一方で、書籍が柱のサイトでAmazon(卓越亜馬遜)と競っている、「当当網(dangdang)」は、家電量販店最大手のひとつ「国美電器」が提携し、当当網の家電販売を強化した。既にサイトもオープンし、当当網内に国美電器のページ( ※ http://gome.dangdang.com/ )がある。本の当当網、家電の京東商城、国美電器に限らず、B2Cオンラインショッピングサイトはどこも、全ジャンルの商品を網羅する百貨店型モールを目指している。ネットよりもリアルで認知されている国美電器の街中でのPRで、どこまで利用者が増えるか興味深い。また、これをきっかけに異なるジャンルの販売業同士の提携が次々と起きるかもしれない。

中国B2C市場サイト別シェア当当網内の国美電器コンテンツ


北京市公安局、インターネット上の違法情報の取り締まりで1000人以上逮捕

 インターネット普及率が最も高い北京において、北京市公安局は「春風行動」と称して1カ月半にわたり、インターネット上の違法情報に対し取り締まりを実施した。詐欺業者、クラッカー、ポルノサイトや賭博サイト運営者などの犯罪者を1065人逮捕、さらに20万超の情報を削除、3100超の企業に行政処罰を行ったと発表した。

北京公安のネットでの違法行為取り締まりを紹介する記事


原油価格の急激な値上がりにネットで政府を批判する声が高まる。宅配価格にも影響

 3月中旬、中国国内での原油価格が過去最高価格を更新。宅配価格、転じてオンラインショッピングにも影響した。例えば、ある宅配業者は浙江省の都市から西部や東北地方まで、12元だった料金を15元に、チベットや新疆ウイグルまでで15元だった料金を21元に値上げした。

 3月は「両会(官民による政策決定会)」「重慶を舞台にした政治スキャンダル」「微博の評価機能停止」「予告をしていた微博実名制の開始」など、ネットユーザーが政府当局を批判するようなニュースがいくつもあったが、「百度指数」(Googleトレンドの百度版)によれば、原油値上がりの話題が“庶民を顧みない政府”といった意味の「天朝」という言葉を使って、政府を揶揄する声が最も高まったニュースだったという。

ネットユーザーが中国政府を揶揄する言葉「天朝」の検索傾向。微博の実名制がスタート



関連情報

2012/4/16 06:00


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」。