山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

フォーブス中国富豪ランキング、百度と騰訊からベスト10入り ほか
~2012年10月


  本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

フォーブス中国富豪ランキング、百度と騰訊からベスト10入り

 フォーブス中国が毎年発表している富豪ランキングが今年も発表された。

 ベスト10内に検索サイト「百度(Baidu)」のCEO「李彦宏」氏と、チャットソフトQQを柱とした検索サイト「騰訊(Tencent)」のCEO「馬化騰」がランクイン。百度の李CEOは81億ドルで2位、馬氏は64億ドルで4位となった。李氏は百度の株価下落で減少、馬氏は前回13位からの大幅にランクアップ。オンラインショッピングが柱の「アリババ」のCEO「馬雲氏」も34億ドルで第11位に上がった。

 IT長者が目立つ背景には、いままでランキングの上位を占めていた不動産業関係や家電量販店が落ち込んだことも影響している。今年のトップ100の総資産は前年比で7%減、金額にして2200億ドルの減少となった。1位は食品会社グループ「娃哈哈」の宗慶后氏。

 

全国人民代表大会を前に、ネット規制が強まる

 中国共産党第十八次全国人民代表大会(全人代。ないしは十八大)を前に、ネットの規制は非常に厳しいものとなった。中国国内では各ポータルサイトが全人代を祝う画像を出す一方で、中国国外のサイトやSkypeへのアクセス速度が普段より明らかに遅くなり、中国国内の中国人・外国人がtwitterやFacebookやgoogleやYouTubeにアクセスするためのVPNも繋がりにくくなった。11月に入り、全人代がスタートすると、その規制は一層と強化され、Gmailなどがアクセスできなくなる頻度がさらに上がった。インターネットユーザーは、全人代を一方的に歓迎する人や興味のない人ばかりではない。批評をしたい人は、十八大の読みと似たような発音の文字(例:斯巴達)で対抗したものの、似たような発音の文字は皆削除の対象となった。

百度で「習近平」で検索すると「法律法規規制により一部の検索結果は表示されない」となる。ネット利用者同士が「ネットの規制は全人代には厳しくなるんだろう」と話し合っているQ&A掲示板

 

Windows8発売、Surface予約開始も静かなスタート

 中国でもWindows 8が発売された。中国本土外の台湾や外国メーカーを中心にWindows 8対応PCも発売され、雑誌やサイトでも扱いはさほど大きくないものの、この話題を取り上げた。Surfaceに関しても、家電量販店をはじめ予約販売を開始した。マイクロソフトはWindows 8からパッケージ販売を廃止、ダウンロード販売1本に絞って期間限定で3000円強で提供。以前の正規版の値段と比べて割安感があることからか、購入したことをマイクロブログ「微博」報告する人も散見された。Windows 7以前の海賊版でWindows8 Proが購入できるという話も飛び交った。

レノボに次ぐ有力中国PCメーカー「神舟(Hasee)」もWindows8搭載PCをリリース

 

3G契約数が2億を突破

 中国政府工業和信息化部は、最新の通信統計を発表した。と9月における携帯電話契約数は前年末より9849万増の10億8474万4000となり、うち3Gは同7421万増の2億263万9000と、はじめて2億を突破。携帯電話普及率は80.6%。また同統計によると、ブロードバンド契約者数は1億7056万7000で、うちxDSLが1億2052万。リサーチ会社の賽諾によると、8月における3G対応携帯電話の出荷台数は2Gのみ対応の機種を超えているという。

 3G利用者が増え、サービスやサイトが充実してきている。CNNIC(中国インターネット情報センター)は、携帯電話によるインターネットユーザーの利用実態を発表。1日に携帯電話でインターネットを利用する時間は「1時間以上(34.7%)」「30~60分(19.3%)」「10~30分(25.6%)」「10分以内(9.2%)」「一定ではない(11.3%)」となり、利用する場所については「家(73.9%)」「公共交通での移動時(72.1%)」「待っているとき(64.0%)」「トイレ(48.1%)」「仕事中、授業中(43.9%)」「並んでいるとき(39.8%)」「歩いているとき(25.9%)」となった。ちなみに同統計によるとインターネット利用者は9月末の時点で5億4500万人、普及率にして40.7%となった。

 

在中国の中国人がノーベル賞受賞にネットでもお祝いムード

 中国在住の作家莫言氏が、中国在住の中国人としては初めてとなるノーベル文学賞を受賞した。毎年ノーベル賞が発表されると、各ポータルサイトはノーベル賞の特集ページを掲載。「なぜ中国人からはノーベル賞受賞者が出ないのか」と問題提起を行なっては、多くの読者が「中国の教育研究環境はひどい」とコメントするのが恒例のようになっていた。2011年はノーベル賞受賞者が出たものの、ノーベル平和賞を受賞した劉 暁波氏は民主化運動や人権活動でたびたび投獄され、獄中での受賞となっただけに、ポータルサイトで事前に公開されていたノーベル賞特集ページは削除され、ノーベル賞のオフィシャルサイトもトップページ以外にはアクセスできなくなる事態となった。

 今年の受賞は、中国にとって初めての素直に喜べるノーベル賞受賞とあって、各ポータルサイトは受賞を祝う特集ページを掲載。本に強いオンラインショッピングサイト「当当網」では莫言氏の書籍が受賞直後に毎日平均3万冊売れたという。

莫言氏ノーベル賞受賞の特集記事が各ポータルサイトで組まれた「莫言」氏についての検索数はすぐに急降下。トレンドの移り変わりは早い

 

百度mp3ひっそりと終了へ

 百度は音楽視聴サービス「百度音楽(music.baidu.com)」をスタートした。これは今年の年初に登場した新音楽配信サービス「ting」の名を変えたもの。と同時に2000年代前半の中国のインターネット黎明期においてキラーサービスとなっていた「百度mp3捜索」がひっそりと終了した。

 かつてはgoogle中国超えを果たした立役者であり、百度の代名詞的なサービスとなっていたが、終了前には百度のトラフィックの4%を担う程度まで落ち込んだという。

 CNNICによれば、音楽サービス利用者は4億1100万人と少なくはない。しかし、コンテンツ正規版化の風潮の中、もはや海賊版配信を許さないコンテンツホルダーと、無料で音楽を聞きたい、かといって広告を音楽に挟むことは許さないというユーザーの板挟みにあっている。競合会社が音楽配信サービスに参入している中、百度音楽は最適解を模索していくことになる。

百度音楽

 

ニュージーランド、粉ミルク個人輸出禁止に中国動揺

 ニュージーランド政府が、同国製粉ミルクの個人輸出を禁止。このニュースを受けて、中国国内の子どもを持つ富裕層の間で動揺が広がっている。

 中国産粉ミルクに関するネガティブな評判が絶えない中国において、特に中流以上の層で粉ミルクは外国からの輸入に頼っている。日本の粉ミルクも人気があり、尖閣問題などで日本製品不買の声が中国国内で高まる度に「子を持つ親の気持ちはわかっているのか」というコメントが見られるほどだ。

 ニュージーランドからの粉ミルクの個人輸入とは、具体的には消費者はオンラインショッピングサイト「淘宝網」で、ニュージーランド在住の華人・華僑の業者から直接購入する、ないしは中国在住中国人がニュージーランドから粉ミルクを個人輸入で取り寄せて中国国内向けに転売するというもの。中国のリサーチ会社「iResearch」によれば、オンラインのベビー用品市場は今年上半期で200億元(約2500億円)を超え、年間で610億元(約7625億円)規模になり、オンラインショッピング市場全体の4.3%を占めると予測している。

 ニュージーランドの規制は9月4日に発表したもので、それ以降、空港に大量の粉ミルクが滞留している状態にあるという。規制の理由は定かではないが、中国への輸出量が増えることで、偽物の横行など、ニュージーランドのブランドイメージに傷がつくことを嫌気しての措置だとも言われている。この措置を受けて、今度はオーストラリア在住の華人・華僑が、オーストラリアで販売されているニュージーランドの粉ミルクを中国向けに販売し始めた。淘宝網ではさらに粉ミルクの値段が高騰し、中国の子を持つネットユーザーからは悲鳴が上がっている。

 11月に入り、オーストラリアもニュージーランドの後を追って粉ミルクの個人輸出を禁止するとの報道もあり、中国国内ではさらなる動揺が広がっている。

ニュージーランドで粉ミルク個人輸出禁止についての特集ページ

 

国慶節商戦、ECサイトは苦戦

 10月1日からの国慶節を迎え、オンラインショッピングサイトはサイトでのキャンペーンの実施やリアルでの広告など、あの手この手で顧客を呼ぼうと躍起になっていた。しかし結果はというと、各社とも芳しくなかった5月1日からの「労働節商戦」に比べても、各社PVがさらにいちだんと減少した、という報道が並ぶ。中秋節と国慶節が続いたことから連休は8連休となり、買い物よりも旅行に行った人が多かったことが理由の1つとしてあげられる。

 加えて去年までは、オンラインショッピングサイトといえど、「個人対個人(C2C)」に分類され、実際はショップ非認証の人気サイト「淘宝網」と、そのサイトから分化した「企業対個人(B2C)」サイトで、認証したサイトが出店できる「天猫」、さらにはB2Cサイトで書籍に強い「当当網」、家電に強い「京東商城」などがあった程度だった。

 しかし今年は、「当当網」「京東商城」が他の商品ジャンルにも進出して百貨店化。さらに、家電量販店の蘇寧電器や国美電器も参戦し、時流に乗り百貨店化した。蘇寧電器や国美電器は最低価格保証の上、さらにリアルショップでも同じ価格で提供するとアピールするなど競争は激化。ネットの熱い戦いをよそに、元々商戦期は特売を求めて多くの人がリアルショップに集うだけに、家電に関してはリアルショップに流れたと分析する報道が多く見られた。

国慶節商戦でオンラインショッピングは盛り上がらなかったという記事

 

人気のスマートフォン「小米」の新世代機登場も反応はいまいち

 発売当時、中国で作れる範囲内で相当ハイスペックなスペックでありながら、思いきった低価格から、そのコストパフォーマンスが評価された「小米(Xiaomi)」というメーカーの「小米手机」なるスマートフォン。それまでの「下手な鉄砲数打ちゃ当たる」戦法からAppleのように「柱となる高パフォーマンスな1機種で勝負」に転換し、ヒット商品に。さらに中国メーカー数社が小米に追随し、高コストパフォーマンスな機種数機種だけを投入するようになった。

 中国スマートフォン市場に影響を与えた小米手机の新世代機「小米2」が10月に登場。小米ブランドだけに話題を呼んだが、初代「小米手机」登場時と異なり、既に複数の中国メーカーが同じ製品思想のスマートフォンをリリースしており、「特別価格的なアドバンテージは見られない」と市場は冷ややか。

小米2。値段は1999元(約25000円)



関連情報

2012/11/21 13:58


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」。