山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

中国のオピニオンリーダー、混乱期を生きてきた知識人に多数の若いフォロワー
~2014年2月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

中高年のオピニオンリーダーに多数の若いフォロワーがつくことが明らかに

 2月にネット世論を調査する人民網輿情監測室は、ネット世論に関する調査結果をまとめた「2013年中国互聯網輿情分析報告」を発表した。この報告では、2013年にマイクロブログの微博(Weibo)や掲示板やSNSで特に話題になった事象を取り上げている。

 昨年8月、マイクロブログの微博(Weibo)で多くのフォロワーを持つ「大V」と呼ばれるオピニオンリーダー達に圧力がかかり、結果として面白い話が読めなくなったことから微博利用者は減少した。オピニオンリーダーの1人、薛必群(ネットでは「薛蛮子」)氏がわいせつ行為で逮捕された事件は、ネットユーザーの間ではこうした圧力と受け止められている。逮捕を報じるニュースは2013年の数多くのニュースの中で、微博で桁違いの話題になったことがこの調査報告で明らかになった。

 人民網輿情監測室は、「社会ニュースが報じられ、それが話題になった時のオピニオンリーダーの伝播の影響力は計り知れず、刺激的な言葉やデマで煽るのはよくない」とした上で、オピニオンリーダーの素性についての調査結果も発表。

 それによると、2大微博サービスの新浪微博と騰訊微博で、10万以上のフォロワーがあるアカウント数は1万9000、100万以上が3300、1000万以上が200。就職状況では、メディア勤務や大学教授や会社員が最も多く、続いてフリーダンス、リサーチャー、政治家と続いた。

 オピニオンリーダーの多くは、地方都市や農村部に住み、性別では男性、年齢では40代から60代の中高年世代で、高収入、文系の知識人で3分の1が海外留学経験ありという傾向が見られた。インターネットユーザー全体では8割が政治的混乱の時期を経験していない、30代以前の新世代の人々である。つまり混乱期に生きた中年の知識人を、それ以降の若者が多数フォローするという状況だ。

 なお、2013年にネットで話題になったニュースは、薛必群氏の事件のほか、「政治家のニュース」「権力者の子供による事件」「大地震」「政府キャンペーン」「有名メーカーの製品品質問題」「メディアへの報道規制」などのニュースが話題となった。あらゆるSNSで話題になる事件がある一方、政府絡みのニュースでは掲示板で盛り上がりやすく、メディアへの報道規制に関してはSNSで盛り上がりやすいといった傾向も見られた。

2013年にネットで話題になったニュース(中国語)
オピニオンリーダーの年齢分布

中国政府、ネット大国からネット強国への転換を目指す

 中国政府は2月27日、「中央網絡安全和信息化領導小組(中央インターネットセキュリティおよび情報化指導グループ)」を設置。目的はセキュリティ強化、インターネット利用者における利用者数の向上から質の向上への変化、また模倣ではないクリエイティブなサービス構築など多岐にわたる。

 発表では、2013年の日本の「世界最先端IT国家創造宣言」や、アメリカの「サイバーセキュリティに関する大統領令」や、ドイツのメルケル首相とフランスのオランド大統領の会談で出た「欧州内の独自通信ネットワーク」やインドが発表したICT政策に触れており、これらを意識したものと思われる。

Bingが中国のフィルタリングを受け入れる

 中国のネット規制について調査する中国語サイト「greatfire.org」は、「マイクロソフトのbingで、フィルタリングされ、中国のニーズに沿った検索結果になっていることがわかった。ただし、他サイトで見られたNGワードすべてが引っかかるわけではなく、手作業でNGワードを設定しているのではないか」と報告。

 また、同サイトは「中国だけでなく、米国でフィルタリング有無のテストをBingに対し行っても同じ結果が出る。全世界向けにフィルタリングを行っているのか」と疑問視。この記事をふまえ、BBCがマイクロソフトに真相を取材したところ、マイクロソフトは「システムのミスで、本来なら中国以外でフィルタリングされることはない」と回答した。筆者自身確認したが、中国のBingでは「法律により一部の検索結果は検索できません」と表示されるが、日本のBingではこうした検索結果は確認できなかった。

bingのエラーメッセージ

春節で地方都市のスマートフォン利用者の利用レベルが向上

 春節(旧正月)は、故郷に帰るのが伝統的習慣。今年は1月31日が春節となったが、百度は春節期間中のスマートフォンなどによるモバイルインターネット利用レポート「移動互聯網発展趨勢報告」を発表した。

 それによると、一時帰郷した人々により、農村部や地方都市地域からのスマートフォンによるアクセスが急増。春節期間中にAndroidデバイスによるアプリダウンロード数は大都市で平時より5%ほど減少し、代わりに地方都市で同5%上昇、農村部で同9%上昇した。また同時期のクラウドストレージや地図サービスの利用が増加した。

 またレポートによれば、大都市に住む約2500万のAndroid搭載デバイスユーザーが、春節の際に地方都市に移動し、その3割が1人あたり平均3.5人の家族親族や現地の友人などに、おすすめ・定番のアプリの利用方法を教えた。教えたアプリの数は、教えた人1人あたり平均12本に上ったという。

 ただし、春節が終わり、人々がUターンした後は、地方都市や農村部の人々はあまり新しいアプリを利用していない、との調査結果もある。理由としては、地方都市や農村部ではブロードバンド回線と無線LANルーターが導入されていない家が多いこと、3Gでは利用料金が固定回線よりも高くなり使いたくないことが挙げられる。そのため、導入し教えてもらったアプリを「毎日使っている(15%)」よりも「まだ未使用(52%)」という人が多いという結果に。

 同レポートによれば、1月末の段階での毎日1度でもインターネットに繋いだAndroidデバイスは3億4000万台だという。

地方都市のスマートフォン販売イベント
百度のビッグデータを活用した春節の人の動きのニュースも

インターネット保険、利用者増加も本格的な普及はこれから

 2月25日、中国保険業協会は、インターネット保険に関してまとめた「互聯網保険発展状況報告」を発表。2011年から2013年で、インターネットで保険を扱う企業は28社から60社となり、利用者は816万人から5437万人に、市場規模は32億元から291億元になった。とはいえ、保険市場全体からみればまだ3%にすぎない。先進国、たとえば米国ではネット保険の比率は30%ほどを占めており、中国でも今後ネット保険の市場は大きな広がりを見せるとしている。

 インターネット保険は2010年に淘宝網が参入して以来、オンラインショッピングサイトの京東、ポータルサイトの網易(NetEase)、騰訊(Tencent)、家電量販店の蘇寧が参入している。中でも、阿里巴巴(Alibaba)絡みの「淘宝網」「天猫(Tmall)」「支付宝(Alipay)」や、騰訊絡みの「微信(Wechat)」の電子マネー「微信支付」を活用した保険が盛り上がると見られている。

学習サイト利用者の利用実態の調査結果が発表される

 日本語や英語などの語学学習サイトを運営する「滬江網」らが、中国の学習サイト利用者の実態を調査した「2013-2014中国互聯網教育用戸行為分析報告」を発表。

 それによると、地域別利用者では「上海(15.8%)」「北京(14.3%)」「広東省(13.7%)」に利用者が集中。続いて江蘇省、浙江省、湖北省、湖南省、四川省、山東省の順となり、比較的経済的に豊かな地域で学習サイトが活用されていることがわかる。

 また、年齢別では学生やサラリーマンの利用率が高かった。利用する場所では、「家(48.3%)」「学校(20.3%)」「地下鉄やバス(11.7%)」「職場(9.5%)」となった。利用する理由は「テスト対策(31.0%)」「職業技能向上のため(28.8%)」「趣味(17.8%)」「トレンドを追うため(12.4%)」となった。利用するコンテンツは多い順に、「動画(29.7%)」「学習教材(20.9%)」「アプリ(18.8%)」「ライブ授業(15.6%)」「個人授業(13.3%)」。

 利用デバイスでは、「PC(51.7%)」の利用者が多く、「スマートフォン(28.8%)」「タブレット(19.2%)」が続く。スマートフォンのOS別内訳は「Android(62.8%)」が6割を超え、「iOS(29.6%)」「Windows Phone(6.4%)」と続く。1日平均での利用時間は「15~30分(30.8%)」「30分~1時間(29.2%)」に集中した。

 サイトを知ったきっかけは「微博・微信(30%)」が最も多く、以下「百度での検索(23%)」「ネット上の広告(16%)」「知り合いのグループからの口コミ(13%)」「地下鉄やバスの広告(8%)」となった。学習サイトに支払ってもいい額は「100元以下(58.5%)」「101~500元(35.9%)」で9割以上を占める。

滬江網には日本語の教材も多数

中国電信も4G(TD-LTE)サービスを開始

 中国電信(China Telecom)は2月14日、4Gサービスを開始した。方式はTD-LTE方式。料金プランはは70元(月1GB)、100元(月2GB)、130元(月3GB)、200元(月6GB)、280元(月10GB)。中国移動(China Mobile)は既にサービスを開始しており、残りの中国聯通(China Unicom)も3月には4Gサービスを開始する。

中国電信の4G端末

ECの阿里巴巴、輸入品販売や地図事業など事業を展開

 オンラインショッピングサイトの「天猫(Tmall)」「淘宝網(Taobao)」や、支払サービスで電子マネーの「支付宝(Alipay)」を擁する阿里巴巴(Alibaba)は、2月10日カーナビ用地図で人気ナンバー1の「高徳」を買収、また2月19日には輸入品販売の「天猫国際」のサイトをオープンした。

 高徳の買収額は約11億ドル。阿里巴巴は、従来通り地図サービスを提供するだけでなく、O2O(Online to Offline)をオンラインショッピングや金融の領域で実現するのではないかと言われている。阿里巴巴のO2Oへの取り組みとしては、以前中国各地に直営店を持つハイアールとの提携があった。

 輸入品販売の天猫国際のサービス開始については、中国における2013年の輸入品販売市場規模は700億元(約1兆2000億円)であったが、今後さらなる市場拡大が見込めると期待を寄せる。天猫国際サイトでは、サプリメントやベビー用品やファッションなどの商品ジャンルがプッシュされている。

天猫国際

人気の余額宝を取締ろうとする政府関係者に、猛反対の世論

 銀行以上に利率が高くお手軽なことから数千万人のユーザーを集め、世界有数のファンドに成長しつつある「支付宝」(Alipay)の電子マネーファンド「余額宝」。これを政府の代弁者である中国中央電視台(CCTV)の幹部である鈕文新氏は“金融寄生虫”と呼び、取締るべきという言論を発表。これが報じられると、数多くのニュースサイトやSNSに転載され、非常に多くのネットユーザーから「一般庶民の救いの手を取締るのか」と反対の声が上がった。あるサイトが行ったアンケートによれば、反対は役9割に達している。

山谷 剛史

海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。