俺たちのIoT

第18回

着実に進むおもちゃのIoT化、子ども向けだけでなく大人向けも

ソニーの「toio(トイオ)」

 本連載でこれまで取り上げた通り、IoTはさまざまな分野や生活シーンにおいて導入が進みつつあります。もはやIoTは大人だけのものではなく、子どもが遊ぶ「トイ」の世界でも着実にIoT化が進んでいます。

 IoTトイで最近大きな話題を集めたのが、ソニーの「toio(トイオ)」です。モーターを内蔵した四角いロボットや操作用のコントローラーなどがセットになっており、人形などに取り付けることで自分で動かして遊ぶことができます。動作のイメージは言葉よりも公式サイトの動画を見てもらったほうが早いでしょう。

「toio(トイオ)」公式動画

 子ども達に人気のプラレールもIoT化されており、タカラトミーでは、スマートフォンで運転したり、運転席や客席からの様子をカメラで見ることができる「スマホで運転!ダブルカメラドクターイエロー」を発売しました。また、人気の知育玩具「レゴ マインドストーム」を使ってプログラミングを学習できる「IoTカリキュラム学習セット」も販売されています。

 古くから親しまれている玩具であるけん玉もIoT化し、トリックを練習したり対戦できる「電玉」という製品が発売。おままごとを通じて料理を学ぶ「ままデジ」も、コンセプト段階ではありますが開発されています。

「ままデジ」開発レポート(au未来研究所)

 ハードウェアスタートアップでもIoTトイに取り組んでいる企業は数多く見られます。センサーを内蔵したリストバンド「Moff Band」は、最近ではヘルスケア分野へ取り組んでいますが、元々は子どもが装着すると動きに合わせてさまざまな音がなるトイでした。また、本連載でも何度か取り上げていますが、トイを動かすための電池をIoT化する「MaBeee」という製品もIoTトイの1つと言えるでしょう。

 海外でもIoTトイは人気のジャンルで、映画「スター・ウォーズ」シリーズに登場するキャラクター「BB-8」をスマートフォンで操作できるロボットをSpheroが開発。Shperoは最近になって映画「カーズ」のキャラクターである「ライトニング・マックィーン」のトイ化も手がけており、映画のように表情豊かな製品を作り出したことで話題を集めています。このほか、AIを搭載してスマートフォンで操作できるミニカー「Anki Drive」といった製品も海外では販売されています。

多種多様な製品が開発されている「IoTトイ」だが、子ども向けということで悩みも

 これまでIoT関連の製品をいくつか取り上げてきましたが、それに比べてIoTトイは非常にジャンルが幅広く、多岐にわたる製品が展開されています。そもそも「トイ」というジャンルが幅広いということもありますが、これだけ多種多様な製品が開発される理由は、トイの目的そのものも非常に多種多様だからということも大きな要因です。

 これまで取り上げてきたIoT製品では、例えばIoTトイレは「トイレの入退室管理」という明確な目的がありますし、ペット向けIoTも「ペットの管理」という目的がありました。一方、IoTトイは「学習」という要素ももちろんあるものの、一番大事なことは「子どもが遊んで楽しい」ということに付きます。特定の目的が定められた製品に比べて、「楽しさ」を追求するIoTトイは、実現するためのアプローチも非常に多様なことが、IoTトイの幅広さにつながっているといえるでしょう。

 一方で、子どもが手に触れるトイならではの課題もあります。IoTはその性質上なんらかの通信機能や電気的機構が必要であり、そのため精密な部品なども数多く使われています。子どもが扱うことを前提とするトイでは、力強く投げる、口に入れるなど、大人では考えられないような使われ方も考慮しなければいけません。手に触れても怪我をしないよう突起物を無くすといった筐体の作りにも注意を払う必要がああります。

 IoT製品の多くはスマートフォンと連携する機能を持っていますが、普及率の非常に高い機器であるスマートフォンといえど、子ども向けのトイではスマートフォンが当たり前というわけにはいきません。大人と一緒に遊ぶトイや、小学生・中学生くらいの子どもであればスマートフォンを使うことも問題ないかもしれませんが、より低年齢の子どもが遊ぶのに必ずスマートフォンが必要、というのはかなり難しいでしょう。

 IoT製品では、スマートフォンと連携することで機能をスマートフォンに頼るという役割分担を行っているものも多いですが、トイの場合、対象とする子どもによってはスマートフォンに頼ることができず、IoTの要素をすべて製品側に搭載しなければいけないということもあるでしょう。

 価格帯も課題の1つです。毎年テレビ番組のシリーズが変わるたびに新しいおもちゃをねだられるほど、子どもの興味はすぐに移り変わります。そのためトイの利用期間は家電に比べると大幅に短く、結果としてあまり高い金額のトイは好まれないという傾向があります。一方、IoT化すると通信機能やバッテリーなどを搭載することで製品の単価は上がる傾向にあり、いかに低価格でIoTを実現するかというのはIoTトイを作る側の悩みでもあります。

今後、期待されるのは大人向けの「IoTトイ」?

 子ども向けのIoTトイは大きな可能性を秘めていますが、子どもをターゲットにすることで生まれる課題も少なくありません。一方で、子どもではなく大人をターゲットにしたトイ、さらには大人向けのIoTトイというジャンルは、今後は期待が見込まれる分野です。

 現在の20代や30代は、子どものころから映画やアニメ、マンガ、これら作品のキャラクターを活かしたトイなどに慣れ親しんでおり、大人になってもこうしたコンテンツを楽しんでいる人が少なくありません。そして、そうしたターゲットに向けて、アニメのフィギュアや映画のグッズ、キャラクターを再現したトイという製品も人気を集めています。前述のBB-8も、スマートフォンでの操作やスター・ウォーズという映画のターゲットを考えると、子どもというより大人も楽しめるIoTトイと言えるでしょう。

 子どもの世界では当たり前のトイも、大人の世界ではまだまだ当たり前と言うほどではなく一部での人気ではあるものの、着実に人気のあるジャンルです。そしてこうした大人向けのトイであれば、前述のような子どもへの課題も比較的少なくて済み、高価だけれど本格的なIoTトイを作ることも夢ではありません。

 自社の事例で恐縮ですが、筆者が務めるCerevoでは、アニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」に登場する「ドミネーター」をIoTトイとして販売しました。価格が8万円を超えるという高額商品ではあるものの、作品のファンからは高く評価いただき、日本だけでなく海外でも大きな話題となりました。

 子どもはもちろん、大人も楽しむことができるIoTトイは、まだ普及段階にあるIoTの中でも期待の分野と言えるかもしれません。

8万円超の“大人向け”IoTトイ。Cerevoの「ドミネーター」

甲斐 祐樹

Impress Watch記者からフリーランスを経て現在はハードウェアスタートアップの株式会社Cerevoに勤務。広報・マーケティングを担当する傍ら、フリーランスライターとしても活動中。個人ブログは「カイ士伝」