ニュース
JEITA、2026年版「電子情報産業の世界生産見通し」発表。「産業データスペース」など今後の計画も示す
デジタルエコシステム検討会を2026年に発足、安全かつ自由に活用できるデータ基盤の実現目指す
2025年12月16日 16:20
一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の漆間啓会長(三菱電機社長CEO)は12月16日、記者会見を行い、2026年度に、デジタルエコシステム検討会を発足させる計画などを明らかにした。複数の組織や企業が互いに信頼できる仕組みのもとで、安全かつ自由にデータを活用できる「産業データスペース」の実現を目指すという。また、同協会が毎年調査している「電子情報産業の世界生産見通し」についても発表した。
日本の潜在成長率や生産性の低さの克服が不可欠
会見で漆間会長は、2025年6月の就任会見において、「地政学リスクの高まりや関税をはじめ、世界的な不確実性が増すなか、日本の潜在成長率や生産性の低さの克服が不可欠であり、デジタルによる真のトランスフォーメーションを社会全体で実現することが急務である」と指摘していた。
今回の会見では、その発言を受けて、「AIをはじめとするデジタル技術が急速に浸透する一方で、日本社会に内在する構造的な課題も明らかになりつつある。デジタル産業は、デジタルの社会実装による課題解決、価値創出に取り組んでいるところである」とコメントし、「JEITAは、デジタル産業の業界団体として、Society 5.0の実現に向け、会員企業や政府などと密に連携し、デジタル技術による課題解決、競争力強化、新市場創出に向けた取り組みを加速させ、多様な産業と協力しながら、日本の未来を切り拓く」と語った。
官民一体で産業分野のデータ活用、デジタル基盤はハードウェアとAIなどのソフトウェアを一体として整備していく
JEITAの取り組みについては、「データ活用」「イノベーションの促進」の2つの観点から説明した。
「データ活用」では、デジタルエコシステム検討会を、2026年5月に発足させる計画を明らかにした。漆間会長は、日本の特徴である製造業の強みを生かすには、単なるデジタル化では不十分であり、OTデータをはじめとする各産業分野のデータ活用が重要であることに触れ、「日本の生産性を高めるには、製造現場のデータとAIを組み合わせることで、付加価値を高め、ものづくりの強化につなげていくことが重要である。日本が競争力を取り戻せるかどうかは、ソフトウェアとデータに本気で投資できるかに尽きる」と述べた上で、「複数の組織や企業が互いに信頼できる仕組みのもとで、安全かつ自由にデータを活用できる産業データスペースを目指して、デジタルエコシステム検討会を発足させる。現在は準備フェーズにあるが、産業界で進めている取り組みをベースに、将来のユースケース創出につながる検討課題やアクションなどの整理を進めている」とした。
2025年6月に発足したデジタルエコシステム官民協議会と検討内容を共有しつつ、官民一体で産業分野のデータ活用を進めるという。
「企業や業界の垣根を超えて、データ活用の検討を行っていく。JEITA会員企業および会員企業以外の参加を募ることになる。官民協議会からは、データ活用の拡大、産業データスペースの実現などのユースケース、具体的なアクションについて期待されている」とした。
さらに、「データ活用の基盤となるデータセンターには、安定的な電力供給と革新的な省エネ技術に関して、産学官の連携が必要不可欠である。電力やITリソースの統合管理を実現するワット・ビット連携の推進や、再生可能エネルギーの効率的な活用、省エネ半導体の開発、光電融合による高速、低消費の電力通信などの技術導入を提案する。さらに、経済安全保障の観点から、産業界のみならず、行政などのさまざまな分野においてクラウド整備を進め、デジタル赤字の解消を目指したい」と述べた。なお、デジタル赤字については、「毎年拡大傾向にある」としながらも、「OTデータや暗黙知を活用したフィジカルAIの開発は日本にしかできないだろう。クラウドを活用するだけでなく、OT領域(エッジ)で処理ができれば、日本の独自性を発揮できる。デジタル赤字の縮小に貢献でき、海外に進出するきっかけにもなる」と語った。
「イノベーションの促進」については、2025年10月に開催したCEATEC 2025に約10万人が来場したことに言及。「世界の展示会の多くが、商業的な要素が中心であるのに対して、CEATECは、未来を創造し、共感を生み、社会実装につなげる『イノベーションの実験場』となっている点が大きく異なる。企業にとっては、ブランド価値の向上と新産業の萌芽を実現する一方、行政に対しては、政策形成の視座を提供し、研究者には新たな問いと連携の機会をもたらしている。そして、学生や生活者には、学びと希望を提供し、社会全体には、共感から社会実装への推進力を提供するイノベーション促進のインフラとしての役割を持つ。CEATECをさらに進化させていきたい」と語った。
また、「研究開発と社会実装を両輪で進めていくことは、日本の国際競争力にとって、極めて重要である。研究開発税制における戦略分野への支援強化は、飛躍的にAIが進歩するなか、データを起点とした産業競争力の強化につながるものと考えている。研究開発そのものが、産業分野のデータにとって不可分となっており、データは日本の戦略資源にほかならない。産業競争力と経済安全保障の両面から、AIなどを戦略分野と位置づけた今回の政府の支援措置は、デジタル化と産業競争力の強化を後押しするものであり、関係者に感謝する」と発言。「デジタル基盤は、ハードウェアとAIなどのソフトウェアを一体として整備することが不可欠であることから、生産性向上に資する設備投資についても、ソフトウェアを含めて、後押ししてもらえることは大変有意義である。今後の政策にも期待している」と述べた。
なお、日中関係が悪化している現状については、「政治のなかで起きていることである。だが、産業界では、継続的に築き上げた関係があり、それをお互いが理解することに尽きる。一部には不買運動などの影響もあるだろうが、経済での関係は維持していこうという機運が感じられる」と語った。
半導体分野で世界と戦っていくには「パワー半導体」が不可欠
一方、「電子情報産業の世界生産見通し」についても説明した。
同調査は、2007年から実施しているもので、会員企業に対する調査だけでなく、国内外の関連企業や団体の協力を得て、まとめているのが特徴だ。世界の電子情報産業の生産規模を、データによって明確にするとともに、世界における日系企業の位置づけを把握することができる。
これによると、2025年の電子情報産業の世界生産額は、前年比11%増の4兆1000億ドルが見込まれ、初めて4兆ドルを突破することになる。また、2026年は前年比10%増の4兆5000億ドルとなり、引き続き、過去最高を更新する見通しだ。
「世界的なデータセンター需要の拡大や、生成AIの普及を背景に、半導体、電子部品、ソリューションサービスが軒並み好調である。2026年は、生成AIやIoT、自動運転、スマートファクトリーなど、先端技術のさらなる普及や、高性能サーバーおよびストレージ、それらを支える半導体の伸長が見込まれる。品目別では、2025年および2026年ともに、半導体、電子部品、サーバー・ストレージ、ソリューションサービスが過去最高を更新するなど、AI・データ駆動型社会への構造転換が鮮明になっている」と、漆間会長は総括した。
また、2025年の海外生産分を含む日系企業の生産額は、前年比2%増の41兆8000億円を見込んでおり、2026年も好調を維持し、前年比3%増の43兆1000億円となる見通しだ。
「2025年は、AV機器は減少傾向が続くものの、Windows 10のサポート終了に伴う更新需要によってPCが堅調を維持。半導体や電子部品、ソリューションサービスも全体を下支えした。2026年は、デジタル投資の加速により、ソリューションサービスが着実に成長する。また、電子部品・デバイスも堅調に推移する」と予測した。
国内生産額は、2025年が前年比2%増の11兆5000億円、2026年は3%増の11兆9000億円に伸長すると見込んでいる。
半導体不足や高騰の動きについては、JEITAの平井淳生常務理事が説明。「メモリについては、データセンター向けのHBMメモリの需要が伸び、供給がひっ迫しているのにつられて、DDRの需要も増加している。また、DDR4からDDR5への立ち上げ・移行時期にあたり、ひっ迫しやすいサイクルのなかにある。トレンドとサイクルが重なったことが原因だと分析している」とした。
また、漆間会長は、「半導体分野で、日本が世界と伍していくためには、パワー半導体が重要になる。各社の連携により、世界に勝てるチップを作り上げることが鍵になる。また、ラピダスによる国内生産や、TSMCの日本での生産などにより、高度化する製品向けに国内で半導体が調達できるようになるだろう。半導体市場の育成や製品の高度化による相乗効果を期待したい」とした。
「データとデジタル基盤」が国家の機能を左右する新たな戦略資源に
テクノロジー動向については、経済安全保障の重要性が高まるなか、エネルギー、半導体などと並び、データとデジタル基盤が、国家の機能を左右する「新たな戦略資源」になりつつあることを指摘。とくに、データセンターは、行政や産業、国民生活の全てを支える「基盤インフラ」になると位置づけた。
「AIの学習に用いられるインターネット上のデータは2028年までに学習され尽くされるとの見方もあり、今後のAI活用による経済発展には、各産業分野が現場で保有するデータの重要性が一段と高まる。なかでも、日本の産業分野の現場から生まれているOTデータは、極めて高品質で有効なデータである。これらは、領域特化型AIを活用した生産性向上と付加価値創出の源泉になる。産業競争力と経済安全保障を支える鍵でもある。その点からも、国内におけるデータセンターの整備は喫緊の課題と言える」と述べた。
ヒューマノイドロボットについては、「重要な業界であるが、中国が先行しており、日本は一歩遅れている。だが、ヒューマノイドロボットは、AI技術とセンサー技術、ハードウェア技術が重なり合って実現するものであり、ここに日本独自の技術が活用できる。日本の産官学の連携も大切だ」と語った。
AI時代の成長は、データと電力の戦略的確保に左右される
「電子情報産業の世界生産見通し」においては、毎年、「注目分野における動向調査」を実施しており、2025年の調査では、「データセンターの動向」に着目した。
これによると、データセンターを通じて提供される全世界のサービス市場は、2030年に1兆7000億ドルとなり、2025年の約2倍に達すると予測した。背景として、クラウドサービスを中心としたサービス利用の加速、動画配信やゲームなどのデジタルコンテンツ需要の拡大、AIによる学習および推論に対応するGPUサーバーや高速ネットワークの需要拡大をあげた。「これらが複合的に作用して、データセンター投資を強力に後押しすることになる」とみている。
また、データセンターサービスの市場拡大に伴い、関連製品市場も大きく成長すると予測。サーバーや半導体、電子部品といった関連製品の世界市場は、2030年に約1兆9000億ドルに達し、2025年に比べると2倍以上に成長。インフラの高度化に向けた投資が、市場成長を加速させるという。
一方、データセンターを通じて提供されるサービスの市場規模は、日本において、2030年に5兆6500億円に達すると予測した。
漆間会長は、「産業のデジタル化やAI活用の広がりによって、高度なデータサービス需要が、国内でも拡大する。それに伴い、設備の高性能化や効率的な運用などが求められる。経済安全保障の観点から見ても、基盤インフラとなるデータセンターを日本国内に確保し、盤石な体制を整備することは極めて重要である」と提言したほか、「データセンターの整備を図る上での課題は電力供給である。指数関数的に上昇する処理能力への要求に応じて、データセンターの電力需要は2030年に現在の2倍以上になることが予測されている。電源の確保と省エネ技術の革新は今後ますます重要となり、電力供給がサプライチェーンのボトルネックにならないように、産学官の連携が必要不可欠である」と指摘した。
さらに、「AI時代の成長は、もはや、データと電力の戦略的確保が決めると言っても過言ではない。データセンターと電力は、半導体に次ぐ、国家の戦略資源であるという視点を持たなければ、日本のデジタル競争力は維持できない。日本の産業競争力、国際的なプレゼンス、そして国民生活の利便性は、この基盤を確保できるかどうかにかかっている」と警鐘を鳴らした。
日本のデータセンターサービスの位置づけについては、「GAFAMなどが開発するLLMなどに追随することは難しい。だが、日本は、OT領域に定めた際には特化型AIや関連ソリューションに注力ができる」と述べた。







