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JEITA新会長に三菱電機の漆間社長が就任、社会全体のDX推進のため、業界団体としての貢献を表明
2025年6月12日 06:30
一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の新会長に、三菱電機株式会社の漆間啓氏(代表執行役 執行役社長 CEO)が就任した。任期は1年間。6月11日に行われた就任会見で、漆間新会長は、「製造業におけるソフトウェア開発力の底上げ」「サプライチェーンへの対応」「テクノロジーの進化と社会との調和」の3点を、2025年度の活動方針に掲げた。
また、漆間会長は、「前身となる2つの団体(日本電子機械工業会、日本電子工業振興協会)が統合し、2000年にJEITAが発足してから、今年は25周年を迎える。歴史の重みを感じつつ、JEITA会長として責務を果たす。時代の大きな転換点を迎えている。デジタル産業のさらなる発展に尽力し、社会に貢献していきたい」との抱負を述べた。
高まる社会の不確実性、解決の鍵は「DXを社会全体で推進すること」
会見で「地政学リスクや関税など、世界中で不確実性が高まっており、対抗するためにも、日本の潜在成長率や、労働生産性の低さを改善することが喫緊の課題である」と切り出した漆間会長は、解決の鍵はデジタルにあり、デジタルによる真のトランスフォーメーションであるDXを、社会全体で推進することが求められている、と述べた。
そのなかで、重要な取り組みとして挙げたのが、ソフトウェア開発力の強化だ。
2024年12月にJEITAが発表した調査では、自動車のSDV(Software Defined Vehicle:ソフトウェアにより定義される自動車、ソフトウェア主導の自動車づくり)化が、今後、飛躍的に成長すると予測したことを引き合いに出しながら、「ソフトウェアの重要性が高まるのはクルマに限らない。Software Defined X(SDX)の時代に突入し、あらゆる産業において、デジタルテクノロジーを使いこなすためのソフトウェア開発力が勝負の行方を左右する」と定義した。
SDVが進む自動車産業との関係については、「SDVは、今後の目指すべき方向性である。そこでは、デジタルやデータをマネジメントすることが大切であり、ソフトウェアの競争力をあげることが重要になる。SDVによって、自動車をバージョンアップでき、その進化にあわせてビジネスが生まれる。モノづくりの観点からの優位性も維持できる。この領域においても、JEITAの会員企業に対する支援を行っていく」と述べた。
さらに、「EV化の進展が当初の見通しよりも遅れ、パワー半導体などの動きが停滞しているが、将来的にはEV化が進んでいくのは間違いない。それに伴って使用する半導体が増加することになる。JEITA会員会社も動向を見ておく必要があるため、会員企業に広く情報を提供し、行く道を誤らないように努力をしたい」と述べたほか、「自動車産業では、レアアース規制の問題が発生している。これが解消しない場合には、サプライチェーンへの影響も大きい。これに関しても、会員企業に情報提供を通じた支援をしたい」とした。
一方、「モノづくりを日本の強みとするためには、過去の成功体験から脱却し、熟練した強い現場力と、AIをはじめとするデジタル技術を組み合わせ、新たな成功モデルを構築することが不可欠である。BtoC分野で指摘されるデジタル赤字と同じ道を歩まないために、BtoBの分野におけるデジタルトランスフォーメーションこそが、今後の最重要課題になると考えている」とも述べた。
デジタル赤字の解消に向けては、日本が得意とする製造業を、デジタルやデータによって、さらに強化することで対抗できると指摘した。
DXを業界団体として支援する3つの取り組み、開催中の大阪万博にもエール
JEITAの活動方針として、3つの取り組みを挙げた。
1つめは、「製造業におけるソフトウェア開発力の底上げ」だ。
漆間会長は、「AI、ロボティクス、量子、IoTなど、デジタル技術を活用するユーザー企業と連携し、より一段ギアを上げて、社会実装に取り組む必要がある」と指摘。この流れを生み出すための仕組みづくりのひとつにJEITAが主催するCEATECをあげ、「CEATECはデジタルによる価値や社会課題解決を披露する場へと大きく変貌しつつある。自動車産業に限らず、あらゆる産業のDXを加速するための舞台として、CEATECの価値を高めていく」と述べた。
また、2025年3月に発足したMedia over IP コンソーシアムについても、ソフトウェアの活用を加速させる施策のひとつと位置づけ、「放送事業者とメーカーの連携により、国内のコンテンツ競争力の強化を図る」と発言。「日本の放送業界は、個々にコンテンツを制作しているが、米国ではIPをベースにした共同制作の動きがあり、これが競争力の差になっている。放送業界、機器メーカー、コンテンツホルダーとどう連携し、どう効率化し、コスト削減ができるのかが重要になる。JEITAとしてもサポートをしていきたい」と語った。
さらに、他産業やアカデミア、政策立案の専門家などからの知見を得て、共創のための仕組みづくりを進める姿勢も示した。
2つめにあげたのが「サプライチェーンへの対応」だ。
経済安全保障やサイバーセキュリティ対策、地政学リスクやサステナビリティへの対応など、サプライチェーンを取り巻く課題が増加していることに触れながら、「サプライチェーンの問題は1社だけで解決できるものではなく、複数の企業が協力し合うことが重要である。業界団体として積極的に取り組むべき領域だと考えている」とし、「各課題に対応した組織体制を構築し、JEITAが推進役となり、リソースやネットワークをフルに活用し、継続的に取り組んでいく」との姿勢を示した。
また、データ連携やトラストの基盤となるデジタルエコシステムの整備においても、「官民の緊密な連携や協調が必要な取り組みにおいて、JEITAとして対応していくことになる」と述べた。
3つめが、「テクノロジーの進化と社会との調和」である。
漆間会長は、「DXを加速させていくためには、生成AIやデータの利活用といった社会的影響が大きな技術に対して、産業界が自らルール形成に関与し、倫理と透明性を重視したガバナンスを構築していく必要がある。安心してデジタル技術を活用できる環境整備が急務である」と前置きし、JEITAが新たに「AIポリシー」を策定し、公開したことを発表した。
「人とAIが共生する社会の実現を目指し、社会と調和したAIの普及を促進する。AIを積極的に利活用することで社会的価値を創出し、持続可能な社会の実現に貢献する」と語った。
いわゆる「トランプ関税」の影響については、「変動が多すぎて方向性が見えない。政府には自動車への関税をゼロにする動きをしっかりとやってもらいたい。それが自動車に使用されている電子部品や半導体の動向に、JEITA会員企業にも影響する。状況を注視していく必要がある」としたほか、「関税回避のため、生産地を米国に移転する企業もある。だが、移転した場所でサプライチェーンが整っているのかといった課題があったり、人の採用ができなかったりといった問題もある。会員企業に情報を提供し、デメリットを減らすための支援をしていきたい」と語った。
また、「半導体への関税措置がどうなるのかにも注視しておく必要がある。裾野が広い産業であり、さまざまなところに影響が生まれ、コストプッシュの要因にもなる。半導体は、技術革新のキーとなるものであり、日本の競争力を高めることが期待できる技術である。政府にはしっかりと協議をしてもらいたい」と要望した。
JEITAでは、2025年5月に、政府に対して半導体戦略に関する提言書を提出。毎年提出している提言書は、政府の半導体・デジタル産業戦略にも反映されるといった動きが出ている。
なお、大阪・関西万博については、「一度、現地を訪れた。大屋根リングに登ってみて、日本の技術が誇示できていることを感じ、各パビリオンでは日本が持つ技術をうまく表現できていることを感じた。国内外に対して、日本の力を感じてもらえるものになっている。夏場の暑さ対策は大変だろうが、勢いを途絶えさせず、成功裏に終わることを期待している」と述べた。