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JEITA新会長に富士通の時田社長が就任、「グリーントランスフォーメーション」「人材育成」「半導体」に注力

JEITA新会長に就任した富士通代表取締役社長の時田隆仁氏

 一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、新会長に、富士通代表取締役社長の時田隆仁氏が就任すると発表した。

 6月2日に会見を行った時田新会長は、「JEITAは、積極果敢に挑戦を続けながら、産業と産業のつなぎ役として、幅広い産業の会員企業と連携する。また、政府をはじめとする関係各所とも密に連携しながら、課題解決や競争力の強化、新たな市場創出に取り組み、超スマート社会であるSociety 5.0の実現とともに、日本経済のさらなる活性化や、SDGsの達成に貢献していく」と述べた。

 さらに、「社会のデジタルトランスフォーメーションを加速させていくために、電子部品やデバイス、電子機器やITソリューションを中核に、他の製造業やサービス業なども集う『デジタル産業の業界団体』として、期待に応え、責務を果たしていきたい」と抱負を述べた。

2022年度に推進する「3つの重点事業」

 2022年度の重点事業として、「グリーントランスフォーメーション」「人材育成」「半導体」に取り組む考えを示した。

 「グリーントランスフォーメーション」については、「この先のデジタル化の地殻変動となるのは、カーボンニュートラルである」と切り出し、「いま、世界中で打ち出されているカーボンニュートラルは、本質的にはグローバル市場での選別や金融資本市場からの格付けを意味するものであり、それに対応できなければ、企業は事業継続ができなくなるといっても過言ではない。必要なことは、グリーンとデジタルを組み合わせることであり、『グリーントランスフォーメーション』が求められている」と語った。

 その上で、「JEITAは、会員、非会員を問わずに、デジタル技術を提供する企業と、デジタル技術を活用する企業の双方が集う『Green×Digitalコンソーシアム』を、2021年10月に立ち上げた。カーボンニュートラルを軸とした世界的な潮流のなかで、世界市場で戦う幅広い企業が集い、国際的なルール形成をリードしていくことが目的である。

 企業の行動変容や、産業および社会の変革につながる新たなデジタルソリューションの創出、実装に向けた議論をするための場として、現在、99社が参画している。IT・エレクトロニクス企業のみならず、化学などの素材産業をはじめ、物流、金融、サービスなど、多岐に渡っている」と報告した。

デジタル技術を活用した「サプライチェーン上のCO2排出量の見える化」

 同コンソーシアムでは、現在、サプライチェーン上のCO2の見える化に取り組んでおり、業種業態の枠を超えた各分野の専門家が集い、検討を進めているという。

 「自社の事業活動に伴うCO2排出量の削減だけでなく、サプライチェーン全体でのCO2削減が求められている。そのためには、CO2削減量を網羅的に、正確に把握することが欠かせない。だが、いまの排出量算定方法には課題がある。

 現状では多くの企業が取引金額と産業連関表の係数などの原単位から排出量を算定しており、サプライヤーがいくらCO2を削減しても、削減努力が反映されない。サプライチェーン全体のCO2排出量の実績データを把握するための鍵になるのがデジタルの活用であり、CO2データの収集、分析、評価、活用とあらゆる過程でデジタルが必要不可欠になる。

 現在、共通データフォーマットや開示範囲などのルール作成に向けた検討を進めており、2022年度後半には実証実験も行う計画である。理想の姿は、デジタル技術を駆使して、サプライチェーンの各プロセスでのエネルギー消費に伴うCO2排出量の実績データが、自動的にデータ共有基盤に蓄積され、グローバルに広がるサプライチェーンのCO2排出量を正確に把握できるようになる状態である。

 サプライチェーンのCO2を見える化する仕組みを構築し、適正に運用管理することで、企業間の協働や、消費者の行動変容を促し、社会全体の脱炭素化を進展する未来を目指す」と述べた。

 ここでは、JEITAの姿勢として、次のように語った。

 「欧米企業をはじめ、オペレーションデータの覇権争いが始まりつつあるが、データの提供側・利用側の双方で透明性が高く、フェアな算定・収集・共有の共通ルールづくりが必要である。

 しかも、それは1つの国や地域にとどまらないグローバルなルールであるべきだ。Green×Digitalコンソーシアムでは、デジタル技術を活用し、サプライチェーン全体のCO2データを見える化するデータ共有基盤の実現を目指していく」とした。

 その上で、「JEITAは、Green×Digitalコンソーシアムにおいて主導的な役割を果たし、このような理想の実現に近づけるよう、世界各地の共通ルールの策定に向けた動きと調和させながら、地球環境に配慮した持続可能な社会を構築するために力を尽くしていく」との姿勢を見せた。

デジタル化を担う人材育成と学びの場としての「CEATEC」

 「人材育成」については、「デジタルトランスフォーメーションを担う次世代のデジタル人材を育てていくことは、年々重要性を増している。政府が推進するデジタル田園都市構想を実現するためには、デジタル技術を提供する企業のみならず、デジタル技術を活用する企業にもデジタルの教養や知見を持った人材が不可欠である」と指摘。

 「これからふるさとのインフラを担う人、教育を担う人、医療や福祉を担う人など、さまざまなプロフェッショナル分野を担う人たちが、デジタルの素養や思考を持つことが大切であり、それによって、社会のデジタル化が、より進展していくと考えている。意欲ある人がデジタルの素養や知識を習得することができるように、会員企業と協力して、多様なコンテンツや機会を提供していく」と述べた。

 その1つに位置付けたのが、JEITAが主催するSociety 5.0の総合展示会である「CEATEC」だ。

 「最新トレンドに触れ、デジタルを学ぶ機会として、CEATECをビジネスパーソンだけでなく、学生にも学びの場として活用してもらいたい。CEATECは、2016年以降、家電見本市からテクノロジーの総合展へと大きくシフトしており、新たなデジタル技術を生み出す企業から、デジタルを活用して新たなサービスを生み出す企業まで、幅広い企業が集う場となっている。同時に、未来に向けたビジョンやビジネスモデルが発信されることから、社会の変化や、未来の姿を想像するヒントに溢れている」と述べた。

 CEATECでは、東京医科歯科大学の学生が、授業の一環として会場を訪問した例もあり、主催者側でも学生向けのプログラムを用意してきた経緯がある。

 「デジタルの可能性や学びを深める場としてのCEATECの貢献の可能性は、ますます広がっている。出展企業の最新のテクノロジーが集い、新たなサービスやソリューションなどが披露される場は、最高の教育の場でもある」とする。

 また、「CEATECを活用した具体的な施策は、現在、検討しているところであるが、展示を見て、コンファレンスを聴いて、未来の社会を感じて、考えて、動き出すという『CEATEC体験』を、学生をはじめとする次世代を担う人たちに提供することを目指す。3年ぶりに幕張メッセで開催するCEATECに期待してほしい」と述べた。

 また、「東京モーターショーによるモビリティの世界と、CEATECによるIT・エレクトロニクスの世界は極めて近い関係にある。CEATECはあらゆる産業が集う場として進化しているが、デジタルをフル活用した未来社会の実現と、モビリティを起点にした未来社会の創造は、どこかでつながることになるだろう。CEATECのなかからもモビリティにつながるアイデアやユースケースを見せることができる」などと語った。

半導体の重要性が増加、半導体産業を担う人材育成にも注力

 一方、「半導体」については、「重要なテーマの1つである」と位置付け、「Society 5.0やカーボンニュートラルの実現に向けて、縁の下の力持ちとなるのが半導体である。デジタル社会において、半導体は国民生活にも多大な影響を及ぼし、日米首脳会談でも半導体が重要なテーマになるなど、国家安全保障の見地からも極めて重要である。

 日本における研究開発やサプライチェーンの強靭化に向けた政府への提言のほか、半導体ユーザー企業や製造装置、素材産業とも連携を図り、高等専門学校などにおける半導体関連カリキュラムの導入支援など、半導体産業を担う人材の育成にも力を入れる」とした。

 また、「半導体を巡って地政学的な問題が浮き彫りになっている。個社を超えて、国として捉えた議論が大切になる。日本としてあるべき形を構築することが重要である」と提言した。

 また、時田新会長は、JEITAが取り組んできたこれまでの変革の振り返り、「JEITAは、2016年から、業種や業界を超えて社会課題に向き合う課題解決型の業界団体への変革に取り組んできた。

 会員制度改革では、定款を変更し、正会員の対象を、IT・エレクトロニクス企業から、全業種へと拡大し、セコムやJTBの両社にも理事会社として参画してもらっている。スタートアップ企業にも入会してもらえるように、ベンチャー会員特例制度を新設するなど、業種を超えて企業が集う、新しい業界団体の形を作り上げた。

 これにより、これまでにない新しいテーマを議論することが可能になっている」とした。

 さらに、「共創においては、スマートホームにおけるデータの連携や、保安分野でのデジタル活用、産業および社会での5G活用など、業種を超えた共創の取り組みを推進してきた」と述べ、「広範な分野の企業が参画する特徴を生かし、多様なテーマのもとで異なる知見や技術を持った者同士が議論し、連携する場を提供することで、業種や業界を超えた課題解決や、新たな価値を共創していきたい」とした。

新体制のJEITAで、デジタル化の推進とリスクマネジメントを

 コロナ禍におけるロックダウンなどにより混乱しているサプライチェーンについては、「ロックダウンという中国の強力な施策が、世界に与える影響は大きかった。個々の製品の生産・出荷・販売だけでなく、人の動きにまで影響を与えた。ロックダウンの解除を受けて、早期のリカバリーを望んでおり、正常なモノの流れ、人の流れ、情報の流れが復活することを期待している。JEITA会員だけでなく、あらゆる産業と連携しながら、情報を共有していく必要があり、正常な流れを形成するための役割も担いたい。また、サプライチェーンの混乱で発生した弱点も補うための活動も行っていく必要があるだろう」と提言した。

 ニューノーマル時代におけるDXの進展については、「新型コロナウイルスの登場により、人々の暮らしや働き方など、社会全体が大きな変革を迫られてから2年の月日が経過した。在宅勤務をはじめとするデジタルのフル活用は、まさにニューノーマルとなり、社会に定着した一方で、リモートでは代替できない対面の価値を再認識することもできた。時に著しく、時に穏やかに、社会は日々変化をしていくなかで、社会で生きる組織は、こうした変化に適応し、自らをも変化させていくことが重要である」とし、「一部では、ビフォアーコロナの状況に戻る動きが出ている。

 だが、これがデジタル化を妨げる動きにはならないだろう。対面で行う方がよりよいバリューがもたらされる場面もあれば、リモートによって物理的な距離を超えて、情報伝達ができるというメリットも多くの人が体験した。

 それぞれのメリットを生かしていくことになる。JEITAでもこれらの情報を収集し、共有していく場として貢献していきたい」とした。

 また、「多くの企業が、厳しい環境のなかで知恵を出し合い、それから2年を経過したことで、自信がついたのではないだろうか。この動きを前向きに捉えて、次の未来社会に向けたステップを踏み出す段階にあるともいえる」と述べ、「パンデック期間中には、地政学リスクやサプライチェーンのリスクが発生し、ウクライナ情勢の問題も発生した。短期化のなかでさまざまなことが発生している。起きたことの影響を議論するだけでなく、こうしたことが起こりうるということを、リスクマネジメントの観点から、企業や団体が、枠を超え、国として考えるということに転換するポイントにもある。今回得たものは、教訓として捉えるべきである」と語った。

 なお、JEITA新体制においては、筆頭副会長にシャープ社長兼COOの野村勝明氏が就任。副会長には、日立製作所社長兼CEOの小島啓二氏、パナソニックホールディングス会長の津賀一宏氏、三菱電機社長兼CEOの漆間啓氏、NEC副会長の新野隆氏、ソニーグループ副会長の石塚茂樹氏、東芝取締役会議長の綱川智氏、横河電機会長の西島剛志氏、アルプスアルパイン社長兼CEOの栗山年弘氏、JTB会長の髙橋広行氏、セコム会長の中山泰男氏が就く。