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JEITA会長会見が初のオンライン開催、「ITリモート」に注目 ~産業と産業のつなぎ役としての活動を今後も加速させていく~

JEITA会長の石塚茂樹氏

 一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の石塚茂樹会長(ソニー代表執行役副会長)は、12月16日、オンラインで会見を行った。

 石塚会長は、「先行きの不透明感や、目に見えない不安が社会を覆っているが、経済成長と課題解決を両立する豊かな社会の実現に向けて、リアルとリモートをバランスよく融合させた取り組みを加速させなくてはならない。電子部品やデバイス、電子機器やITソリューションを中核として、他の製造業やサービス業など、あらゆる業種の企業が集う『Society 5.0の実現を支える業界団体』として、また、ニューノーマルを支えるデジタルトランスフォーメーションの担い手として、その責務を果たしたい」と述べた。

 JEITAの会長会見がオンラインで行われるのは今回が初めてとなった。

CEATEC、Inter BEEのオンライン開催に加え、働き方改革の実施も

 石塚会長は、2020年を振り返り、「人々の暮らしや働き方など、社会全体が大きな変革を迫られた1年となった。あらゆる場面でデジタル技術の活用が一気に進展し、劇的な変化が生まれている」と前置きし、「JEITAの事業活動も例外ではなく、CEATECおよびInter BEEは完全オンラインでの開催となった。新たな取り組みということもあり、ご迷惑をお掛けした点もあったが、多数の出展、参加を得て、様々な発見や学びのある、実りの多い機会となった。

CEATEC/Inter BEE

 また、ニューノーマル時代に適応する働き方改革にも取り組んでおり、JEITAスタジオの新設、10年ぶりのオフィス改装によるフリーアドレス化のほか、これまで対面が基本だった業界活動や、職員の働き方も リモートが主体となり、理事会をはじめとする数1000回の会議や講演会を、オンラインで実施し、職員のテレワークの推進、ペーパレス化の促進など、デジタル技術を活用した業務改革を進めている。現在、事務局職員の出勤率は3割を切っている。今後、ニューノーマルにおける経営基盤の改革として、本部事務所のエリア面積の半減と、デジタル対応設備導入のためのリノベーションを実施する」と語った。

本部事務所のエリア面積の半減とデジタル対応設備導入のためのリノベーション

 なお、CEATECおよびInter BEEは、現在もオンデマンド形式で一般公開しており、「ぜひ、引き続き活用してほしい」と呼びかけた。

電子情報産業世界生産額は前年比2%増の2兆9727億ドル

 今回の会見では、毎年発表している「電子情報産業の世界生産見通し」についても説明した。同調査は、世界の電子情報産業の生産規模を、データによって明らかにするとともに、世界における日系企業の位置づけを把握することを目的としたもので、会員各社を対象としたアンケート調査をベースに、国内外の関連企業や団体の協力を得てとりまとめている。

 これによると、2020年の電子情報産業の世界生産額は、前年比2%増の2兆9727億ドルとなり、2021年は同7%増の3兆1756億ドルに達すると予測した。

世界生産額は増加している

 「新型コロナウイルス感染症の拡大により、電子機器の需要は全体的に急減速したが、テレワークやオンライン授業の普及によるパソコンの生産の増加、データ通信量の急増を背景にしたデータセンター向け半導体需要の拡大、データ活用の高度化によるソリューションサービスの増加などが貢献した。また、2021年は、感染再拡大の懸念や先行きの不透明感はあるものの、ITリモートを、これまで以上に活用する動きが広がり、ソリューションサービスの需要が拡大すると予想されること、自動車需要の回復や環境対応の促進、5G端末の普及などにより、電子部品・デバイスの伸長が期待でき、初めて3兆ドルを超えて、過去最高の世界生産額を更新すると予測した」と語った。

 品目別では、ソリューションサービスが2020年に続き、2021年も過去最高の世界生産額を更新する見通しであり、「データ活用の高度化が下支えするとともに、感染拡大防止の観点から、デジタル活用が進展することが見込まれる。すでに、1兆ドルを超える市場規模になっており、デジタルトランスフォーメーションの加速により、さらなる成長が期待される」とした。

 また、電子部品および半導体も、2021年には過去最高の生産額を記録する見通しだ。

日系企業の世界生産額は前年比5%減の35兆1684億円、半導体とソリューションサービスで伸び悩み

 一方、日系企業の生産額についても触れた。

 海外生産分を含む日系企業の2020年の世界生産額は、前年比5%減の35兆1684億円とした。感染症対策によりテレワークや遠隔授業の導入で、パソコンやタブレットなどは増加したものの、自動車やスマホ向けの需要が減少。電子部品・デバイスなどの生産額が減少したことが要因だという。そのうち、国内生産額は、前年比5%減の9兆7896億円と、こちらもマイナス成長を見込んでいる。

国内生産額は減少した

 「世界生産額が伸長しているのに対して、国内生産額が減少しているのは、半導体とソリューションサービスが、日本で伸び悩んでいることが背景にある。半導体は国内向け需要の減少が響いており、工場の自動化への投資が、新型コロナで先送りになったり、自動車向けの生産が上期に停滞したことが影響している。ソリューションサービスでも、日系企業は8割が国内需要であり、新型コロナでIT投資の先送りや見直しが影響している」と分析した。

2021年はIoT機器やソリューションサービスの需要拡大でプラス成長が見込まれる

 だが、2021年は国内生産額もプラス成長を見込んでおり、2021年の日系企業の世界生産額は、前年比3%増の36兆2877億円、国内生産額は4%増の10兆1453億円とした。

 「今後は、密と接を軽減するため、あらゆる場面でリモート技術の導入が進むことで、IoT機器やソリューションサービスの需要拡大が見込まれる。さらに、電子部品・デバイスも、5GやEV化などで、日系企業の高性能部品に対するニーズが高まる」とする一方、「データ社会に移行するなかで、モノのサービス化の流れがより一層加速し、ソリューションサービスが大きく伸長すると見ている。日系企業は、その核となるソフトウェア開発の強化に加えて、スタートアップや業種を超えた連携などによるオープンイノベーションを進めることが必要であり、業界として力を入れていく」と述べた。

今後の電子情報産業の成長を牽引する「ITリモート」医療や教育、エンターテイメント、スポーツ分野にも波及

 今回の会見では、「注目分野に関する動向調査」についても発表した。

 これも毎年調査を実施しているものであり、今年は「ITリモート」の動向について調査をしている。

 「今後の電子情報産業の成長を牽引すると期待されているのが、ITリモートである。働き方改革を促すテレワークでは、在宅勤務に限らず、場所を選ばない働き方が一層広がることが予想されるほか、医療や教育、エンターテイメント、スポーツといった、これまでは対面でしかできなかったものにもリモートの選択肢が加わり、さらに便利に、豊かに暮らせる社会につながっていくことになる」とする。

ITリモートと電子情報産業

 今回の調査では、ITリモートを、「ネットワークを通じて離れた場所にいる人と人、またはモノをつなげてコミュニケーションを実現するための技術」と定義。市場動向を予測した。

 これによると、ITリモート市場の世界需要額は、年平均14.8%増で成長し、2030年には228兆3000億円となり、2020年の約4倍に拡大するという。日本国内も同様の動きをみせ、年率15.2%増で伸長し、2030年には12兆8000億円と、同様に約4倍の市場規模に成長する。さらに、世界の通信量も増加。新型コロナウイルスを背景としたITリモートの活用が増加することで、3万エクサバイトへの到達が2年早まると予測しており、2028年にはこれを突破。2030年には6万エクサバイト近くになると予測した。このうち約半数が、ITリモートに使用される機器やソリューションサービスによるものだという。

 また、ITリモートの利活用分野としては、「インダストリ」、「流通・物流」、「テレワーク」、「エンタメ・スポーツ」が多く、「スマートファクトリーを実現するロボットをはじめ、工場や倉庫の自動化を支えるソリューションが市場をけん引する一方、『エンタメ・スポーツ』、『医療介護』、『教育』の成長率がとくに高い。規制改革や人材育成が進むことで市場拡大が見込まれる」としたほか、「テレワークやウェブ会議、遠隔医療、オンライン教育、遠隔操作、映像配信など、民生用途や産業用途を問わずに、オフィス、病院、学校、スタジアムなど、様々な場面でITリモートの活用は広がっていく。今後も、新たなサービスが生まれ、普及していくことが予想される」とした。

ITリモートで実現する未来

「5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアム」を発足業界や業種を超えた競争を推進

 さらに、ITリモート活用の基盤となる「5G」および「ローカル5G」については、「5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアム」を発足したことに触れた。高度情報通信インフラを活用したデジタルトランスフォーメーションの実現を目指すもので、JEITAが業界横断型組織の事務局を務めるのは初めてだという。

 「2020年9月に発足した5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアムは、ITエレクトロニクスや機械メーカー だけでなく、建設業や小売業、さらには自治体など、180社/団体が参画しており、ビジネスやユーザーの視点から、デジタルトランスフォーメーションの実現に向けて、5Gのユースケースの社会浸透や、ビジネス領域の拡大、研究開発の促進など、業界や業種を超えた共創を推進している」と述べた。

海外の産業と連携し、保護主義の拡大阻止と越境データ流通の自由化を目指す

 一方、2020年度の活動成果についても紹介した。

 地方自治体による技術活用支援事業に初めて参画し、埼玉県オープンイノベーション支援事業のプロジェクトマネジメントを担う取り組みを開始したほか、新たなイノベーションや付加価値を生み出し、国際社会でリーダーシップを取っていくために、日本の企業の国際競争力向上に資するデジタル化対応に向けた政府への税制要望、海外の産業界と連携することで、保護主義の拡大阻止と越境データ流通の自由化を目指す活動にも取り組んだという。

 「税制については、JEITAが要望してきた研究開発税制のなかで、あらゆる産業のデジタルトランスフォーメーションの中核となるソフトウェア開発を後押しすることが、2021 年度与党税制改正大綱に盛り込まれた」と活動成果に触れたほか、「1年前には予想できないほど地政学的リスクが高まっている。IT・エレクトロニクス業界はグローバルに事業を展開しており、自由貿易の推進、予見性の高い貿易ルールが望ましいと考えている。半導体を含む先端技術の輸出管理については動向を注視しており、日本政府には、国際的な議論や新たな枠組みについても積極的な活動を期待している。米国側からは、輸出管理ルールに対する厳格化が進んでおり、その影響で追加的な許可申請に関するコストやリードタイムの長期化といった影響が出ている。中国も新たに輸出管理法が制定すると聞いており、実務的な混乱が発生することが想定される。政府には、会員企業が法令順守を行えるように先見性のある運用の明確化を働きかけてほしい」と述べた。

「デジタル化は手段であって目的ではない」カーボンニュートラル税制やDX税制の活用も促す

 さらに、「デジタル庁に対しては、行政のデジタル化だけでなく、行政が保有するデータを活用することによって、民間のデジタルトランスフォーメーションを促す司令塔としての役割を期待している。また、2050年のカーボンニュートラルについては、各産業や機器ごとの省エネやCO2削減策を積み上げるだけではなく、ITリモートの活用など、デジタルを活用して、全体最適を促すことが鍵になると考えており、新たに創設されるカーボンニュートラル税制やDX税制の活用も促していきたい」と発言。

 「行政のデジタル化においては、便利で、ユーザーフレンドリーな仕組みを実現して欲しいと要望した。デジタル化は手段であって目的ではない。マイナンバーカードを含めて、国民や企業にとってメリットがあるものでないといけない。また、企業のデジタル化には差が生まれており、出勤率が2~3割という企業もあれば、100%出社している企業もある。デジタル化、リモート化の推進においては、ソフトウェア開発が重要になる。税制改正では、クラウドベースのソリューション開発も盛り込まれ、予算規模だけでなく、こうした機運がトリガーとなって、クラウド化を考えたり、サイバーセキュリティ対策が進み、社会全体として、インフラ活用が進むきっかけになったりすることを期待している」とした。

 また、カーボンニュートラルについては、「製造に伴うCO2排出量を削減し、自然エネルギーの調達や、コスト削減に取り組む必要がある。日本に立地している企業は、エネルギーの調達面や、コストが割高である点がハンデキャップになっている。行政を含めて改善をお願いしたい。また、エネルギー効率を高めることも重要になる。デジタルトランスフォーメーションを進めたり、AIを活用したりすることで、テクノロジーを活用した効率的なエネルギー利用の促進も鍵になる」と語った。

JEITAは、産業と産業のつなぎ役としての活動を今後も加速させていく

 石塚会長は、「JEITAは、産業と産業のつなぎ役としての活動を重点施策としており、今後も加速させていく。また、ITリモートをはじめとして、あらゆる分野でデジタルトランスフォーメーションが進むことから、JEITAはますます重要な役割を担うことになる。もはや、デジタル化に無縁の業界はなく、むしろ、必須要件であり、何のためにどのようにしてデジタルを活用していくかということが、重要な課題となっている。JEITAは、業種や業界の枠を超え、Society 5.0の実現に向けたルール策定や標準化など、課題解決に挑む団体となっており、事業環境整備にも幅広く取り組んでいる。新型コロナウイルス感染症による社会経済の先行きは、まだ明確には見通せないが、より強靭で、柔軟な社会の構築や、世界に先駆けたSociety 5.0の実現を目指し、日本の社会経済、地球の未来のために、JEITAは全力を尽くしていく」と語った。