インタビュー

CEATECが挑戦する「Withコロナ時代の展示会」はどんな展示会なのか? 秋のオンライン開催で目指すものとは?

エグゼクティブプロデューサー 鹿野 清氏インタビュー

 世界最大級のCPS/IoT Exhibitionである「CEATEC」が、今年は、幕張メッセでの開催を中止し、オンラインイベント「CEATEC 2020 ONLINE」として、2020年10月20日~23日に開催される。

 今年のCEATECは、これまでの20年間にわたる総合展示会とは異なる、新たな取り組みと位置づけ、「ニューノーマル」と呼ばれる新たな社会や暮らしを考え、ともに歩み、共創を実現するためのイベントとして、オンラインならではの特徴を生かした内容を目指す。果たして、「CEATEC 2020 ONLINE」はどんなイベントになるのか。

 CEATEC実施協議会 エグゼクティブプロデューサーの鹿野清氏に聞いた。

「オンラインだからこそできるCEATEC」を目指して内部検討は2月から……

CEATEC実施協議会 エグゼクティブプロデューサー 鹿野 清氏

――今年のCEATECは、「CEATEC 2020 ONLINE」としてオンラインで開催されることになりました。

[鹿野氏]新型コロナウイルス感染症が、全世界に広がりをみせ、日本国内においても予断を許さない日々が続いています。このような状況を鑑み、来場者や出展者、そして、CEATECに関わるすべての人たちの安全を最優先に考慮した結果、CEATEC 2020は通常開催を見送るという決定に至りました。

――1月29日には、例年通り、千葉県千葉市の幕張メッセで開催することで、出展者向け説明会を開催し、2月12日から出展募集を開始していました。オンライン開催への移行を決定したのはいつですか。

[鹿野氏]CEATEC運営事務局では、2月25日に政府から発表された「新型コロナウイルス感染症対策」の基本方針に基づいて、職員および関係者の感染防止のため、原則在宅勤務としました。多くの企業においても、同様に、在宅勤務が広がり、いつまでこの困難が続くのかといった先行きの不透明感が生まれていました。展示会への出展についても、なかなか判断がつかないという状況にあったわけです。

1月に「CEATEC 2020」(オンラインでない)を発表した際のフロアプラン

 幕張メッセを会場としたCEATEC 2020は、2月12日から出展募集を開始していましたが、4月3日には、優先申し込み締め切りを4月24日から5月29日に延期し、それにあわせて、出展の取り消しおよび小間の削減に伴う解約金の発生日も、4月25日から5月30日へと延期しました。

 延期の発表を行った4月3日の時点では、10月の開催ということもあり、夏には終息するとの観測もあるなかで、幕張メッセでの開催を予定していたわけですが、2月にスペイン・バルセロナで開催予定だったMWC(モバイルワールネドコングレス)が中止になり、3月に米オースティンで開催予定のSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)が中止になるといった動きもあり、同じグローバル規模の展示会であるCEATECも、様々な可能性を検討しはじめていたところでした。

 しかし、その後も状況はますます悪化し、東京オリンピック/パラリンピックの延期や緊急事態宣言の発令のほか、夏以降も第2波、第3波が訪れるといった懸念もあり、三密が懸念されるフィジカルな展示会は、秋以降も開催が難しいということを、主催者団体である一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)、一般社団法人情報通信ネットワーク産業協会、一般社団法人コンピュータソフトウェア協会が判断し、幕張メッセでの開催中止を決定しました。

 ただ、2月の時点から、オンラインで開催することを視野に入れた内部の検討を開始していましたから、5月25日に、オンラインでの開催決定を正式に発表した時点で、実は、大半の構想はまとまっていました。それをブラッシュアップして、5月にお約束した通り、6月30日には、開催概要をまとめて、みなさんに発表することができました。

 正直なことをいえば、私自身、最後の最後まで、できればフィジカルでやりたいと考えていたのですが、オンラインでやると決めてしまえば、そこでなにができるのかといったことに邁進するだけです。もちろん、これまでの経験則は一切通用しないですから(笑)、頭を悩ませる日々の連続でしたが、むしろ、この機会はチャンスであると前向きに捉えて、オンラインだからこそできるCEATECはなにかということを考えてきました。

「まったく新しいCEATECを構築できるチャンスが来た」時差や場所の壁を越えた「共創の場」を

――CEATECが家電見本市から脱却し、共創をテーマにしたCPS/IoTの展示会にシフトしてから、ちょうど5年の節目を迎えるのが、今回のCEATEC 2020 ONLINEになります。オンラインだからこそできるCEATECとはなんでしょうか。

[鹿野氏]CEATECは、ここ数年、これまでの展示会の殻を破りたいということを考えていました。「脱・家電見本市」の次は、「脱・展示会」が目標だったわけです(笑)

 では、脱展示会とはなにか。

 ひとつは、「展示会」というリアルの展示会からの脱却です。これまでのCEATECは、4日間という限られた会期中だけで展示やコンファレンスを行い、そこに人が集まって、それで終わりというものでした。4日間以外は、CEATECという切り口からのコミュニケーションは、まったくありません。CEATECは共創の場ですから、4日間だけで終わる展示会の形はそぐわないともいえます。年間を通じて、なんとか共創の場を提供できないか、CEATECとしてコミュニケーションを取れないかということは、我々がずっと考えていたテーマでした。

主催者企画展示のSociety 5.0 TOWN
ANAのアバターロボットは他社ブースなどへの移動が可能だった

 昨年のCEATECでは、主催者企画展示のSociety 5.0 TOWNにおいて、出展企業が半年前から集まり、お互いに情報交換をして、各社がどんなものを出展するのかを知り、そこでお互いに共創できるものがあれば、一緒に展示を行うといったことを実施しました。

 ANAのアバターロボットが他社のブースに移動して、それを通じて、他社製品の説明を聞けるというのがその一例です。展示内容を他社が事前に知るということは、これまでの展示会ではなかったことですが、共創の場であるCEATECでは、このように、これまでの展示会での常識が当てはまらないことがはじまっていました。

 今年も、このままの展示会の姿でいいのか、脱・展示会に対してどう取り組むかといったことを考えながらも、まずは、目の前にある幕張メッセでの展示会をどうするかということに取り組んでいたわけです。これがオンラインになることで、まったく違った形でCEATECを再構築できるチャンスが来たといえます。

 もうひとつは、グローバル展開の課題です。CEATECは、ここ数年、海外からの出展者や海外からの来場者を増やすことに力を注ぎ、その成果は少しずつ出ていますが、欧米やアジアのトップ企業の出展が少ないこと、海外からの来場者比率が少ないことには変わりがありませんでした。

 しかし、オンラインであれば、日本に来なくても来場できますし、時間にとらわれず、いつでも参加できますから、時差という壁も乗り越えることができます。出展するのにもわざわざ日本に来る必要がありません。どこからでも、いつでも参加できるのがオンラインのメリットです。いままでの課題を、オンラインを活用することで一気に解決できるのではないか。そんなチャンスがあると考えています。

「リアルとつなげる良さ」がカギリアルタイムチャットやライブ配信を強化、ショウルームやオフィスからの配信もアリ?

――CEATEC 2020 ONLINEの説明会では、「オンライン『でも』できることと、オンライン『だから』できることを兼ね備えたものになる」と表現していました。

[鹿野氏]CEATEC 2020 ONLINEの特徴のひとつが、リアルタイムコミュニケーションです。

 これまでのCEATECでは、事前に登録された来場者情報と、会場で読み取ったQRコードとの組み合わせで、1日が終わったあとや、会期が終了したあとに分析をして、その後、対応するといった使い方しかできませんでしたが、今回は、来場者の情報がリアルタイムでわかり、ライブ配信やリアルタイムチャット機能の実装により、リアルタイムにコミュニケーションを図ることができます。実際のオフィスやショールームと結んで、製品やテクノロジーを見せながら、リアルタイムにコミュニケーションを行うといったこともできます。

 オンラインでありながら、リアルとつなげる良さを生かしたいと思っています。来場者のデータを使って、様々な分析が、リアルタイムにできる展示会になりますから、出展企業にとっては、これまでにない付加価値を享受できるといえます。

ニューノーマル社会と共に歩むCEATECつながる社会、共創する未来

――一方で、2016年から使っている開催テーマの「つながる社会、共創する未来」は、今回、オンラインの開催になっても変えませんでしたね。

[鹿野氏]「CPS/IoT Exhibition」であること、「Society 5.0の総合展」であることは、オンラインになっても変わりません。

 2016年に、脱・家電見本市を打ち出し、そこから5回目の節目となる今回のCEATECが、オンラインになったことで「内容が再び大きく変わるのではないか」と捉える方が多いのですが、そこは誤解があります。ツールとしてはオンラインを活用し、それによって、これまでにはなかった新たな展示会に挑戦をすることになりますが、「つながる社会、共創する未来」というテーマは変えません。それは変える必要がないからです。

――その一方で、新たなスローガンに、「CEATEC - Toward Society 5.0 with the New Normal(ニューノーマル社会と共に歩む CEATEC)」を掲げました。

[鹿野氏]在宅勤務やリモートワークという言葉が浸透し、実際にそれを行っている人も増えていますが、その結果、これからの働き方はどうなるのか、私たちの生活がどうなるのかといったことは、まだ明確になっていません。

 今回のCEATEC 2020 ONLINEでは、ニューノーマル時代の生活や社会はどうなるのかといったことを、具体的な形として、また、意味のある形でお見せしたいと思っています。

 そのためには、医療や金融、自動車、住宅、教育、食品、小売、エンターテインメントなど、様々な業種の方々にCEATECに参加をしていただき、これからなにが起こるのかということを、知ってほしい、見てほしいと考えています。そこで、「ニューノーマル社会と共に歩む CEATEC」という新たなスローガンを掲げました。Society 5.0によって実現する2030年の豊かな暮らしという未来を目指すことには変わりはありませんが、新型コロナウイルス感染症の影響によって、それを支える社会構造が変わり、目指すための土台が変化しました。新たな社会基盤の上で、2030年の豊かな未来を目指すことになります。昨年までとは違う環境のなかで目指すSociety 5.0の社会をお見せすることができる展示会にしたいと考えています。

――そのためには、これまで以上に、IT/エレクトロニクス業界以外からの参加を募りたいですね。

[鹿野氏]すべての企業が、ニューノーマル社会において、なにをすべきかを模索する段階に入っています。CEATEC 2020 ONLINEは、それを語れる場、発信できる場にしたいと思っています。そこにCEATECが果たす役割があります。

 各産業における次世代のフロントランナーに出展をしていただき、ニユーノーマル社会にアクセスするきっかけをつくっていただきたいですね。CEATECの主催団体のひとつである一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、定款を変更し、会員の対象分野を、「電子情報技術産業」から「電子機器産業、電子部品産業、ITソリューションサービス産業およびこれらの技術を利活用して新たな付加価値を創出、拡大するすべての産業」としました。

 昨年度からセコムとJTBが副会長会社となっています。業界の枠を超えた展示会として、ニューノーマル社会、そしてSociety 5.0による未来を発信したいと考えています。

「Anytime」と「Anywhere」「行く」展示会から「来る」展示会へ

――説明会では、「これまでのCEATECは、来場者が足を運ぶものだったが、今回は皆さんのもとにCEATECが行くことになる」という表現を用いていましたね。

[鹿野氏]CEATECのために、地方から幕張メッセまで来ることができる来場者は限られていたともいえます。しかし、オンラインであれば、北海道から沖縄まで、全国から多くの人が移動することなく、来場することができます。

 ちょっと見てみたいと思っていただいた人も、自宅からでも、会社からでもすぐに参加できます。しかも、コンテンツは夜中でも見ることができますし、12月末まではアーカイブを見ることができます。

 CEATEC 2020 ONLINEでは、「New Normal(Society 5.0 の実現と共に新たな社会への提案)」、「Digital Transformation(オンライン開催ならではの DX 実現の提案)」、「Anytime&Anywhere(いつでも、どこからでも参加できる新たな枠組みの提案)」という3つのコンセプトを掲げていますが、そのなかの「Anytime&Anywhere」という言葉に込めた通り、いつでも、どこからでも、どこでも参加できる新たな枠組みを提案します。

 幕張メッセに来ていただかなくても、みなさんのすぐ近くにまでCEATECが行きますから、そこにアクセスしていただければ、すぐに参加できます。

学生にとっては好都合!時間無制限で何度でも学習可能

――ここ数年、授業の一環として、CEATECを利用している学校がありますが。

昨年のCEATECでは「学生交流ラウンジ」が用意された

[鹿野氏]CEATECは「政策」「産業」「次世代」「海外」という4つの観点で共創を促すことを目指していますが、これは今年も変わりません。なかでも、次世代という点で、未来を担う学生たちが学べる場として、CEATECを活用してもらう仕組みは、オンラインでも用意したいと考えています。

 これまでは、授業時間しか見学できないため、幕張メッセでの見学には時間的な制限があったりしましたが、オンライン化することで、そうした制限はなくなりますし、オンデマンドを利用すれば、何度でも学習することができます。学生が学ぶ場として、CEATECを利用する上では、オンラインはとても相性が良いと思っています。

展示エリアは3つ、コンファレンスエリアも「ぜひ期待してほしい」

――現時点で決定しているCEATEC 2020 ONLINEの内容を教えてください。

[鹿野氏]事前に登録をしていただくと、公式WEBサイトからログインが可能になります。登録開始は9月を予定しており、無料で参加できます。

 アクセスをすると、エントランスページがあり、来場者は、そこから、「ニューノーマルエリア」、「企業エリア」、「Co-Creation PARK」に行くことができます。

【エントランスページ】


ニューノーマルエリア

 「ニューノーマルエリア」は、新たな暮らし(ニューノーマル)をキーワードに、持続的かつ豊かな暮らしを実現するための新たなソリューションやテクノロジー、サービスを紹介するエリアです。

 このなかには、医療やヘルスケア、教育、食、エンターテインメント、働き方、流通/小売りなどのテーマで構成する「ニューノーマルソリューションズ」、CPSを形成する非接触/遠隔コミュニケーション、ビッグデータ、デジタルツイン、デバイス&テクノロジーなどをテーマにした「ニューノーマル社会を支える要素技術・デバイス」、地域が持つ課題に対して解決に資するソリュ―ションを持つ企業や自治体などが参加し、サスティナブルなまちづくりソリューションを提案する「デジタルまちづくり」の3つのカテゴリーを用意し、テーマごとに複数の出展者でエリアを構成することになります。

【ニューノーマルエリア】



企業エリア

 また、「企業エリア」は、ニューノーマルおよびその先のSociety 5.0 の実現を見据えた製品やソリューション、テクノロジーなどを、企業ごとに紹介するエリアです。IT/エレクトロニクス産業をはじめ、モビリティ、工作機械、運輸、住宅、建設、金融、観光、エネルギー、サービスなどのテクノロジーを活用するあらゆる産業や業種の企業の出展を予定しています。

 ここでもオンラインのメリットを活用したいと思っています。

 たとえば、企業エリアに出展していながらも、医療分野のソリューションがあれば、ニューノーマルソリューションズのエリアとリンクするといったことが可能になります。幕張メッセでは、テーマごとに会場が離れていると、それぞれ2か所に別々の展示ブースを設けなくてはならなかったわけですが、オンラインではすぐにリンクを張ることができます。このように、オンラインならではの出展方法や、それによって生まれるベネフィットというものを、出展予定者に向けて、もっと訴求したいですね。



Co-Creation PARK

 そして、「Co-Creation PARK」は、2011年10月以降に設立したスタートアップ企業や、研究成果の社会実装を目指す大学、教育機関などを対象とした「スタートアップ&ユニバーシティゾーン」と、海外諸機関による「グローバルエリア」で構成します。

 国境がなく、時差もないというオンラインの特徴を生かして海外企業の出展を増やしたいと思っています。そして、海外スタートアップ企業の出展を増やす上では、JETROと連携もしていきます。



コンファレンスエリア

 このほかにも、「コンファレンスエリア」を用意して、国内外のキーノートのライブ配信をはじめ、ニューノーマルをテーマとしたコンファレンスなどを企画しています。コンファレンスのプログラム内容の詳細については、8月末から9月上旬に発表しますが、初日のオープニングスピーチや、基調講演にどんなスピーカーが登場するのかといった点には、ぜひ期待をしてください。来日が難しいというスピーカーにも、今回の仕組みであればアプローチできます。ここでもオンラインならではのメリットを生かしたいですね。

 また、日本経済新聞社が主催するコンファレンス「AI/SUM & TRAN/SUM」とも連携します。どんな連携ができるかということを模索しているところです。

 そして、「公式イベントエリア」も用意します。この詳細についても、後日公開します。いろいろなことを考えていますので、楽しみにしていてください。

ふらっと立ち寄ってみたり、寄り道して何か発見したり……「CEATEC体験」がさらに進化

――これまでのCEATECでは、展示会全体を通じて、「視て」「聴いて」「感じて」「考える」という「CEATEC体験」を提案してきました。オンラインになって、それはどう変わりますか。

[鹿野氏]オンラインによって、「CEATEC体験」をより進化させたいと考えています。会場内の物理的な移動がなくなりますから、展示エリア、コンファレンスエリアを自由に移動して、CEATEC体験をしていただきたいですね。

 エントランスページでは、特定の企業のブースを目的に訪れる人、テーマを持って来場する人、あるいはちょっと見てみたという人もいるでしょう。それぞれの来場者が、エントランスから会場のなかに入りやすい構成を目指します。

 「ニューノーマルエリア」、「企業エリア」、「Co-Creation PARK」の3つのエリアごとに、どんな出展者があるのかをわかりやすく表示したり、リアルタイムで開催されているイベントやコンファレンスを紹介したり、話題となっているテーマを紹介したりといったことも行います。

 eコマースをはじめとしたサイトづくりでは、階層を増やさず、目的のところに一気にたどり着く仕組みが一般的ですが、CEATEC 2020 ONLINEでは、それを実現する一方で、あえて階層を増やして、そこでなにかを発見をしたり、興味を持ってもらったりといったことも考えたいですね。展示会場でふらっと立ち寄ってみたり、寄り道して、なにかを発見したりというようなリアルの会場と同じ状況を作りたいからです。

 また、来場者が目的にあわせて、企業エリアやニューノーマルエリアのどこを回ったらいいのか、どのコンファレンスに参加したらいいのかを示すことも必要だと思っています。そんな仕掛けも用意したいですね。

 これらの取り組みによって、単なる企業のホームページの集合体ではないという要素を作ることができます。

 また、先ほども触れましたが、ライブ配信やリアルタイムチャット機能によって、来場者とリアルタイムでコミュニケーションを図ることができ、実際のオフィスやショールームと結んだ体験や、商談を行うこともできます。オンラインを通じて、リアルの場とつなげながら、製品や技術の体験ができるというのも、新たなCEATEC体験のひとつだといえます。

 これまでのCEATECでは、10月の開催ということで、年末商戦には間に合わないという声もありましたが、ニューノーマル時代の取り組みに向けた2021年度予算の編成には十分間に合うタイミングです。

 むしろ、ニューノーマル社会での新たな活動を開始するという点では、今回の10月開催というタイミングを生かすことができると考えています。

「今年は、平時ではできないことができる」オンライン開催への挑戦が、将来の展示会を作っていく………

――説明会では、一部の企画はリアルでやりたいとも言及していましたが。

[鹿野氏]これは、今後の新型コロナウイルスの動き次第だといえますが、Society 5.0やニューノーマル社会を考えるといったテーマのなかで、リアルでできるものを考えたいですね。また、毎年行っている「CEATEC AWARD」も、大臣賞は、できれば大臣から直接手渡してほしいですし、業界の代表者やメディアの方々にも、優秀な製品や技術は、直接見てほしいという思いがあります。

 また、オンライン開催を中心に考えていると、オンラインに代替するのが難しい部分もクリアになっています。なにがベストな選択肢なのかということも検討したいですね。

 今年は、平時ではできないことが、できる状況にあります。オンラインに振り切った挑戦ができるのは今年だけです。思い切って、オンラインに振り切った結果、2021年度以降に、リアルの展示会とどう組み合わせるべきかを知ることができます。ですから、この挑戦は、今年だけの取り組みではなく、2021年以降のCEATECはどうなるのかといったことにつながるものだと思っています。CEATECの深みをどう追求するのか、一方で、CEATECの幅をどう広げていくのかといったことを、先を見据えた上で、オンライン開催に挑戦することが、新たな展示会の姿につながると思っています。

出展のハードルは低下「予算が無い」「場所が遠い」「人が送れない」でも出展しやすく

――出展企業のページはどんな構成になりますか。

[鹿野氏]ひとつは、私たちから「枠」のようなものを用意して、そこに静止画や動画などのコンテンツをはめこんでもらう構成としています。

 展示は、プレミアム、スタンダード、ベーシックの3つのプランを用意していますが、このうち、プレミアム、スタンダードは、企業のオフィスやショールームと結んだリアルでのコミュニケーションが可能になります。

 出展者に対しては、「出展者専用コンソール」と呼ぶツールを、8月に提供する予定です。これを活用することで、ページを構成できるようになります。

 また、コンテンツを独自で作る力がないという出展者のために、オフィシャルベンダーによる各種メニューをオプションで提供します。たとえば、動画を作れないという場合にも、それを得意とする企業のサポートを受けることができます。

 もうひとつは、各社が自由に作れるページも用意しています。これは各社が特徴を生かしながら作りこんでいくものになりますから、私たちも、どんなものが用意されるのか、いまから楽しみです。

 これまでは、CEATECでは、主催者が出展者に場所を提供したあとに、出展者は、その上になにを作るのかということを、時間と費用をかけて考えなくてはなりませんでした。

 外観や内装はどんなデザインにするのか、製品や技術はなにを展示するのか、説明員はどう配置するのかといったことも考え、それに対して、場所代の何倍にもなるような費用をかけていたわけです。しかし、オンラインであればそこまでの費用はかかりません。

 出展の総経費が低くなるため、予算がないとか、場所が遠いとか、人が送れないといった企業も、オンラインだからこそ出展できるという可能性もあります。とくに、海外のスタートアップ企業は、出展料はそれほどの負担ではないが、人を割くことやそのための渡航費用や宿泊費用の負担が重かったという声が出ていました。そうした課題も解決できます。

展示会場での準備の様子(2018年)。リアル会場では、外観や内装、説明員の配置などにも大きな手間がかかる

 3日間でブースを作り上げて、外観ができてから、製品や技術を展示して、4日間の会期が終了したら壊してしまうというのではなく、「出展者専用コンソール」を活用することで、できたものからどんどんはめ込んでいくことができますし、場合によっては、会期中の反応を見ながら、展示内容を変えていくということもできます。幕張メッセの会場の場合には、会期初日が終わって、夜中にブースを壊して、翌日にまったく違うテーマで展示をするなんてことはできませんでしたが、オンラインであればそんな展示も可能となるのです。

 会期中の出展者のコンテンツは、一斉に見ることができますから、その良しあしが、企業の評価につながります。出展者にはコンテンツづくりにぜひ力を注いでほしいですね。それによって、CEATECで新たな製品や技術を紹介し、大いに発信してもらいたいですね。

主催者もフロントランナー「IT、エレクトロニクス、ソフトウェアの業界団体が主催するに相応しいオンラインイベントを目指す」

――今回のCEATEC 2020 ONLINEの仕組みは、新たに開発したものなのですか。

[鹿野氏]登録の仕組みやログインした来場者がどこを回ったのかといつたログを収集する仕組みは、これまでのフィジカルな展示会で利用していたものがベースになっています。一方で、展示ブースにおける説明員とのチャットなど、リアルタイムコミュニケーションを行う仕組みは、ベンダーに企画内容やスペック、仕様書を提示し、共同開発を行っています。

 課題のひとつが、どれだけの人が来場するのかということですが、ここは大手クラウドプロバイダーとの連携によって、リアルタイムでキャパシティを増やすといったことができるようにしたり、なにかしらの理由でトラブルが発生して、画面が固まったり、真っ黒になってしまった場合でも、最低限のところで動作ができるものを用意する予定です。

 ここ数年、スマホでの入場登録をできるようにするなど、スマホの利用を促進してきましたが、CEATEC 2020 ONLINEでは、PCでの来場者が多いという前提で設計をしています。もちろん、スマホ向けのデザインも用意しており、スマホからも参加することは可能です。

 そして、ここで使用したツールは、出展者も、来場者も、来年以降にも使用できるというメリットがあります。

――なぜ、自らシステムを開発する道を選んだのですか。

[鹿野氏]来場者数が14万人以上、出展者数が700社以上という規模の展示会を、オンラインだけで開催するのは、日本のみならず世界でもCEATEC 2020 ONLINEが初めてになるかと思います。

 オンラインのシステムを活用するのは今年だけではありませんし、来年、「フィジカルとオンラインのハイブリッド」で開催したとしても、このシステムは活用できます。2月ぐらいからオンラインということを視野に入れてきましたから、10月の開催であれば、時間的な観点からも、何とか共同開発でシステムを構築できるとの判断も働きました。

 そして、CEATEC 2020 ONLINEは、Society 5.0の展示会であり、その点でも、自分たちで作っていくという選択肢が最適だと考えた点も大きな要素です。仕組みを作りこんでいくことで、CEATEC体験を高めることができると考えています。

 ただ、初めての挑戦ですから、多くの不安があるのは事実です。

 CEATECの主催者は、これまでは「場所を用意すること」が役割であり、出展者がフロントランナーの位置づけでしたが、今年は、私たちもフロントランナーとして、新たな展示会のためのインフラを用意しなくてはなりません。CEATECが、出展者に向けて使っていた「フロントランナー」という言葉が、今年は私たちを示す言葉として返ってきました。

 日本における大規模オンラインイベントの「ファーストペンギン」の役割を果たしたいと思っています。

――いまの不安度はどれくらいですか(笑)

[鹿野氏]不安度は50%以上です(笑)。なにが起こるかわかりませんし、経験則がどれだけ生かせるのかがわかりません。もしかしたら、盛大に失敗する部分があるかもしれません。ただ、なにか想定外のことが起こったとき、迅速に対応し、前向きに対処し、次につなげていくための準備や対策はしっかりとしていきたいですね。

 幕張メッセでは、展示会を成功させるために、搬入のプロや設営のプロ、警備のプロ、運営や管理のプロが、主催者としっかりタッグを組んで、展示会を成功させてきましたが、オンラインでは、新たなパートナーと組んで、新たな展示会に挑戦することになります。

 そして、主催者と出展者が、これまで以上に共創しないといいものが出来あがらないとも言えます。

 IT、エレクトロニクス、ソフトウェアの業界団体が主催する展示会として、相応しいオンラインイベントを目指します。

限られた時間のなかで満足してもらえるかが、大切な指標

――CEATEC 2019は、14万4491人が来場し、787社/団体が出展しました。CEATEC 2020 ONLINEはこれを超えることになりそうですか。

[鹿野氏]それはわかりませんが、想像以上に来場者数が増えるのではないかという期待はあります。

 ただ、その一方で、これまでの展示会と、単純に比較することは正しくないとも思っています。つまり、新たな展示会には、新たなKPIが必要だといえます。たとえば、オンラインイベントでは、事前登録者数も大切な指標ですが、登録者のうち、どれくらいの人が実際にログインをしてくれたのかということは重要な指標のひとつになると思っています。また、昨年のCEATECでは、半日以上をかけてじっくりと見る人が62%に達し、それが重要な成果のひとつとなっていましたが、オンライン開催になると、PCの前に5時間以上もいることは考えにくいですよね。1時間や2時間という限られた時間のなかで、いかに満足してもらえるかが、大切な指標になってきます。

 その点では、CEATECが、展示会の新たなKPIを作っていくことになると思っています。

 14万人という来場者数よりも、どれだけ回遊してくれたのか、共創や商談の成果はどれぐらいあったのか、訪れた人の満足度はどれぐらいだったのか。こうしたことを指標として評価していきたいと思っています。

「オンラインであれば出展できる」の声

――6月30日に行った出展説明会の手応えはどうですか。

説明会の様子。プレス向け説明会も含めて、オンラインで実施している

[鹿野氏]今年1月、幕張メッセで開催することを前提に行った説明会では、約200人の参加者でしたが、6月に行ったCEATEC 2020 ONLINEの説明会をオンラインで行ったところ、参加者は700人に達しました。この点では、来年度以降も、説明会にオンラインを取り入れる必要性を感じました。

 実は、1月の出展説明会のあと、今年は様々な事情があって、幕張メッセには出展できないという企業もあったのですが、オンラインで開催することが決定してから、オンラインであれば出展できると言っていただいたケースもあります。

 また、出展を検討している企業からの問い合わせ内容は、技術的なものが多く、どうやってページを作ればいいのか、クリックすると何が起きるのかといったような問い合わせが目立っています。これまでの展示会では、宣伝部などからの問い合わせが中心だったものが、今回は、システム部門やエンジニアからも質問がきています。その点ではポジティブな反応があると捉えています。

 一方で、メディアの報道も、オンライン開催についてはポジティブに捉える内容が多く、それは主催者にとっても心強いものになっています。

――出展者の申し込み状況はどうですか。

[鹿野氏]これまでの幕張メッセでの開催の場合は、コマ位置の確保が早い者勝ちであったため、募集開始とともに殺到するといった動きがありましたが、オンラインでは優先順位がないため、立ち上がりは遅いというのが実態です。これも、オンライン開催ならではの新たなスタイルだと思っています。出展者にとっても、それぞれに事情があり、今回は、締め切りぎりぎりまで検討することになるのではないかと思っています。

――締め切りが7月31日です。期間が短いですね。

[鹿野氏]そこはあまり問題がないと思っています。ただ、英語ページの作成など、海外企業に対する訴求がやや遅れていますから、その点は少し気がかりです。

「ニューノーマル社会の課題解決」がCEATECの役割多くの出展者、参加者と共創し「これからの生活」をわかりやすく見せていく

――最後に出展者や来場者に対してひとことお願いします。

今回のインタビューもオンラインで行った

[鹿野氏]ニューノーマル社会が訪れるなかで、社会や企業、生活における新たな課題を解決することができる展示会が、CEATEC 2020 ONLINEの役割になります。

 今年のCEATECは、年初までは、幕張メッセでの開催を目指していたものが、途中から大幅な変更を加えることになりました。

 CEATECの開催テーマは一切変えませんが、内容はアフターコロナ/ウィズコロナといったニューノーマル時代にあわせたものに思いきって変更し、同時に、オンラインでの開催という、新たな挑戦に取り込むことになりました。

 出展者には、CEATEC 2020 ONLINEを活用してもらい、オンラインならではの特徴を生かした提案をみせていただき、同時にこの場を活用して、様々な挑戦をしていただきたいと思っています。

 また、来場者には、これまでは、なかなか幕張メッセまではいけなかった、あるいはCEATECそのものに、あまり興味を持っていただけなかった人にも、ちょっとでもいいですから、エントランスページを覗いていただき、少しでも興味を持っていただいて、いろんなページをクリックしてもらいたいですね。

 これからの新たな生活がどう変わっていくのかを、より具体的に、わかりやすく提示できる展示内容を目指します。初めてCEATECに出展する企業や、初めてCEATECを訪れる人が増えることを期待しています。