インタビュー

ニューノーマル時代の街づくりとは?自治体の課題を集約、産業とつなげるCEATECの新施策を聞いてみた

「自治体の課題」と「求められる方向性」がわかるイベントを28日開催、参加無料

CEATECは28日、「自治体の課題」を聞けるイベント「CEATEC 2020 ONLINE ニューノーマルプロジェクトセッション」を開催する。CEATEC 2020 ONLINEの出展を検討している企業や団体、自治体向けのオンラインイベントで、参加は無料(要事前登録)。

 CEATEC 2020 ONLINEが、2020年10月20日~23日の4日間、オンラインで開催される。開催テーマは「つながる社会、共創する未来」。そのスローガンは「CEATEC - Toward Society 5.0 with the New Normal(ニューノーマル社会と共に歩む CEATEC)」だ。

 そして、今年のCEATECの狙いは「出展者と参加者が、これからのニューノーマル社会を考え、共創していく場を目指す」(電子情報技術産業協会 CEATEC推進室長の吉田俊氏)。中でも注目を集めるのが、主催者による企画展示「ニューノーマルテーマエリア」である。

 すでに出展募集を開始する一方、7月28日には、企画の第1歩として「CEATEC 2020 ONLINE ニューノーマルプロジェクトセッション」を開催する。CEATEC 2020 ONLINEの主催者企画展示は果たしてどうなるのだろうか。その狙いを聞いた。

「CEATECが目指す方向」を表現してきた主催者企画NEXTストリート、IoTタウン、Society 5.0 TOWN………

電子情報技術産業協会 CEATEC推進室長の吉田 俊氏

 CEATECでは、毎年、主催者企画展示を行っている。

 主催者企画展示は、「CEATECの目指す方向性やテーマを体現する企画」に位置づけられており、この展示エリアを見れば、いまと未来の社会を感じることができるようになっている。

 それを裏づけるように、2015年のCEATECでは、「NEXTストリート」を企画。近畿日本ツーリストや楽天などが出展し、IT/エレクトロニクス業界以外の企業が大規模ブースを構えたことが、大きな反響を呼び、その翌年に、CEATECが、「最先端IT・エレクトロニクス総合展」から、「CPS/ IoT Exhibition」に脱却するきっかけとなった。

【これまでの主催者企画】

 「電子デバイスなどの部品や家電といった製品を作り、それらを提供するメーカーなどが出展するのがそれまでのCEATECだったが、NEXTストリートでは、部品や製品を使ったソリューションやサービスを提供するという“その先の事業者”がCEATECに出展するきっかけになった」(電子情報技術産業協会 CEATEC推進室長の吉田俊氏)というように、主催者企画展示が、CEATECの新たな方向性を示す役割を担ってきた。

 実際、この実績をもとに、2016年には、主催者企画展示を「IoTタウン」として進化。2018年までは、この名称を使いながら、金融、建設、流通、住宅、サービスといった様々な業界の企業の出展が増えていった。

 そして、2019年の主催者企画では、「Society 5.0 TOWN」に名称を変えて、あらゆる企業同士が「共創」する場とし、会期前から、このエリアに出展する企業がワークショップなどを通じて、事前に情報を交換。2030年に向けた街づくりを一緒に進め、共創するきっかけを作るイベントへと進化を遂げた。

 たとえば、Society 5.0 TOWNに出展したANAホールディングスの展示では、本来ならば展示が禁止されている通路をANAのアバターが移動し、Society 5.0 TOWNの他社ブースに出向き、展示内容を見ることができるといった、これまでの展示会にはないような連携も行われた。

 「具体的な共創に踏み込むことができたのがSociety 5.0 TOWNの成果。これをオンラインでどう実現するかが、今年の課題となる。オンラインになっても、産業の幅を広げ、共創を具体的に作り出していくという主催者企画の考え方は同じである。新たな共創を生み出したい」(電子情報技術産業協会の吉田室長)とする。

今年は「ニューノーマルテーマエリア」が主催者企画

「CEATEC 2020 ONLINE」の全体イメージ。詳細はインタビュー記事参照のこと。

 例年通り、幕張メッセでの開催を予定していたCEATEC 2020は、1月時点では、昨年に引き続き、「Society 5.0 TOWN」の名称で主催者企画展示が行われる予定だった。

 だが、新型コロナウイルスの感染拡大が長期化したことで、今年5月に、CEATECをオンラインで開催することを決定(詳細は別記事参照のこと)。それに伴い、主催者企画展示も、「ニューノーマルテーマエリア」という名称で企画の練り直しを行った。

【ニューノーマルテーマエリア】

ゾーンは3つ「ソリューション」「技術・デバイス」「デジタルまちづくり」

電子情報技術産業協会 事業推進戦略本部 IoT事業推進部 マネージャ 志村昌宏氏

 「ニューノーマルテーマエリア」は、新型コロナウイルス感染症がもたらした「新たな暮らし(ニューノーマル)」をキーワードに、持続的かつ豊かな暮らしを実現するための新たなソリューションやテクノロジー、サービスを紹介するエリアになる。

 「ニューノーマルというテーマから、共創を促進する場にしたい」(電子情報技術産業協会 事業推進戦略本部 IoT事業推進部 マネージャの志村昌宏氏)と位置付ける。

 ニューノーマルテーマエリアは、3つのゾーンから構成される。

「ニューノーマルソリューションズ」エリア

 ひとつめは、「ニューノーマルソリューションズ」である。

 「感染症対策を前提にした新たなソリューション、サービスを中心に展示するエリア」(志村氏)としており、具体的には、以下の6つの領域から、ソリューションやサービスの展示が行われることになる。

医療/ヘルスケア

 感染症予防や治療、ステイホーム時のヘルスケアなどが対象

教育

 感染症対策や教育、学びの機会の創出

 安心・安全な食の確保

エンターテインメント

 三密を防ぎながら人々への体験を提供する

働き方

オンラインやリモートをさらに活用し、生産性を高めた新たなワークスタイルを提案する

流通/小売り

 接触を減らすなど、感染症予防対策を前提とした物流の維持、商品の安定供給を行う

「ニューノーマル社会を支える要素技術・デバイス」エリア

 2つめは、「ニューノーマル社会を支える要素技術・デバイス」だ。

 「これまでのCEATECのアイデンティティともいえるテクノロジーを、ニューノーマル社会に実装するといった観点から展示する内容になる」(志村氏)としており、CPS(Cyber PhysicalSystem)を形成する各種技術を展示。非接触遠隔コミュニケーション、ビッグデータ、デジタルツイン、デバイス&テクノロジーといったテーマで展示を行う。

 「AIや5Gといった新たなテクノロジー、オープン性がより重視されるビッグデータ関連技術やデジタルツインを採用するプラットフォーム、そして、アバターなどを含め新たな非接触遠隔コミュニケーションを紹介することになる」という。

 CEATEC 2020 ONLINEでは、「ニューノーマルテーマエリア」のほかに、「企業エリア」、「Co-Creation PARK」といった展示エリアも設けられ、電子部品メーカーやデバイスメーカーは「企業エリア」にも出展することが想定される。だが、それと同様に、この「ニューノーマル社会を支える要素技術・デバイス」のエリアにも、電子部品メーカーやデバイスメーカーの出展が想定される。

 「企業エリアは、来場者が訪れたい企業を目的にして、入ってもらうエリアになる。だが、ニューノーマルテーマエリアでは、テーマから目的にたどり着いてもらうエリアとしている。それぞれに目的や入り方が違うものになり、相互の入り方からリンクを張ることも考えている。出展者には、これまでの発想とは違う観点から出展をしてもらい、枠に捉われない展示を期待している」とする。

課題解決型「デジタルまちづくり」エリア

 そして3つめが、「デジタルまちづくり」である。

 地域が持つ課題を解決するソリュ―ションを持つ企業、スマートシティやまちづくりに関する技術やソリューションを持つ企業、地方自治体と連携した地域活性化に資する事例を持っている企業などが出展。

 自治体と協力し、SDGsの達成を視野に入れ、地域課題を解決。サスティナブルなデジタルまちづくりソリューションを提案する。

 「課題解決をテーマに、技術やソリューションの出展を募るという、新たな取り組みになる。地域におけるニューノーマルや、地域における移動、自然との共生や安心、安全、防災、そして、遊休資産の活用とまちの再構築といった具体的なテーマから、課題を抽出し、その課題に対して、どんなソリューションがあるのかを示すことになる。このなかには、シビックテックの取り組みにもつながるものも含まれる」(志村氏)とする。

 現在、協力自治体として、奈良県、山梨県、神戸市、加賀市、浜松市が参画。CEATEC2020 ONLINEの会期初日には、山梨県の長崎幸太郎知事、浜松市の鈴木康友市長、加賀市の宮元陸市長が登壇して、地域のデジタルトランスフォーメーション(DX)をテーマにしたセッションを行う予定であり、「今回のデジタルまちづくりが、地域のDXを推進する上でのトリガーになることを目指している」という。

 ここでは、各自治体が持つ具体的な課題が示されることになる。

 例えば、加賀市では、2023年に北陸新幹線の開通が予定されており、それに伴う、ポストコロナ時代のまちづくりを模索。奈良県では、豊富な観光資源の回遊性を高めるための改善、神戸市では六甲山を中心とした遊休施設の活用や企業誘致の取り組みなどをテーマに、課題解決を行うソリューションを募り、これらの成果を、全国の地方自治体に広げていく素地を作る考えだ。

 これまでは、「IoTタウン」や「Society 5.0 TOWN」といった「まち」を名称としていたが、今回は、まち「づくり」としている点にも意味がある。

 「展示会場をまちに見立てたのが、これまでのCEATEC。だが、今年のCEATECで実現するのは、ニューノーマル時代のまち。まさに、これから作られるものになる。未来に向けては現在進行形である。そこで、まちづくりと呼ぶことにした」(志村氏)という。

【課題の例】

自治体が「課題」を提示、主催者が「共通の課題」を抽出、そして、出展者が「対応するソリューション」を出展する

 こうした課題解決型展示のアプローチは、これまでのCEATECにはなかったものだ。

 電子情報技術産業協会 事業推進戦略本部 IoT事業推進部 マネージャの西島洋氏は、「自治体が持つ共通の課題に対する解決策を募集し、それを課題解決の一助として活用してもらえるようにしたい。課題を主催者が集約し、それに応えてもらうという新たな取り組みである。CEATECを使って、オンラインで対話をしてもらい、課題解決を推進してもらいたい」とする。

 開催までには、さらに協力自治体を募集し、共通となる課題についても増やす予定で、「自治体が抱える10個前後の共通課題について、ソリューションを見せることができるようにしたい。開催前に、具体的な課題をWebサイト上で公開しながら、出展を募集したい」(志村氏)としている。

テーマは「デジタルまちづくり」

 ここでは、自治体が共通で抱える人口減少や高齢化、教育、国際競争力強化といった課題についてもテーマになりそうだ。

 「デジタルまちづくりに向けて、業態や業種、規模を超えたダイバーシティの実現と、地域や市民が自ら課題を解決したり、課題を汎化するオープン性、そして、他の自治体にも課題を解決するソリューションを共有し、これを広げる拡張性がポイントになる」(志村氏)とする。

 ちなみに、「協力自治体」という名称は、今回のCEATECから初めて使われる言葉だが、「課題を持ち、その課題に積極的に取り組んでいるフロントランナーといえる自治体に協力してもらうことができた。知事や市長がセッションに登壇し、それを業界の枠を超えて解決していく気運をつくりたい」と、協力自治体とCEATECが一体化した形で取り組む体制にも注目が集まる。

現時点での協力自治体。今後増やしていく予定もあるという
電子情報技術産業協会 事業推進戦略本部 IoT事業推進部 マネージャの西島洋氏

 そして、会期中のデジタルまちづくりのサイトでは、地図のように街全体を描いたイラストから、それぞれの課題やテーマにアクセスできるようにし、そこに企業が提案する解決策などを一覧できるようにする。

 「具体的な解決策を示すことを狙いたい。また、海外においても、同様の課題を持っているケースが多い。これをきっかけに海外に商機を見出す日本の企業も支援したい。さらに、自治体の課題解決におけるコボレーションの事例は多いが、それを一覧できるようなものがない。そうした点にも挑戦したい」(西島氏)と述べる。

「CEATECを、地域の課題解決に役立てたい」

 さらに、「今後は、CEATECが地域の課題解決のソリューションを発見したり、体験できたりするためのプラットフォームとしての役割も担いたい。共通的に利用できるソリューションは汎化させたい」(志村氏)とも語る。

 こうした発言からもわかるように、デジタルまちづくりは、今年のCEATECだけの取り組みに留まらないといえる。来年以降も内容を進化させながら実施する主催者企画展示になりそうだ。

 ここ数年のCEATECを振り返ると、主催者が出展場所を提供して、その上に出展各社が自由に展示をするという従来の展示会の仕組みに留まらず、主催者と出展者が連携して、未来の姿や課題解決のヒントを提案するといった展示が増えていた。

 今回の「ニューノーマルテーマエリア」はその要素がより強くなり、とくに、「デジタルまちづくり」のエリアは、主催者と自治体、企業の出展者ががっちりと連携した形で進める内容だといえる。

 いわば、昨年のSociety 5.0 TOWNが企業同士の共創を実現した場だとすれば、今年の「デジタルまちづくり」は、そこに自治体が加わることで、より地域に密着した課題解決に、あらゆる業界のフロントランナー各社が参加する共創によって、挑む場になるといえる。この主催者企画展示が、どんな形で公開されるのかがいまから注目される。

「デジタルまちづくり」に関する企画内容。共創を意識したフローになっている。

「自治体の生の声」がわかる主催者イベントを7月28日に開催参加は無料

 一方、7月28日に開催する「CEATEC 2020 ONLINE ニューノーマルプロジェクトセッション」は、主催者企画の第1歩となるもので、「自治体の生の声を聞く場にするとともに、有識者の参加を得て、サスティナブルなソリューションとはどういったものかを明確化、共通化するのが狙い」(西島氏)だとしている。

 午後1時から開始するプログラムでは、自治体支援のほか、スタートアップ支援やクールジャパンの展開などでも実績を持つ日本総合研究所プリンシパルの東博暢氏が「ニューノーマル時代の自治体の役割」と題した講演を行う。

 続いて、シビックテックでも活躍する一般社団法人Code for Japanの代表である関治之氏による「シビックテック/オープンデータがつなぐ自治体」の講演も開催。さらに、CEATEC 2020 ONLINE協力自治体である奈良県、山梨県、浜松市、神戸市、加賀市のDX担当者が、「自治体が抱える課題」について講演、自治体の生の声が聞けるのがポイントだ。

 イベントでは、これらを通じて、地域ごとの課題を浮き彫りにし、ニューノーマル時代の日本や世界の課題解決に求められるソリューションについて議論を進めることになる。さらに、参加者とともに議論する場も設けられる予定。テーマは「ニューノーマル時代に求められるサスティナブルなソリューションの明確化・共通化」という。

 こうした議論を通じながら、CEATEC 2020 ONLINEで設置される「デジタルまちづくり」ゾーンとも連動を図る考えだ。

 このほか、ファシリテーターとして、HEART CATCHの代表取締役である西村真里子氏が参加。ニコン デザインセンターのオオキヨウ氏によるグラフィックレコーディングも行われる。

 「CEATEC 2020 ONLINEのデジタルまちづくりにおける自治体のテーマをより明確に示し、セッションの開催後も、セッションの内容やグラフィックレコーディングの内容を広く公開する。これにより、CEATEC 2020 ONLINEのニューノーマルテーマエリアへの出展促進につなげたい」(志村氏)とする。

 これらのセッションは、オンライン開催。CEATEC 2020 ONLINEへの出展を検討している企業や団体、自治体であれば、無料で参加できる。定員は500人。参加登録はこちらから可能だ。