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東芝CEOの綱川智氏がJEITA新会長に就任、「Society 5.0やSDGsの達成に貢献」
2021年6月4日 17:02
ベンチャー優遇特例制度でスタートアップ企業も会員企業に
一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は6月2日、第11回定時社員総会を開催し、新会長として綱川智氏(株式会社東芝取締役会長 代表執行役社長 CEO)を選出した。任期は1年。
綱川新会長は6月3日にオンラインで記者会見を行い、「『Green×Digital』は、JEITAが率先して取り組む事業の一丁目一番地と位置付けている。超スマート社会であるSociety 5.0の実現を世界に先駆けるとともに、日本経済のさらなる活性化や、SDGsの達成に貢献する」と述べた。会見では、Green×Digitalに関する業界横断型のコンソーシアムを、2021年度上期中をめどに新設することも明らかにした。
前任の石塚茂樹氏(ソニーグループ株式会社 代表執行役副会長)の就任時には、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により会見が行われなかったため、新会長就任会見は遠藤信博氏(日本電気株式会社取締役会長)の就任時以来、2年ぶりとなる。
筆頭副会長には、時田隆仁氏(富士通株式会社代表取締役社長兼CDXO)が就任。副会長は、野村勝明氏(シャープ株式会社代表取締役社長兼COO)、東原敏昭氏(株式会社日立製作所代表執行役 執行役会長兼執行役社長兼CEO)、津賀一宏氏(パナソニック株式会社代表取締役社長)、柵山正樹氏(三菱電機株式会社取締役会長)、遠藤信博氏(日本電気株式会社取締役会長)、石塚茂樹氏(ソニーグループ株式会社代表執行役副会長)、西島剛志氏(横河電機株式会社取締役会長)、澄田誠氏(TDK株式会社取締役会長)、髙橋広行(株式会社JTB取締役会長)、中山泰男氏(セコム株式会社代表取締役会長)が就いた。
綱川新会長は、新型コロナウイルスの影響は、現時点でも予断を許さない状況であることを示しながら、「この1年間で明白になったことは、beforeコロナの社会には戻れず、withコロナ、afterコロナの社会を描き、新たに構築していくしかないということ。デジタル技術を活用し、今までは『そうあるべき』『そうできたら』と思われていたことが一気呵成に実行され、それが新たな日常となった。ノートパソコンやITリモートソリューションなど、当業界の対象分野は急激な需要増となった。新しい日常の社会を支えるという使命感を持っている。コロナ禍では、社会的価値を創り出す力が企業価値を決定することを痛感している」とした。
また、「JEITAは単一業界のことだけを考える団体ではない。2017年に会員制度に関する定款の変更とベンチャー優遇特例制度の創設を行い、会員企業はIT・エレクトロニクス業界のメーカーに限らず、IoTに密接に関係する企業とスタートアップ企業にも広がった。JEITAスマートホーム部会では、安心・安全・快適で便利なサービスを生活者に提供するスマートホームの実現に向けて、家電・IT通信機器分野のみならず、住宅や住宅設備機器、サービスなどの住まいに関わる企業や団体が参画して活動している。JEITAは、電子部品や電子デバイス、電子機器やITソリューション/サービスにとどまらず、それらを中核として、他の製造業やサービス産業を含む、あらゆる産業をつなぐプラットフォームのような団体になりつつある。業界における標準化や課題解決といった重要な取り組みを推進するとともに、今後は、広範な分野の企業の参画を得て、異なる知見や技術を持った者同士が連携し、業界を超えた課題解決や、新たな価値を共に創り出す『共創』を推進することに力を注ぎたい」と述べた。
「ローカル5G」「半導体」「カーボンニュートラル」に重点
2021年度の重点事業として、「ローカル5G」「半導体」「カーボンニュートラル」の3点を挙げた。
「ローカル5G」では、5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアムを、JEITA会員会社以外を含めて180社を超える幅広い業界・業種の企業が参加して発足。「ローカル5G入門ガイドブック」を公開したことを報告。「ローカル5Gは、通信の民主化ともいうべきイノベーションの起点となる重要規格である。事業創出や市場の活性化につながる取り組みを推進する」と語った。
「半導体」では、「Society 5.0の実現に向けて、データ駆動社会の縁の下の力持ちとなるのが半導体」と位置付け、「技術開発に加え、今後は、半導体ユーザー企業や関連産業とのコミュニケーションや連携を図り、サプライチェーンの強化などにも取り組んでいく」とした。
また、「国家安全保障、国際競争力強化の観点からも半導体は大切である。JEITAとしても政府に対して提言をしており、官民が一体となって半導体の安定供給を確保していく」と述べたほか、「データセンターの設置が進み、デジタル化が進展することで、電子部品の需要が増加する傾向は今後も続く。供給不足については関係企業とコミュニケーションを図りながら、政府にも要望をしたい」と述べた。
JEITAの長尾尚人専務理事は、「電子部品はスマホを中心に急速な伸びを示してきたが、最近ではクルマ分野の成長が激しい。クルマがセンサーの塊になる時代になっている。だが、スマホ用と自動車用の電子部品は異なる。国内で早急に立ち上げる必要があり、昨年度にはサプライチェーン補助金を最大限活用して対応しているところである。JEITAでは、補助金の拡充に向けて政府に強い働き掛けをしている。タイムリーに対応できるように政府とも話をしている」と補足した。
そして、「カーボンニュートラル」については、2020年10月に菅義偉首相が2050年までに実質ゼロエミッションを表明し、2021年4月の気候変動サミットでは2030年の温室効果ガス削減目標を、2013年度比26%から46%へと大幅に引き上げたことを示しながら、「今後10年間で、日本の再生エネルギー関連分野に対する投資は50~80兆円規模が必要になる。こうした急速な市場の拡大にあわせて、カーボンニュートラルに向けた課題を解決していくことは大きな成長のチャンスとなる。新たな生活様式や社会構造の変換が加速するなかで、JEITA会員企業が持つデジタル技術・データ技術により、社会課題の解決に貢献していく。例えば、デジタルを活用することで、増加する電力消費を削減できる」などとした。
「Green×Digital」コンソーシアムの新設を発表
また、「JEITAは、率先して取り組む事業の一丁目一番地に『Green×Digital』を位置付けている。材料から部品、機器、そしてデジタルサービスの企業が集うJEITAは、その特性を生かし、ユーザー企業とともにデジタル技術を使った脱炭素化に向けた議論を行う横断的な新たな組織として『Green×Digital』のコンソーシアムを、2021年度上期中をめどに新設する」と、新たな取り組みを発表した。
新たなコンソーシアムは、「Green of Digital」および「Green by Digital」の観点で取り組みを行い、既存の製品や市場の脱炭素化に向けた取り組みの司令塔となり、ルールや規制など、デジタルを使った新たな今後の市場のあり方の議論を行っていくという。
長尾専務理事は、「Green of Digitalにおいては、デジタル社会の中心役割を果たすデータセンターへの電源供給力などにおいて、エネルギー業界と腹を割って話せる関係を作っていくことが重要になる。また、Green by Digitalでは、カーボンニュートラルはこれまでの省エネとは異なり、個々の組織やサービスの高度化で達成できるものではないため、水平・垂直の関係での取り組みが大切である。同じような工場であれば、デジタルを使って、共同で効率性の高い運用を行う取り組みなどが期待できる。アナログでの積み上げ計算ではなく、デジタルによる横串の考え方を用い、業界の枠を超えた話し合いができる組織にしたい」とした。
コンソーシアムの立ち上げ準備のため、5月1日付で「グリーンデジタル室」をJEITA事務局内に設置し、専任の職員を配置。今後、詳細の検討を進め、具体的な取り組みについては決定次第、発表する。
また、日本のIT・エレクトロニクス業界の国際競争力の維持については、「JEITAでは、研究開発税制の維持・拡充や、サプライチェーンに関する補助金予算の積み増しなどを要望している。重要課題であり、アンテナを高くして推進したい」と述べた。
さらに、ワクチン接種の増加に伴い、今後想定される市場環境については、「今の日本は景気の底にある。ワクチン接種が増えることで、日本も、米国のように景気が回復していくだろう。業界によって差が激しいが、IT・エレクトロニクス業界は急速に伸びている。2022年度中に、コロナ前の状況に回復すると個人的には考えている」とした。
リモート導入や新オフィス、JEITA自ら「DXの加速」をリード
一方で、綱川新会長は、JEITAのいくつかの取り組みについても報告した。
IDC Japanと共同で実施した「2020年日米企業のDXに関する調査」を2021年1月に発表。DXを実践している日本企業が約2割にとどまり、DX未着手の企業が多い現状が明らかになったことを示しながら、「DXの本質は、トランスフォーメーション(変革)である。今一度、DXの目的を経営視点で捉え直し、ニューノーマルも見据え、経営トップ自らが関与してビジネス変革をリードしていくことが求められる」と提言。「JEITAそのものも例外ではない。JEITAは、デジタルを旗印に、あらゆる産業との共創を推進し、市場創出に取り組む団体である。社会的な存在理由が何か、と問われれば、それは会員企業の属する産業群の社会的なプレゼンスの向上、信頼や価値を高めることである。DXにおいてJEITA会員企業が中核的役割を果たし、存在価値を示していくためには、自らが有するデジタル技術の市場拡大を目指し、ステークホルダーとともに取り組みを加速させていくことが求められる。その環境を整えることが、JEITAの使命であり、コロナ禍においてもその動きを止めるわけにはいかない」と、JEITAの役割を改めて強調した。
JEITAでは、リモートを前提とする新たな社会に対応するため、400を超える部会・委員会の会合をオンラインに移行。JEITA職員も、在宅勤務などのテレワークを基本とするデジタル技術を活用した新しい働き方へとの移行している。すでに職員の出勤率は7割減になっているという。
さらに、JEITAのオフィスもリニューアルし、単に会議や作業をする場所ではなく、会員や事務局職員などの関係者がリアルコミュニケーションによる共創を生み出す場所に再定義。「目的に合わせて最適な環境で働けるようにした。これは事業基盤を強化するとともに、事業遂行環境のシームレス化を目指すものである」と述べた。
新たなオフィスは、コミュニケーションに特化した環境とすることで、多種多様な人々が議論をしたり、アイデアを語り合うなど、コラボレーションを促すことを目的に設計。また、オンラインによる記者会見や講演会の配信ができる専用スタジオも開設した。
「今日の記者会見も、専用スタジオから配信している。緊急事態宣言が延長されるなど、新型コロナウイルス感染症の影響は予断を許さない状況が続いていることから、CEATECやInter BEEといった主催展示会におけるオンライン展開においても、このスタジオを積極的に活用していく」という。
そして、「JEITAは、対面とオンラインのハイブリッドで事業活動が実現できる環境を整備することで、対面のみのアナログな業界団体から脱却し、あらゆる事業活動においてリモートをフル活用する、真にデジタルな業界団体を目指す」と宣言。「JEITAは、これからも積極果敢に挑戦を続けながら、産業と産業のつなぎ役として幅広い産業の会員企業と連携し、課題解決や競争力強化、新たな市場創出に取り組むことで、世界に先駆けた超スマート社会であるSociety 5.0の実現とともに、政府や関係各所と密に連携しながら、日本経済のさらなる活性化やSDGsの達成に貢献していく」と述べた。