インタビュー
スマートホームは「家電データ活用」で新段階に、新事業を生む「JEITAスマートホームデータカタログ」がCEATECで初公開
「フィットネス+調理履歴」「生活診断+空気清浄機」「アパート経営+各種家電」など………
2020年10月20日 12:00
「データカタログ」の公開で、スマートホームの実現がさらに一歩進展することになりそうだ。
一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、CEATEC 2020 ONLINEの開催初日となる2020年10月20日に、「JEITAスマートホームデータカタログ」を一般公開。そして、多数のIoT家電を発売するシャープが、その子会社であるAIoTクラウドを通じ、そのトップバッターとして多数のカタログデータを提供する。
これを活用したサービスについても既に5社のスタートアップなどのサービス事業者が、事業創出に取り組んでいるという。
JEITAが提供する枠組みは、 (1) 各社のIoT家電が収集・活用できるデータの種類を「カタログ」という形でわかりやすく提示し、 (2) 新事業を考える事業者がそこから新事業をイメージ、 (3) データを利用する段になったら個別に利用契約を行い、事業化していく、というもの。
また、今回のCEATECでは、そのデータカタログを通じた新産業創出をテーマとするコンファレンス「データの繋がりが生み出すスマートホーム市場~データ連携によるスマートホーム産業が始まる~」も10月22日に開催。データ活用の具体的な事例が紹介される。これは、業界内外から注目を集めることになりそうだ。
そこで今回、JEITAスマートホーム部会スマートホームデータカタログWG主査の中村康洋氏と、シャープの100%子会社であり、実際のデータ提供を行っている株式会社AIoTクラウドのプラットフォーム事業部副事業部長兼プラットフォーム事業推進部長の松本融氏に、JEITAスマートホームデータカタログに関する今と未来を聞いた。
「スマートホームから得たデータを、どう効率よく活用するか?」そのためのカタログ
JEITAでは、2017年9月にスマートホーム部会を設置、IT/エレクトロニクスだけでなく、住宅や住宅設備機器、家電、IT、通信機器、各種サービスなど、住まいに関わるあらゆるものを連携させ、安心、安全、健康、快適、便利な住まいを実現するための活動を行っている。
そして、その取り組みのひとつとして同部会のなかに設置されたのが、スマートホームデータカタログWGで、データ連携のための仕組みづくりと普及を担っている。
JEITAスマートホーム部会スマートホームデータカタログWG主査の中村康洋氏は、「暮らしがネットワークにつながり、医療や教育などの社会インフラや、地域などの社会サービス(例えばごみ収集など)ともつながることで、人々に、安心・安全・快適を提供し、社会の最適化を実現できる。そして、それはスマートホームによって実現できると考えている」と、その方向性を説明。
そして、「そのためには、スマートホームやサービスから得られたデータを、適切な形で共有することが必要だが、限られた企業や範囲で利用される仕組みでは、社会の最適化を実現するには限界があり、広く活用できる環境をつくる必要があった」と、JEITAスマートホームデータカタログの整備に至った経緯を説明する。
例えば、家電メーカーが、エアコンや洗濯機、電子レンジの使用データなどを収集、これをサービス事業者に提供すれば、新たなサービスの創出につなげることができる。冷蔵庫の開閉データや、空気清浄機のセンサーデータで「離れて暮らす高齢の家族が健康に過ごしている」と確認できるし、サービス事業者がこのデータをもとに、ユーザーにメールで通知することもできる。「監視カメラでは抵抗がある」といった場合でも、さりげなく見守ることができる。
さらに、異常があった場合には、「管理会社や警備会社と連動して駆けつける」といったサービスを展開することも可能だ。このように、スマートホームやサービスから得られたデータを活用して、企業同士が連携、これまでにない新たなサービスを創出し、それによって豊かな社会を構築するというのが、JEITAスマートホームデータカタログの役割になる。
カタログがつなぐ「機器メーカー」「データのプラットフォーム」「サービス事業者」
そして、中村氏が考えるのは、それを「カタログがつなぐこと」という。
「生活データを活用したスマートホーム関連市場には、 (1) データを提供する機器メーカー、 (2) データを収集、連携するプラットフォーム企業、 (3) データを活用するサービス事業者という3つの立場がある。しかし、サービス事業者が欲しいデータと機器が提供できるデータにギャップがあったり、用語の意味やデータ連携方法の捉え方が業界や企業ごとに違っていたりして、市場創出の阻害要因のひとつになっている。だから、スマートホームの実現のための環境整備として、まず必要なのが、 あらゆる参入事業者が、共通で理解できるデータカタログの構築であり、データ流通市場創出に向けて統一されたデータ連携の在り方を示す必要があった 」とする。
JEITAスマートホームデータカタログは、「カタログ」と称しているように、保有するデータの概要を示すもので、各社がどのようなデータを保有し、提供が可能なのかを見える化したものだ。データそのものを一覧にしたものではない。
データ提供事業者は、データカタログウェブサイトに、データカタログを登録。追加や更新なども行う。ここには実際のデータは含まれておらず、概要の説明、分類テーマ、データ配信形式や頻度、契約形態、価格などを掲載する。
一方のサービス事業者は、データカタログウェブサイトを無料で検索、事業をイメージしていく。有用なデータが見つかれば、データ提供事業者と提供/開示契約を結び、具体的なデータを開示してもらったり、Web APIを使って家電などとのリアルタイム連動を行ったりしていく。データ使用の対価は、個別の契約に基づいて、サービス事業者がデータ提供事業者に支払うことになる。
「データの概要を示すことで、サービス事業者が、目的のデータを容易に発見でき、データ活用の検討や実際のサービスを早期に実現できるようになる」とする。
また、先にも触れたように、データカタログで公開されるのはあくまでも「データの概要」のため、カタログサイトからデータが盗難されるリスクもなく、データカタログの作成も用意された手引きをもとに、専門知識なく登録できる敷居の低さも特徴とする。データカタログの策定には、データ活用や流通を検討している国内企業・団体とも連携しており、一度登録をしておけば、様々な領域での活用も見込まれるという。
「スマートホーム部会には、IT企業やエレクトロニクス企業以外にも、LIXILやTOTO、セコム、関西電力、PCHA(パーソナル・コネクテッド・ヘルス・アライアンス)、コネクティッドホームアライアンスなどが参加しており、業界の枠を超えた取り組みも始まっている」という。そして10月20日からは、データカタログの仕組みを一般公開。データカタログの閲覧や登録が無料で行えるようになる。
そして、その当初、最大規模で登録されているのが、シャープのAIoT家電から提供される12種類のデータで、これはシャープの子会社であるAIoTクラウドを通じて登録されている。
ちなみに、AIoTとは、AI(人工知能)とIoT(モノのインターネット)を組み合わせたシャープによる造語で、同社の製品や事業方針のなかでも利用されている言葉だ。
「これまでは、仕組みの構築が中心となり、データカタログに登録をしても、どれぐらいのメリットがあるのか、また、デーカタログのデータを利用して、どんなことができるのかということがわからない状態だった。だが、今回の一般公開を通じて、データ活用の具体的な動きが始まっていることが理解してもらえるだろう。そして、データカタログに登録することや、利用することのメリットを感じてもらえる。これによって、データ活用を普及フェーズに進めたい」と意欲をみせる。
今後、データ登録企業を10社以上に増やし、100種類以上のデータカタログへの登録を目指すという。
さらに、「実際にデータを使うようになると、もっとこんなデータが欲しい、違う形で提供してほしいという要望も出てくると考えている。ニーズにあわせて、データを更新したり、サービスの利用実績や事例情報も提供し、積極的なデータ利用につなげる提案をしていきたいし、データ提供による収益化の事例も紹介したい」とする。
JEITAスマートホームデータカタログは、現在は「V1.0」だが、データの整備や高次化、進化を進めながら、内容をアップデートしていくことになるという。
家電メーカーとしてデータ活用を推進するシャープ「業界全体にデータ活用を広げていきたい」
JEITAスマートホームデータカタログに積極的に取り組んでいる企業の1社がAIoTクラウドである。
同社は、シャープの100%子会社で、シャープの家電製品のAIoT化の支援、各種クラウドソリューションの開発、運用などを行っている。これまでにも、シャープのAIoT家電から収集、蓄積したデータの利活用提案を積極的に行っており、JEITAスマートホームデータカタログに登録しているのは、その一部。
詳細は後述するが、JEITAでは、データカタログの可能性や有効性の検証を目的として、マッチングセッションを今年3回開催、既に5社が具体的な取り組みやPoCを開始しているが、いずれもシャープの家電製品を用い、AIoTクラウドが提供したデータを活用したものだ。
具体的には、「買い物代行サービスと調理履歴」「フィットネスサービスと調理履歴」、「生活診断サービスと空気清浄機のデータ」「アパート経営サービスと各種家電」などがあるという(詳細は本記事末尾)。
AIoTクラウドプラットフォーム事業部副事業部長兼プラットフォーム事業推進部長の松本融氏は、「データを活用したサービスを、顧客に提供していくのが当社の役割であり、その市場を広げていくことに取り組んでいる。シャープ以外の家電のIoT化支援も行い、業界全体にデータ活用を広げていきたいと考えている。その点では、JEITAスマートホームデータカタログが目指す方向性と一致している」とする。
実際、AIoTクラウドでも、同社サイトを通じたデータ連携の提案や事例紹介をこれまでも積極的に行ってきた。
結果として、同社の推進する「AIoT家電」は、11カテゴリー、440機種以上にまで拡大。関西電力やKDDI、セコム、日立キャピタルなどの企業がデータ連携を行っており、新たなサービスの創出に成功している。
例として話していただいたのが「コロナ禍による暮らしの変化」。AIoT家電のデータでわかっていることとして、松本氏は「在宅時間の増加で、家電の電気代が15%増えていることや、(人気製品である)ホットクックのデータから、昼食の調理が増え、使われる食材などの購買行動が変化していること、平日の洗濯が72.5%も増え“安心、健康”の意識が高まっている」などを挙げる。
そして、「こうしたことからも、家電のデータが生活の変化を捉え、より意味を持ち始めていることがわかる。サービスに活用できるデータが揃ってきたということもできる」とする。
「プラットフォーム間連携」がポイントに
こうしたデータ活用で、AIoTクラウドが重視するのが、プラットフォーム同士を相互接続することで連携する「プラットフォーム間連携」だ。
これは、ひとつのプラットフォームに集約するメガクラウドプロバイダーのような手法ではなく、業種、業界の違いを乗り越えて、多彩な機器やサービスを柔軟につなげていくという考え方だ。経済産業省が進める「スマートライフ政策」と連動したものでもある。
「既存のプラットフォーム同士をつなぎ、データを利活用することが、クラウドが中心となった時代には最善であると考えており、これが日本の企業の競争力向上にもつながる」(同氏)というのがそのコンセプト。
同社が進めるプラットフォーム間連携では、Open ID ConnectによるID接合をした上で、WebAPIでデータ連携をすることを標準モデルとしており、同時に、データ利活用を可能にするために必要なユーザーの利用規約や、ID接合のユーザーインタフェースモデルなども定義。これは、JEITAの「クラウド連携によるスマートライフサービス提供に関する標準モデル」として推奨されている。
そして、CEATEC 2020 ONLINEのシャープブースでも、AIoTプラットフォームや、COCORO+サービスによる他社連携企業との連携事例を紹介。
さらに、COCORO AIR、COCORO KITCHEN、COCORO WASHなどの生活データを蓄積した「COCORO HOMEサービス」などの各種取り組みや、IoT機器からの生活データを活用し、スマートライフの実現に必要な様々なサービスを創出するスマートライフ構築支援サービス「AIoT LINC」も公開する予定だ。
AIoTクラウドでは、プラットフォーム間連携によって、スマートライフに関連する各業界の事業者とのパートナーシップを拡大する考えで、電力、ガスといったインフラ事業者のほか、生活サービス事業、消費財メーカー、機器メーカー、住宅設備メーカー、流通事業者、ネットサービス事業者、通信キャリア、広告代理店などを対象に、2020年度中に50社とのパートナーアライアンスを目指している。
同氏としては、今回のデータカタログを契機に「シャープ以外の家電メーカー、機器メーカーにも、JEITAスマートホームデータカタログへの参加を呼びかけたい。そして、データ利活用の事例を拡大し、生活者に安心、快適、充実をもたらす、真のスマートライフの実現に向けた取り組みを加速したい」という。
コンファレンスも開催、AIoTクラウド副社長やデータ活用各社が登壇
一方、CEATEC 2020 ONLINEでは、JEITAスマートホームデータカタログに関するコンファレンスも開催される。
2020年10月22日午後1時から3時まで、スマートホーム部会コンファレンスとして開催される「データの繋がりが生み出すスマートホーム市場~データ連携によるスマートホーム産業が始まる~」がそれだ。
AIoTクラウドの白石奈緒樹副社長による「スマートホームデータカタログの意義と今後の可能性について」と題した講演のあと、データ連携の事例を中心としたパネルディスカッションを実施。スマートホームデータカタログを活用して、PoCなどに取り組んでいるTATERUの松園勝喜CTO、ダブルフロンティアの八木橋裕社長、mui Labの大木和典CEO、ニューラルエックスの仲田真輝社長、アナムネの菅原康之社長、AIoTクラウド プラットフォーム事業部の松本融副事業部長が登壇。HEART CATCHの西村真里子CEOがモデレータを務め、実際の事例を交えながら、スマートホームデータカタログの活用メリットなどが示されることになる。
さらに、「ニューノーマルの時代のデータ連携によるスマートホーム市場構築のために」と題して、北陸先端科学技術大学院大学の丹康雄副学長と、AIoTクラウドの白石副社長が 特別対談を行う。
データカタログを活用した最先端のスマートホームへの取り組みが理解できる内容になりそうだ。
CEATEC2020を契機に、家電データ活用で新市場創出
スマートホームデータカタログが一般公開されることで、家電データの活用が積極化することが期待される。そして、データ連携が生み出す新たな市場の広がりにも期待が集まる。今回のCEATEC 2020が、スマートホームデータカタログの普及フェーズの第1歩となるのは間違いないだろう。
【「JEITAスマートホームデータカタログ」の活用事例】
JEITAでは、一般公開に先駆けて、データカタログの可能性や有効性の検証を目的として、マッチングセッションを今年3回開催した。
参加したのはスタートアップ企業などを中心に約10社。うち5社が具体的な検討を開始したり、PoCに取り組んだりしているという。なかには、2021年以降にサービスが開始されるものがありそうだ。
これらの事例を紹介しよう。
「COCORO HOME」の調理履歴で効率よく買い物代行マッチング
ダブルフロンティアでは、買い物を依頼するリクエスターと、買い物を行うクルーとをマッチングし、地域密着型で解決する買い物代行サービス「ツイディ」を提供。
シャープのAIoT家電に搭載されているCOCORO HOMEの調理履歴や、COCORO KITCHENの買い物メモの食材のデータを活用して、「ツイディ」と連動。食材リストのデータを買い物画面に反映し、買い物代行を依頼できる。まずは、地域を限定したサービスの提供を目指す。
「ヘルシオ ホットクック」で食事内容に合わせた運動提案
ニューラルエックスは、筋肉シミュレーション技術を活用したオンラインフィットネスサービスを米国で展開しているが、日本での展開において、家電データの活用を検討している。
シャープの水なし自動調理鍋「ヘルシオ ホットクック」の食事履歴をもとに、食事内容に合わせた運動提案を行うほか、ニューラルエックスが提供しているサービスの運動内容と連動することで、筋肉をつけたい、あるいはダイエットをしたいという個別のニーズに合わせて、運動メニューにあわせながら、消費カロリーに合わせたメニューを提案し、ホットクックで簡単に調理できるサービスを行う。調理履歴から摂取カロリーや栄養素を抽出。ユーザーは、食事記録が不要で、自動でデータをアップロードでき、カロリーが高めの料理が続いた場合には、それに適した運動が提案されるようになる。
「muiボード」で気温や湿度のデータと連携、エアコンを制御
mui Labは、木製のIoTデバイス「muiボード」を開発しており、ここにシャープのエアコンのデータを連動。
電源のON/OFFの状態や冷房/暖房モード、設定温度、風量といった情報のほか、エアコンに内蔵されているセンサーから気温や湿度の情報とも連携して、エアコンの制御も可能にするという。
空気清浄機のセンサーデータと気象データを連動、呼吸器疾患対策に
アナムネは、女性の専門医師に相談できるオンラインチャット診断サービスを提供。シャープの空気清浄機のセンサーデータと、気象データを連動させて、それをもとに生活アドバイスを行うことになる。
具体的には、地域の気象情報と、空気清浄機のセンサーをもとにしたPM2.5の飛散情報、においやほこりの情報と合わせることで、その地域に住むアナムネのユーザーに、日々の過ごし方の生活アドバイス情報の提供を目指している。
「Residence kit」で賃貸住宅をIoT化!アプリを通じて家電操作
TATERUおよびRobot Homeでは、賃貸住宅をIoT化したアパート経営へのデータ活用を目指す。
入居者用の「Residence kit」で、家の中の機器を接続。アプリを通じて、シャープの様々な家電を操作できるようになるという。空気清浄機やエアコンなどのデータを活用して、電源のON/OFFや運転モード、温度状況などをアプリ上で表示。家電の最適な操作が行えるようにする。
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