イベントレポート
CEATEC 2020 ONLINE
CEATEC首長サミット、デジタルに取り組む知事や市長は「まちづくり」をどう変えるのか?
山梨県 長崎知事、加賀市 宮元市長、浜松市 鈴木市長が登壇
2020年10月23日 10:40
CEATEC 2020 ONLINEのコンファレンスにおいて、「特別企画 首長サミット ポストコロナ時代におけるデジタルを活用した市民中心のまちづくり」が行われた。
今回のCEATECでは、目玉展示のひとつである「ニューノーマルテーマエリア」内に、「デジタルまちづくり」コーナーを用意するなど、地域の社会課題解決に向けた提案を重要な要素のひとつに掲げている。
この首長サミットでは、革新的な首長たちが仕掛けている新たなチャレンジを知る機会にするとともに、ニューノーマル社会の実現に不可欠な、産業界や自治体、テクノロジー活用の在り方までに踏み込んだ議論を展開。
山梨県の長崎幸太郎知事、加賀市の宮元陸市長、浜松市の鈴木康友市長が、それぞれの地域における取り組みを紹介するとともに、日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 プリンシパルの東博暢氏をモデレータに行われたパネルディスカッションでは、「コロナによって引き起こされた変化や政策に関する具体的な変化」、「自治体同士の連携」、「企業との連携」をテーマに、それぞれの意見を述べた。
コロナ禍で始まる「首都圏と地方の再定義」
同サミットの冒頭に、「我が国のスマートシティ構築の最前線と今後の政策動向」と題して、日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門プリンシパルの東博暢氏が、スマートシティにおける現状と課題などについて説明した。
「超感染症社会において、首都圏と地方の再定義が始まっている。大阪都構想やONE KYUSHU宣言のほか、首都圏に隣接する都市による自然首都圏などの動きもあり、一極集中構造が分散する方向に向かっている。また、地域未来構想20が出され、Government as a Startup(GaaS)の動きやデジタル庁の動きもある。新たな次元の地方創生が始まっている」と前置きし、「2010年から2050年の間に、全国の約6割の地域で人口が半分以下になると推計されるとともに、高齢化が進み、2050年には社会保障費用が50兆円増加するという試算もある。このままでは暗い未来である。その解決のためにSociety5.0の実装を行い、スマートシティの推進を行い、Japan Digital Transformation(JP-DX)を進めることになる。DXの原点は、よい生活を送るために技術をどう使うかということである」などと述べた。
その上で、「日本の政府は、Society5.0の実現に向けて、縦割制度をやめて、国民の目線に立っていく考えを示しており、その具体的な取り組みとして、スマートシティ官民連携プラットフォームを立ち上げている。2020年度は各府省長が一致団結してスマートシティ関連事業を進めようとしており、菅内閣の発足によって、それが加速することになる。2020年10月には、内閣府から『スーパーシティ構想』が打ち出されており、国家戦略特別区域法の一部改正である『スーパーシティ法』も策定された。6月には科学技術・イノベーション活性化法の改正案が可決され、スタートアップ企業が国の課題を解決するプレーヤーになりうる土壌もできた。これらによって、住民の課題をテクノロジーでどう解決するか、2030年の未来社会をどう迎えるかといったことが議論されるとともに、新しい未来をデザインするために必要であれば『面』で規制緩和を行い、そのための都市を選んでいくといったことが行われることになる。官民融合、地域連携、異業種連携が、これからますます重要になり、マッチングが重要になる。まちづくりをテーマにしたチャレンジプロシェクトも増加する。街が実験台となり、課題を解決し、都市がインキュベータとしての役割を果たし、新たな産業が生まれることになる」と指摘した。
また、民間主導型メタコンソーシアム「Incubation & Innovation Initiative(III)」によって、自治体と連携しながら新たな産業創出や課題解決に取り組んでいることを紹介。「静岡県浜松市、石川県加賀市、そして山梨県などにも広げ、今後の未来を作っていくことになる。これから重要になるのは地域の首長である。最先端のことは地方から起こっている。CEATEC 2020 ONLINEの参加者も、より新しいことをしたいと考えているのであれば、地方の取り組みを知るべきである。いまは、大企業のスピードよりも、自治体の方が速い。ベンチャー企業よりもスピードが速いほどだ」などと語った。
山梨県非接触・遠隔診療などを進める「グリーン・ゾーン構想」
続いて、山梨県の長崎幸太郎知事が、「ニューノーマルの実現に向けたデジタル活用の取組と山梨県の描く未来像について」と題して講演した。
山梨県では、ニューノーマルの実現に向けてグリーン・ゾーン構想を構築し、非接触をベースにした「観光MaaS」の導入や、「電子版かかりつけ連携手帳」を活用したオンライン診療体制の整備に取り組んでいるという。また、将来的にはAIスピーカーの活用などにより、住んでいる地域や年齢に関係なく、誰もが等しくデジタルの恩恵を受けられる社会の実現を目指しているという。
さらに、新たな創設した「やまなしグリーン・ゾーン認証制度」では、感染症に対する強靭な社会、経済の形成に向けて、コロナウイルスを心配せずに、旅行や食事が楽しめる仕組みを構築したり、これをきっかけに遠隔診療などを推進していくという。なお、山梨県では、2021年4月には山梨県独自のCDC(疾病予防管理センター)を設置し、感染症などに関する情報発信としての役割も果たすことになるという。
長崎知事は、「山梨県には、年間3700万人の観光客があるが、都心へのアクセスは中央本線か、中央自動車に限定される。甲府駅や大月駅に到着しても2次交通が発達していないこと、ワイナリーなどが多いため、それを楽しんでもらうにはレンタカーが使いにくいこと、自動車で来た場合にも日曜日夕方には帰り道に大きな渋滞が発生するという課題がある。MaaSによって、その課題を解決したい。また、電子版かかりつけ連携手帳の延長線上では、オンライン診療の本格導入を目指しており、診療予約、遠隔診療、決裁、薬の処方まで行えるようにしたい。県民80万人に利用してもらい、そのデータをもとにした高度化も図りたい。各種サービスをワンストップで、AIスピーカーに話すだけで簡単に操作できるといったように、誰もが等しく、デジタルの恩恵を受けられる社会の実現を目指したい」と語った。
また、「緊急事態宣言後は、山梨県に来ないで欲しいということは言わなかった。有事の際には、グリーン・ゾーン構想の取り組みなどを通じて、しっかりと対策を行いながら、東京のバックアップ拠点としての役割も果たしたい。いまでは、都心に住まなくても、どこでも仕事ができる環境になってきた。それにあわせて、2拠点居住も推進していきたい」としたほか、「民間事業からもらった提案に対して、物心両面からサポートしたい。ぜひ、山梨県の課題解決に対する提案を行ってほしい。また、山梨県に直接関係しなくても、世界や日本の課題解決に役に立つものが、山梨県発で発信されることも期待している。山梨県を利用してもらいたい。山梨県は、知恵の梁山泊を目指したい」と語った。
加賀市マイナンバー活用など「行政のデジタル化」に積極的
加賀市の宮元陸市長は、「ポストコロナ社会をリードするスマートシティ加賀」として、同市の取り組みを紹介した。
加賀市では、民間と行政が協働して、先導的で魅力的な取組みができる「挑戦可能性都市」を標榜。人口減少や少子高齢化が進むなか、先進技術とDXによって、地域課題を解決し、都市機能やサービスを効率化、高度化させ、新たな価値を創出する「スマートシティ加賀」の実現を目指している。
九谷焼などで有名な加賀市は、2014年には、消滅可能都市のひとつとして指摘され、1990年にピークだった8万人の人口は、2040年には半減すると予測されている。
その一方で、2016年には第1回地方版IoT推進ラボに選定され、「スマート加賀IoT推進事業」を推進。2018年以降はイノベーション関連企業と15件の連携協定を発表。2020年2月には、「加賀MaaSコンソシアム」を設置し、2020年3月には「加賀市スマートシティ宣言」を行っている。
行政サービスのデジタル化にも積極的で、2020年8月からマイナンバーカードを利用したスマホでの行政手続きが行えるようにし、年度内には50種類の行政手続きができるようになるという。さらに、電子生涯健康手帳を全国の自治体としては初めて採用。将来的には妊婦の検診情報もデジタル化するという。
「マイナンバーカードは行政のデジタル化において基本中の基本である。2020年6月には19.9%だったマイナンバーカード申請率が、10月20日時点では61.2%に達している。年度内には80%に引き上げたい。これを、民間事業にも活用してもらう基盤として利用し、ビジネスチャンスにつなげたい」とした。
マイナンバーカードとの連携を図りながら、多拠点居住による新たな働き方を提案する「加賀市版e-Residency」の検討も開始しており、仮想市民としてサービスを受けられるようにするという。
また、2015年からは、子供を対象としたロボットプログラミング国際大会である「加賀ロボレーブ」を毎年開催しているほか、2019年には、米MITが発祥となって世界18カ国に展開されている「コンピュータクラブハウス」を全国で初めて設置。子供が先進テクノロジーに触れることができ、育成できる場になっているという。
「企業との協定のなかでは、ANAホールディングスとのアバターの活用事例がある。アバターを活用して入院患者にお見舞いしたり、市役所や障がい者施設への設置、遠隔授業やオンライン修学旅行でも利用している。また、トランジェリーとは、ドローンの分野で協定を結び、エアモビリティ管制プラットフォームの構築に乗り出している。自動飛行に必要な市内全域の3Dマップを作成しており、デジタルツイン都市の実現を目指している」とした。また、2023年に予定されている北陸新幹線の加賀温泉駅の開業にあわせたデジタルツインによるまちづくりの推進も計画している。
さらに、初値で130万円の落札実績を持つぶどうのルビーロマンなどの栽培にも、IoTによるデータを活用。「ルビーロマンは、商品化率50%という厳しいハードルがあるが、データの活用により、商品化率を高め、後継者の育成や産地化にもつなげたい」としている。
なお、スマートシティ加賀への取り組みは、日本総研とIIIの支援を受けながら、2019年8月からスタート。市内の25団体が参加して官民連携協議会を立ち上げ、市民との合意を形成。データ駆動型のまちづくりを目指す「デシータルファースト」、創造的なまちづくりを目指す「クリエイティブ」、市民との共創によるまちづくりを実現する「スマートシチズン」の3つを戦略として掲げ、「人間中心の未来社会の実現を目指す」としている。
宮元市長は、「加賀市は、いろいろなことをやりすぎだという指摘もあるが、これらの取り組みは、すべてがつながることになる」と述べた。
浜松市安全×経済の「デュアルモード社会」への対応
最後に説明を行った浜松市の鈴木康友市長は、「ニューノーマルを生き抜く『やらまいか型』デジタル・スマートシティ浜松」と題して、浜松のカルチャーである「やらまいか」の精神により、変化に果敢にチャレンジし、浜松発のオープンイノベーションを起こしている内容を紹介した。
鈴木市長は、「浜松市は、よそ者に寛容であり、開放的な風土や県民性がある。外から来た人が住みやすく、働きやすい街である。また、伊豆半島よりも大きく、海、湖、川、街、山間部を有する国土縮図型都市の特徴を生かして、あらゆる実証実験フィールドを提供できる。ベンチャー支援制度に積極的であり、私自身も時間が許す限り、ピッチイベントに参加している」などと語りながら、内閣府のスタートアップ・エコシステムグローバル拠点都市に認定されたこと、市認定ベンチャーキャピタルから投資額と同額の交付するファンドサポート事業を実施していること、コワーキングスペースの整備に対する補助などを行うオフィス誘致制度や、市が運営するサテライトオフィスを都市部、湖畔、中山間に設置していることなどを紹介した。
また、浜松市は2019年10月に、「デジタルファースト宣言」を行い、「都市づくり」、「市民サービス」、「自治体運営」の3点からデジタルファーストを推進。少子高齢化や人口減少などの社会問題を、デジタルの力を最大限活用して解決。持続可能な都市づくりを行うことを目指しているという。
デジタル・スマートシティ浜松への取り組みとしては、NECのデータ連携基盤であるFIWAREを活用し、採択した8件のプロジェクトを推進している「Hamamatsu ORJ-Project」、山間部でのオンライン診療や薬剤配送などを行う「春野医療MaaS推進ブロジェクト」などを紹介。「今後は、安全モードと経済モードによるデュアルモード社会が到来する。これは新たなビジネスチャンスにつながるものである」とし、浜松市戦略計画2021の基本方針のなかにも、デュアルモード社会への対応を盛り込んでいることを示した。
また、浜松市では、飲食店を支援するため、既存のテイクアウト紹介サイトや飲食店の情報、配送事業者を結びつけるデリバリープラットフォーム「Foodelix(フーデリックス)」を構築している。すでに、市内タクシー事業者との連携による飲食物のデリバリーを開始している。鈴木市長は、この成果をほかの自治体にも提供していく考えを強調。「今後は、自治体同士の知恵の貸し借りが重要になってくるだろう」と述べた。
浜松市では、デジタル・スマートシティ浜松の推進において、デジタル・スマートシティ推進事業本部という組織を設置。これは、政府が目指すデジタル庁を、地方自治体で先行して実現したものとしても注目されている。
なお、首長サミットは、10月28日以降、オンデマンド配信が行われる。
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