イベントレポート

CEATEC 2020 ONLINE

ZoomCEOも登壇、「CEATEC 2020 ONLINE SPECIAL TALK」が注目を集める

「コロナは前例がない状況を生んだ。だが、大きなチャンスがある」

 CEATEC 2020 ONLINEのコンファレンスのなかで注目を集めたのが、開催初日の10月20日に開催された「CEATEC 2020 ONLINE SPECIAL TALK」だ。

Zoom Video Communications 創業者兼CEOのエリック・ユアン氏(右)とTreasure Data 創業者の芳川裕誠氏(左)

 「ニューノーマル時代の働き方改革、その実現に向けて」をテーマにしたこのセッションでは、第1部を「ポストコロナ時代に顧客からの信頼を勝ち取るには」と題して、米Zoom Video Communicationsの創業者兼CEOであるエリック・ユアン氏と、Treasure Dataの創業者である芳川裕誠氏が特別対談。さらに、第2部では、「日本の働き方改革を促すベンチャー精神」と題したパネルセッションを実施。ZVC Japanカントリーゼネラルマネージャーの佐賀文宣氏、WeWork Japan 最高戦略責任者の髙橋正巳氏、ブイキューブ 代表取締役社長 Founder & CEOの間下直晃氏が登場した。

第1部はZoomエリック・ユアン氏×Treasure Data芳川氏特別対談

 第1部の特別対談に登場したZoomのエリック・ユアン氏と、Treasure Dataの芳川裕誠氏の2人の組み合わせは、少し意外な感じもするが、実は、2011年に創業したTreasure Dataの最初の投資家の一人が、ユアン氏だったというつながりがある。

Treasure Dataの芳川裕誠氏

 芳川氏は、「ユアン氏は、私の長年の友人であり、メンターである。そして、その経営スタイルは、私の羅針盤である」と語り、2人の関係から話題が始まった。

 特別対談は、芳川氏による、ユアン氏への質問という形で進められた。

 芳川氏は、コロナ禍において、Zoomは欠かせないツールとなり、『Zoomする』という言葉が生まれていることに触れながら、「いま、世界を助け、世界を支えている企業のCEOであることについてどう感じているか」と問いかけた。

 ユアン氏は、「毎日が新たな課題に直面している。サーバーを増設しなくてはならないし、可用性を担保しなくてはならない。一方で、チームが常に活力があるようにしなくてはいけないという課題もある」とし、「コロナは前例がない状況を生んだのは確かだ。だが、別の観点から言えば、私たちは、ワクワクしており、我々には大きなチャンスがある。世界の人々がつながる場を提供できる」などとした。

 一方でユアン氏は、「将来の働き方は、オフィスで仕事をするのか、在宅で勤務するのかという議論がある。私はハイブリッドな働き方になると考えている。社員を惹きつけるためにもハイブリッドな働き方は必要である。だが、当然のことながら、直接会って、社会的な関わりや交流を行うことは必要である。そのために数日間はオフィスで働き、数日間は在宅という働き方が、パーフェクトな組み合わせである」と述べた。

競争相手に目を向けず、お客様を幸せにすることを考えた

Zoom Video Communicationsのエリック・ユアン氏

 ユアン氏は、Zoomの創業以前は、シスコシステムズのビデオ会議システムのWebexの開発者であったことが知られている。芳川氏は、「Webexの開発リーダーであり、シスコの経営陣の一人でもあり、居心地がいいポジションであったはずなのに、なぜ起業したのか」と質問した。

 ユアン氏は、「4カ月間、横浜に住んでいて、毎朝、東京に通っていた」という自らの経験を振り返りながら、「そのときに、マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツ氏のスピーチを聞き、大きなインスピレーションを受けた。インターネットが将来であると感じ、シリコンバレーに行かなくてはならないと考えた」という。

 シリコンバレーでは、1997年からWebexで働き始め、「その頃は、寝ずに仕事をしていた」という。その後、シスコに買収され、バイスプレジデントの座に就いたが、「ある日、朝起きたら、オフィスに行きたくなかった」という。「幸せと感じてくれる顧客がいなかった。それは私にとっても幸せではなかった。新たなものを作りたいと経営陣を説得したが、理解してもらえなかった。それで独立することになった。妻や友人からなぜ辞めるのかと言われた。ビデオ会議の新たなソリューションを作っても、すでに大きなプレーヤーがおり、誰もサポートしてくれないとも言われた。だが、サポートをしてくれる人たちが何人かいた。顧客を幸せにしたいと思った」と独立のきっかけを振り返る。

 これに対して、芳川氏は、「起業をすれば、古い友人と戦わないといけない。その点はどう考えたのか」と質問した。

 ユアン氏は、それに次のように回答した。

 「当時のWebexは、50%のシェアを持ち、リソースもある。だから、競争相手には目を向けなかった。お客様のために新たなソリューションを作るというところにフォーカスした。競合ばかりをみると、ノイローゼになる。だからお客様を幸せにすることを考えた」

 これは起業家には大切なことだと芳川氏も納得する。

コロナで広がったZoomの活用領域、遠隔診療、教育… さらには結婚まで

 コロナ禍においては、Zoomの新たなユースケースが生まれているという。

 ユアン氏は、「Zoomは、教育やイベントでも利用され、ダンススクールやチーム練習、サタデーナイトショーでも利用されいている。さらに、Zoomプラットフォームを使った結婚が認められている。これを聞いた時には驚いた。さらに、医師や医療従事者がZoomを使って、患者とつながり、遠隔地からアドバイスをすることができる。遠隔医療はこれからも増加していくだろう。世界のどこにいても治療を受けることができるようになる」と紹介。芳川氏も自らが投資をしているテキサス州のスタートアップ企業が、Zoomを使って消費者に商品を販売したり、9歳の自分の子供がZoomを使って、コミュニケーションを行っている事例を紹介し、Zoomの活用領域が広がっていることを裏づけた。

企業に大事なのは「信頼」、多くの起業家が日本から出てきてほしい

 最後のテーマとして芳川氏があげたのが、「信頼」という点だ。

 ユアン氏は、「Zoomは、社会や顧客、企業に目を向けることを基本姿勢としている。顧客を理解することが大切である」としながら、「日本のお客様にも多くのサポートをもらって感謝している。楽天やソフトバンクといったパートナーからも、素晴らしいフィードバックをもらっている」と語る。

 そして、「多くの企業が、変革を求められているなかで、消費者や市場とどうやってつながっていくのかということを考えなくてはならない。これは、信頼の構築の仕方が変わるということでもある。信頼がすべてであり、信頼がすべてのものの基礎になる」とする。

 Zoomは、急速な利用者の拡大とともに、セキュリティ面での遅れが一時問題となった。だが、その際の対策は迅速であり、同時に透明性を持った活動が評価された。

 「この数カ月で学んだのは、信頼を得るためには、やっていることに透明性があること、オープンであることが大切だという点である。なぜ問題が発生したのか、どう修正をして、どう改善するのかをオープンに伝えることが大切である。これが学んだことである。情報を共有し、将来の計画をどう構築するのかを示す。そこに、顧客からのフィードバックを得て、信頼を構築する。新たな機能を出しても、信頼できない企業だと思ったら使ってみたいと思われない。フィードバックももらえない。だが、顧客が信頼してくれれば、どんな課題でも時間をくれる、フィードバックもくれる。信頼がなければ持続可能なビジネスは難しい」

 特別対談の最後に、ユアン氏は、「日本の文化はチームワークの強さである」としながら、「多くの起業家が日本から出てきて欲しい。ともかくやってみてほしい」と呼びかけた。

第2部パネルセッションにはMM総研関口氏、ZVC Japan佐賀氏、WeWork Japan髙橋氏、ブイキューブ間下氏が登壇

 第2部では、MM総研代表取締役所長の関口和一氏がモデレーターとなり、「日本の働き方改革を促すベンチャー精神」をテーマに、ニューノーマル時代において「旬」な企業とされる、ZVC JapanWeWork Japanブイキューブのトップによるパネルセッションが行われた。

(右から)WeWork Japan 最高戦略責任者の髙橋正巳氏、ブイキューブ 代表取締役社長 Founder & CEOの間下直晃氏、ZVC Japanカントリーゼネラルマネージャーの佐賀文宣氏、MM総研 代表取締役所長の関口和一氏
ZVC Japan佐賀氏「Zoomで、地域の壁、時間の壁、言葉の壁を乗り越えられる」

 ZVC Japanカントリーゼネラルマネージャーの佐賀文宣氏は、「この半年間で、リモートで会議に参加したり、会ったりすることがスタンダードになった。だが、大切なお客様には早く会いに行きたい、社員同士も会いたいという気持ちが高まっている。対面によるプレミアムコミュニケーション、Zoomによる新たなスタンダードコミュニケーションの2つのコミュニケーションが、コロナ終息後には、パランスよく活用されることになるだろう」とした。

ZVC Japanカントリーゼネラルマネージャーの佐賀文宣氏

 また、公衆電話ボックスが、スマホの普及によって減少したが、Zoomの普及によって、プライバシーとセキュリティを担保する形でZoomボックスのようなものが求められるようになってきたこと、顧客向けサービスのなかにZoomを組み込んで利用する企業が増えてきたこと、リモートワークでメリットがあった人となかった人によるリモートワーク格差が生まれていることなどに触れながら、「Zoomを使うことで、地域の壁、時間の壁、言葉の壁を乗り越えられる」などとした。

電話ボックスに代わるZoomボックスでプライバシーとセキュリティを担保

 今回のパネルセッションでは言及されなかったが、Zoomの日本における事業成長を著しく、同社による、10以上のライセンスを利用するビジネスライセンスの企業顧客数は、1年前には2,500社だったものが、現在は2万社に増加。パートナー数は、5社から300社以上に増加。日本法人の社員数は20人から65人に増加。そして、国内売上げは10倍に達しているという。

WeWork Japan髙橋氏「新時代のオフィスに求められるのはチームワークの向上、横断コミュニケーション」
WeWork Japan 最高戦略責任者の髙橋正巳氏

 WeWork Japan最高戦略責任者の髙橋正巳氏は、「コロナ後も、多くの企業がリモートワークと通常勤務の両立を検討している。また、今後の働き方のテーマは、多様な働き方、従業員の生産性、従業員の満足度のバランスを取ることである。会社に行くということが仕事をしている証であったが、これからは、仕事の中身や目的で、最適な場所を選ぶことになる。そして、仕事の成果が重視されるようになる。そうした新時代に求められるオフィスが果たす役割は、多様な働き方の選択肢を提供すること、チームワークの向上、横断的なコミュニケーションを創出する役割になる。快適な環境の整備や、コミュニケーションは今後も大きな課題になる。WeWorkは、それを解決したい」と述べた。

今後の働き方のテーマ

 WeWorkは、38カ国150都市843拠点でフレキシブルオフィスを展開。月単位での契約が可能であり、1人から数100人まで利用が可能だ。日本では2018年2月に第1号のオフィスを開設。現在、メンバー数は2万3000人以上、6都市に36拠点を展開しているという。

 「外資系企業や日本を代表する大手企業、自治体など、業種を超えたメンバー(入居者)がおり、コミュニケーションできる点も特徴である。また、新たな働き方を支援するオンラインストアと呼ぶサービスも用意している。新たな時代の働き方のプラットフォームになりたい」と述べた。

ブイキューブ間下氏「Zoomなどのツール活用には会社の文化を変えたり、定着させたりすることが必要」

 米ロサンゼルスからリモートで参加したブイキューブ代表取締役社長 Founder&CEOの間下直晃氏は、「従来は、こうしたパネルセッションに、オンラインでないと参加できないというと出席を断られたが、いまはこれが普通になってきている。ビジネスも生活もリアルとオンラインを自由に選択できる世の中にしていくことが大切であり、それが生産性向上、リソースの有効活用につながる」としながら、「ブイキューブは、ビジュアルコミュニケーションに特化した企業である。だが、当社独自のV-Cubeミーティングや、当社も取り扱っているZoomなどのツールだけを提供しても使いこなせないという企業が多い。活用するには、会社の文化を変えたり、定着させたりすることが必要であり、そこに向けて業界ごとの商慣習や、業務フローにあわせた業界特化モデルのサービスを提供しているのが当社の特徴である」と説明。

ブイキューブ 代表取締役社長Founder&CEOの間下直晃氏

 さらに、リモーワークスペースであるTELECUBEを製品化し、JRや私鉄の駅、空港、スーパーマーケット、シェアオフィスなどに設置していることを紹介。「テレワークや、リモートでコミュニケーションをする場所が家庭や会社以外にも必要になってきている。TELECUBEは、コロナ以降に注目を集めている」などとした。

リモーワークスペース「TELECUBE」

「CEATEC 2020 ONLINE SPECIAL TALK」10月28日以降、オンデマンド配信予定

「個人を支援する仕組みが必要」

 一方、ニューノーマル時代の働き方においては、ブイキューブの間下氏は、「生産性をあげられる新たなコミュニケーションへと改革ができた会社と、できていない会社との差がこれから広がる。柔軟な働き方を採用していない会社には、いい人材が集まりにくくなる社会がやってくる。コロナ禍で文化が変わり、企業のルールもそれにあわせて変わってきた。あとは労働や医療などに関わる規制が変わらなくてはならない。ただ、競争の観点から企業間の格差は生まれても、個人の格差があってはいけない。個人を支援する仕組みが必要である」と指摘。

「現場へのリモートワーク実施に向け、取り組まなければならない」

 ZVC Japanの佐賀氏は、「オフィスワーカーにとっては、旅行しながら働けるなど、未来は明るくなっていくが、現場で働く人たちにはその恩恵がない。現場へのリモートワークの実現に向けて、発想力と勇気を持って取り組んでいかなくてはならない。一方で、これまでは本社オフィスでの会議が中心で、そこにリモートで接続するという関係であったが、今後の会議はバーチャル空間が中心となり、会議室もひとつの接続先になる。これからはZoomによるコミュニケーションが当たり前という子供たちが出てくるだろう。そのナレッジが活用されるようになる」と発言。

「前例がないことを恐れないことが大切」

 そして、WeWork Japanの高橋氏は、「リモートで働けるようになると、世界中の優秀な人材を日本の企業が得られるようになる。海外の知見や事例が、日本の企業に生き、日本の競争力向上につながることになる。リモートワークやサテライトオフィスは、まず体験をしてみることが大切である。使ってみるためのハードルを下げ、取り入れることを奨励する制度を整備する必要がある。前例がないことを恐れないことが大切だ」などとした。

 なお、CEATEC 2020 ONLINE SPECIAL TALKは、10月28日以降、オンデマンド配信が行われる。

「CEATEC 2020 ONLINE」レポート記事一覧