イベントレポート

AI/SUM & TRAN/SUM with CEATEC 2020

平井デジタル相、新設デジタル庁は「とてつもない権限」とスタートアップ精神で、まずIT基本法改正

──AI/SUM & TRAN/SUM with CEATEC 2020より

 デジタル庁の立ち上げではIT基本法を「抜本的に改正」し、政治主導の「とてつもない権限」を持たせ、スタートアップ企業のようなスピード感で立ち上げる──平井卓也デジタル改革・IT担当大臣(以下、デジタル相)は来年(2021年)中の立ち上げを目指す「デジタル庁」についてこのように語った。

平井卓也デジタル改革・IT担当大臣

 2020年10月21日、平井デジタル相は「デジタル庁のミッションとは」と題して、AI(人工知能)を中心テーマとするイベント「AI/SUM & TRAN/SUM with CEATEC 2020」で講演。冒頭の発言は、講演内容から抜き出したものである。

 この記事では、以下に平井デジタル相講演の全貌をお伝えする。読みやすいよう発言内容を整理しており忠実な書き起こしではないが、講演内容はほぼ漏れなく伝える形とした。日本政府が「デジタル庁」で何を考えているのかを把握し判断する手がかりとしていただきたい。

「新型コロナを機に世の中は変わった」デジタル政策の優先度が急上昇

 (平井氏は)1年前にもIT政策担当大臣をしていたが、その所掌と権限では日本のデジタル化はうまくいかない。省庁横断で強い力で一気にするべきだと、昨年(2019年)9月の大臣退任のとき記者会見でお話した。

 私は自民党デジタル社会推進特別委員会の委員長をしていた。それが「自民党デジタル社会推進本部」に格上げとなり、キックオフを行った。多くの議員が集まった。

立法だけでは変化が進まない、新型コロナを機に動く

 2001年にIT基本法(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法)が施行された。自民党のe-Japan重点計画特命委員会(委員長は麻生太郎氏)が源流にある。

 それから約20年。その間、2013年には政府CIO法で政府CIO(内閣情報通信政策監)を定め、横串の機能を持つようにした。2014年には、私(=平井氏)が主導したサイバーセキュリティ基本法を定め、省庁横断のミッションをNISC(内閣サイバーセキュリティセンター)が負う形とした。2016年、官民データ活用推進基本法を定めた。2016年当時はデータの話をしてもピンとこない方々が多かったが、今ではどこにいってもデータの話をしている。世の中は変わった。2019年にはデジタル手続法を成立させた。デジタルファースト、ワンスオンリー、コネクテッド・ワンストップを明記した。

 しかし、法律ができても一気には動かない。マインドセットを変えなければいけない。そのきっかけは、今回のCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)だ。(新型コロナウイルス感染症が流行した)2020年は、後から振り返って大きな歴史の転換点になる。

「デジタル敗戦」を振り返る

 デジタル社会推進特別委員会の委員長をしていたとき、あえて「我々はデジタル敗戦」「今まで投資してきたインフラやIT政策が国民の期待に全く応えることができなかった。なぜだろう」と言ってきた。その反省に沿って、自民党デジタル社会推進特別委員会で「デジタルニッポン2020」という約200ページの提言をまとめた。今やろうとしていることの多くが、その中に書かれている。

「デジタルニッポン2020」資料より

 「デジタル敗戦」の意味はなにか。日本は、例えばアメリカ、ヨーロッパ、中国と比べて光ファイバーや携帯の通信カバーエリアのようなインフラでは決して負けていない。高度情報通信社会のインフラを整備することはIT基本法の目標でもあった。その目的は達成したが、パフォーマンスが悪かった。すべてが「中途半端」な状態になっていたのではないか。

(10/22 12:00更新)記事掲載当初、編集部のミスにより誤った図を掲載しておりました。お詫びして訂正させていただきます(編集部)

デジタル政策の優先度が急上昇

 政府の経済と財政の方針を決める2020年の「骨太の方針」には「デジタル」という言葉が105回も出てくる。過去を振り返ると、2016年は1回も出てこない。2017年が3回、2018年が9回、2019年が53回、そして今年が105回と急増した。

 デジタル政策の優先度が上がり「一丁目一番地」になったのは日本ではこれが初めてだ。世の中のデジタルへの関心も高まってきた。

DX(デジタル・トランスフォーメーション)、規制改革を重視
平井卓也デジタル改革・IT担当大臣

 日本の今までの状況を考えたとき、デジタル化で「今までのやり方を根本的に変える」ことが必要。DX(デジタル・トランスフォーメーション)の「トランスフォーメーション(変革)」の方が重要だ。

 今、河野大臣と2人で規制改革を進めている。根本的に見直して進むものも多い。例えばハンコの問題はマスコミで面白おかしくとりあげられているが、あれも三文判は本当に押す意味があるのか、ないならやめてもいい、という単純な気持ちからスタートした。それ以外にも、教育、医療、防災など、すぐ変えられるものはデジタル庁がスタートする前にも進める。

政治家だけで「やること」を決める会議を開催

 毎週必ず一つか二つは「いつまでに何をやる」とコミットする、それを政治家だけで決める会議、ツープラスワンを開催している。ボトムアップではない。事務方にとっては困る事もあるが、政治家が腹をくくればできることはある。

IT基本法を大改正、ワーキンググループに村井純氏が参加

 まずIT基本法を抜本的に改正し、デジタル化のプロセスを透明にして「なぜやらないといけないのか」を示したい。そのためのワーキンググループがすでに発足している。村井純先生に座長を引き受けて頂いた。活発な議論を交わしている。

高齢者にも優しい、日本流のデジタル社会を

 目標は、極論すれば「デジタルを意識しないデジタル社会」。クオリティ・オブ・ライフが高い生活とはどういうものか。今回、ワーキンググループに入って頂いた80歳越えのプログラマ若宮さんには著書「老いてこそデジタルを。」(若宮正子、2019年)がある。高齢者にも優しいデジタルを考えていく。

 日本のデジタル社会は"no one left behind"、「誰一人取り残さない」ことを重視する。デジタル機器のアクセシビリティやUI/UXでデジタル格差を作らないことが重要だ。

 中国が進めるデジタル化、アメリカのようなGAFA(巨大IT企業)主導のデジタル化、どちらも日本には馴染まない。目指す社会像が違う。我々はプライバシーなどに最大限配慮しながら、人間を大切にするデジタル社会をどう作るかに挑戦するべきだ。

ユーザービリティを重視

 今までの国のシステム開発では、システム運用管理側の都合を重視し、ユーザー側の使い勝手は最後に考えていた。その発想を根本的に変える。国民からみれば、「その手続きは何省の管轄なのか」は関係ない。国民との接点から、バイデザインで作っていく。

 UI/UXは重要だ。「もし高齢者や障害者にとって使い勝手が悪いなら、それは開発した方が悪い」というぐらいの覚悟で進めていかないといけない。

「とてつもない権限」でデジタル化を推進

デジタル庁は「規制改革の象徴」、法改正を一気に

 今回、「規制改革の象徴」であり、なおかつ「成長戦略の柱」との指示のもと、デジタル庁を創設する。標語として"Government as a Startup"を掲げた。目標は"Government as a Service"、国民を幸せにするサービスだ。

 新しい省庁をフルスクラッチで1年で作るのは、今まで誰も挑戦したことがない。企業でいえば「スタートアップ企業を立ち上げてから1年で上場しろ」というスピード感に近い。今までの役所の常識にとらわれていては時間が守れない。そこでマインドセットを変えることからスタートし、1カ月がたった。

 (2020年)年末には基本方針を作る。11月半ばすぎには予算も決めていく。おのずと(デジタル庁の)サイズも決まる。

 今後、IT基本法の抜本的改正案、(デジタル庁の)設置法、番号法、個人情報保護法など、法案を一気に出す。法案が通った段階で、今の法案準備室がデジタル庁準備室に変わり、来年中に新組織を発足させる。

デジタル庁は霞ヶ関の常識とは違う役所に

 (デジタル庁は)最初のうちは定員をフルに充足した組織にするのは無理だろう。今までのシステムの作り方を根本的に変えることに賛同して一緒にやってくれる人を探し、そういう人達を中心にやっていかなければプロジェクトはうまくいかない。

 党の会議でも「今までの霞ヶ関とは違うものにしてくれ」と言われている。例えばエンジニアの多くはリモートで働けるようにするし、Tシャツとジーンズで働くのもOKだ。どこかのビルに全員が入って、スーツにネクタイで仕事する形にはならない。

広く一般の声を聞きたい

 大臣(平井氏)が自ら準備室の室長をしているのは、一般の方々の意見を広く聞く意味もある。(Web経由で意見を出せる)「アイデアボックス」には、私はほとんど目を通すようにしている。中学生からお年寄りまで前向きな書き込みが多い。

「とてつもない権限」で進める

 (デジタル庁)では「縦割り行政の打破、規制改革」が前面に出ている。縦割りの打破とは、別々の会社(役所)が別々のサービスを提供していた状態を、国民目線で一つのサービス形態として欲しい、ということなので、「とてつもない権限」をデジタル庁に持たさないとできない。今までの内閣官房による総合調整というやり方では無理だ。予算や、システムを設計して作っていくための権限は、ぜんぶ他の省庁から頂く必要がある。

 これは大変なことだが、村井先生はこの話を聞いて"It's now or never"(いましかできないじゃないか)とつぶやいた。その通りだ。相当なスピード感で、デジタル庁が時代の閉塞感を打ち破ることができる。

 「システムのアーキテクチャを根本的に変える」といういままでできなかったことにデジタル庁では挑戦したい。

 データについても、ベース・レジストリの問題から日本はバラバラだ。データガバナンスのオーソリティの機能もデジタル庁に持たせたい。

変更を躊躇しない

 今、方針を決めているが、絶対に変えてはならない基本原則はいくつかある。国民の方を向いたシステムを作る、プライバシーと個人情報保護とセキュリティと情報の利活用のバランス、デジタル庁の目指す世界観のような譲れないものはある。だが、それ以外のことは変更自由にしたい。決めたことに縛られるとデジタル庁は立ち行かなくなる。アジャイルガバナンスと呼べるかもしれない。正解が最初から分かっている訳ではない。皆さんと一緒に考えて、実行に移していく。

まずIT基本法改正の議論に注目

 以上が、講演内容の記録である。デジタル庁の全貌はまだ見えていない段階だが、現時点で注目したいことは平井デジタル相が「IT基本法の抜本的改正」を足がかりとして「とてつもない権限」でデジタル庁の設立を進める姿勢を示したことである。日本経済への影響という視点からも、企業のビジネスチャンスを探る観点からも、一人の国民として身の回りのどのような変化が起きるのかを知る立場からも、今後のIT基本法の議論がどのように進み、どのような改正案が出てくるのかには注目しておくべきだろう。

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