イベントレポート

CEATEC 2020 ONLINE

村井純教授が基調講演「インターネットでグローバルパンデミックに立ち向かえた」CEATEC 2020で

「デジタル化は進めるが、一人も置いてきぼりにしないことが大切」

 CEATEC 2020 ONLINEの開催初日の2020年10月20日午前10時55分から、慶應義塾大学の村井純教授が、「パンデミックを経たインターネット文明」と題した基調講演を行った。

慶應義塾大学の村井純教授

インターネットでグローバルパンデミックに立ち向かえた

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、社会環境や生活が大きく変化するなか、「インターネットを開発したり、社会に広げたりすることに長く携わってきた立場としては、ぎりぎり間に合ったな、という感覚が、正直なところである」とし、「もしインターネットが人々の生活に届くことが間に合っていなかったら、どうなっていたのだろうか。考えることができない状況になっていたのではないだろうか。気がついてみれば、インターネットやデジタルテクノロジーが、社会や生活のなかに浸透していた。それを利用して、グローバルパンデミックの時代に立ち向かえたことを、世界中の人たちが感じたことだろう」と切り出し、「文明は、道具を生み出して、道具を用いて、社会を構築することによって生まれるが、デジタルテクノロジーやネットワークをベースにしたインターネット文明を作り上げたところに、パンデミックが起こった」と、今回の講演テーマの意味を示した。

慶應義塾大学の村井純教授

 また、村井教授が2000年に日本のIT政策に関わってから、ちょうど20年を迎えたのが2019年であり、「次の20年に向けて見直しを行ったり、新たなモデルを考えたりする時期に到達し、その議論を開始したところであった。20年間でうまくいかなかったこと、うまくいったことを認識して、次の10年を考える節目であった」とする一方で、「インターネットの基礎研究がスタートして、50年目の節目が2019年であった。World Wide Web(WWW)が生まれたのが1989年であり、ちょうど30年目の節目であった」とし、「2019年は、日本のIT政策の開始から20年、ウェブの開始から30年、インターネットの研究開始から50年という節目であり、次の20年、30年、50年をそれぞれ考える年であった。そこに新型コロナウイルスが、私たちにチャレンジをしてきた。何10年も先のビジョンを持ちながらも、この経験をどう捉えていくかということを考える時期でもあった」とした。

20年先に起こると思われていた「おうち完結生活」を今経験

 新型コロナウイルスの影響によって、多くの人が「自宅ですべてのことをやる」、「家族はバラバラにオンライン」、「オフィスにいかなくても仕事をする」、「家の近所をオフィスにする」、「学校がオンライン授業の拠点になる」、「医院や病院に行かずに診療を受ける」、「コンサートやイベントが普通に開催できない」、「3食家族全店が自宅で食事」といった経験をしたことを示し、それに関わるエピソードなどを披露した。

新型コロナ禍でのDXに関する経験

 「自宅で、家族それぞれがすべてのことをやることになった。家族がバラバラにオンラインで仕事をしたり、買い物をしたりといったことが行われた。もし、ここにインターネットがなかったらどうなっただろうか」としながら、「だが、もともと自宅ですべてのことをやる環境にはなっていなかった。共働き世帯では、ダイニングで仕事をする際に、お互いにミュートをして、ミュートを外すときには目配せして、声が入らないようにするといった苦労があったり、猫の煩ささが気になったりした。ご主人が割を食って、風呂場のエコーが多いなかで仕事をしたり、ベランダで汗だくになって仕事をしたりしたという報告も聞いている」と話した。

 また、「カーシェアリングやレンタカーでは、走行距離がゼロで返却されるケースが増えたという声も聞いている。駐車場においたまま、エアコンをかけて仕事をするという借り方である。また、オンライン授業が進展したが、学校側の準備ができていない、先生たちが経験がないという課題もあった。医院に行かなくても、オンラインで診療が受けられたり、オンラインでコンサートやレッスンに参加できたりといったことも可能になった。飲食業界でもインターネットを使って、デリバリーをする動きが起きた」などと述べた。

 ここで村井教授が映し出したのが、東工大が作成した「未来シナリオ」である。このなかで、2040年の社会として予測されていたのが、「おうち完結生活」であった。「20年先に起こると思われていたことを、いま私たちは経験してしまった。未来だと思っていたことが、周りでいろいろと起こっている。この10カ月は、DX(デジタルトランスフォーメーション)という観点からも、とんでもない経験をしたことになる」と位置づけた。

東工大制作の「未来シナリオ」

行政サービスのIT化は「圧倒的」にできていなかった

 続けて触れたのが、日本のIT政策に関してだ。

 村井教授は、この20年のIT政策を振り返り、「1999年の小渕政権をきっかけに、2000年から開始した日本のIT政策は、理念を示す基本法と、それを実行する体制をセットにして、大きく3つのアクションが取られてきた」とする。

慶應義塾大学の村井純教授

 たとえば、2000年に施行された「IT基本法」では、誰でもがブロードバンドにアクセスし、インターネットを使える国にすることを理念に掲げ、それを実行するための組織として内閣IT総合戦略本部を設置した。2014年には、サイバーセキュリティ基本法に基づき、内閣サイバーセキュリティ(NISC)のチームが、内閣IT総合戦略本部から独立した。さらに、2016年には「官民データ活用推進基本法」が施行され、デジタルデータを有効に活用することで、データ活用戦略会議が行われてきた。

過去のデジタル化の経緯から学ぶ

 「日本政府は、IT基本法を20年ぶりに作り、デジタル庁をはじめとして、どういう体制で推進するかを考えているところである。新型コロナウイルスの経験を生かして、軌道修正をしたり、新たな力を加えようとしている」とし、「過去の取り組みを振り返ってみると、ブロードバンドアクセスの整備については、2005年までの目標に対して、2003年に前倒しで達成をした。日本のインターネットインフラ環境は優れている。コロナ禍において、家庭のなかでビデオ会議を行うことが一気に増え、家庭から出ていくインターネットバウンドのトラフィックが、ここまで増えるとは思っていなかったし、準備もしていなかった。」

 「だが、結果としては、インフラはびくともしなかった。LTEの普及もあり、モバイルネットワークも高速である。これは、日本における成功例であったといえる。問題はハイウェイを走る自動車がないといけないが、高速ネット環境の利活用については失敗だったと思っている。民間サービスやビジネスはそれなりにできていたが、これが世界のなかで戦ってきたかというと不満が残る。とくに、『圧倒的』といえるほどにできなかったのが行政サービスである。医療や教育、行政の窓口サービスは手がつけられていないといえるほど利活用がすすんでいない」と指摘した。

日本が最も成果をあげたDXは地上デジタル放送への完全移行

 新型コロナウイルスでは、IT化の遅れが指摘され、日本は「デジタル敗戦」と揶揄されたことに言及しながら、「日本が最も成果をあげたDXが、2011年7月の地上デジタル放送への完全移行である。また、2016年の官民データ活用推進基本法によりオープンデータ化に取り組んだことも大きな成功例である。3年はかかったが、地方自治体がオープンデータに取り組んでいる。日本にはDXの成功例がある」とした。

 また、「地デジへの完全移行では、国民全員がテレビを買い換えた。いまやブラウン管テレビは1台もない。放送局も設備を変えた。エコポイント制度の仕組みも導入し、最後にはお助け隊が結成されて、自治体が移行を支援した。すべてのステイクホルダーが力をあわせた。この考え方があれば、ニューヨークがアーティストを対象に、ロックダウンの翌日には600ドルを支給したように、日本でも同じことができたかもしれない」などと述べた。

過去の失敗・成功
デジタルテレビにおけるトランスフォーメーション

デジタル化はいい訳なしで進めるが、一人も置いてけぼりにしないことが最も大切

 最後に、村井教授は、「デジタルトランスフォーメーションのすすめ」と題したスライドを映し出しながら、「私の妄想がかなり入ったものであり、真に受けないでほしい」としながらも、DXにおける重要なポイントについて語った。

 村井教授は、「デジタル化はいい訳なしですすめるが、一人も置いてけぼりにしないことが最も大切である。実際には、デジタルを使えない人や、使えない業界があり、全部救えないかもしれないが、だからやらないということとは話が違う。地デジのときは、最後は地域の人が助けて、テレビが映るように支援した。国も支援した。たとえば、デジタル化において、日本中の大学生や高校生に、お助け隊の資格を認定して支援をしてもらえば、即戦力になるし、地方の活性化にもつながる。また、締め切りを決めてやるのは、役所を中心に日本は苦手なところがあるが、これもやっていく必要がある」と語った。

デジタルトランスフォーメーションのススメ

 また、「すべての避難所をインターネットアクセスが可能になるようにしたい。教育の観点からインターネットを整備すると、教室はつなぐが、体育館はつながないということが多い。もし、すべての避難所をつなぐといえば、公共の場所はすべて避難所になり、縦割り組織の弊害によって整備されないということがなくなる。私のところにも避難所にインターネットが敷かれていないという声がたくさん届く。インターネットはライフラインである。これを整備しなくてはならない」と語ったほか、「地方の大学が世界にオンラインで発信するためには、放送事業者の力が必要である。MITには、大学のなかに150人以上の放送スタッフがいる。これと同じように、日本では、地方の放送局と地方の大学が一緒になって、地元の先生が持つすばらしい知恵を、すばらしいコンテンツとして世界に発信してもらうことで、地域や教育の活性化につなげことができるだろう。東京一極集中の解消にもつながり、次の世代を、たくましく育てることができることになつながる」と提言した。

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