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JEITA新会長に日立製作所CEOの小島啓二氏が就任、DX推進などのほか人材育成、生成AI活用にも積極姿勢

 一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の新会長に、株式会社日立製作所の小島啓二社長兼CEOが就任し、2023年6月1日、記者会見を行った。

 小島新会長は、「幅広い産業の会員企業と連携し、政府をはじめとする関係各所とも密に連携しながら、課題解決や競争力強化、新たな市場創出に取り組むことで、Society 5.0の実現につなげていく。社会のDXをより加速させることが、未来社会への貢献になる。デジタル産業の業界団体として、社会の期待に応え、責務を果たしていく。JEITAは今年で75周年を迎える。社会とテクノロジーの進化とともに歩んできた歴史の重みを感じつつ、JEITA会長として、デジタル産業をさらに発展させるために尽力する」と抱負を述べた。小島会長の任期は1年。

2023年度は大きな転換点、取り組む3つの施策

JEITAの新会長に就任した日立製作所の小島啓二社長兼CEO

 2023年度のJEITAの取り組みについて小島新会長は、「大きな社会変化や、急速なテクノロジーの進化によって、大きな転換点に直面している。JEITAは、デジタル産業を代表する業界団体として、社会からの期待に応え、責務を果たしていかなければならない」と前置きし、3つの施策を挙げた。

 1つめは、「テクノロジーの進化と社会との調和に貢献」である。社会全体のデジタル化が過去に例のない勢いで進展し、生成AIをはじめとするテクノロジーが、企業活動のみならず、日々の暮らしに浸透している。小島新会長は、デジタル化が社会全体の利益となり、その恩恵を誰もが享受できることが望まれていることに触れながら、「生産性向上や働き方改革といった身近な課題から、カーボンニュートラルのような地球規模の課題に至るまで、社会課題解決の鍵は全てデジタルにあるといっても過言ではない。テクノロジーの進化にキャッチアップし、継続的なデジタル化投資が行われるように、事業環境の整備を推進する」と述べた。

 またテクノロジーが進化するスピードと、社会がそれらをきちんと受け入れ、適応するスピードに差があることを指摘。「そのギャップを埋めるための環境整備を推進し、デジタルイノベーションと、社会制度や法制度などの歪みを是正する取り組みなどを通じて、調和のとれた社会実装を進めたい」とした。

 一例として挙げたのが、2023年4月に、JEITAのスマートホーム部会が公開した「IoTプライバシーガイドライン」である。「消費者が安心してスマート家電などを使えるように、懸念を払しょくする取り組みは、結果として市場の拡大につながる」と述べた。

 「国や地域を超えた連携、調和も大切である」として、AIガバナンスやDFFTなどにおける国際連携の重要性にも言及。JEITAをはじめたしたG7各国およびEUのデジタル業界団体が連携した「Tech7」の活動を強化することも示した。

 2つめが、「デジタルによる課題解決をさらに推し進め、社会に貢献する」ための取り組みだ。「サプライチェーン全体のCO2排出量の見える化をはじめ、データの共有、連携・活用など、デジタルによって課題解決を図るべき分野は多く存在している。こうした社会課題は、企業1社だけで解決するのは難しく、仕組みづくり、仲間づくりが大切になる」とし、「こうした活動こそ、JEITAの特性を生かして取り組むべき分野だと考えている。会員各社から持ち込まれる共通課題について、JEITAの持つリソースやネットワークをフルに活用して、デジタルによる解決に向けたアプローチを推進する。会員をはじめとする幅広い産業の企業と密に連携しながら、制度や規制などの事業環境整備を、国内外の関係機関へ働きかけていく」とした。

 JEITAでは、カーボンニュートラルを実現するための活動を行う「Green×Digitalコンソーシアム」の事務局を務めており、サプライチェーン全体のCO2排出量の見える化などに向けた実証実験などに取り組んでいる。

 「デジタル化の進展によって、業界の垣根を超えて活動することが重要な時期に入っている。縦割りの活動では限界があるが、JEITAはさまざまな業界から会員企業が参加し、世の中の流れに対応できる体制になっている。会員各社にとっても分かりやすいメリットがある。その象徴的な取り組みが、Green×Digitalコンソーシアムによるカーボンニュートラルにおけるサプライチェーンの可視化の取り組みとなる」と述べた。

 3つめが、「次世代の担い手育成への貢献」である。小島新会長は、「デジタルの活用は常に進化し、新しいアイデアと技術を生み出し、自らをも変化させる柔軟性が求められる。その鍵を握るのは次世代の担い手である。DXやGX(グリーントランスフォーメーション)の基盤を支える人材は、デジタル技術を提供する企業のみならず、デジタル技術を利用する企業や政府機関などにおいても不可欠である。意欲ある人が、デジタルの素養や知識を、学び直しも含めて広く習得することができるよう、会員企業と協力して、多様な機会を提供していく」と述べた。

CEATECを通じ、次世代デジタル人材を育成

 JEITAが毎年秋に開催しているCEATECが、次世代の担い手育成の場になると位置づける。「CEATECは、デジタルソリューションのほか、電子部品や半導体企業、次世代を担うベンチャー企業、海外の企業が一堂に会し、幅広い製品やサービスを披露する複合展示会である。社会全体にデジタルの価値を発信し、デジタル社会のあるべき姿を問いかける場こそがCEATECの本質である」という。

 「未来を切り拓く若い世代の人たちが、最新のテクノロジートレンドに触れ、デジタルそのものへの興味や理解を促進し、進化し続けるデジタル産業にも関心を持ってもらえる場にしたい」とし、「これからは、サイロ視点ではない人材が必要であり、そうした次世代人材の育成にも力を注ぎたい」と述べた。なお、今年のCEATECは、2023年10月17日~20日までの4日間、千葉市の幕張メッセで開催する。

コロナを契機とする変化や企業だけでは対応しにくい問題を捉える“3つの観点”

 また、会見のなかで、小島新会長は、社会の変化を、3つの観点から捉えてみせた。

 第1の観点は「新型コロナウイルスを契機としたデジタル化の加速」である。「日本ではこれまで難しいとされたリモートワークが広く導入され、社会全体で大きな行動変容が生じている。アフターコロナで人の交流は戻りつつあるが、デジタルによる社会および経済の変革は、AIをはじめとする技術の急速な進歩によって、今後ますます加速していくだろう」とした。

 第2の観点は「企業行動に対する価値認識の変化」だ。「気候変動や人権への取り組みなど、経済価値以外のものも的確に把握し、開示することが企業価値に直結する時代となった。取り組みを見える化するにあたり、デジタル技術の活用が必要不可欠となる」と述べた。

 そして、第3の観点として「経済安全保障の確保」を挙げた。「企業1社だけでは解決が難しいサプライチェーンの問題が顕在化している。半導体は国の安全保障を確立する上でキーコンポーネントとなり、政府は、日本の半導体製造基盤の強化、サプライチェーン強靭化の政策を進めている。地政学的リスクの高まりから、経済安全保障に対する取り組みは待ったなしの状況にある」と指摘した。

 特に半導体に関しては、「さまざまな産業の基盤になることから、開発、製造から利用、応用に至るまでの垂直統合の構造を作りあげ、それぞれを強くすることが、日本にとって重要である。JEITAの半導体部会からも政府に提言し、議論を進めており、日本の半導体産業をもう一度強くしていくことに貢献したい」と述べたほか、「経済安全保障に関しては、複雑な要素が絡み合っている。半導体のように明確化しているものだけでなく、今後出てきそうな課題をリストアップし、準備をしておく必要がある。対応力をつけることが大切だ」とした。

 また、「日本のIT・エレクトロニクス産業は、部品や製造装置、ITソリューションといったような、幅広い領域で強みがある。デジタル化やカーボンニュートラルの動き、国際協調や地政学的リスクなどがあるなかで、日本の強みを世界に発信することがますます大切になってくる。日本は、成長モードの入口にある。成長していくという日本の立ち位置を、世界に発信していくことが大切だ。日本は、なにが強みで、なにを補完していかなくてはならないのか、それによってどんな成長を遂げることができるのかを示したい。日本には成長する力があり、JEITAもそのドライブを支援したい」と語った。

高度化する生成AI、国全体で取り組み、説明性・透明性の確保も重要

 話題となっている生成AIの社会実装への課題については、「AIは、計算能力があがり、大規模言語モデルを作れるようになったことで、人間と遜色がないレベルに到達している部分もある。これを産業、生活、社会のなかで、どう生かしていくかが、日本の成長にとって重要な点になる」と、積極的な姿勢を示した。

 「少子高齢化のなかで、労働生産性を高め、効率性をあげていくための切り札になるのが生成AIである。生成AIを強くしていくことは、日本全体で取り組むべき重要なテーマである。JEITAでもAIに関する取り組みは進めてきたが、さらにギアアップした活動が必要になる。DXの進展や、日本が成長モードに入るなかで、生成AIは重要な位置づけを占める。Society 5.0の実現に向けても重要になる技術である」と位置づけ、「日本でも差別化できる大規模言語モデルを開発できるだろう。それをうまく使うにはどうするか、その際に著作権をどうするか、といった課題を乗り越える必要もある。大規模言語モデルを開発するためのデータセンターを強化したり、スタートアップ企業をはじめとしてアイデアを持っている人が、自由に使えたりするような枠組みづくりも必要だ。業務で利用する際には、生成AIの説明性や透明性を確保することも大切な視点になる」などと述べた。

 なお、新体制では、筆頭副会長に、パナソニックホールディングスの津賀一宏会長が就任。副会長には、三菱電機の漆間啓社長 CEO、NECの新野隆会長、ソニーグループの十時裕樹社長 COO兼CFO、東芝の島田太郎社長 CEO、富士通の時田隆仁社長 CEO、シャープの沖津雅浩副社長、横河電機の奈良寿社長、アルプスアルパインの栗山年弘社長、JTBの髙橋広行会長、セコムの中山泰男会長が就いた。