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JEITA新会長にパナソニックの津賀会長が就任、「仲間づくり」によるサプライチェーン強靭化を呼び掛け

 一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の新会長に、パナソニックホールディングスの津賀一宏会長が就任し、2024年6月3日、会見を行った。任期は1年間。

JEITA新会長に就任したパナソニックホールディングスの津賀一宏会長

 津賀会長は、「社会のデジタル化と、社会課題の解決が急務となっているいま、JEITAはデジタル産業を代表する団体として、社会の期待に応え、責務を果たす必要がある。課題解決や競争力強化、新たな市場創出に取り組む」としたほか、「JEITAは昨年、前身の団体設立から75周年を迎えた。今年はCEATECが25周年、Inter BEEが60周年となる節目の年である。歴史の重みを感じつつ、JEITA会長として責務を果たす」と抱負を述べた。

デジタル化に後れをとる日本、求められるのは「半導体」や「AI技術」

 会見の冒頭では、日本のデジタル化の現状と、デジタル産業の動向について説明した。

 「日本は、IMD世界デジタル競争力ランキングで3つ順位を落とし32位となり、他国に後れをとっている。デジタル技術は生産性や成長率を向上させ、少子高齢化や気候変動などの課題解決にも不可欠であり、企業価値にも影響を与える。デジタル産業を支える半導体やAI技術などは、日本の成長に寄与する重要な要素であり、JEITAの役割はますます重要になっている」とする一方、「経済安全保障も重要なテーマである。情報システムは国境を越えてつながり、データの安全や安心、自由な流通は世界経済の原動力となっている。デジタル化が進むなか、半導体や電子部品は重要なキーデバイスとなっている。地政学リスクが高まり、サプライチェーンの強靭化のためには、デバイス製造への大胆な投資や最先端技術の研究開発が不可欠となっている。これらの取り組みにおいては、産学官の連携および協業が求められており、仲間づくりや仕組みづくりが一層重要になる」と述べた。

JEITAが取り組む「テクノロジーの進化と社会との調和」と「サプライチェーンへの対応」

 JEITAでは、2つの重点事項に取り組んでいるという。

 ひとつめは、「テクノロジーの進化と社会との調和」である。

 津賀会長は、「デジタルイノベーションは社会全体の利益となり、その恩恵を誰もが享受できることが望まれる。そのためには、継続的なデジタル投資が不可欠である。デジタルの社会実装によって成長力を高め、テクノロジーの進化が社会や暮らしの豊かさ、さらには日本の産業競争力強化につながるように事業環境の整備を推進していく」とし、「とくに、生成AIなどの急速な技術革新に対応した利活用面での国際的なルールづくりや、社会および法制度との調整も重要である。JEITAは、デジタル技術が社会と調和するためのアクションを、率先して進めて、未来の社会や暮らしに貢献していく」と述べた。

 生成AIについて津賀会長は、「著作権や個人情報保護の問題があり、ハルシネーションの課題もある。リスクはあるが、イノベーションを牽引する画期的な技術であることに間違いはない。大事なのは、このイノベーションの芽を摘まないことである。技術を前に進め、世界の人類のために活用される技術にしなくてはならない。そのためには、日本が個別のルールを作るのではなく、グローバルに捉えて、正しい方向に導いていく活動をしっかりと支援することが大切である。国際調和がとれたAIの利活用ルールの実現が、JEITAが目指すスタンスである」とし、「AIで生産性を改善したり、従来のやり方を変えたりといった領域が、日本では数多く存在する。それらを、手触り感を持って進められる状態に持っていくことが大切である。AIを使って、やり方を根本的に変えるトランスフォーメーションにつなげなくてはいけない。従来のやり方をAIに置き換えるだけでは、企業や人類の進化にはプラスにはならない。日本の組織は古く、しがらみも多く、固有の商慣習もある。これらを打ち破るためにAIを活用していくべきである。AIに人が適正に絡まないと間違った使い方が行われる。これは避けなくてはならない点である」と語った。

 もうひとつが、「サプライチェーンへの対応」である。

 経済安全保障におけるサプライチェーンの強靭化のほか、人権対応、サイバーセキュリティ対策、サステナビリティへの対応、カーボンニュートラルのためのCO2の可視化など、サプライチェーンを取り巻く課題が増えていることを指摘。これらの課題に対して、データの共有や連携、活用など、デジタル技術による解決が期待されていることに触れながら、「サプライチェーンの問題は1社だけで解決できるものではない。複数の企業が協力しあうことが重要である。このような活動こそ、デジタルを旗印に幅広い産業の企業が集まるJEITAの特性が生かされる。コンソーシアムやプロジェクトチームなど、各課題に対応した組織体制を構築し、JEITAが推進役となって、リソースやネットワークをフル活用していく」と述べた。

2024年度の新たな取り組み「Green×Digitalコンソーシアム」

 2024年度の新たな取り組みとして、デジタルに関する業界を超えた連携活動について言及した。

 「デジタルによる課題解決の必要性はますます広がっており、個別業界の対応では限界がある。そこで、デジタル産業界だけでなく、アカデミアや政策立案の専門家からも多角的な知見を得て、協調領域の設定と活動の具体化を進める」とする。

 ここでは、「重要なのは、バリューチェーン全体の最適化を考えることである」とし、JEITAが中心となって取り組んでいる「Green×Digitalコンソーシアム」について触れた。

 Green×Digitalコンソーシアムでは、業界の枠を超えて、サプライチェーンのCO2排出量の可視化に取り組んでおり、CO2データの共有フレームワークを国際標準と連携させた形で策定し、実証活動を行っているところだ。

「Green×Digitalコンソーシアムの活動は、2024年度からは実装フェーズに移行する。成功事例を他の領域にも広げていく」と意気込みをみせた。

 デジタル田園都市国家構想の実現や、物流DXの実現に向けたアクションなど、デジタル技術が求められるテーマにおいて、具体的な活動の検討を進めることも明らかにした。

「デジタル技術が求められるテーマは多岐にわたる。全てのステークホルダーが連携して 取り組むための新しい仕組みづくりを進める」との考えを示した。

技術を見せる展示会「CEATEC 2024」

 さらに、2024年10月15日~18日までの期間で開催する「CEATEC 2024」についても触れた。

 「2024年度にJEITAが取り組む新しい挑戦を見てもらえる機会が、今年25周年を迎えるCEATECになる。AIの社会実装や、次世代人材育成など、幅広いトピックスが揃っている」としたほか、「日本自動車工業会(自工会)が主催するJapan Mobility Showが、同時期に、同じ幕張メッセで開催され、日本の産業界の力を発信する絶好の機会となる」と期待を寄せた。

Japan Mobility Showとの同時開催については、「2つの展示会は、それぞれ産業を代表する展示会であり、2011年の東日本大震災の際には、共同でメッセージを発信するといった連携も行ってきた。今回の同時開催は、自工会側から、『一緒にやろう』という話があり、大変ありがたいことだと思っている」と、同時開催の経緯に触れた。

津賀会長自身、2023年に開催された第1回Japan Mobility Showを見学したことを明かしながら、「ワクワクするクルマの展示が行われ、クルマ社会がどう新しく変化するのかということも、モノを見て理解し、将来の姿に対して夢を描くことができた」とコメント。

続けて、「CEATECは技術を見せる展示会であり、デジタルで社会を支えるために事例を示している。それをより大きな形で見せていくためには、Japan Mobility Showとの同時開催が適しており、来場者もそのイメージを膨らませることができるだろう。形があり、夢がある世界を、デジタルでどうつなぐのかという点でも、Japan Mobility ShowとCEATECの同時開催の効果が期待できる」と述べた。

円安基調や業界再編の考え方にも言及

 円安基調が続いている点については、「JEITA会員企業は、輸出型に偏っているわけではなく、個別企業においても、事業ごとに影響がさまざまである。だが、為替に対するリスクヘッジをきかせている企業が多いのも確かである。問題は急激な為替変動である。この要素は経営のなかに持ち込みたくない。通貨当局には、緩やかな変動で収まるようにお願いしたい」と語った。

 一方、業界再編や事業再編の考え方についても言及。「個人的な経験を踏まえると、再編は必要であり、再編は先手で打っていかなくては結果を生まない。だが、ビジネスをやっている人は、今年は駄目でも、来年は頑張り、市場全体も追い風が吹いたり、逆風が吹いたりする。一概にどんどん再編すればいいというものでもない」と述べ、「社会がこれだけ変化するなかで、デジタルの力でトランスフォーメーションをしないと、社会課題の解決に貢献できず、変化に対応できない。何を引き算し、なにを掛け算するかという発想でのトランスフォーメーションであれば、再編は積極的にやるべきである」と語った。

また、「テレビ事業の再編は、これからもあるかもしれないが、すでに古い話である。テレビを再編しても、前向きなインパクトが与えられるとは思えない。もっとやらなくてはならない再編がある」などと述べた。

 なお、JEITAの新体制では、筆頭副会長には、漆間啓氏(三菱電機 代表執行役 執行役社長 CEO)が就任。副会長には新野隆氏(NEC取締役会長)、十時裕樹氏(ソニーグループ 取締役 代表執行役社長 COO兼CFO)、島田太郎氏(東芝 代表取締役社長執行役員 CEO)、古田英範氏(富士通 取締役会長)、沖津雅浩氏(シャープ 代表取締役副社長執行役員)、小島啓二氏(日立製作所 代表執行役執行役社長兼CEO)、奈良寿氏(横河電機 代表取締役社長)、中島規巨氏(村田製作所 代表取締役社長)、髙橋広行氏(JTB 取締役会長)、吉田保幸氏(セコム 代表取締役社長)が就いた。