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米国ができたことを、日本にできない理由はない―JEITAが「日米デジタル経営調査」の結果を発表

JEITA ソリューションサービス事業委員会の石橋潤一委員長(左)と、JEITA ソリューションサービス事業委員会の小堀賢司副委員長(右)

 一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、「日米デジタル経営調査」の結果を発表した。

 デジタル経営の実践段階にある米国企業の割合が53.9%と半数を上回る一方で、日本の企業では26.4%と約4分の1に留まっており、米国企業に比べて日本企業のデジタル経営への取り組みが遅れていることが浮き彫りになった。同協会では、「経営の視点からデジタル活用を考える『デジタル経営』の意識を強くし、日本企業の実態に即した人材施策と組織変革を行うとともに、米国企業だからできるという考え方を捨てるべきである」と提言した。

 JEITAでは、2013年に「ITを活用した経営に対する日米企業の相違分析」と題した調査レポートを発表。さらに、2017年には「日本企業のIT経営に関する調査」、2020年に「日米企業のDXに関する調査」の結果を発表しており、今回の調査はそれに続くものに位置づけている。

 今回の調査では、デジタル経営に焦点をあて、2023年10月~11月にかけて、民間企業の非IT部門のマネージャーや経営幹部を対象にアンケートを実施し、日本企業で257社、米国企業で300社から回答を得ている。また、日米企業に3社ずつインタビューを実施している。

日本企業全体ではIT投資の重要性への認識が低く、投資する領域が狭い傾向

 調査結果を見てみよう。

 経営層が策定したデジタル技術活用に関する戦略を指す「デジタル戦略」の策定状況については、日本企業の51.7%が「中長期の計画を策定している」と回答。米国の59.9%と比較しても大きな差はないとしたが、「短期の計画を策定している」という回答を含めると、日本は71.7%であるのに対して、米国では97.4%に達しており、その差が開いている。

デジタル戦略の策定状況で、「中長期の計画を策定している」または「短期の計画を策定している」と回答した日本企業は71.7%、米国では97.4%

 デジタル戦略と経営戦略が一体化している企業は、日本では26.4%に留まり、米国の53.9%とは差がある一方、一体化している企業は売上高、営業利益ともに増加させているケースが多いことがわかった。

 さらに、日本の企業のデジタル化の適用領域では、「人事、経理、法務以外の間接業務」「人事業務(人材管理、採用など)」「社内情報共有や、ナレッジマネジメント」が多いが、デジタル戦略と経営戦略が一体化した企業を一体化している企業では「営業/販売」「マーケティング」「社内意思決定」にもデジタルを活用しており、これらの日本企業では、米国企業と同様にデータドリブン経営ができていると指摘した。

 だが、日本では業務効率化やコスト削減、セキュリティ対策といった「守りのIT投資」が多く、米国企業はトップラインの改善に向けた「攻めのIT投資」が多い傾向は、2020年の調査時点と同じ傾向のままだという。

DX/デジタル経営の取り組み状況。「事業に組み込まれ、継続的に業務効率化/収益拡大に向けた取り組みを行っている段階」または「本格的な事業への導入を行っている段階」との回答が、日本では26.4%。米国では53.9%。これらの状態の企業が、本稿で呼ぶ「デジタル戦略と経営戦略が一体化した企業」にあたる
売上高、営業利益が10%以上増えた日本企業の割合。デジタル戦略と経営戦略が一体化した企業では、売上、営業利益とも、全体よりも高い割合で10%以上の増加を達成している
日本企業のDX・デジタル化の適用領域。全体では「人事、経理、法務以外の間接業務」「人事業務(人材管理、採用など)」「社内情報共有や、ナレッジマネジメント」が多いが、デジタル戦略と経営戦略が一体化した企業においては「営業/販売」「マーケティング」「社内意思決定」が多いことが見てとれる

 JEITAソリューションサービス事業委員会の石橋潤一委員長は、「日本企業は全般的に『効率化』にデジタルを活用しており、長期的なデジタル戦略を有する日本企業は半数以上に達している。また、経営戦略とデジタル戦略が一体化した日本企業は『攻め』の目的が明確であり、さらにデータドリブン経営による成長を指向している」と述べた。

JEITA ソリューションサービス事業委員会の石橋潤一委員長(富士通 サービスプラットフォーム品質マネジメント室長)

 IT投資の重要性については、日本では「極めて重要」と回答した企業が31.9%だったのに対して、米国では51.0%の企業が同様に回答。研究開発投資についても、日本で「極めて重要」とした企業は25.3%だったが、米国では63.3%に達し、テクノロジーに対する投資の考え方に差があることがわかった。

 重点投資テクノロジーとしては、日本ではクラウド(41.3%)、AI/機械学習(35.0%)、ビッグデータ/アナリティクス(24.3%)の順になっているのに対して、米国では幅広い領域に対して重点投資が行われていることもわかった。

 石橋委員長は、「日本企業のデジタルテクノロジーの適用領域は、米国企業に比べて狭い。また、日本企業は『プロセス』のデジタル化が中心であり、データを使った経営が緒についたばかりであることが推測される」と考察した。

IT/デジタル投資とほかの投資項目との比較。IT/デジタル投資、および研究開発投資について、「極めて重要」との回答率に日米で大きな差がある
重点投資テクノロジー。左から日本の回答が多い順に並ぶ項目において、米国ではまんべんなく回答がある

国内でもデジタル戦略と経営戦略が一体化した企業では変革の傾向が

 データプラットフォームの活用状況では、自社内部データは日米ともに40%強の企業が活用しているが、外部データでは日本企業は25.8%であるのに対して、米国企業は53.0%と半数以上が利用。「米国企業は広くデータを活用して、ビジネス競争力を強化している」と述べた。

データプラットフォームの活用状況。自社内部データの利用については日米で大きな差はないが、外部データについては日本の25.8%に対して、米国は53.0%

 生成AIについては、日本の企業では、「現在利用中である」との回答が、設問の対象となった利用領域において10%前後であり、「聞いたことがない/あまりよく知らない」との回答は3割を占めている。

 JEITA ソリューションサービス事業委員会の小堀賢司副委員長は、「生成AIの利活用でも、米国に比べて遅れていることが浮き彫りになった。日本企業は、生成AIの存在や可能性に対する認識が、一部で不足していると考えられる。米国企業は、この先端技術の活用に積極的に取り組んでいる」と分析。さらに、「日本の企業のほうが生成AIのサービスレベルへの期待が高いことが感じられる一方、AI利用時のクレーム対応、著作権保護の問題を含めて、導入に慎重になっている傾向がある」と指摘した。

生成AIの想定用途。日本のすべての領域の回答で「現在利用中」が10%前後であり、一方で「聞いたことがない/あまりよく知らない」が3割を超えている

 人材確保については、日本では「従業員へのデジタルスキル教育」や「採用した人材へのデジタルスキル教育」が中心であるのに対して、米国では「買収などによる人材確保」「デジタルスキル教育機関卒業者の採用」「大学やスタートアップ企業などとの連携」が多く、「日本企業のデジタル人材育成は、テクノロジー部門、ビジネス部門ともに既存従業員の再教育が中心となっており、外部からの採用や買収などを活用する米国企業とは差がある。国内の労働市場状況を考えると、より幅広い人材調達戦略が必要である」と提言した。

デジタル人材確保・育成の方針(ビジネス部門)。日本では教育が主であるのに対し、米国では買収、採用、外部連携が主
デジタル人材確保・育成の方針(IT部門)。ビジネス部門と同様の傾向がみられる

 デジタル経営のパートナーとしては、日米ともに、コンサルティングファーム、ITハードウェアベンダー、SI事業者/ITサービスベンダー、ソフトウェアベンダーが上位を占めたが、パートナーの活用段階に関しては、日本が「ITシステムやアプリの設計、開発、構築」であるのに対して、米国では「ITシステムやアプリケーションの運用」が最も多く、パートナーへの期待が異なっている。

DX/デジタル経営でパートナーを活用する段階。日本では「ITシステムやアプリの設計、開発、構築」、米国では「ITシステムやアプリケーションの運用」が首位

 DX/デジタル経営に向けた組織文化の確立において、日本の企業が重視している項目としては、「部門/グループを超えた組織横断の連携がしやすい」「新たなデジタルビジネスへの挑戦に前向きである」が上位となったが、デジタル戦略と経営戦略が一体化した企業では、「新しい考え方や手法、多様性を受け入れる姿勢がある」「顧客や市場を中心に考える姿勢がある」「失敗を学びの機会として受け入れる土壌がある」といった項目への回答が多かった。石橋委員長によれば、「デジタル経営を進めるには、組織文化の変革が必要という意識は日本企業では少ないが、国内でもデジタル戦略と経営戦略が一体化している企業では、外部起点の思考、多様性の受容、権限移譲など、変革の傾向がみられる」という。

日本企業がDX・デジタル経営に向けて重要と思う組織文化。全体では「部門/グループを超えた組織横断の連携がしやすい」などが上位だが、デジタル戦略と経営戦略が一体化している企業では、「新しい考え方や手法、多様性を受け入れる姿勢がある」「顧客や市場を中心に考える姿勢がある」「失敗を学びの機会として受け入れる土壌がある」が多い

 一方、経営に影響を与える外部環境としては、日米ともに「消費者ニーズの変化」「物流/輸出入環境の変化」が上位を占めたが、米国では「自然環境の変化」が最も多かったのに対して、日本では9番目に位置づけられていること、また、米国では「地政学上の変化」への関心が高まっており、日米企業で認識に大きな違いがあることがわかった。これについて、「日本の企業は、グローバルの外部環境の変化への感度が低い」と、小堀副委員長は指摘した。

JEITA ソリューションサービス事業委員会の小堀賢司副委員長(NECソフトウェア&システムエンジニアリング統括部長)
経営に影響を与える外部環境。日本では9位である「自然環境の変化」が、米国ではトップ。また、米国では「地政学上の変化」への関心が高まり6位になっているが、日本では10位

 また、ITがもたらした効果では、日本では、「社内業務の効率化/労働時間の減少」「社内情報共有の容易化」が多く、社内に関するメリットを感じているのに対して、米国では「製品/サービス提供迅速化/効率化」「社外情報提供効率化/提供量増大」といった社外に向けた成果が上位を占めている。

 ITに期待する効果では、日本では「社内業務効率化/労働時間減少」、米国では「製品/サービス提供迅速化/効率化」がそれぞれ首位となっており、いずれも2020年の調査とは変わらなかったが、日本では前回調査では9位だった「既存顧客維持/顧客満足度向上」が2位に入っており、石橋委員長は「デジタル技術を顧客に向けて活用していきたいという意識が見られている」と述べた。

ITがこれまでもたらした効果。日本では「社内業務の効率化/労働時間の減少」「社内情報共有の容易化」と社内における効果、米国では「製品/サービス提供迅速化/効率化」「社外情報提供効率化/提供量増大」と社外に向けた効果が上位
ITに今後期待する効果。JEITAでは、日本において前回調査では9位だった「既存顧客維持/顧客満足度向上」が2位に入っていることに注目し、顧客にむけてデジタル技術を活用していきたいという意識が見られるとした

「米国企業も、抵抗勢力に対処してデジタル化を進めてきた」JEITが3つの提言

 これらの調査結果を踏まえて、JEITAでは、3つの提言を行った。

 1つめは、「デジタル経営であることの理解」である。

 石橋委員長は、「経営の視点からデジタル活用を考えるデジタル経営の意識を強くし、幅広い業務プロセスで多くのテクノロジーを試すことが肝要である。デジタルのためではなく、競争に勝つためや、従業員のやりがいという高次の目的を設定し、戦略、人材、投資、組織文化、CSRなど、全てにデジタルを内在させる必要がある」と述べた。

 2つめは、「日本企業の実態に即した人材施策と組織変革の必要性」だ。

 「社内IT人材が少ないなか、パートナーやベンダー活用は必須である。米国企業も内製から外部ベンダーを活用する意識が高まっている。丸投げにならずに、適切な人材を社内外で確保できる仕組みを整える必要がある。そのためにも、さまざまな知見、スキル、経験を持った人材が、適時適所で活躍できるように、流動性を考慮した人事制度、評価制度との連動強化なども必要である」とした。

 3つめが、「『米国企業だからできる】という考え方を捨てること」だという。

 「米国企業も、抵抗勢力に対処し、デジタル化を進めてきた。そのためには経営層とミドルマネジメントの協力が必須である。米国企業はできて、日本企業ができないという理由はない」とした。