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日本企業は業務改善にIT予算を使い、米国企業は市場や顧客変化の把握に予算を使う
JEITA、「2020年日米企業のDXに関する調査」の結果を発表
2021年1月14日 06:55
一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、IDC Japanと共同で実施した「2020年日米企業のDXに関する調査」の結果を発表した。
これによると、米国企業は約3割、日本の企業では約2割がDXを実践中と回答。2017年調査と比較して、日本企業のDXへの取り組みは著しく伸長したものの、その一方で、半数近くの企業が情報収集中であったり、取り組みをしていない状況であり、未着手の企業が多いことも同時に浮き彫りになった。また、ポストコロナにおいては、日本企業が「働き方改革」への意識が強いのに対し、米国企業は「業務自動化」や「データ活用の拡大」など、DXに直結する未来を予測しており、日米企業のスタンスに違いが見られたという。
同調査は、日米企業におけるDXの取り組み状況の違いを把握するとともに、新型コロナウイルスがDXに与える影響を調べることを目的としており、2020年8~9月に、従業員300人以上の民間企業を対象に実施。日本では344社、米国では300社が、ウェブを通じてアンケートに回答した。情報システム部門以外に在籍しているマネージャーおよび経営幹部から回答を得ている。
同協会では、2013年の「ITを活用した経営に対する日米企業の相違分析」、2014年の「国内企業における『攻めのIT投資』実態調査」、2015年の「攻めのIT経営企業におけるIT利用動向関連調査」、2017年の「国内企業のIT経営に関する調査」に続く調査と位置づけており、「従来の調査と同様に、情報システム部門以外に在籍しているマネージャーおよび経営幹部を対象にした。現場に近いところでの調査内容になっている」(JEITA 情報政策委員会の泉菜穂子委員長=日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部 経営戦略統括本部 渉外本部長))とした。
「日本企業はIT予算の大半を社内の業務改善に振り分けている」米国は市場や顧客変化の把握に予算を使用する傾向
IT予算が増える傾向にあるとした日本企業は58.1%であるのに対して、米国企業は71.0%となっており、「日米ともに増加傾向がみられるものの、米国企業が市場や顧客の変化といった外部環境の把握に対する投資であるのに対して、日本企業は働き方改革や業務効率化など、内部に向けた投資となっている。日本企業は、いまだにIT予算の大半を社内の業務改善に振り分けている」(JEITA ソリューションサービス事業委員会の馬場俊介委員長=富士通 理事 OneERP+Global Head Office長)と分析した。
米国企業では「ITによる顧客行動/市場の分析強化」が30.5%、「市場や顧客の変化への迅速な対応」が28.2%、「ITを活用したビジネスモデル変革」の26.3%となり、上位を占めたのに対して、日本企業は「働き方改革の実践のため」が31.5%、「ITによる業務効率化/コスト削減」が28.5%、「未IT化業務プロセスのIT化のため」が24.5%となり、これらが上位を占めた。
また、ITがこれまでもたらした効果としては、社内業務効率化/労働時間減少は、日米企業ともに上位にあるが、米国では「製品/サービス提供迅速化、効率化」が最も多く、30.3%を占め、「市場環境変化への迅速な対応」、「調達費用のコスト削減」が上位に並んだ。だが、日本企業では、「人件費の削減」や「市場環境変化への迅速な対応」が上位を占め、「何のためにITを活用するのかといった認識の差が生まれている」(JEITA ソリューションサービス事業委員会副委員長兼日米D X投資調査タスクフォース主査の小堀賢司氏=NEC ソフトウェアエンジニアリング本部長)と指摘した。
米国企業では「DXの戦略策定や実行に、経営陣自ら関わっている」が54.3%経営トップがビジネス改革を推進すべき
DXへの取り組み状況については、全社レベルと部門レベルを合わせると、米国企業は28.6%、日本企業は20.3%となった。だが、日本の企業では、「情報収集中」や「DXを行っていない」、「DXを知らない」、「わからない」をあわせて50.6%と半分を占め、米国の18.3%に比べて大きな差があった。
DXにおける経営層の関与については、米国企業では、「DXの戦略策定や実行に、経営陣自ら関わっている」との回答は54.3%であるのに対して、日本企業は35.8%に留まった。また、DXを推進する目的としては、日本の企業は、「業務オペレーションの改善や変革」が41.0%と最も多いのに対して、「米国企業では新規事業/自社の取り組みの外販化」が46.4%と最も多かった。
「日本が業務オペレーションの改善や変革であるのに対し、米国は事業拡大がDXの目的となっている。トップラインか、ボトムラインかという、スタンスの違いがみられる。また、米国企業は、DXの成功要因として、『経営トップのリーダシップやコミットメント』の回答が最も多い。DXは、経営層の関与のもと、全社的な取り組みで推進するものであると捉えている。日本企業は、経営視点でDXの目的を捉え直し、ニューノーマルも見据えて、経営トップがビジネス変革をリードしていくことが求められる」(小堀氏)と指摘した
また、DXの課題については、日本の企業が「必要なテクノロジースキルを持った人材の不足」、「ビジネス変革を主導する人材の不足」といった人材面に課題を持っているが、米国企業では、人材の課題もあるものの、組織文化や連携、社内の抵抗といった組織内の課題をあげており、同時に、データ収集に対する課題認識が、日本企業に比べて高いという結果が出た。
ちなみに、DXを全社戦略の一環として実践している日本企業は、経営層の関与度が大きいことや、適用している業務が営業/販売、事業計画/経営計画策定、マーケティング、社内情報共有/ナレッジマネジメントといった項目が上位に入っており、米国企業と似た傾向を示している。「全社戦略の一環として実践している日本企業は、自動化や従業員体験の変化など広く変化予測していることもわかった」(小堀氏)という。
「DXとして取り組む領域が増え、予算や体制が拡大したとした」米国企業は30.4%、日本企業は24.0%
新型コロナウイルス感染症のDX への影響については、米国企業では、「DXとして取り組む領域が増え、予算や体制が拡大したとした」との回答が30.4%に対して、「DXに関する予算、体制などがコロナ前と大きく変わらない」とした企業は11.4%と差がついたのに対して、日本企業はそれぞれ24.0%、23.6%と拮抗する結果となった。
「米国企業は、新型コロナウイルスを機に、DXの予算や体制を拡大したという回答が最も多いが、日本企業では、拡大、変わらない、ストップしたという回答がほぼ同じである。新型コロナウイルスを契機に、日米企業のDXへの取り組みの差が開く可能性がある」と警鐘を鳴らした。ここでは、「DXは企業のカルチャーを変革することにつながる。既存ビジネスが強い企業であればあるほど、現場の抵抗を超えるのが難しい。これがボトルネックになっている。だが、これを超えるような流れが新型コロナウイルスだということもできる。DX推進の大きなドライバーになる可能性がある」(馬場委員長)とも語った。
また、今回の調査対象にIT関連企業は含まれていないが、「DXにおいてITベンダーが果たす役割は大きい。だが、国内ITベンダーも自らのDXについては苦労している段階にある」(馬場委員長)とも述べた。
「経営層がDXの戦略策定や実行に関わることが大切」
今回の調査結果から、JEITAでは、「もう一度、経営の視点から DX をとらえる」、「ニューノーマルの社会を想像する」、「全社での DX 推進を考える」という3つの提言を行った。
「経営の視点からDXをとらえ、経営層がDXの戦略策定や実行に関わることが大切である。また、働き方の変化を踏まえて、どうあるべきかを描き、どのようにデジタル技術を活用してビジネス変革を起こしていくかを計画しなくてはいけない。そして、『DX=ビジネス変革』であるため、全員が変化を受け入れなくてはいけない。組織文化の変革やデータ活用の意識づけなど再教育を進め、着実に浸透させることが必要である」(馬場氏)とした。