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JEITA、2023年版「電子情報産業の世界生産見通し」を発表し、今後の方向性も説明

 一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の小島啓二会長(日立製作所社長兼CEO)は、12月21日、会見を行い、2023年のJEITAの取り組みを報告するとともに、JEITAが発表する「電子情報産業の世界生産見通し」などをもとに、最新テクノロジーに関する今後の動向などについて説明した。

会長 小島啓二氏(日立製作所社長兼CEO)

デジタル技術の社会実装は半導体がベースの議論

 会見の冒頭、小島会長は、2023年のデジタル産業を取り巻く社会環境について触れ、「2023年は、新型コロナを契機としたデジタル化が加速し、企業行動に対する価値認識が変化している。また、経済安全保障の確保が重要になっており、これらがより一層加速した1年であった。また、今年は、生成AIの普及元年といえ、急速に進歩するデジタル技術を、どう使いこなし、社会に実装するかが、社会課題の解決や経済成長に直結することになる。このベースになるのが半導体である」と総括。「各国で半導体の投資競争が激しさを増すなか、政府がさまざまな施策を講じた点に感謝する」とした上で、「ソフトウェアやデジタル技術の社会実装に向けた強力な施策が、引き続き講じられることを期待している」と要望した。

 政府では、11月29日に、国内投資促進を盛り込んだ補正予算を成立。12月14日に公表した与党税制改正大綱では、「戦略分野国内生産促進税制」と「イノベーション拠点税制」の創設をセットで明記している。

 2024年のデジタル産業の展望についても触れ、「投資対象として、日本に対する興味が世界中から集まっている。日本の企業がガバナンスの観点から大きく変わりだしている点や、日本がモノづくりに強く、安定した国であるという点も再評価されている。日本はリアルやハードウェアに強い。それが、デジタル産業と連動すれば、日本のアドバンテージになる。モノツづくり×デジタル、インフラ×デジタルといった『×デジタル』で日本の産業が伸びていくことができる最初の年にしたい」と抱負を述べた。

24年における電子情報産業の世界生産は過去最高を更新見込み

 同日にJEITAが公開した「電子情報産業の世界生産見通し」の説明も行われた。同調査は、会員各社を対象にアンケートを実施してまとめたもので、2007年から継続している。

 これによると、電子情報産業の2023年の世界生産額は前年比3%減の3兆3826億ドルを見込む一方、2024年は前年比9%増の3兆6868億ドルになると予測。過去最高の世界生産額を更新する見通しだ。

電子情報産業の2024年の世界生産額は前年比9%増の3兆6868億ドルと予測

 小島会長は、「2023年の電子情報産業の世界生産は、エネルギーや原材料価格の高騰、地政学リスクの高まりなどがあったものの、デジタル化の投資拡大で、ソリューションサービスは伸長した。また、2024年は、インフレの鎮静化が進みはじめたものの、景気リスクは残っている。だが、DXで社会や企業を変革する動きが世界各国で進み、電子機器やデバイス需要の回復、ソリューションサービスのさらなる需要拡大が見込まれる。これにより、世界生産額は、過去最高を更新する見通しである」と予測した。

 2023年は、ソリューションサービスが過去最高を更新する見込みであるほか、2024年は、ソリューションサービスに加えて、半導体も過去最高を更新する見通しだ。

 日系企業の2023年の世界生産額は、前年比1%減の39兆6843億円を見込んだ。また、2024年は前年比5%増の41兆5638億円を見込んでいる。

 「2023年は、円安により、電子機器の価格競争力が高まり、安定的に推移。ソリューションサービスが増加した。だが、電子部品・デバイスが減少となった。2024年は、デジタル化投資の加速、ソリューションサービスが伸長、電子部品・デバイスの生産回復が見込まれる」と予測した。

 なお、国内生産額は、2023年は前年比1%減の10兆8536億円と、マイナス成長を見込んでいるが、2024年には前年比6%増の11兆5119億円へと反転すると見ている。

日系企業の2024年の世界生産額は前年比5%増の41兆5638億円、国内生産額は前年比6%増の11兆5119億円と見込んでいる

生成AI活用の普及はモノづくり領域へ、ハードウェアのインフラ需要が拡大

 毎年行っている「注目分野に関する動向調査」では、「生成AIによる社会変革」を今年のテーマとし、生成AI市場に関する需要額を取りまとめた。

 これによると、世界の生成AI市場の需要は2023年の106億ドルから、2030年には2110億ドルへと、約20倍に市場が急成長すると予測。日本の生成AI市場も、現在の1188億円から、15倍となる1兆7774億円に成長すると予測した。アプリケーションの急速な普及や専門分野向け生成AIの活用ニーズの拡大により、徐々に適用範囲や応用範囲を広げ、市場が拡大していくと見込んでいる。

 小島会長は、「生成AIの利活用分野は広がることになるが、とくに、伸長が著しいのが製造分野であり、年平均50%を超えて成長し、2030年には507億ドルへと拡大する見通しである。製造現場では、業務支援や製品開発支援など、ユースケースが広い。少子高齢化が進むなかで、スキルや技能の伝承が課題となっているが、モノづくりの強さを維持するには、これらのスキルを次の世代に移していく必要があり、ここに生成AIを活用できる。副操縦士のように仕事を助けてくれるし、ロボットとも結びつく。持続性を確保してくれるための重要なツールになる。製造業におけるデジタル化や生成AIの活用では、日本の企業にオポチュニティがあり、この分野を力強く推進できるのは日本の強みになる。ただし、時間がかかる領域でもある。各社の投資を通じて、見通しを超えて、世界をキャッチアップしていくような心意気でやっていきたい」とした。

世界の生成AI市場の需要は、2030年には2023年の約20倍となる2110億ドルへと成長すると予測されている
生成AIの利活用分野は幅広いが、特に製造分野での伸長が著しい

 JEITAでは、データの整備および維持のための手順やスキル、注意事項、セキュリティ対策などのガイドラインや指針、専門家の紹介、コミュニティの場づくりなどを通じて、モノづくり企業を支援する姿勢を示した。

 さらに、「金融や公共、通信・放送分野などにおいて、作業の効率化や創作活動の拡大などで利用が広がる」と予測した。

 また、ハードウェア11品目の需要見通しでは、2030年までの年平均成長率は世界で4.7%増、日本で3.7%増と予測しており、「このなかには、生成AIによる押し上げ増が相当入っている。とくに、データセンターなどのインフラについては、世界と日本で3割程度の押し上げ効果が期待される。生成AIの処理と実行には、データセンター内での膨大なデータの保管や管理が必要であり、そのためのインフラ需要が大きい。ここでも高性能の半導体が鍵を握ることになる」と述べた。

 小島会長は、「生成AIは、大きな成長が期待される一方で、リスクとして偽情報の拡散や著作権の問題などが懸念されている」と指摘。「G7サミットを受けた『広島AIプロセス』での議論や、12月1日には『利用者を含む全てのAI関係者向けの国際指針』がG7デジタル技術大臣会合で合意された。生成AIの発展や利活用の国際的な環境整備が、生成AI市場を押し上げることになる」と語った。

ハードウェアの需要額見通し。データセンターなどのインフラについては、世界と日本で3割程度の押し上げ効果が期待されるが、生成AIの影響が大きい

JEITAの目指す3つの方向性と、そのための取り組み

 JEITAの取り組みについても触れた。小島会長は、2023年6月の会長就任会見で、JEITAの目指す方向性として、「テクノロジーの進化と社会との調和」、「デジタルによる社会課題解決の推進」、「次世代の担い手育成」の3つを掲げており、それらの観点から進捗を説明した。

JEITAが目指す3つの貢献

「テクノロジーの進化と社会との調和」に向け、AIに関する提言を改定

 1つ目の「テクノロジーの進化と社会との調和」に関しては、2018年5月に公開したAIに関する提言を、2023年12月に改訂版として公開。「AIは人と社会、文化の発展のためにあり、積極的に利活用すべき」と明記した上で、「AIの有用性、特徴とリスク、倫理的原則への正しい理解を産官学連携で広め、AIを適切に利活用することが重要である」と提言した。

 「技術革新や法規制、ルールの進展を受けて見直しを行った。改訂版を公開したのは、生成AIが登場したことで、ガバナンスやリスクが変わり、世界中でルールづくりが進み、全ての企業が緊急の課題として対応しなくてはならない状況になったためである。そのうちやればいいというフェーズではなくなった。生成AIがこれだけ一気に成長することは十分には予測できていなかった。このタイミングでしっかりと改訂しなければ機を逸すると考えた」と、改訂版を公開した理由を述べた。

 改訂版では、利用者のリテラシー向上やセキュリティ対応強化、国際的な協力を通じた社会実装などの点でも指針を具体化。「今回の改訂では、会員企業による『行動宣言』と『実践』を同時に公開し、提言内容の率先垂範に努めている。今後も提言に沿った実践を進めていく」との姿勢を示した。

 さらに、2023年10月に開催したCEATEC 2023において、AIに関するコンファレンスを企画し、日本政府のAI戦略に関して、内閣府特命担当大臣の高市早苗氏が基調講演を行ったほか、専門家によるパネルディスカッションを開催し、AIが社会にもたらす可能性と問題意識の共有、豊かな未来を拓くための示唆を発信したことを報告。「Tech7と呼ばれるG7各国のデジタル業界団体とも引き続き連携しながら、最新テクノロジーの調和の取れた社会への実装を推進していく」と述べた。

「テクノロジーの進化と社会との調和」に関して、2018年5月に公開したAIに関する提言の改定内容

「デジタルによる社会課題解決の推進」を進めるGreen×Digitalコンソーシアム

 2つ目の「デジタルによる社会課題解決の推進」では、JEITAが事務局を務める「Green×Digitalコンソーシアム」による、サプライチェーン全体のCO2排出量の見える化への取り組みをあげた。

 32社の共同実証事業として進めているもので、2023年8月には、仮想サプライチェーン上におけるCO2データ連携に成功している。これは、日本初の試みと位置づけられている。

 「CO2データ算定方法や技術仕様については、グローバルレベルでの相互運用性の確保や社会実装に向けた協力のため、国際的なイニシアチブとの対話を強化している。また、環境負荷低減の成果を計測、評価する仕組みに関する検討も開始した。見える化し、コントロールしていくことは重要である。今後も、社会全体でのカーボンニュートラルの実現に向けて取り組みを推進していく」と意欲をみせた。

Green×Digitalコンソーシアムの取り組み

 「デジタルによる社会課題解決の推進」のもう1つの取り組みとして、「IoT家電による高齢者見守りシステムサービス」にも触れた。

 IoT家電のセンサーを使って、離れたところから、見守り対象者の自宅での状態を把握するサービスで、同協会スマートホーム部会が仕様を策定した「イエナカデータ連携基盤」を活用して実現している。

 共通の通信規格を採用し、複数メーカーのIoT家電を相互利用できることが特徴で、すでに、石川県能美市では、事業として社会実装し、2024年4月から本運用が開始されることになる。将来的には他の自治体への横展開も視野に入れている。

 「ウェルビーイングによる、ともに助け合う社会を作るためのサービスである。スマートホームは、政府が進めるデジタル田園都市国家構想における重要なテーマであり、JEITAとしても長く注力しているテーマである。取り組みをさらに広げ、デジタルによる社会課題の解決を推進する」と語った。

IoT家電による高齢者見守りシステムサービスの仕組み

「次世代の担い手を育成」に取り組むCEATECは25周年

 3つ目の「次世代の担い手育成」では、CEATECにおいて、若い世代を応援するために、大学研究機関やスタートアップ企業の参画誘致や教育的支援を実施したことを報告した。

 「次世代の担い手育成は、大変重要なテーマである。学生をはじめ、若手や中堅世代による『次世代』が、DXやGXを支える人材となり、担い手育成を強化している。その代表となるのがCEATECである。未来を切り拓いていこうという情熱を持った若い世代を応援しようと考えており、大学の研究機関やスタートアップ企業の参画誘致などの支援に取り組んでいる。今後は、『次世代』のなかでも、エンジニアリングや研究開発といったフィールドで活躍する人たちを応援していく施策を検討している」と述べた。

 また、JEITAの長尾尚人専務理事は、「デジタル産業に興味を持ってもらった人たちに、社会に何が貢献できるのか、どうやって貢献できるのかを見てもらう場がCEATECである。コロナ禍でリアル開催が行えずに、オンライン開催を行ったが、そのノウハウを活用して、CEATECの会期中に会場に来られない地方の学生たちが参加できるようになり、学生参加のすそ野が広がっている。また、半導体分野では、経済産業省の取り組みと連動しながら、各地の協議会におけるカリキュラムづくりや講師派遣も行い、専門分野における人材育成の取り組みも進めている」と補足した。

長尾尚人氏(JEITA専務理事)

 なお、CEATECについては、2024年の開催が、25周年の節目を迎えることに言及。小島会長は、「イノベーションを創出するには、きっかけとなる出会いや交流、新たな発見が重要である。CEATEC 2023では、出展していたウクライナブースの人たちと対話をして刺激を受けた若い人たちもいた。ダイバーシティの観点からも、若い人が刺激を受ける場にしたい」とし、「産官学の社会を変えるイノベーターが一堂に会する共創の場として、CEATECでは、25周年の記念開催の準備を進めている。期待して欲しい」と呼びかけた。

25周年の節目を迎えるCEATEC 2024で、次世代の担い手育成に貢献

 小島会長は、「社会のデジタルトランスフォーメーションを加速させていくことこそが未来社会への貢献につながるということを、会長就任時に述べたが、その思いに変わりはない。デジタル産業の業界団体として、Society 5.0の実現を目指し、政府をはじめ関係各所と密に連携しながら、会員の皆様とともに、来年も積極的に事業を推進していく」と語った。