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JEITA、2024年版「電子情報産業の世界生産見通し」を発表。「Software Defined」の時代を見据えたエッジサイドのソフトウェア開発力強化に注目
2024年12月20日 06:30
一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の津賀一宏会長(パナソニック ホールディングス会長)は、12月19日、記者会見を行い、2025年度上期に、AIに関する組織を協会内に新設する計画を明らかにした。また、同協会が毎年調査している「電子情報産業の世界生産見通し」についても説明した。
津賀会長は、2024年6月のJEITA会長就任時に、「デジタル技術は、労働生産性や潜在成長率の向上、少子高齢化や気候変動などの社会課題の解決に不可欠であり、あらゆる産業の企業価値にも影響を与える」と指摘。活動の重点項目として、「テクノロジーの進化と社会との調和」、「サプライチェーンへの対応」、「デジタルによる課題解決の仕組みづくり」の3点を掲げた。今回の会見では、それらの進捗について説明した。
AIに関するポリシー策定、税制整備などの活動や低減を継続
重点目標の1点目「テクノロジーの進化と社会との調和」では、CEATEC 2024の25周年特別企画「AI for All」で、AIの最新動向やソリューションを紹介するとともに、AIに取り組む国内13団体の相互理解を目的としたネットワーキングイベントを開催したことに触れながら、「今後はAIの利活用促進に向けた活動をより具体化する」とコメント。2025年度上期にはAIに関する組織を協会内に新設する考えを示した。
「国は、各省庁に分かれていたガイドラインを統合した『AI事業者ガイドライン』を示した。これを受けて、各社の対応状況の把握や、共通課題、ベストプラクティスを盛り込んだ業界団体ポリシーの策定に取り組んでいるところである。そのブラッシュアップと普及を図るため、AIに関する組織を協会内に設立する」と述べた。
また、AIソフトウェアを減税対象とするイノベーション拠点税制については、「JEITAをはじめとする関連業界からの要望に基づいて、昨年創設されたものであり、2025年4月の施行に向けた準備が進められている。制度開始以降も、よりAIソフトウェアなどの活用を促すように、制度改善に向けた提言を続けていく」と語った。
サプライチェーン対応について議論を継続、産学官の連携が不可欠と低減
2点目の「サプライチェーンへの対応」については、データ連携ルールの国際協調の重要性を指摘しながら、CEATEC 2024において、欧州と日本の官民ステークホルダーによるパネルディスカッションを開催し、そのなかで、必要な相手とデータを安全に共有できる仕組みとして「産業データスペース」に焦点を当てて、国際協調によるデータ連携の未来を示唆したことを紹介。「各国や地域のデジタル業界団体と連携しながら、競争力強化に資するデータ連携のあり方を検討していく」と述べた。
また、サプライチェーンにおける最大のチョークポイントとする半導体については、「国の半導体・デジタル産業戦略の一翼を担い、各地域の半導体コンソーシアムに参画し、人材育成と確保、およびサプライチェーンの強靭化への取り組みを進める。JEITAでは、半導体人材の育成に向けて、出前授業の開催や冊子の配布、半導体産業人生ゲームの展開などを実施しており、半導体が作る未来の可能性や魅力はもとより、半導体産業の重要性を継続的に発信していく」と語った。
さらに、「サプライチェーンにおいては、電源や電力供給の問題にも対応する必要がある」とし、「あらゆる産業において、AI活用が拡大し、電力消費が増え、電源の確保はますます重要な課題になる。米国では、グリーン電力の争奪戦ともいえる現象がすでに発生しており、安定電源の確保はもちろん、グリーンなど顧客が求める電力の質の面でも、電力供給が、サプライチェーンのボトルネックにならないよう、産学官の連携が必要不可欠である」と提言した。
「Green × Digitalコンソーシアム」での着実な実績をアピール
3点目の重点目標である「デジタルによる課題解決の仕組みづくり」では、JEITAが事務局を務めるGreen × Digitalコンソーシアムの活動を紹介。2024年度に、「物流CO2可視化のためのガイドライン」を策定したことを報告した。
同ガイドラインは、欧州を中心に展開するSmart Freight Centre(スマート・フレイト・センター)の規定と整合しており、物流現場における輸送、保管、拠点作業といったプロセス別にCO2データを算定し、共有するための指針と位置づけており、「国内においても、物流データの標準化や利活用など、物流DXの動きが始まっている。物流関連団体とも連携していく」と述べた。
地域や業界における課題の解決にも取り組む。米トランプ政権の影響は言及保留
さらに、地域の課題解決に向けた取り組みを加速していることにも言及した。
JEITAスマートホーム部会では、能登半島地震が発生する前から、石川県能美市と連携して、複数メーカーのIoT家電を活用した高齢者見守りシステムの構築に取り組んできた経緯に触れ、「現在、石川県内の広域データ連携基盤との接続を進めている。防災DXによって、安心安全な社会に貢献していく」と語った。
また、「Media over IP コンソーシアム」を、2025年2月に設立する予定であることに触れた。放送事業者と映像機器メーカーとの協力により、コンテンツ制作の効率化の実現を目指す。
津賀会長は、「JEITAは、デジタル産業の業界団体として、Society 5.0の実現を目指し、デジタル技術による課題解決や競争力強化、新たな市場創出に引き続き取り組んでいく。会員企業や政府などと密に連携し、より多様な産業との連携、共創を推進していく」と述べた。
なお、米国の次期トランプ政権の影響については、「具体的な施策が発表されている段階ではなく、コメントができない。業界団体としても情報収集に努めたい」と述べるに留まった。
電子情報産業の生産額は成長を続ける見通し、円安により価格競争力が向上
一方、同協会がまとめた「電子情報産業の世界生産見通し」についても発表した。
これによると、2024年の世界生産高は過去最高を更新する見込みであり、2025年もこれを上回り、過去最高をさらに更新する見通しが示された。
同調査は、2007年から実施しているもので、会員企業に対する調査に加えて、国内外の関連企業や団体の協力を得てまとめている。世界の電子情報産業の生産規模を、データによって明確にするとともに、世界における日系企業の位置づけを把握することを目的としている。
2024年の電子情報産業の世界生産額は、前年比9%増の3兆7032億ドルとし、コロナ特需の反動で減速していた電子機器や電子部品・デバイスがプラスに転じるとともに、デジタル化の進展で成長しているソリューションサービスの勢いが増していることが、高い成長につながったという。
2025年も、前年比8増の3兆9909億ドルと、引き続き高い成長を維持すると予測した。デジタル投資が継続し、各国での生成AIをはじめとした先進的な技術を活用したDXが進展。社会や企業、産業の変革と経済成長が進み、ソリューションサービスの需要拡大が見込まれるほか、AI用途によるサーバー向け半導体などの伸長が期待されるという。
品目別では、2024年は半導体とソリューションサービスが過去最高を更新する見込みであり、2025年もさらに伸長し、引き続き、過去最高更新する見通しだ。
津賀会長は、「世界的な物価上昇や中国などの景気低迷、地政学リスクの高まりなど、足元の事業環境は必ずしも良好とは言えない状況だが、電子機器、電子部品・デバイスの需要が回復するとともに、デジタル化の進展でソリューションサービスの成長が加速している。2025年は、インフレなどの景気リスクは残るが、個人消費の拡大やデジタルイノベーションに向けた投資拡大が世界各国で進み、電子機器やデバイス需要が堅調に推移する。また、ソリューションサービスのさらなる需要拡大が見込まれる。4兆ドルに迫る勢いであり、過去最高の世界生産額を更新する見通しである」と総括した。
一方、2024年の日系企業の世界生産額(海外生産分を含む)は、前年比6%増の41兆1813億円を見込んでいる。円安により電子部品・デバイスを中心に回復したほか、価格競争力が高まる高機能のデジタルカメラやプリンター、電気計測器などが安定的に推移。PCやソリューションサービスも需要拡大を背景に増加したことがプラス要因となった。国内生産額は前年比6%増の11兆2984億円を見込んでいる。
2025年の日系企業の世界生産額は前年比4%増の42兆8613億円、国内生産額は前年比3%増の11兆6463億円を予測。DXの取り組みが堅調に推移することでソリューションサービスが引き続き拡大。電子部品・デバイスもAI用途や、自動車の電装化により、需要が拡大すると見ている。
「円安により価格競争力が高まった電子機器が安定的に推移。とくに、PCの買い替え需要が堅調で、ソリューションサービスも、AIなどによるデータ活用の高度化によって増加している。2025年は、デジタル化投資の一層の加速により、ソリューションサービスが伸長し、電子部品・デバイスの生産も堅調に推移すると見込まれる。世界生産の8%増に対して、日系企業の成長が4%増となっているのは、民生AV機器など日系企業全体の事業ポートフォリオが広いためと考えている」と説明。「日本の電機産業は、ハードウェアオリエンテッドなポートフォリオとなっており、金額ベースでの構成比に差が出やすい。また、ハードウェアでは、50代のベテラン社員が活躍しているが、その一方で若手が求められるソリューション分野におけるデジタル人材が不足している」と指摘した。
注目分野は「SDV」、「Sorfware Defined X」時代を見据える
同調査では、注目分野に関する動向調査も実施しており、今年は、「SDV」(Software Defined Vehicle)にフォーカスした。
SDVは、自動運転などで注目されているトレンドだが、ここでは、テレマティックスやインフォテインメントなど、自動車のさまざまな機能高度化の基幹技術と位置づけている。
調査によると、SDVは、2035年に世界で6530万台の市場規模となり、世界の新車生産台数の66.7%を占めると予測。車載半導体の世界需要額は1594億ドルに達するとしたほか、SDV化によって、2025年比で185%の伸長になると予測した。また、2035年における車載電子部品世界需要額は171億ドルで、SDVの進展によって、2025年比で1.5倍に拡大する見通しだという。
津賀会長は、「2024年10月に開催したCEATECでは、日本自動車工業会が主催するジャパンモビリティショー・ビズウィークとの併催が実現し、モビリティ産業とデジタル産業とがタッグを組んだことで、大きな関心が集まった。CEATECではAIが注目され、モビリティショーではSDVが注目を集めたように、ソフトウェアが、企業の競争力を左右する時代に突入しつつある。なかでも、自動車のSDV化は、モビリティ産業とデジタル技術の融合分野である」と指摘。「2030年頃には、世界中の自動車メーカーがSDVを本格的に導入し、市場が急速に拡大する。背景には企業間連携による技術革新やプラットフォーム化の加速、日本をはじめ各国政府の強い後押しがある。SDVには1万個以上の積層セラミックコンデンサ(MLCC)やその他のチップ部品が搭載されるなど、電子部品需要の増加が期待される。これにより、ECU(電子制御ユニット)で使われるロジックICや高性能MCU/MPUだけでなく、パワー半導体やアナログICの増加も期待される」と述べた。
さらに、「ソフトウェアの重要性が高まるのは車に限らない。デジタルテクノロジーを使うエッジサイドのソフトウェア開発力が勝負の行方を左右する『Software Defined X』の時代が到来する」と予測。「日本の潜在成長率や労働生産性の低さの改善に向けた社会的要請が背景にある。日本の強みであるものづくりにおいても、デジタル技術による生産性向上を目的とした『Software Defined Manufacturing』が始まっている。これまでは、熟練した強い現場力があるために、日本のモノづくり現場のデジタル化が進まないと言われたが、それが変化し始めている。
CEATEC 2024においても、製造現場におけるAIの広がりが実感できた。エッジサイドのソフトウェア開発力を向上させることが、日本の「デジタル赤字」の解消につながる。そして、ソフトウェアの実装を支えるキーデバイスが、半導体や電子部品となる。地政学リスクが高まるなか、デバイス製造への大胆な投資や最先端技術の研究開発が、これからの社会において必要不可欠となり、産学官の連携や協業で、安心、安全の社会を支えていきたい」と抱負を語った。