清水理史の「イニシャルB」

Atermがアンテナ増+チャンネル自動選択で無線を強化、NECのミドルレンジルーター「Aterm WG1900HP」

 NECプラットフォームズから無線LANルーターの新製品「Aterm WG1900HP」が発売された。ハードウェア、ソフトウェアともに無線性能の強化を図った製品で、言わば無線LANルーターの本質にこだわった製品だ。主力となるミドルレンジの注目モデルを実際に使ってみた。

3ストリームでも受信アンテナは4本

 NECプラットフォームズから新たに登場したAterm WG1900HPは、3+4のアンテナを持つ3ストリーム対応のIEEE 802.11ac対応無線LANルーターだ。

NECプラットフォームズから発売された「Aterm WG1900HP」

 3なのか? 4なのか? ストリームとアンテナが違うのか? むむむ…… と、混乱してくるので、少し整理しておこう。

 まず、IEEE 802.11acではMIMOという技術が使われる。MIMOは、同一空間中に同一周波数で同時にデータをやりとりする方式だ。非常に簡単に説明すると、A、B、Cというデータを同じ周波数で同時に送り付け、混じりあった信号からデータを数学的な計算によって取り出すという仕組みになる。

 このとき、いくつのデータを同時に送るかというのが「ストリーム」になる。Aだけ送るのが1ストリーム、AとBを同時に送るのが2ストリーム、AとBとCを送るのが3ストリームという具合だ。IEEE 802.11acでは、現状1ストリームあたり433Mbpsの通信ができるので、2ストリームなら866Mbps、3ストリームなら1300Mbps、4ストリームなら1733Mbpsということになる。

 で、普通は、このストリーム数とアンテナ数は一致している。データを変調してアンテナに乗せるというユニットが、各ストリームごとに無線LANルーター内に用意されるイメージで、3ストリームなら3本、4ストリームなら4本のアンテナがつながっていることになる。

 今回登場したAterm WG1900HPも、送信はこの基本と同じ設計。3ストリームのデータを3本のアンテナを使って送り出している。

正面
側面
背面

 一般的な無線LANルーターと違うのは受信側の仕組みで、クライアントから送られてきた信号を4本のアンテナを使って受信する。

 一般的な3本のアンテナで受信する無線LANルーターの場合、MIMOによって空間中に多重化された信号を3本のアンテナで受信し、それを手がかりに計算によってデータを取り出すわけだが、Aterm WG1900HPでは4本のアンテナが使えるため、計算に使える手がかりが1つ多いことになる。

 ちなみに、かつてのMIMOではない無線LAN環境でも、複数アンテナを搭載して感度のいい方を利用するダイバーシティ方式が採用されたことはあった。が、本製品は4本のうち感度のいい3本を使うわけではなく、4本すべてで信号を受信する方式となっている。

 「三人寄れば文殊の知恵」ということわざがあるが、言わばその4人版で、きちんと4人が協力して、受信した信号からデータを取り出しているイメージだ。

原点回帰、基本性能を重視

 最近は、無線LANルーターにしろ、NASにしろ、付加価値重視の傾向から、基本性能を重視した原点回帰の傾向が見られる印象があるが、今回のAterm WG1900HPも、主な改善点が無線LAN機能に集中している製品だ。以下は、これまでの同社のミドルレンジを担ってきたAterm WG1800HP2(継続販売)とスペックを比較した表だ。

Aterm WG1900HP(左)と従来モデルのAterm WG1800HP2(右)
Aterm WG1900HPAterm WG1800HP2
実売価格1万3151円9158円
5GHz最大速度1300Mbps
2.4GHz最大速度600Mbps450Mbps
アンテナ数送信3+受信4送信3+受信3
WAN1000Mbps×1
LAN1000Mbps×4
USB-USB 2.0×1
MU-MIMO--
ビームフォーミング-
バンドステアリング-
オートチャネルセレクト〇(動作中可)
IPv6トンネルアダプター-
デュアルバンド中継-
悪質サイトブロック-
見えて安心ネット-

 型番も価格も、今回のAterm WG1900HPの方が上位に位置付けられているが、前述したアンテナ数の増加に加えて、ビームフォーミングやバンドステアリングへの対応、稼働中のオートチャネルセレクト対応など、無線LANの基本性能を向上させる新機能が追加されている。

 その分、ハードウェア的にはUSBポートが省略されているうえ、IPv6トンネルアダプター機能や悪質サイトブロックといった機能も省略されているが、これらの機能は必要なシーンが限られており、決して万人向けとは言えない。

 現状、無線LANルーターを購入する多くの理由が、無線LAN環境の改善であることを考えると、ある意味、原点回帰とも言える改善がなされたのも納得できるところだ。

 ちなみに、主な競合との比較も以下に掲載しておく。同じ国内メーカーでは、価格が少し高めだが、バッファローの「WXR-1900DHP3」がライバルに相当しそうだ。USBポートの有無が大きな違いになるが、無線LANの利便性を高めるビームフォーミングやバンドステアリング、動作中のチャンネル変更(2.4GHz)などの機能的には互角でありながら、受信アンテナが4本というアドバンテージがあるので、コストパフォーマンスはAterm WG1900HPの方が高い。

 一方、ここ最近、注目度が高い海外メーカーのTP-Linkの製品と比較するとすれば、「Archer C9」になるだろう。こちらは、価格が安いが機能的にはずっとシンプルになる。

 そう考えると、価格も機能も中間的で、さほど付加価値を求めない人にとっては、今回のAterm WG1900HPはちょうどいい選択肢と言えそうだ。

NEC Aterm WG1900HPバッファロー WXR-1900DHP3TP-Link Archer C9
実売価格1万3151円1万8133円1万1123円
5GHz最大速度1300Mbps
2.4GHz最大速度600Mbps
アンテナ数送信3+受信4送信3+受信3
WAN1000Mbps×1
LAN1000Mbps×4
USB-USB 3.0×1USB 2.0×1/USB 3.0×1
MU-MIMO---
ビームフォーミング
バンドステアリング-
動作中チャンネル変更-
IPv6トンネルアダプター---
中継デュアルバンド中継デュアルバンド中継WDS
Webフィルタリング-iフィルター手動
こども向け管理見えて安心ネットキッズタイマータイマー機能あり
VPN-IPsecVPN-

ビームフォーミングの恩恵が大きい

 気になるパフォーマンスだが、今回のテストの結論としては下りの速度改善効果が大きかった。

 以下のグラフは、木造3階建ての筆者宅の1階にアクセスポイントを設置し、各フロアでネットワーク測定ツール「iperf」により速度を測定した結果だ。今回、1300Mbps対応のクライアントを用意できなかったため、2ストリームMIMO(最大866Mbps)に対応する2013年モデル「MacBook Air MD711J/A」をクライアントとして利用した。また、Aterm WG1900HPとの比較としてAterm WG1800HP2での結果も掲載した。

1F2F3F3F端
WG1800HP2上り40528312735.2
下り54025017358.6
WG1900HP上り65526212623.6
下り563342235142

※検証環境 サーバー:Intel NUC DC3217IYE(Core i3-3217U:1.3GHz)、OS:Windows Server 2012R2 クライアント:Macbook Air MD711J/A(Core i5 4250U:1.3GHz)

 全体的に、従来機種よりもAterm WG1900HPのパフォーマンスが高い結果が得られたが、上りと下りで、若干傾向の違いが見られた。

 まずは、上りから見ていこう。前述した受信アンテナ4本の効果が得られた影響だと考えられるが、近距離での通信速度は655Mbpsで、従来機種の405Mbpsを大きく上回った。

 ただし、筆者宅の環境では、2階、3階での速度は従来機種と大きな差はなく、3階の端では従来機種に逆転されてしまっている。おそらく測定時の環境や誤差によるものと考えられるが、近距離ほど大きな向上は見られなかった。

 一方、下りに関しては、ビームフォーミングの効果がうまく出ていると考えられ、圧倒的にAterm WG1900HPが速い。最も遠い場所となる3階の端でも142Mbpsとかなり高速で、一切のストレスを感じさせない印象だ。

 今回のテストでは、厳密に機能をオン/オフしての計測ではないため、速度向上がアンテナの差によるものか、ビームフォーミングの差によるものかは、あくまでも推測の域を出ない。しかし少なくとも、従来機種に比べてパフォーマンスが向上しているのは間違いないと言ってよさそうだ。

バンドステアリングとオートチャネルセレクトを試す

 続いて、今回の新機種で追加された新機能を試してみた。

 まずは、バンドステアリングだ。標準では無効に設定されており、利用するには設定画面から機能を有効化する必要がある。

 有効化すると、5GHz帯に設定されていたSSID(aterm-xxxxxx-a)が、5GHzと2.4GHzの共通のSSIDとして設定され、クライアント側の環境に合わせて、どちらに接続するかが自動的に選択されるようになる。

 5/2.4GHz両方に対応した数台のクライアントから接続してみたが、基本的に5GHzに対応している場合は5GHzが選択されるようだ。せっかく5GHzで接続できるのに2.4GHzで接続しているクライアントを最適化できる上、無駄に2.4GHzに接続して混雑を誘発しているようなクライアントを排除できるのがメリットだ。

 個人的には、標準設定のまま、自分の選択で接続先を選びたいが、これなら、周波数などの難しいことが分からないという初心者でも、安心して利用できるだろう。

バンドステアリングを有効にすると5GHzと2.4GHzでSSIDが同じになる

 続いて、オートチャネルセレクトを試してみた。こちらも標準では無効になっており、2.4GHz帯の設定でオートチャネルセレクトを「使用する(拡張)」に切り替えることで、はじめて有効になる。

 テスト時の状況としては、周囲にざっと10前後のSSIDが見える状況であったが、それでもAterm WG1900HPは比較的空いている6chを選択して起動してきた。

 この状態で、筆者宅にある無線LANアクセスポイント2台ほどを同じ6chに固定し、2日間ほど様子を見てみたが、残念ながらAterm WG1900HP側でチャンネルが変更されることはなく、継続的に6chのままで動作した。

 同社によると、無通信状態などが一定時間あることを確認するなど、クライアントとの通信に影響がないことを確認した上でチャンネルを変更するとしているため、今回はその条件に合致しなかったと考えられる。

 そもそも、干渉の影響が少なければ変更されない場合もありそうなので、今回のテストでは、チャンネルを変えるほどの影響をほかのアクセスポイントから受けるに至らなかった可能性もある。このあたりは環境や使い方に依存すると言えそうだ。

 ただし、大きな干渉がなければ現状を維持するというのは、むしろ正しい動作と言える。ちょっとした干渉で、ころころチャンネルを変えられたら、それこそクライアントとの接続がブチブチと切れる状況になりかねない。おそらく、判断基準が安定志向に振り気味なのだろう。

オートチャンネルセレクト。「拡張」に設定すると稼働中も干渉を検知すればチャンネルを自動的に変更する。2.4GHzのみの対応
テスト時の2.4GHz帯の様子。Aterm WG1900HPに加えて、さらに2台ほどのアクセスポイントを6chに設定してみたが、チャンネルはそのまま維持された

見た目、設定の分かりやすさに好感が持てる新UI

 以上、NECプラットフォームズから登場したAterm WG1900HPを実際に試してみたが、従来モデルに比べて無線性能が向上していることは確実なようだ。

 いくつか機能が削られている部分はあるものの、競合と比べても機能・価格面で見劣りする部分は少なく、ミドルレンジの価格帯の製品としては魅力的に思える。

 設定画面などのUIも新世代のデザインへと変更されており、見た目も、設定の分かりやすさも好感が持てる印象だ。特に、各設定画面の下に表示される「関連項目」は秀逸だ。例えば、5GHzの設定画面の下には、関連項目として2.4GHzの設定画面へのリンクが表示される。細かな点だが、こういった点はNECプラットフォームズらしい気配りさえ感じさせる。

新世代のデザインを採用。分かりやすいし、操作も軽快

 今回はあまり触れなかったが、無線LANの見える化や、こどものインターネット利用を制限できる「見えて安心ネット」にも対応している(Wi-Fi接続通知機能はファームのアップデートで対応予定)。また、現在利用している無線LANの親機からSSIDやパスワードなどの設定情報を引き継ぐ「Wi-Fi設定引っ越し」機能にも対応している。

 基本的には、無線LANの基本性能を強化したモデルではあるが、同社ならではの家庭向けの利便性も、しっかりと追及されたモデルと言える。より高性能な無線LAN環境への置き換えを検討している人に適した製品と言えそうだ。

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清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。