清水理史の「イニシャルB」
テレビにつないで使えるNAS、HDMI搭載のプリンストン「PAV-HMS220」
2017年4月17日 06:00
株式会社プリンストンから「Digizo(デジゾウ)」ブランドの新製品「PAV-HMS220」が登場した。HDDレスで発売される2ベイのNASキットで、HDMI搭載で4K再生にも対応するのが特徴の製品だ。その実力を試してみた。
コンシューマー向けに化粧直し
Digizoブランドを冠したことで、だいぶホームユーザー向けのイメージが強くなったのではないだろうか。
プリンストンから登場したHMS-220は、台湾Thecus製のNAS「N2810(v2)」をベースにした2ベイのNASキットだ。
数年前までは国内での存在感もそれなりに強かったThecusのNAS製品だが、最近ではどちらかというと法人向けというイメージが強く、ホームユーザー向けではQNAPやSynology、ASUSTORに押され気味となっていた。
そこで手を組んだのが今回のプリンストンというわけだ。同社は、「初心者でもカンタンに」というキャッチフレーズのDigizoシリーズとして、さまざまなPC向け周辺機器を展開しているが、その1つとして、今回、NASをラインナップに加えたことになる。
ハードウェアはThecus N2810(v2)と共通だが、製品パッケージを国内ユーザー向けにデザインすることで実際の家庭での利用シーンをイメージしやすくしたり、設定編と活用編の2種類の設定ガイドを同梱したりと、海外製NASにありがちな「わかりにくさ」を補う数々の工夫が施されている。
正直、国内のホームユーザー向け市場では、Thecusは出遅れた印象があったのだが、これでもう少し身近な存在になるかもしれない。
しっかり感のあるハードウェア
それでは、実際の製品をチェックしていこう。
まずは筐体だが、ブラックのシンプルなデザインで、奇をてらったところのない実直なデザインとなっている。いかにもNASという印象で、面白味がないと言えばその通りだが、そもそも裏方を担う製品なので、無理に目立たせる必要もないだろう。
筐体で目立つのは、大型のインシュレーターだろうか。このクラスのNASだと、小型のゴムがちょこんと貼り付けられている程度の製品が多いが、本製品では比較的大きめのインシュレーターが装着されており、振動をしっかりと抑え込む工夫がなされている。
製品としては、4K動画やハイレゾオーディオの再生も想定していることから、こういった点でオーディオ機器的な機能性も重視しているのだろう。
前面のHDDベイはホットスワップ可能なトレイ式で、前面の「PUSH」と書かれたボタンを押すことで、レバーが跳ね上がる仕組みとなっていたり、ホームユーザー向けとしては珍しくロック用のキーが付属するなど、少しだけ凝ったつくりになっている。
また、HDDの固定もネジは不要となっており、トレイ側面の固定用レバーが片端を支点に開閉するような独特な設計となっている。HDDのネジ穴と固定用レバー側の突起がピタリと合わないと、押し込むのに少し苦労するが、セットアップ時にドライバーを使わずに済むのは非常にありがたい。
インターフェースは、前面にUSB 3.0×1があるものの、ほかは背面に集中している。特徴的なのは、やはりHDMIポートが搭載されている点だろう。
QNAPやASUSTORのNASなどにも、最近ではHDMIを搭載したモデルが存在するが、本製品もHDMIから家庭用のテレビなどに画面を出力することが可能となっており、リモコンなどで操作しながら、NASに保存された動画などを直接再生できる。
テレビの横に設置して、ビデオカメラから動画データを取り込んで再生するといったメディアサーバーとしての側面を強く打ち出した製品と言えるだろう。
このほか、背面にはギガビットに対応したLANポートも2ポート用意されており、LAG(リンクアグリゲーション)に対応したスイッチと併用することで、1000Mbps×2系統の通信で負荷分散することが可能になっている。ホームユーザー向けの機能を前面に押し出しながらも、ビジネス向けのThecus感が見え隠れするあたりがなかなか面白い。
ちなみに、ライバルとなる製品を挙げるとすれば、QNAPのTS-251A、ASUSTORのAS3202Tあたりになるだろう。いずれもHDMI出力を備えたメディアサーバー利用を想定した製品だ。
コストパフォーマンスという点では、クアッドコアなのに4万円以下のASUSTORが頭一つ抜けているが、スペック的にもっとも充実しているTS-251Aに比べて若干安く手に入ることもあり、実用性と価格のバランスが取れたモデルと言えそうだ。
プリンストン PAV-HMS220 | QNAP TS-251A | ASUSTOR AS3202T | |
CPU | Celeron N3050(デュアルコア、1.6GHz) | ← | Celeron N3160(クアッドコア、1.6GHz) |
メモリ | 2GB | ← | ← |
LAN | 1000Mbps×2 | ← | 1000Mbps×1 |
USB | USB 3.0×3 | ← | ← |
HDMI | 〇 | ← | ← |
オーディオ | ミニピン入出力 | - | |
リモコン | △(スマホ) | 付属(赤外線) | 別売り |
価格(税込) | 4万4912円 | 5万656円 | 3万8196円 |
「音」に萎える
セットアップは、難しくはないものの、少し古臭い。
付属DVDからユーティリティをPCにインストールしてネットワーク上のNASを発見し、設定画面から初期設定を実行するというスタイルだが、最近はクラウドベースのセットアップが主流となっており、そもそもDVDディスクを読めない環境もある。
NASのIPアドレスさえわかれば設定できないわけではない上、初回のみの操作なので無理に仕組みを作り込むメリットは少ないとも言えるが、ライバルの進化に少し追いついていない印象を受ける。
起動後の設定画面は、今風のデスクトップを模したデザインとなっているが、アイコンなどのデザインが独特の雰囲気で、個人的な印象で評価するのは申し訳ないが、どことなくクラシカルな感じがする。
使い勝手や性能に関係ない部分なので、気にしなければ済むのだが、こういった些細な点が意外に所有欲を削いでしまう。
そういう意味では、音についても、何というか“微妙”な感じだ。起動時にネットワークを認識したり、OSが起動するとビープ音が鳴るのだが、これが「ビェェ」と少し濁った感じの音がする。筆者が購入した機体だけかもしれないが、力が抜けるというか、高級感に欠けるというか、率直に言うとだらしない音がする。
ファンからの音も、いまどきの製品としては静かさに欠ける。起動から1時間くらいの間は非常に静かで、ほとんど音は聞こえなかったが、しばらくすると回転数が上がり、数メートル離れていてもファンが風を切る音が聞こえてくる。
設定画面でファン速度を「低」にすれば、ほぼ無音にできるが、「5900rpm以下のディスク使用時」という注があるため、搭載HDDや設置場所の環境によっては、この恩恵は受けられない。
とにかく音は、大きな欠点とまでは言わないが、この製品の良さをスポイルする要因の1つとなっている。
アプリは手動インストール
NASとしての使い方は一般的なNASと同様で、共有フォルダーやユーザーを作成し、必要に応じてアクセス権を設定するといった使い方になる。
実際に設定を開始するには、HDDの初期化が完了するまで10分程度の待ち時間が必要となり、その間はアプリのインストールや共有フォルダーの作成などの作業はできないが、設定そのものはわかりやすく戸惑うことはないだろう。
パフォーマンスは良好で、有線で接続したPCから「CrystalDiskMark 5.1.2」を実行したところシーケンシャルでリード、ライトともに110MB/s超えを実現した。速度面で不満を持つことはほぼないと言えるだろう。
アプリは、初期設定完了後(再起動が必要)に「Kodi」「Local Display」「Twonky」がインストールされるが、そのほかは基本的に自分でインストールする必要がある。「アプリセンター」を使って、一覧から「おすすめ」のアプリなどをインストールしておこう。
個人的には、OneDriveと共有フォルダーのデータを同期できる「OneDrive」、PCとデータの同期ができる「OwnCLoud」、「VirusScan」あたりをインストールしておくことをおすすめする。
特に、VirusScanは、Intel Security(McAfee)製で、設定できるタスクが10までと機能的な制約はあるものの、無料で使えるようになっている。他社製のNASでは、ライセンスを購入しないと利用できない場合もあるので、無料で使えるようになっている点は高く評価したい。
ただ、他社製のNASでは、ほとんどのユーザーがインストールするであろうアプリが初期設定時に自動的にインストールされるものが多い。賛否両論ありそうだが、初心者が使うことを考えると、もう少しおせっかいに、いろいろなアプリを自動インストールしてもよさそうだ。
なお、筆者が試した環境では、orbWebでサービスへのサインイン時にInternal Server Errorが発生したり、Sncthingで設定ページを表示しようとしても何も表示されないなど、サービス提供側の問題だろうか、うまく動作しないアプリがいくつかあったことを報告しておく。
ディスプレイ出力は手軽
気になるディスプレイ出力だが、前述したように必要なアプリが標準でインストールされるため、基本的にはHDMIポートにテレビなどをつなげるだけでいい。
自動的にKodiが起動するように構成されているため、テレビの画面上に「画像」「動画」「音楽」などメディアを再生するためのメニューが大きく表示される。USBマウスやキーボードを接続するか、スマートフォン向けのリモコンアプリ「Kore」を利用すれば、画面を見ながらメディアの再生が可能となる。
初回はメディアの参照先となるフォルダーを指定する必要があるが、一度、指定しておけば、後はフォルダー内のファイルを手軽に再生できるようになる。ファイル名だけでなく、サムネイルも表示されるので、見たい動画を再生するのも苦にならないだろう。
Twonkyによるネットワーク再生も可能だが、DLNAの場合はファイル数が多いと見たいファイルを探すのに苦労する上、十分なネットワーク帯域が確保できないと快適に再生できないことがある。プレイリストなどもうまく活用すれば、動画の再生環境としては悪くないだろう。
4K再生については、H.265圧縮の動画を再生しようとするとCPU負荷が100%に達してしまい、まともに再生できなかったが、H.264圧縮の動画は問題なく再生することができた(CPU負荷16%前後)。一般的な4Kビデオカメラやアクションカメラの動画を再生するのであれば、問題ないだろう。
もう少し安いと助かる
以上、プリンストンのPAV-HMS220を実際に使ってみたが、もう一歩という印象だ。性能は高い上、機能的にも十分で、設定などもプリンストンのおかげでかなりわかりやすくなっているが、若干、割高な印象がある。
テレビの横に置くという使い方をするのであれば、ASUSTORも同じKodiを使ったソリューションとなるだけに、CPUの違いを考慮してもAS3202Tとの価格差が大きく感じられてしまうところだ。
筐体などはPAV-HMS220の方がコストがかかっているのは明らかだが、前述したようにUIやビープ音、ファンの音(調整可能)など、細かな不満も存在することを考えると、悪くはない製品ではあるが、積極的に選ぶ決め手に欠ける印象だ。今後のさらなるブラッシュアップを期待したい製品だ。