第33回:アッカ・ネットワークスの12Mbps ADSL開通
オーバーラップの効果は如何に?



 筆者宅に導入していたアッカ・ネットワークスの8Mbps ADSLが、ようやく12Mbpsへと移行完了した。これで、Yahoo! BB 12Mとアッカ・ネットワークスの12Mbpsサービスを比較する環境が整ったことになる。果たして、その実力はどれほどのものなのだろうか? 早速、テストしてみた。





2つのオーバーラップ技術を使い分けるアッカの12M

 12Mbpsサービスとしては、もっとも早く発表を行なったものの、結果的にはYahoo! BBに先を越される格好となったアッカ・ネットワークス。今年の10月から段階的に12Mbpsサービスが開始され、既存の8Mbpsユーザーからの移行も、ようやく11月から行なわれるようになってきた。

 12Mbpsサービスに関しては、TTC標準の問題、NTTの接続約款の問題など、さまざまな障害があったが、結果的に、各社ともに順調にサービスを開始できたことになる。これまでの経緯から、完全にスッキリしていない雰囲気はあるが、ユーザーにとってみれば、より高速なサービスを受けることができるようになったことを素直に歓迎すべきだろう。

 さて、今回、アッカが開始した12Mbpsサービスだが、これは当初発表されていたオーバーラップ技術を主軸にしたサービスであることに変わりはないものの、多少の仕様変更が加えられているようだ。まず、方式だが、同じオーバーラップ技術でも、どうやら2通りの方法を採用しているようだ。同社が発表していた技術は当初は「C.x(C.XOL)」のみであったが、同社への取材から、これに「DBMOL(Dual BitMap OverLap)」も採用しているとの回答が得られた。

 過去に本連載でも取り上げた通り、C.xはDBMモード(FEXTとNEXTのビットマップを切り替えるモード)において、FEXTのビットマップの上り帯域に下りの信号をオーバーラップさせる技術だ。これに対して、DBMOLは同じDBMモードでもフルオーバーラップをかけることで、より速度を向上させることを可能にしている。つまり、同社の12Mbpsサービスでは、C.xとDBMOLの2つの方式を必要に応じて使い分けていることになる。

 では、どのような基準で方式を切り替えているのだろうか? これは距離を基準としていると考えられる。DBMOLについての同社の説明は「線路長1.5km以内に適用すれば、その干渉量はTTC標準が許容する範囲内であることがTTCスペクトル管理の算出方式にて確認されています。回線設定時、当社の12M設備は使用する線路の特性を自動的に測定し、条件に合致する場合のみDBMOLを適用します。」とのことなので、NTT収容ビルからユーザー宅までの回線距離に応じて、方式を切り替えていることになる。

 もちろん、DSLAMやモデム側で回線距離を正確に把握することは難しいので、おそらくはモデムのトレーニング時に伝送損失などのパラメーターなどを考慮して方式を切り替えているのではないかと推測できる。このあたりは不明な点も多いので、改めて同社へのインタビューなどを行ない、明らかにしていきたいところだ。





筆者宅では1.3Mbpsほどの速度向上を実現

 それでは、実際に12Mbpsサービスを利用した結果について見ていこう。結論から先に言えば、12Mbpsの効果は絶大だった。筆者宅は、NTT東日本の線路情報によると、線路長2.7Km、伝送損失39dBと、決してADSLには適していると言えない環境だが、それでも1Mbps以上の速度向上が見られた。

 具体的には、8Mbpsサービス時は、モデムのリンクアップ速度が2304kbpsだったのに対して、12Mbpsサービス移行後は3680kbpsでリンクアップすることができた。実に約1.3Mbpsもの速度向上だ。どうやら、同社が発表しているように、全体的に500kbps以上の速度向上が見られるというのも大げさではないようだ。

8M/12M回線状況比較
 アッカ 8Mアッカ 12Mアッカ 12M
オペレーションモードG.DMTG.DMTG.DMT
ビットマップモードDBMDBMXOL EC
下りリンク速度2304kbps3456kbps3680kbps
上りリンク速度992kbps1024kbps1024kbps
SNR(ノイズマージン)7dB6.0dB5.0dB
インターリーブディレイ4ms/4ms4ms/4ms4ms/4ms

 ただし、3680kbpsの速度は、C.xのオーバーラップモードでリンクアップしたときの値だ。前述したようにアッカの12Mbpsでは、オーバーラップにC.XOLとDBMOLの2通りの方法を用いる。また、トレーニング時の状態によっては、オーバーラップを使わないという選択肢も用意されている。実際、何度か回線をつなぎ直すテストをしてみたところ、筆者宅では「DBM」モード、「XOL」モード、「XOL EC」モードの3パターンが確認できた。

 DBMモードは通常のAnnex CのDBMモード(当然オーバーラップはなし)で、XOLはC.x方式だがオーバーラップを使わないモード。最後のXOL EC(Echo Canceler)はC.xでオーバーラップを利用するモードだ(さらに回線状況が良い場所ではDBMOLモードも存在すると推測できる)。今回のアッカの12Mbps ADSLはハードウェア側の改善などにより伝送性能を高めているためDBMモードやXOLモードのようにオーバーラップを利用しない場合でも速度向上が見られるが、やはりオーバーラップを利用した場合が最も高い速度を計測できた。


12MbpsのDBMモードでリンクアップしたときの回線状況。XOL ECに比べれば低い速度となるが、それでも8Mbps時より速度が大幅に向上している

XOL ECモードでの回線状況。オーバーラップの効果により、DBMモードに比べて、さらに数百kbpsほどの速度向上が見られる

 ちなみに、8Mbpsと12Mbpsの差はビットマップ(キャリアチャート)を見ることで、はっきりと確認できる。以下の画面の左側が8Mbps時のビットマップで、右側が12Mbps(XOL EC)時のビットマップだ。12Mbpsの方が、各キャリアで伝送速度の上積みが見られるうえ、上りの部分に下りのビットマップが重なっていることが確認できる。この重なっている部分がオーバーラップによって上積みされた部分だ。


8MbpsサービスのFEXTビットマップ。矢印で示したように下りの上限速度は44kbps前後にとどまっている12Mbps XOL EC時のFEXTビットマップ。下りの上限速度が52kbps前後にまで向上し、しかも1000KHz周辺の高い周波数帯でもデータが搬送可能になった。また、上り部分に下りのビットマップが重なり、オーバーラップがきちんと動作していることもわかる

 もちろん、実際にどれくらい速度が向上するかは、環境によって異なる。場合によっては、各キャリアへの速度の上積みができない場合もあるだろうし、オーバーラップモードで動作してくれない可能性もあるはずだ。しかし、8Mbpsサービスに比べて、同一環境での速度は確実に向上すると言える。これから、ADSLを申し込むのであれば、間違いなく12Mbpsサービスの方が有利だろう。





他の回線への影響は?

 なお、今回の12Mbps ADSLの開通が、他の回線に与える影響も調べてみたが、すでに筆者宅に引き込んでいる回線には、大きな影響はなかった。フレッツ・ADSL 8M、Yahoo! BB 12Mともに導入前と変わらぬ速度でリンクしていた。以前、Yahoo! BB 12Mの導入レポートのときにも述べたが、やはり同一カッドに収容されていない限り、オーバーラップの影響はないのであろう。もちろん、アッカのC.xはTTC標準の改定ドラフトの規格内であった上、NTT東西も干渉の少ない第1グループと認めた規格となっているので、影響が無いのも当然と言えるが…。

フレッツ・ADSL 8Mタイプへの影響
 アッカ速度変更前アッカ速度変更後
下りリンク速度2048kbps2112kbps
上りリンク速度864kbps768kbps
SNR(ノイズマージン)6dB6dB
インターリーブディレイ4ms/4ms4ms/4ms
伝送損失47dB47dB

 また、同じ12MbpsとなるYahoo! BBとの比較だが、速度面では今回のアッカの回線に軍配が上がった。Yahoo! BB 12で提供されるモデムは、リンクアップ速度や各種パラメーターが確認できない仕様となってるため、Yahoo! BBが提供する速度測定サイトにて速度を計測してみたが、実効速度でも3080kbpsとアッカの回線の方が速い結果となった。パフォーマンス的には、かなり良いサービスだと言えるだろう。

実効速度
アッカ8MYahoo!BB
(アッカ開通前)
アッカ12M
(XOL時)
Yahoo!BB
(アッカ開通後)
表3:実効速度1991kbps2150kbps3081kbps2602kbps
(Yahoo! BB提供の速度測定サイトにて計測)

Yahoo! BB提供の速度測定サイト(http://speedchecker.bbtec.net/)にて実効速度を計測。3000kbps以上という高速な結果となった

同一条件でYahoo! BB 12Mの実効速度を計測。こちらはアッカ12M導入前と変わらず、2600kbpsという結果となった。8Mbpsサービスに比べれば高速だが、アッカほどではない

 ちなみに、これは余談だが、これまでアッカの回線はPPPoAによる接続方式が採用されていたが、この秋から、正式にPPPoEによる接続方式がサポートされるようになった。これにより、ADSLモデム(富士通製 FLASHWAVE2040M1)をブリッジモードで動作させることで、PPPoE対応の一般的なブロードバンドルータなども利用可能となった。このような方式の変更により、市販のルータの選択肢が広がったことは高く評価したいところだ(8Mbpsサービスの場合でもDSLAM側の対応状況によってはPPPoE接続可能な場合もある)。





センティリウム陣営のパフォーマンスは如何に?

 このように、今回のアッカの12Mbpsサービスは、速度的な面では文句のないサービスと言える結果となった。筆者の環境に限っては、Yahoo! BBの12Mbpsサービスよりも高いパフォーマンスが実現できたうえ、回線が切断されたり、モデムがハングアップすることなどもなく非常に安定している。

 このほか、12Mbpsサービスは、NTT東西とイー・アクセスが提供しているが、これらのサービスでどれくらいのパフォーマンスが出るのかが期待されるところだ。両者ともセンティリウム社のチップを採用しているため、12Mbpsを実現する方式はほぼ同じとなる。筆者宅ではフレッツ・ADSL 8Mを導入しているので、この12Mbps化が待ち遠しいところだ。


関連情報

2002/11/12 11:18


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。