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ネットでどう広がりを見せるか? IPサイマルラジオ「radiko」


 3月15日から試験放送が開始された「radiko」。聴取者数、聴取方法ともに、いろいろな意味で大きな反響があったが、ネットとの親和性という意味では今後の発展が大きく期待できるサービスだ。その現状と将来を考えてみよう。

radikoのトップページ。画面下にある放送局のアイコンをクリックするだけで放送と同じ内容をインターネット経由で聴取できる

大きな一歩

 試験放送とは言え、音楽や広告などを含めた放送と同じ内容のコンテンツを、IPv4を使って、しかもブラウザなどの汎用的なクライアントに対して配信する。あらためて考えてみると、「radiko」というのは非常に画期的なサービスだ。

 音楽配信に関しては最近ではDRMフリーの方向へと進みつつあるが、映像など、これまでのネット上のコンテンツは、基本的に限られたコンテンツをセキュアな通信方式で特定のクライアントに配信するというのが当たり前だった。

 しかし、今回サービスが開始されたradikoは、「これで大丈夫なのか?」と、ユーザー側が無用な心配をしてしまうほど“敷居”が低いサービスとなっている。IPアドレスによって視聴可能な地域を制限してはいるものの、特別な機器や設定などの準備は一切不要。インターネットに接続されたPCから「http://radiko.jp」にアクセスし、聴きたい放送局のアイコンをクリックするだけで手軽にAM/FM放送を聴取することが可能だ(フラッシュは必要)。

プレーヤーは別ウィンドウで表示される。音量調節なども簡単。選曲タブをクリックすると別の放送局に切り替え可能 番組表もradikoのサイトから確認できる。普段、あまり目にするものではないので新鮮

 ユーザーの立場からしてみれば、これほど手軽にラジオを楽しめるのは、実にありがたい話で、実際、開始から1週間での総ストリーム数は523万、Webページのアクセス数は4710万という人気を集めたうえ、試験放送開始から1カ月も経たない、きわめて短期間で、ユーザーの手によるさまざまなアプリケーションも数々登場するという状況となった。

 正直、ラジオというコンテンツにこれほどまでに注目が集まること自体が意外であったが、今後、放送がIPとどう向き合うかという方向性を大きく左右する一歩となったのではないだろうか。

期待は双方向コミュニケーション

 実際、radikoを利用してみると、ラジオというコンテンツの内容の面白さにあらためて感心させられる。

 まず、ニュースにしろスポーツ中継にしろ、内容が極めてわかりやすい。テレビのように映像に頼らず、音声のみで状況を伝えなければならないおかげで、状況がより詳しく伝えられる。野球中継など、テレビで映像を見ながら、radikoで音声を聞いた方がわかりやすいくらいだ(好みもあるが解説にベテランが多く内容が濃いのも良い)。

 続いて、リズム感というか、テンポが良い。もちろん、DJの実力によって差はあるのだろうが、特に生放送や中継、リスナーとのやり取りなど、時間や内容が想定されない会話でも破綻することがほとんどない。テレビ放送の場合、ニュースなどのあらかじめタイムテーブルと内容がきっちり定められている番組は別として、バラエティの生放送や中継などは見るに堪えないバタバタ感で内容が破綻するケースがあるが(それが演出というのであれば好みの差でしかないが……)、そういった不快感もない。

 そして、何より双方向のコミュニケーションを番組にうまく取り込んでいる。もともと、ラジオは、ハガキ、FAX、メールなどでリスナーの投稿をうまく番組に取り込んできた文化があるが、番組によってはTwitterを活用するなど、DJとリスナー、リスナー同士のリアルタイムのコミュニケーションを楽しめるようになっている。

 おそらく、ラジオのDJやスタッフには、大量の投稿の中から話題を膨らませることができるメッセージを選び出す感覚が備わっていたり、それを番組の内容として取り込むシステムが確立されているのだろう。

 ただし、まだTwitterのユーザー層とラジオのリスナー層がマッチしていないのか、時間帯や番組によってはツイートの数はまばらだ。radikoを再生しながら、各放送局のハッシュタグのTLを表示できるサービス「らじったー」( http://raditter.com/ )や「radiso.jp」( http://radiso.jp/web/ )なども存在するが、まだ活況とは言えない状況だ。

 今後、番組側でTwitterをさらに活用するようになれば、より双方向のコミュニケーションが一般的になっていくことだろう。

「公式」主導で芽を大切に育てる

 このように、手軽さによってユーザーの注目を再び集めることに成功し、ラジオというコンテンツを見直すきっかけになったradikoだが、課題も少なくない。

 まずは、聴取可能な放送局と地域の問題だ。現状のサービスは、関東地区(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)でTBSラジオ、文化放送、ニッポン放送、ラジオNIKKEI、インターFM、TOKYO FM、J-WAVEの7局、関西地区(大阪府、京都府、兵庫県、奈良県)でABCラジオ、MBSラジオ、ラジオ大阪 OBC、FM COCOLO、FM802、FM OSAKAの6局のみが聴取可能となっており、これ以外の地域での聴取、およびこれ以外の放送局の放送は聴取できない。

 radikoは、現状、都市部を中心としたビルや雑音源などの影響による難聴取対策としての効果を測定するための試験サービスとなっている。このため、まずは都市部からサービスを提供していくという方針になっていることは致し方ないだろう。

 もちろん、インターネットを利用しているため、他の地域からアクセスすることは技術的に不可能ではないが、現状はIPアドレスによってエリアを判別し、放送エリア外からアクセスできないように制限している。

radikoのサイトにアクセスすると、IPアドレスから地域が自動判別される。関東からは関西の放送局は再生できない。また、サービス対象外の地域からアクセスした場合は再生自体ができない

 これは、主に権利関係が影響しているようだ。今回のサービスは放送とまったく同じ内容を配信するサイマル放送となっており、番組中のCMや音楽などもそのまま配信される。もともと特定の地域で放送することを前提に、CM、音楽、出演者などとの契約が結ばれている以上、エリアを越えた視聴は難しいのだろう。

 このあたりについては、AV Watchのインタビュー記事( http://av.watch.impress.co.jp/docs/news/20100312_353896.html )が非常に参考になるので一読しておくことをおすすめする。

 また、ユーザーが作成したアプリケーションも多数登場し、中にはエリア外での聴取も可能になるものも存在したが、これらも4月7日にストリーミングのセキュリティが強化されたことで、一部のアプリケーションが利用できなくなった。

 その代わりというわけではないが、4月12日から、Adobe AIR環境で動作する単体起動可能な「radikoガジェット」が公開された。あらかじめAdobe AIRをインストールしておく必要があるが、Webブラウザーを起動しなくてもradikoが聴取可能となったことで、他の作業をしながらの「ながら」聴取も快適にできるようになった。

Adobe Airを利用した公式アプリケーション「radikoガジェット」。ブラウザとは別に利用できるので常時再生に適している アプリケーションとして扱えるため、Windows 7のタスクバーに固定したり、ショートカットを使って起動したりと手軽に扱える

 今後の課題は、スマートフォンなどのモバイル端末向けのアプリケーションの提供だろう。エリアをどう判定するかが課題となりそうだが、radikoを普及させ、大きく育てていくためには、より多くプラットフォームで利用できることが欠かせない条件となる。

 また、これは本サービス開始後の課題とも言えるが、ネットを強く意識した番組作りも要求されるようになるだろう。前述したように、ラジオは双方向のコンテンツとしてのノウハウを十分に持ったメディアだが、まだネットの声の扱い方が番組によって差がある。

 番組構成も、平日昼間の高齢者層やドライバー向け、夜間の特定層向けなど、現状の放送はかなりターゲットが絞り込まれた内容になっているが、これもネットでのサイマルが本格的に始まるとなれば、ある程度の見直しも必要になるだろう。

 もちろん、内容を変更するには、そもそもradikoが普及することが前提となるため、卵が先か鶏が先かという話になるが、radikoを育てていくためには、ネットを意識したコンテンツは不可欠と言えるだろう。

ユーザーとしてどうradikoを育てるか

 radikoを育てていくという意味では、我々ユーザーの姿勢も問われそうだ。

 おそらく、IPサイマルラジオ協議会は、エリア外での聴取、録音、スマートフォンなども含めた他のプラットフォームでの利用、アプリケーション開発環境の提供などといった、ユーザーの声が高まることは、十分に予想していたはずだ。

 4月7日に実施されたセキュリティ強化対策、特定のアプリケーションに対する対処を見ても、あらかじめ、その可能性と対策をある程度想定していたのではないかと思えるような手際の良さがある。

 考えすぎかもしれないが、どうも、この状況をみていると、我々ユーザーの姿勢が試されているような気がしてならない。IPサイマルラジオ協議会としては、radikoを普及させるためになるべく敷居の低い環境を提供したいはずだが、エリア外での視聴や私的録音の可能性があるとすれば、最終的にシステム的な対策をするか、それとも広範囲でのコンテンツの利用や私的録音を考慮した契約を著作権団体やスポンサーと交渉しなければならない。

 前者はユーザーの利便性を損ね、後者は放送局のコスト増や提供できるコンテンツの制限につながるため、どちらにしても好ましくない。また、場合によっては、再びPCの私的録画録音保証金の議論にも発展しかねない。

 現在のradikoは、言わば料理をする前の素材だ。IPサイマルラジオ協議会は、何も手を入れない新鮮な状態でradikoという素材を提供してくれた。これを、腹が減っているからと言って、我々ユーザーが好き勝手に調理すれば、そんな料理人には、大切な素材はまかせられないと途中で引っ込められてしまいかねない。

 現在の試験サービスは8月31日までとなっており、その後の展開については、おそらく現状の試験サービスの状況次第と言えるだろう。radikoが視聴可能な地域が広がり、本サービスとして誰もが使えるようになるかは、我々ユーザーによるところも大きいだろう。

 とは言え、どういうサービスを使いたいのかを主張することは大切だ。エリア外からも使いたい、録音をしたい、そういう声を大にしなければ使いやすいサービスは登場しない。9月までの約5カ月間、radikoをどう使いたいかを主張し、実際にどう使うかが、我々ユーザーに問われていると言えそうだ。


関連情報

2010/4/20 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 7」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ