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第414回:“帰ってきたNetVolante”ヤマハ ブロードバンドVoIPルーター「NVR500」


 ヤマハから中規模・SOHO向けブロードバンドルーターの新モデル「NVR500」が発売された。光ファイバー、ISDN、3Gと複数の回線に対応するうえ、「ひかり電話」対応、USBファイル共有・同期、プログラム可能なスクリプトの実装とまさに盛りだくさんの製品だ。その実力を検証してみた。

現状に即した進化を遂げた新NetVolante

 「帰ってきた」などと書くと失礼かもしれないが、かつてISDNルーターを使っていた個人ユーザーにとっては、ヤマハの「NetVolante」と聞くと、かつての思い出がよみがえってくるような懐かしさを覚えることだろう。

 もちろん、中小規模の企業向けルーター市場では確固たる地位を確立しているヤマハではあるのだが、一般ユーザーの手が届くような製品が登場したのは非常に久しぶりのこととなる。従来機種のNetVolante RT58iの発売が2006年なので、実に4年ぶりのことになる。

 そんなヤマハから今回発売された新製品の名称は「NVR500」。「NetVolante」と明記されることはなくなったが、頭文字を取った製品名を採用。これまでのヤマハルーターの伝統を受け継ぐ製品となっている。

 今回の製品の特長は、とにかく多機能であることに尽きる。同社製のルーターは、主なターゲットが企業であることから、その安定性の高さにはもともと定評があったが、今回の製品はその高い信頼製や性能はそのままに、現状のネットワーク環境に合わせた新機能が多数搭載されている。それも、過去の機能を捨てずに、だ。

 たとえば、対応する回線環境だが、光ファイバーやADSLなどのブロードバンド回線に加え、従来からサポートされてきたISDNもそのまま利用可能となっており、さらにUSBタイプの通信アダプタを利用した3Gネットワークにも対応している。

光ファイバーやADSLなどに加えて、USB接続の3Gネットワークにも対応したヤマハのNVR500。フレッツ光ネクストのひかり電話にも対応するなど、非常に多機能なブロードバンドルーターとなっている

 正直、そこまでサポートしなくても……、と思えるかもしれないが、現状、どこでも光ファイバーが使えるかというと残念ながらそうではなく、ISDNを使い続けていたり、そのISDNさえも利用できないケースも存在する。

 特に、同社が主な市場と考えている中小規模の企業では、地方への店舗展開、百貨店などのテナントへの入居、高速道路のパーキングエリアへの出店など、通常の手続きでは光ファイバーを敷設できない場所での営業を行っているケースが少なくない。かといって、多店舗展開を考慮すると、場所によって通信機器を使い分けるというのは管理面での負担が大きくなる。

 これに対してヤマハが出した解答が、今回のNVR500でも実装されている複数回線のサポートというわけだ。NVR500なら、回線環境の異なる支店や店舗を全国に抱えるような企業でも、1ベンダー1製品の統一された環境でネットワークを構築することができる。

 こういったアプローチは、確かに他のネットワーク機器ベンダーには見られないヤマハならではの特長だ。ニッチな市場かもしれないが、同社が、そこで圧倒的な強さを見せるのもうなずけるところだ。

あらゆる点に見えるコダワリ

 それでは、実際の製品について見ていこう。

 本体だが、従来のヤマハ製品同様に黒を基調としたデザインとなっている。側面は放熱を考慮したフィン形状となっているが、前面パネルはNetVolanteシリーズならではとも言えるピアノブラックとなっており、シンプルながら非常に品格のあるデザインとなっている。

 設置方向は横、縦(スタンドが付属)のどちらも可能となっており、ラックにマウントできるようにサイズ的にも考慮されている。

ブラックのシンプルなデザインだが、非常に剛性感が高く、高級な印象を受ける 付属のスタンドを利用すると縦置きでも利用可能

 個人的な第一印象としては、手で触れたときの剛性感が高いのが好印象だった。プラスチック感が如実に感じられるコンシューマー向けの通信機器と異なり、手で無造作につかんでも本体がたわむ感じが一切しない強烈な剛性感を持っており、各部の立て付けも非常にカッチリとしている。通信機器としては必ずしも必要ではないかもしれないが、こういった感覚は価格とのバランスという点で非常に重要だ。

 インターフェイス類は、実にいろいろなものが所狭しと並べられており、見ただけで多機能であることを感じさせられる。

 まずはフロント側だが、前面にはLAN/WAN/LINEの動作状況を示すLEDに加え、microSDスロット、USBポート×2が搭載されており、それぞれのLEDとボタン(ファイルコピーなどに利用)、さらにファームウェアのリビジョンアップなどに使う「DOWNLOAD」と書かれた赤いボタンと、大きな電源スイッチが配置されている。

正面 背面

 microSDやUSBなどは後述するファイル共有機能に利用するためのものだが、面白いのは電源スイッチだろう。コンシューマー向けの無線LANルーターなどでは、もはや電源スイッチがある製品は見当たらないのだが、本製品ではケーブルの抜き差しではなく、きちんと電源スイッチでの操作が、それも前面からできるようになっている。

 しかも、このスイッチをよく見ると、誤操作を防止するためのカバーが上下に配置されており、機器の移動や前面パネルの操作時に、誤って電源をオフにしないようにきちんと配慮されている。こういった細かい点は、実際の運用をするユーザーの意見をきちんと把握していないとできない配慮だ。

 一方、背面もかなり密度が高い。電源コネクタと初期化スイッチ、1000BASE-T対応のLAN×4、WAN×1が搭載されているのに加え、ISDN用のS/Tポート、ISDN Uまたはアナログ回線用のLINEポート、電話機を接続するためのTEL1/TEL2ポート、さらにコンソール設定用のRS-232Cまで搭載されている。ISDN用のポート類やRS-232Cなどを間近に見たのは実に久しぶりだ。

 このほか、本体上部にスイッチが搭載されており、これによってISDNのDSUのON/OFFや極性反転などを切り替えることもできるようになっている。

 もちろん、サイズはその分大き目になってはいるのだが、よくぞここまで各種インターフェイスを詰め込んだものだと感心してしまうところだ。

誤操作を防ぐ電源スイッチのカバーもコダワリのひとつ 上部のスイッチでISDNの設定も切り替え可能

フレッツ光ネクストなら「ひかり電話」も使える

 では、実際に使ってみよう。本製品はさまざまな回線環境に対応しているが、まずはNTT東日本のフレッツ光ネスクトで利用してみた。

 NVR500は、「ブロードバンドVoIPルーター」と名付けられている通り、電話機能も搭載しているが、この電話機能はフレッツ光ネクストの「ひかり電話」にも対応している(ネクストのみ対応)。このため、インターネット接続だけでなく、電話機能もそのままNVR500で利用することが可能だ。

VoIPルーターという名前の通り、電話機能も搭載。フレッツ光ネクストの「ひかり電話」を利用できる

 ただし、接続には若干工夫が必要となる。現状、フレッツ光ネクストでひかり電話やフレッツ・テレビを契約している場合、ONU一体型のルーター(PR-S300SEなど)が提供される場合がある。この場合、機器に光ファイバーが直接接続されているため、そのまま置き換えることができないのだ。

 幸い、筆者宅で利用していたPR-S300SEの場合、背面のカバーを一部取り外すことで、本体内部のルーター部分とONU部分を接続している有線LANケーブルが見えたので、これを取り外し、NVR500を接続することができた。要するに、PR-S300SEは、ONU兼フレッツ・テレビ用信号分離機としてのみだけ動作させ、ルーターとひかり電話をNVR500で利用するという接続形態になる。

 接続が完了すれば、NVR500に設定情報を登録するだけだ。設定画面からインターネット接続用のPPPoEのアカウントを登録後、NVR500で「ひかり電話」の利用を有効にする。フレッツ光ネクストの場合、ひかり電話の設定情報は自動設定となるため、これだけでTELポートに接続した電話機から電話をかけることが可能だ。

筆者宅で利用していたPR-S300SEはONU一体型の製品となっている。背面のカバーを取り外すことで外部のルーターを接続可能 設定画面でひかり電話を有効にすれば自動的に電話を利用可能。ただし、着信鳴り分けなどのオプションサービスには非対応

 ただし、NVR500はひかり電話のオプション機能に対応しておらず、複数番号の登録や着信鳴り分け、割り込み通話など、高度な電話の機能は残念ながら利用できない。

 筆者宅もそうだが、SOHOや中小の場合、自宅と事務所、電話とFAXなどのように複数番号を使い分けているケースがまだまだある。こういった電話機能は、レンタルされるルーター(PR-S300SE)ではサポートされているので、完全な置き換えを実現するためにも、今後、ぜひ対応して欲しいところだ。

 一方、パフォーマンスに関しても非常に優秀だ。全ポート1000BASE-T対応なうえ、ルーティング性能は公称値で実効800Mbpsとなっており、100Mbps以上の回線環境にも対応できる性能を備えている。実際、下り200Mbps、上り100Mbpsのフレッツ光ネクスト環境で計測した値は以下の通りだ。回線速度の上限に近い値をきっちりとマークしている。

フレッツ光ネクスト(下り200Mbps/上り100Mbps)でのテスト結果

 また、標準のルーターに接続した場合となるため参考値となるが、1Gbpsのauひかりで利用した場合でも上下で700Mbps程度の速度を確認できた。これなら法人向けのビジネスタイプ(1Gbps)でも不足のない性能と言えるだろう。

 なお、余談だが、NVR500は起動時や回線接続・切断時に「ピロッ」という独特のビープ音が鳴るようになっている。ISDNルーターをオンデマンド接続で使っていた当時によく耳にした音だったため、懐かしさを感じてしまったところだ。

Willcom Core 3GでFOMA網を利用

 続いて、USBタイプのデータ通信アダプタを利用して3Gネットワークを利用してみた。

 対応するアダプタの種類については製品情報ページを参照して欲しいが、NTTドコモ、イー・モバイル、IIJモバイル、日本通信、ソフトバンクモバイル、ウィルコム、NTTコミュニケーションズなど、さまざまな通信事業者の端末に対応している。

 ただし、基本的にモデムとして動作するUSBアダプタへの対応となるため、LANインターフェイスとして動作するWiMAXは利用することができない。エリアを考えると、3Gの方が有利だが、ワイヤレスでスピードを求めるユーザー層も考えられるため、将来的に、このあたりの対応もぜひ検討して欲しいところだ。

 さて、使い方だが、これも簡単だ。今回は、FOMA網を利用するWillcom Core 3Gを利用したが、端末(HX003ZT)を装着すると自動的に認識される。後は固定回線と同様に設定ページから接続情報を登録する。APNやユーザー名、パスワードなどを登録すれば接続先が作成され、実際にインターネットに接続できるようになる。

Willcom Core 3Gの通信アダプタを接続。3G回線もWAN側として利用できる 設定画面から接続先を登録することで3G経由での接続が可能となる

 筆者宅の場合、屋内に電波が届きにくいため、さすがに速度は劣るため、Webで画像の表示にもたつく印象はあるが、メールなどであればさほどストレスなく利用できる。企業向けということを考えると、本社との間で最低限のデータのやり取りができれば事足りるので、実用性としては悪くない印象だ。

 もちろん、モバイル用のデータ通信端末を普段家でも使いたいといったニーズにも対応できるだろうし、固定回線のバックアップ用として利用することもできる。月額の利用金を低く抑えることができる料金プランで契約すれば、バックアップ用として万が一のために装着しておくのも1つの手だろう。

筆者宅では電波状況があまり良くないせいで速度はあまり速くなかった

microSDやUSBのデータを共有・同期可能

 続いて、データの共有機能について見ていこう。NVR500のフロントには、microSDスロットとUSBポートが搭載されており、ここにmicroSDメモリーカードやUSBメモリー、USBハードディスクなどを接続して利用することができる。

 標準では共有機能が無効になっているため、設定ページから有効にする必要があるが、共有にすることでネットワーク上のPCから、SMBでNVR500上のデータを参照することができるようになる。

microSDカードやUSBメモリーを共有することができる 共有できるデバイスは1つのみ。FAT/FAT32でフォーマットされたメディアに限られる。セキュリティはIPアドレスやLANインターフェイスで制御可能

 共有できるのは、microSD、USB1、USB2のいずれか1つのみとなるうえ、認識するのはFAT/FAT32でフォーマットされたメディアのみに限られるが、簡易的なファイル共有環境を手軽に構築できるようになっている。

 本製品の場合、数人程度のユーザーが存在する店舗やSOHO環境などでの利用も想定されるが、こういった環境ではNASやサーバを設置するスペースがない可能性も考えられるので、ルーターで手軽にファイルを共有できるのはメリットといえる。

 ユーザーごとのアクセス権は設定できないが、IPアドレスやNVR500のLANポートの番号で許可するホストを制限することなどが可能となっているので、小規模の環境ならこれだけでも最低限のセキュリティを確保することができるだろう。

ネットワーク上のX201sからCrystarlDsikMark3.0dを実行した結果

 ただし、この機能に加えて、同期機能も利用すると、拠点間でのファイル共有というルーターならではの使い方もできるようになる。ファイル同期の設定画面で、本社側のNVR500を代表ノードに設定し、他の拠点に設置されているNVR500のIPアドレス(もしくは名前)とパスワードとして使う共有鍵を設定しておく。

 同様に拠点側のNVR500で本社側のNVR500を同期先として設定しておけば、NVR500同士がインターネット経由で共有したメディアの内容を暗号化された通信によって自動的に同期してくれるようになる。

 小規模の店舗や支店を多地域に展開するような企業の場合、拠点間の連携というのは1つの大きな課題となる。特に、拠点間で個別にファイルを共有したりすると、データのバージョンが拠点ごとに変わるといったデータの不整合が大きな問題となるケースが多い。

 しかし、この機能を利用すれば、マスターとなる本社側のデータを更新することで、各拠点で同じデータを使えるにすることができるうえ、拠点側で登録したデータをシームレスに本社側から利用することなどが可能になる。

同期の設定画面。特定のNVR500をマスターとして設定。同期先のIPアドレスやホスト名を指定すると同期ができる(他方でも同じ設定が必要)

 実際に利用してみたが、光ファイバーなどの高速な回線経由で同期されれば、数十MBのファイルなどもごく短時間で同期されるうえ、新規に保存したファイルなども、ものの数秒もあれば他方に同期され、すぐにに利用することができた。

 登録できる拠点が1台あたり3拠点となっているため、拠点の数が多い場合は運用上の工夫が必要と思われるが、このような環境がルーターだけで手軽に利用できるのは、コスト的にみても大きなメリットと言えるだろう。

まだまだあるコダワリの機能

 このように、ヤマハのNVR500は、有線のみのブロードバンドルーターながら、非常に多機能、高性能な製品となっており、あらゆる部分にコダワリが見えるルーターとなっている。

 今回は紹介しきれなかったが、このほかにも保存先として外部メモリーも指定できるうえ、電源OFF時に自動的に保存してから電源を切ることで障害解析などにも役立つログ機能が搭載されていたり、「Lua」スクリプトを実行することが可能となっており、利用者のスキル次第で、ルーターの状況を監視しながら特定の動作を実行するといったことも可能となっている。

 詳細な情報については、同社の技術情報サイトから、Luaスクリプトに関するページを参照して欲しいが、ヤマハルーター専用のAPIなども用意されており、「ルーターの再起動時にリブート情報をメールで送信する」、「WAN の通信状況に応じてQoSを設定し、一定間隔で監視状況をメールで送信する」などいったサンプルも参照することができる。

 こういった機能は、おそらくネットワーク管理者や開発社、実際に製品を収めるSIerにとって非常に大きな魅力と言えるが、通信機器に興味がある一般ユーザーにとってもかなり遊べるものと言えそうだ。

 価格は実売価格で3万6800円前後が想定されているため、個人で手を出すには若干躊躇されるが、企業で使う場合は十分にそれだけの価値がある製品と言える。個人的には、使ってみて、久しぶりにテンションが上がった製品であった。


関連情報


2010/11/2 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 7」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ