圧倒的なスペックと利便性を誇る最強WiMAXモバイルルーター NECアクセステクニカ「AtermWM3600R」


 NECアクセステクニカから、WiMAXモバイルルーターの新製品「AtermWM3600R」が発売された。従来のWM3500Rより小型・軽量化が実現されたうえ、連続通信時間も現行製品ではトップレベルとなる10時間を実現、さらに公衆無線LANへの対応などさまざまな機能が強化された製品だ。その実力を検証してみた。

賢い省電力機能、公衆無線LAN対応などさまざまな進化を遂げた「AtermWM3600R」

 思わず従来モデルの「AtermWM3500R」の処分を考えてしまうほど、今回、NECアクセステクニカから登場した「AtermWM3600R」は魅力的な製品だ。

 サイズと重量で言えば、以前に本コラムで取り上げたネットワークコンサルティングの「Mobile Cube(幅67×奥行き67×高さ14.2mm、重さ69g)」には及ばないものの、軽量・コンパクトなボディでありながら、連続通信時間10時間/ウェイティング(後述)25時間という長時間の利用を可能にしているうえ、パフォーマンスの向上、賢い省電力機能、さらに公衆無線LANへの対応、スマートフォン向けアプリやQRコードを利用したセットアップの提供など、さまざまな進化を遂げている。

NECアクセステクニカのWiMAXモバイルルーター「AtermWM3600R」。小型・軽量化、長時間駆動化に加え、公衆無線LAN対応などの新機能を詰め込んだ期待の製品


メタリックのピンク、ブラック、シルバーの3つのカラーをラインナップ

 モバイルルーター選びの基準を挙げるとすれば、個人的には、1に連続通信時間、2にサイズ、3に使いやすさ、と言えるのではないかと思えるが、今回のAtermWM3600Rは、このいずれのポイントも、現状製品の中でトップレベルと言っていい製品だ。

 これまでのモバイルルーターは、外出先で使う上で、バッテリーの状態や電源のON/OFFなど、ある程度、気を配ってやる必要があったが、詳しくは後述するが、今回のAtermWM3600Rは、朝、鞄に入れたら、夜、家に帰ってくるまで、その存在をほとんど気にすることなく利用できる。

 スマートフォン時代のモバイルルーターらしく、より「スマート」に進化したモバイルルーターと言ってよさそうだ。


コンパクトだが使いやすい

 では、早速、製品をチェックしていこう。まずは、外観だが、前モデルのAtermWM3500Rのイメージを踏襲しながら、よりコンパクトに、よりスタイリッシュに進化した印象だ。

 サイズは、幅約95×奥行き70×高さ12.8mmで、重さは110g。従来製品のAtermWM3500Rは幅約105×奥行き70×高さ14.8mm、120gだったので、値としてはわずかな差なのだが、並べてみると、確かにひとまわりコンパクトになったことがわかる。手に取るとより小さく感じられ、スッポリと手のひらに収まる印象だ。

 よく見ると、ちょうどフタをしたタッパーのように、上部のパネル部分に比べて下部が一回り小さい形状になっており、実質的なサイズが前述した値よりも、さらに小さいことがわかる。

正面側面背面


上の部分に比べて底面側が一回り小さい

 上部が大きいのは、内部的な基板のサイズやアンテナの配置、もしくは放熱といったところが理由かもしれないが、どうせスペック上の値は同じになるのだからと、単純なスクウェア形状のケースに収めて満足することなく、削れる部分はトコトン削ったという技術者魂を感じるデザインだ。

 外見上の変化としては、このほかボタン類が、これまでの側面から、上部のパネル側へと移され、電波状況や電源などを知らせるランプのサイズも大きく、見やすくなった。

 最初は、「電源とSET(無線LANボタン設定用)のボタンサイズがまったく同じなので、鞄に入れたまま目で確認しなくても押せるように、どちらかに小さな突起でもつけてほしかった」とでも指摘しようかと思っていたのだが、そんな必要もなさそうだ。

 詳しくは後述するが、このカシコイ製品は、使わなければ勝手にスリープし、使うときに勝手に起きるようになっている。つまり、朝、鞄に入れたら、そのまま家に帰って充電するまで、ほとんど操作する必要がない。そのため、ボタンのサイズや形状が同じでも困らないのだ。

ボタンやランプは大型化され前面に配置される

 同様の理由で、他のモバイルルーターにあるディスプレイが本体に装備されていないことも、まったく気にならない。AtermWM3600Rではアプリから電波状況や電池残量などのステータスを確認することが可能となっている。このため、途中で本体を操作したり、本体で電波状況や電池残量を確認しなければならないシーンがほとんどないというわけだ。

 同様のアプリは、これまでもAtermWM3500R向けにユーザーが作成したものがiPhoneなどに提供されていたが、今回のAtermWM3600Rでは、Windows版、MacOS版、Android版(iOS版は3月提供予定)がメーカーから無償で提供されている。

 このアプリでは、電波状況と電池残量の確認に加えて、WiMAXと公衆無線LANの切り替え、休止状態への移行、再起動などが実行できる。こういった発展的な使い方ができるのも、本製品ならではの特長と言えるだろう。

PCやスマートフォンからAtermWM3600Rの状態を確認できるAterm Wimax Tool(左がWindows版、右がAndroid版)

バッテリーを気にせず使える

 続いて、もっとも気になる連続通信時間について見ていこう。本製品の連続通信時間は、カタログスペック上は10時間となっているが、実際に、一定時間おきにpingとHTTP GETを繰り返すテストしてみたところ、22時26分からテストを開始し、翌朝8:42分まで、合計10時間16分の稼働が確認できた。ほぼカタログスペック通り、10時間の連続通信が可能と考えて差し支えない。

 なお、これまでの最長記録は、先にも少し触れた「Mobile Cube」で11時間11分だったので、物足りない印象を受けるかもしれないが、このときの測定方法から、ダウンロードするデータにJPEG画像を追加したり、より多くのサイトから多くのデータをダウンロードするようにするなど、若干、テスト方法を変更している。この結果、以前の測定方法に比べて1割ほど短くなる傾向にあるため、実力的には、互角かそれ以上と考えて差し支えないだろう。

 ここまで連続通信が可能だと、それだけでもバッテリーを気にせず利用できるが、これに加えて、本製品には、非常にカシコイ「ウェイティング」と呼ばれる省電力機能までも搭載されている。

 これは、簡単に説明すれば、スリープ機能だ。無線LANで接続しているクライアントからの通信が一定時間(標準では10分)ないと、無線LAN機能だけを起こした状態のまま、他の機能をスリープさせることができる(WiMAXなどは切断)。

 ポイントは、無線LANは起きている点だ。これにより、無通信時の消費電力を押さえつつ、PCやスマートフォンなどのクライアントが通信を始めると、即座にウェイティングを解除し、クライアントを接続し、WAN側の通信を復帰させることができる。

 WiMAXの再接続に若干時間がかかる場合があるため、クライアントから実際にインターネットに接続できるようになるまでには、十数秒待つ場合があるものの、本体にまったく手を触れることなく、省電力モードと通常モードをシームレスに切り替えることができるのは非常に便利だ。

 この状態での連続待ち時間は最大25時間となっているため、実質的に1日中、電源を入れっぱなしで放置していても、問題なく通信できてしまうことになる。

 実際、普段、光ファイバーの回線に接続して使っているメインのPCをAtermWM3600Rのクライアントとして、休憩時間を含めつつ、朝8:00から使ってみたが、夕方16:00前後で、ようやく50%の電池残量となった。

 1~2時間ごとに接続と切断を繰り返すような使い方では、このウェイティングモードは非常に有効で、何も意識せずに使っているだけでも、バッテリーをうまく節約しながら、長時間利用することができる。

 前述したMobile Cubeなどは、10時間動くのだから小細工はしない、という直球勝負の製品だが、やっぱり少しでも電池を長持ちさせる工夫はあった方がいいと実感させられるところだ。

 このほか、休止モードもサポートされており、前述したAterm WiMAX Toolなどから休止状態に移行すれば、無線LANを含め、全機能スリープさせることができる。この場合、復帰させるには電源ボタンの操作が必要となるものの(復帰は約15秒)、待機時間は170時間と飛躍的に増える。

ツールを使って休止モードにすれば、より長い時間の待機が可能。復帰は15秒と速い

 一日の利用頻度が少ないなら、この方法も非常に有効だ。うっかり充電を忘れて鞄に入れっぱなしにしてしまっても、翌日程度であれば、そのまま利用できる。電源を自ら意識してコントロールしたい場合は、休止モードを使うといいだろう。

 個人的には、ウェイティングから一定時間経過したら休止モードに移行してくれるようになってくれてもいいかな? とも思ったが、やはり、ウェイティングはやはり無線LANが起きていることに価値があるので、それはおせっかいというものだろう

 ちなみに、USBやeneloop mobile booster経由での給電も可能だ(試した限り、通信中でも充電しているようだ)。ここまで電池が持つと、外部電源に頼る機会もさほどないのだが、充電を忘れた緊急時などでも安心して使えるだろう。

USBポートやeneloopからの給電も可能


公衆無線LANを活用できる

 AtermWM3600Rで、もうひとつ大きなポイントとなるのが、公衆無線LANサービスへの対応だ。同様の機能は、他社製のモバイルルーターにはすでに搭載されていたが、今回の新製品でようやくAtermシリーズでも使えるようになった。

 使い方は簡単で、設定画面(http://aterm.me になった)から接続先を設定し、使い方に応じて、優先接続先を「WiMAXサービス優先(標準)」か「公衆無線LANサービス優先」に変更すれば、あとは自動的にWiMAXと公衆無線LANサービスを使い分けることができる。

公衆無線LANサービスに対応。WiMAXと自動的に接続を切り替えることが可能

 標準で登録されているのは、BBモバイルポイント、livedoor wireless、UQ Wi-Fi、Wi2 300、ホットスポットで、これ以外に手動の接続先を2つ、合計8つの接続先を設定できるようになっている。

 プリセットの接続先に関しては、あらかじめSSIDや暗号キーが登録済みとなっているので、Web認証用のアカウントを登録するだけでかまわない。もちろん、プリセットの接続先の変更も可能で、たとえば、Wi2 300などは場所や契約サービスによってSSIDが異なるので、これを自分の環境に合わせて変更することができる。また、登録済みの設定をSPモード公衆無線LANに変更するなど、自分が利用するサービスに合わせて変更することも可能だ。

 もちろん、自宅や会社の無線LANを「個別設定」に登録することも可能で、これにより外出先ではWiMAX、自宅では無線LANと使い分けることもできるようになっている。

複数のサービスを登録し、優先順位に従って接続させることができるプリセットされた接続先を変更することも可能。SPモード公衆無線LANのローミングを使ってBBモバイルポイントに接続する設定をしてみた

 実際に試してみたが、基本的には現在の接続をなるべく維持する設定となっていた。近所の駅前にてWiMAXで接続できていることを確認し、近くにあるマクドナルドに入店してみた。ここはBBモバイルポイントのエリアだが、AtermWM3600RはWiMAXの接続を維持したままとなっていた。

 そこで、設定画面から優先接続先を公衆無線LANに手動で切り替え、再起動したところ、無事にBBモバイルポイントに接続(SPモード公衆無線LANのローミングを使用)することができた。

 そのまま店を出て、歩いて行くと、途中でBBモバイルポイントの圏外となり、インターネット接続が切断。WiMAXに切り替わるのかと思いきや、優先接続先を公衆無線LANに設定していたうえ、どうやら歩いた先に、たまたまlivedoor Wirelessのアクセスポイントがあったようで、この接続に自動的に切り替わった。

 ログを見てみると、4:02にエラーコードが発生して切断されから、次の接続先に切り替わり、AtermWM3600Rに接続したスマートフォンにIPアドレスが割り当てられるまで(4:16)の時間は約14秒となった。

実際に接続が切り替わった際のログデータ

 実際には、切断された状態でブラウザーやアプリでエラーが表示されるなど、接続が切り替わる場合、完全にシームレスというわけにはいかないが、しばらく待てば通信できるようになるため、動画などを再生している最中でもなければ、さほど気にならない印象だ。

 そのまま歩き続けたところ、livedoor Wirelessのエリアも外れ、再び4:23にエラーコードが発生。今度は、近くに公衆無線LANがなかったため、WiMAXの接続に切り替わった(4:45)。このタイミングで、クライアントを接続し忘れたため、クライアントにIPが割り当てられたのはさらに後になってしまったが、接続自体がWiMAXに切り替わるまでの時間は約22秒だ。

 クライアントへのIPの割り当ては1秒前後しかかからないので、ほぼ30秒で接続を切り替えることができると考えていいだろう。

 なお、この後、自宅に帰ったが、すでにWiMAXでの接続が確立されていることから、自宅の無線LANに切り替わらず、WiMAX接続が維持された。

 この状態から、自宅の無線LANに接続するには、設定画面、もしくは、前述したAterm WiMAX Toolを使って、優先接続先を公衆無線LANへと切り替えればいい。これで、接続が無線LANに切り替わる。

 なお、優先接続先は適宜変更することができるが、常時どちらかを優先に設定したい場合は、設定画面から設定値を保存する必要がある。今回は、テスト目的で公衆無線LANを優先にしたが、通常はWiMAXを優先にしていた方が切り替えの頻度も減り、快適に使えると考えられる。普段はWiMAXを利用し、地下や建物の中など、WiMAXが切れたときに、公衆無線LANに切り替わるようにするのが一般的には便利だろう。

 まあ、このあたりはちょっと複雑だが、要するに、優先接続先に設定されている方の接続を先に試みて、接続できれば、それをなるべく維持すると考えて差し支えない。

 人によっては、自宅に戻ったら自動的に無線LANに切り替わってほしいと思えるかもしれないが、これは難しい。AtermWM3600Rには自宅という概念がないうえ、電波強度などで自動的に切り替える設定にすると、複数の公衆無線LANが使える環境や移動中に、コロコロと接続先が変更され、そのたびに回線が切断されることになる。

 そのため現状通り、つかんでいる回線をなるべく離さないというのが、もっとも利便性は高いわけだ。

 とはいえ、やはり自宅に戻ったら無線LANで接続したいという場合もありそうなので、基本的にはWiMAX優先で、特定のAPを見つけたときのみ強制的に切り替わるとか、クレードルにセットしたら指定したAPに接続するとか、もう一歩、進んだ設定があってもよさそうだ。


QRコードで接続設定

 最後に使い勝手の面にも触れておこう。今回のAtermWM3600RではQRコードを使った接続設定にも対応している。

 「AtermらくらくQRスタート」というアプリをスマートフォンにインストール後、カメラを使って、製品に同梱されているQRコードを読み取る。すると、本体に標準で設定されているSSIDと暗号キーの情報が表示されるので、「設定適用」ボタンをタップすると、無線LAN設定が完了するという要領だ。

 現状は標準設定の値のみとなるので、暗号キーやSSIDを変更していると使えないが、スマートフォンを無線LANに接続したいと考えている初心者層には、非常に便利なアプリと言えそうだ。

QRコードを使って設定することも可能。ただし、標準設定のみで、現状はAndroid版のみコードを読み取ると、設定情報が画面に表示される。適用すれば、そのまま接続可能になるAndroid版ではらくらく無線スタートEXも使えるので、こちらを利用するのも楽

 ただAndroidの場合、「らくらく無線スタートEX」のアプリを使えるので、ボタン設定の方が手軽ではある。本来は、いつまでたってもWPSをサポートしないiOS向けのものと言えるが、iOS向けのアプリは3月にリリース予定となっているので、iPhoneなどで使いたい場合は、もう少し待つ必要があるだろう。

 このほか、WiMAXの通信方式も最新のものがサポートされるようになっており、上り15.4Mbps(64QAMサポート)やWiMAXハイパワー対応なども図られている。また、地味ながら同時接続数が8台から12台へと増えている。

 WiMAXの速度に関しては、環境に依存するので、実感できるかどうかは場所次第と言えるが、あらゆる点で従来製品、さらには他社製品を凌ぐ実力を持っていると言っても過言ではないだろう。

ベンチ結果

 また、今回は詳しく触れなかったが、オプションのクレードルを利用することで、据え置き型のWiMAXルーター(有線ポートはクライアント用)として利用したり、有線ポート経由で既存のルーターと接続してアクセスポイントとして利用することもできる。家庭で利用する場合は、無線LANの送信出力を上げた方が良いが(標準では最小値の12.5%となっている)、一人暮らしの人なら、コレだけで家の中も外の環境も整ってしまうことになる。

クレードルを使って無線ルーターのように使うことも可能

 このように、実際に手にして使ってみると、「いたれり、つくせりだなぁ」と言うほかなく、まさに「最強」と呼んでも差し支えない完成度になっている。安定性に関しても、この原稿を執筆するまでの1週間ほど使ってみたが、特にトラブルもなく、温度なども目立った熱さは感じられなかった。おそらく、というより間違いなく、現時点ではベストバイと言っていい製品だろう。



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2012/2/14 00:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。