コワーキングストレージという発想はいかが? アイ・オー・データ機器Wi-Fi HDD「WNHD-U500」


 アイ・オー・データ機器から、バッテリーを内蔵し、無線LANで接続可能な外付けHDD「WNHD-U500」が登場した。スマートフォンやモバイルPC向けのストレージとして、どのような使い方ができるのかを検証してみた。

(※編集部注:当初6月中旬発売予定でしたが、8月初旬に変更されました。発売予定について最新の情報は、アイ・オー・データ機器の「WNHD-U500」製品情報ページでご確認ください。)

コワーキングストレージとしての進化を期待

 一個人の意見を先に言わせてもらうとすれば、今回の「WNHD-U500」に限らず、無線LANで接続可能なメモリ/HDDストレージの用途は、パーソナルなデータの保存用よりも、むしろビジネス向けのモバイルファイルサーバー、今風に言えばコワーキング(CoWorking)ストレージという方向性を目指した方が良いのではないかと思える。

 筆者個人が、企業の外部協力者として仕事をすることが多いこともあるが、初対面の人、その場限りの協力者などと大量のデータをシェアしたい場合に、手軽かつ、安全に、しかも同じ文脈で、大量のデータをシェアできる方法というのは意外に少ない。

 社内のグループウェアなどに協力者として招いてもらうには時間と手間がかかるうえ、メールやインターネット上のグループウェアなどを使うのにはセキュリティが問題になる。かといって、USBメモリでデータを受け渡しするのは非効率的だ。

 たとえば、発表前の製品の資料を入手したり、事前に作成しておいたプレゼン資料を相手に渡すなど、数十~数百MB単位のデータを、その場限り、双方向で、しかも効率的にやり取りするには、誰もが、そしてどのようなデバイスからも同じ文脈で利用でき、しかもある程度インターネットから隔絶されたパーソナルなストレージ空間が必要になる。言わば、スタートアップ企業や起業を目指す個人などが共同で仕事をするコワーキングスペースのストレージ版的な考え方だ。

 それを実現できるのが、今回のWNHD-U500のような、持ち運びが可能で、無線LANで接続可能なストレージではないかと個人的には考えている。

アイ・オー・データ機器のWi-Fi HDD「WNHD-U500」。スマートフォンから無線LAN経由で利用できるモバイルストレージだ

 しかしながら、あくまでもこの考え方に立って考えると、WNHD-U500には物足りない点がいくつかある。たとえば、ウェブブラウザー経由でデータをアップロードできなかったり(iPhoneなどのスマートフォンからはダウンロードも不可)、ストレージの領域を個人用と公開用などに区別できない点だ。

 もちろん、メーカーが考える製品のコンセプトは、動画や音楽などのデータを外出先でスマートフォンから再生するという使い方になるため、現状の機能に上記の点がサポートされないのは本来何の問題もない。

 しかし、個人的にはコワーキングストレージ的な使い方をしたいと考えるため、どうしても、これらの点が気になる。個人的な理想を述べるとすれば、プロジェクトごとにSSIDとストレージ領域をその場で確保できたり、ドキュメントごとにリード/ライトの権限を設定してウェブブラウザーからデータをやり取りできたり、さらに欲を言えば同時に音声やテキストの議事録を作成できるといい。

 場合によっては、作業終了時や会議終了時にボタン1発でデータを完全消去できるようにしたり、グループウェアの会議室予約システムと連動させ、予約時間になったら、あらかじめ登録しておいたデータを指定の会議室のデバイスに自動ダウンロードして準備するといった使い方に広げることもできそうだ。

 コワーキングストレージなどと言えば今風だが、もっと泥臭く、会議室サーバーと言ってもいい。1会議室に1台、このようなデバイスを設置する、もしくは会議のときにリーダーがデバイスを持参するのが当たり前になれば、そこで会議をする我々にもメリットがあるし、メーカーとしても拡販に繋がるのではないかと思える。どのメーカーでも良いので真剣に製品化を検討してほしいところだ。


QRコードで簡単接続

 というわけで、前置きが長くなってしまったが、製品を詳しく見ていこう。アイ・オー・データ機器から発売されたWNHD-U500は、無線LANで接続可能なポータブルストレージだ。

 外観は、2.5インチでUSB接続の外付けHDDを若干大きくしたようなイメージで、サイズは幅86×奥行き126×高さ22mm、重量は260g。内部に500GBのHDD、IEEE802.11n/gの技術を利用した最大150Mbpsの無線LAN、そして外出先での駆動用に1950mAのバッテリーを搭載している。

正面側面


付属のUSB給電ケーブルを利用すればスマートフォンへの給電も可能

 また、USBポートを搭載しており、通常のminiUSBケーブルを使って接続すれば、PCからUSB接続の外付けHDDとして利用することができるうえ(電源OFF時はUSBから充電も可能)、付属のUSB給電ケーブルを利用すれば、WNHD-U500の内蔵バッテリーの電力をスマートフォンなどの外部機器に給電することも可能となっている。

 公称のバッテリー駆動時間は約2時間となるため、せっかくの電力を外部機器に使ってしまうことはもったいないように思えるが、スマートフォンやタブレット用の緊急用バッテリーとして使えるのは意味があるだろう。

 使い方は非常にシンプルだ。電源のON/OFFは側面のスライド式スイッチによって操作することが可能になっており、ONにすればHDDが回転を開始し、無線LANの通信機能が有効になる。一方、OFFのままUSBケーブルでPCに接続すれば、外付けHDDとして動作する。

 スイッチONで無線LAN接続HDDとして起動したら、PCやスマートフォンから接続する。標準では「AirPortXXXXX(Xは数字)」というSSIDが設定されており、WPA-PSK/WPA2-PSK(TKIP/AES)の暗号化が設定されているが、この接続情報は本体背面のQRコードから読み取ることが可能となっている。スマートフォンを利用する場合は、事前に同社製のアプリ「QRコネクト」をダウンロードして読み取るだけで接続完了だ。

 もちろん、事前にアプリをダウンロードする必要があるうえ、暗号キーを変更してしまうと使えないが、手軽に接続設定ができるのは大きなメリットだ。

 なお、本製品では最大3ユーザーでの接続を推奨しているが、接続数が物理的に制限されているわけではない。あくまでも映像などをストリーミング再生する際の目安と考えるといいだろう。

本体の電源はスライド式のスイッチを採用。OFF時はUSB接続の外付けストレージとして動作し、ONにすると無線LANストレージとして動作する接続にはQRコネクトを利用可能。背面の2次元バーコードを読み取ることで簡単に接続可能


ウェブブラウザーーとファイル共有でアクセス

 接続後の使い方もシンプルだ。アクセスはウェブブラウザーとファイル共有(SMB)の2種類の方法が提供されており、ウェブブラウザーからの場合はファイルの再生とダウンロード、ファイル共有の場合は読み込みだけでなく、書き込みも可能となっている。

 まずは、ウェブブラウザーでの利用だが、ウェブブラウザーを起動して「http://192.168.0.1」にアクセスすればいい。「VIDEO」、「PHOTO」、「MUSIC」という大きなアイコンが並んだホーム画面が表示され、ここからHDDに保存したコンテンツにアクセスできる。

スマートフォンからの接続にはウェブブラウザーを利用する「contents」フォルダ内の写真や動画、音楽などを自動的に収集し、まとめて表示

 利用イメージとしてはDLNAに近い印象だ。HDDの「contents」フォルダに保存されたコンテンツが、上記の映像、写真、音楽といった種別ごとに自動的に分類され、そこから再生できるようになっている。

 もちろん、これ以外の種別のデータや自分でフォルダをたどってファイルにアクセスすることもできる。画面右上の「ファイルマネージャ」アイコンをクリックすると、HDDのフォルダやデータを直接参照できる。ファイルをクリックしてウェブブラウザー内で表示したり、PCからの場合はダウンロードボタンからダウンロードすることが可能だ。

 この方法はスマートフォンやタブレットでも共通で、特別なアプリをダウンロードすることなく、標準のウェブブラウザーのみで利用できるようになっている。

フォルダを指定してアクセスすることも可能

 この点については賛否両論あることだろう。アプリの方が動作が軽快だったり、多機能な場合があるが、冒頭で触れたように、それぞれにスキルレベルや普段利用する環境が異なる複数の人がデータを共有する際、このアプリをダウンロードするということが1つのハードルになってしまう。これに対して、ウェブブラウザーのみでアクセスできれば、ユーザーの背景も、デバイスの種類も問わないことになる。

 ウェブブラウザー経由とは言え、操作しやすいようにアイコンなどが大きく表示されていたり、フォルダ内のデータを連続再生できるため音楽などを連続で聴くことができたりと(バックグラウンド再生は不可)、UI的にはかなり工夫されているので、前述したようにデータをアップロードできないことさえ除けば、個人的には悪くない印象だ。

 一方、PCを利用している場合は、ファイル共有でアクセスすることが可能となる。「\\192.168.0.1」とIPアドレスを指定してアクセスすれば、共有フォルダが表示され、ファイルやフォルダを読み書きすることが可能になる。データを保存したり、複数のファイルやフォルダをコピーするといった用途の場合は、こちらの方法が便利だろう。速度はあまり速くないが、普通にファイルをコピーする分にはストレスなく利用できる。

PCからは通常の共有フォルダとしてアクセス可能。もちろんウェブブラウザー経由でもアクセスできるThinkPad X201sから無線LANで接続し、共有フォルダに対してCrystalDiskMark3.0.1cを実行した結果

 なお、Windows Media Playerなどを起動すると、メディアサーバーとして参照することも可能だが、現状は正式にサポートされた機能ではなく、実際に再生できるかどうかも機器やメディアの種類によって異なる。基本的には、ウェブブラウザーとファイル共有で利用することになるだろう。

 また、製品版では動画配信サービスの映像を録画することができる「チューブとニコニコ、取り放題3 SmartEdition」が利用可能(製品購入後ダウンロード可能)となっている。これらのアプリを使って、動画を保存し、外出先で楽しむという使い方になるだろう。


インターネット接続は不可

 最後にインターネット接続についてだが、これはサポートされていない。無線LAN接続のストレージでは、キングストンのWi-Driveやシーゲートの「GoFlex Satellite(日本未発売)」などが無線LANのブリッジ機能を利用したインターネット接続をサポートしているが、本製品ではローカルのみで完結する仕様となっている。

 インターネット接続をサポートするかどうも、賛否両論あるところで、個人的に期待しているコワーキングストレージ的な使い方であればあえてサポートしないのも手だが、現状、WNHD-U500が目指しているパーソナル用途では、やはりインターネット接続ができないのは不便だ。

 しくみがわかっていれば繋がらないことにも納得ができるが、スマートフォン初心者などは、無線LANはインターネットに接続するためのものという意識が強いため、ウェブブラウザーを起動したときにページが表示できないと、それだけであわててしまうだろう。

 スマートフォンのOS側が、無線LANに接続した状態でも、インターネット接続に3GやLTE、WiMAXを利用できるようになってくれることにも期待したいが、現状はやはり無線LANストレージ側がブリッジ接続で対応するか、ブリッジをサポートしないのであれば、自動的にページを転送するなど、何らかの工夫があっても良さそうだ。

 以上、アイ・オー・データ機器の無線LAN接続HDD「WNHD-U500」を実際に利用してみたが、まだ開拓されていない分野の製品だけに、今後のいろいろな可能性が見えて、興味深い製品と言える。

 他の無線LANストレージと異なり、PC用のソフトを添付することで、具体的にどのようなコンテンツを、どこで楽しめばいいのかというユースケースをきちんと提案しているあたりも評価できるポイントと言える。

 しかしながら、やはり個人的にはパーソナルユースよりも、ビジネスシーンでの利用に注目したい製品と言える。サービスであらゆることがつながる世の中になりつつあるからこそ、ローカルなハードウェアでしかできないこともあるので、そこに注目して、このジャンルを育てていってほしいところだ。



関連情報



2012/6/5 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。