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IEEE802.11ac技術で、家中が実効100Mbpsオーバーに バッファローの600Mbpsルータ「WZR-D1100H」


 バッファローから、IEEE802.11ac技術を搭載した無線LANルーター「WZR-D1100H」が登場した。最大通信速度が600Mbpsと、従来の1.5倍に高められた新製品だ。その実力は驚くべきものであった。

フライングか英断か

 なるほど、このパフォーマンスなら、多少不確定要因があったとしても、市場に出したくなる。

 バッファローから登場した600Mbps対応のIEEE802.11ac技術搭載無線LANルーター「WZR-D1100H」を実際に使ってみると、同社がこのタイミングで製品をリリースした意味にも、ある程度納得することができる。

バッファローのIEEE802.11ac技術採用600Mbps対応無線LANルーター「WZR-D1100H(左)」と同じく600Mbps対応のLAN接続型子機「WLI-H4-D600(右)」

 ギガビット時代の新無線LAN規格として期待されているIEEE802.11acは、現状、まだドラフト版の規格であるうえ、国内での認可は来年、つまり2013年になると予想されており、まだ少し先の技術となっている。

 その技術を先行してコンシューマー市場に投入するのは、ドラフト版で既成事実を作ってしまうことにもなりかねず、いささか時期尚早ではないか? と、当初は思ったのだが、使ってみると、そんな裏方の事情を忘れさせるほどの速度に圧倒されてしまう。

 規格の正式策定前にドラフト版で製品をリリースすることは、現在の主流のIEEE802.11nでも見られた現象だ。2x2 MIMOを先行して採用した144Mbps、40MHz対応後の300Mbps対応Draft N製品の記憶もまだ新しい。

 当時、ドラフト版IEEE802.11n対応として販売された製品は、規格の正式策定後にメーカーに返送することで正式版へとアップグレードする措置も一部で行われたが、今回の600Mbpsでも同じことになるかどうかはわからない(1.3Gbpsを実現する80MHz幅対応はおそらく無理)。

 しかし、フライングと片付けてしまうには、この600Mbpsの技術は惜しいのだ。無線で有線LAN並の速度を実現する。それに確実に一歩近づける製品を実際に市場に投入した判断は、個人的には支持したいところだ。

正面
(左:WZR-D1100H、右:WLI-H4-D600)
側面 背面


無線LAN高速化を実現する3要因の1つを先取り

 このように、バッファローの「WZR-D1100H」は、良くも悪くも無線LAN機器市場で話題となりそうな製品となっているが、肝心の600Mbpsというのは、どのようなしくみで実現されているのだろうか?

 まずは、現状の無線LAN規格について、簡単におさらいしておこう。現在、無線LANの規格として、店頭でよく目にするのは以下のようになる。

【表1】無線LAN規格
最大速度 周波数帯 帯域幅 MIMO
IEEE802.11b 11 Mbps 2.4 GHz 20 MHz なし
IEEE802.11g 54 Mbps 2.4 GHz 20 MHz なし
IEEE802.11a 54 Mbps 5 GHz 20 MHz なし
IEEE802.11n 450 Mbps 2.4/5 GHz 40 MHz 3ストリーム
IEEE802.11ac 1.3 Gbps 5 GHz 80 MHz 3ストリーム以上

 細かく分ければ、IEEE802.11nは2ストリームMIMOの300Mbpsなども存在するが、ここではおおまかに分類してある。

 今回、バッファローから発売された「WZR-D1100H」は、この一番下に記載されているIEEE802.11acに分類される製品だ。といっても、速度が1.3Gbpsではなく、600Mbpsとなる点に注目したい。この1.3Gbpsも規格の一仕様に過ぎないが、今回のWZR-D1100Hでは、IEEE802.11acの一部の技術のみを採用している。製品に「IEEE802.11ac準拠」ではなく「IEEE802.11ac技術」と記載されているのはそのためだ。

 では、具体的に、どのような技術を採用しているのだろうか? 無線LANを高速化する方法は大きく分けて3種類ある。1つは利用する周波数の帯域幅の拡大。上記の表の帯域幅を見ればわかるが、IEEE802.11b/g/aの20MHz幅が、IEEE802.11nでは40MHz幅、IEEE802.11acでは80MHz幅になっている。帯域が増えれば、それだけ多くの信号を伝送できるので、速度が上がるというわけだ。

 2つ目は、多重化、つまりMIMOの利用だ。MIMOは同一空間上に同一周波数帯の信号を多重化して送信する方式となる。複数のアンテナを使って、異なるデータを同時に送ることで、高速化が実現できる。いくつ多重化するかをストリームと呼ぶが、現状のIEEE802.11nでは3ストリームとなっており、IEEE802.11acでは3ストリーム以上も可能となっている。

 ただし、ここまでの2つの技術は、WZR-D1100Hでは採用されていない。80MHzの帯域幅の使用は国内では認可されていないうえ、3ストリーム以上のMIMOを実現する無線LANチップは高価でコンシューマー向け製品での利用が現実的ではないからだ(Cisco製などエンタープライズ向けでは4x4 MIMO製品も存在する)。

WZR-D1100Hの設定画面。11ac/n/aという設定項目が600Mbpsの設定。帯域は標準で40MHzが有効化されている(2.4GHz側は標準設定20MHz幅)

 そこで登場するのが3つ目の伝送の効率化技術だ。これには、データを搬送するための搬送波を増やしたり、信号の干渉を避けるための空き時間(ガードインターバル)を減らしたり、エラー訂正のための符号化率を変更したり、上位層で伝送するデータのフレームを連結して効率的に伝送するフレームアグリゲーションなど、複数の技術が存在する。

 今回、WZR-D1100Hで採用されているのは、変調方式の変更だ。データを信号に変調する際の方式として従来の64QAMに加え、IEEE802.11acで採用予定の256QAMを追加している。これにより、一度に信号に乗せられるデータが6bitから8bitに増加する。8÷6=1.3333...となることから、450Mbps×1.3333...=600Mbpsというわけだ。

 参考までに、IEEE802.11acの速度とパラメータの表を以下に掲載する。MIMOなしの1ストリームの値だが、index番号7の64QAM、符号化率5/6、40MHz幅、GI=400が150Mbps。これに対して、index番号9では符号化率などのパラメータはすべて同じながら256QAMの採用で速度が200Mbpsとなっている。前述したとおり、この表は1ストリームの値なので、WZR-D1100Hの3ストリームMIMOなら3倍で600Mbpsだ。

【表2】IEEE802.11ac MCS Index
MCS
index
スト
リーム
変調
方式
ビット
符号
化率
20MHz幅 40MHz幅 80MHz幅
GI=
800ns
GI=
400ns
GI=
800ns
GI=
400ns
GI=
800ns
GI=
400ns
0 1 BPSK 1 1/2 6.5 7.2 13.5 15 29.3 32.5
1 1 QPSK 2 1/2 13 14.4 27 30 58.5 65
2 1 QPSK 2 3/4 19.5 21.7 40.5 45 87.8 97.5
3 1 16-QAM 4 1/2 26 28.9 54 60 117 130
4 1 16-QAM 4 3/4 39 43.3 81 90 175.5 195
5 1 64-QAM 6 2/3 52 57.8 108 120 234 260
6 1 64-QAM 6 3/4 58.5 65 121.5 135 263.3 292.5
7 1 64-QAM 6 5/6 65 72.2 135 150 292.5 325
8 1 256-QAM 8 3/4 78 86.7 162 180 351 390
9 1 256-QAM 8 5/6 N/A N/A 180 200 390 433.3

 なお、ここまでの説明を図にしたものを以下に添付する。大きくなってしまったので拡大して見て欲しいが、横軸にMIMOのストリーム数、縦軸に帯域幅を取り、それぞれのマスの中が効率化技術となっている。要するに、現状の1.3Gbpsのドラフト版IEEE802.11acはこの図の一番右上、WZR-D1100Hの600Mbpsは、右側(3ストリーム)の中間(40MHz幅)に位置する技術ということになる。


間違いなく現在最速

 前置きが長くなってしまったので、先に注目のパフォーマンスについて触れていこう。結果から言えば、その実力は「強烈」の一言に尽きる。以下が、木造三階建ての筆者宅の1階にWZR-D1100Hを設置し、同じく600Mbpsに対応したLAN端子用の子機である「WLI-H4-D600」を利用し、速度を測定した結果だ。

 比較のために、親機であるWZR-D1100HにVAIO Z内蔵の無線LAN(Intel Adbanced-N 6250AGN)から接続したときの値(300Mbps)、子機のWLI-H4-D600を利用し、NETGEARのWNDR4500に接続した際の値(450Mbps)も記載している。

 無線LANの速度は、周囲の電波状況や建物の種類、利用する機器、さらには2.4GHz帯においては時間によっても大きく変化するため、あくまでも筆者宅での一例と考えて欲しいが、グラフの一番下、1Fの5GHz時、PUTの値となるが最大242.4Mbpsでの通信を確認できた。

 長らく無線LAN機器のテストをやってきたが、実際に自分の目で200Mbpsを超える値で通信できていることを確認できたのは、はじめてのことで、100MBのファイルがわずか3秒強ですっ飛んでいく様は、爽快ですらあった。

子機(WLI-H4-D600)用の無線LAN設定ツール(要ダウンロード)を利用すると、現在の速度や電波状態を確認可能。600Mbpsでリンクすると、非常に速い

 3階に移動しても、この勢いは衰えず、PUTで100Mbpsオーバー、GETでも80Mbps近くで通信できた。この値は、1Fで、VAIO Z内蔵の300Mbps無線LANで通信したときよりも高速なのだから、驚くほかない。

 残念ながら、今回のテスト環境では、全体的にPUT(PC→NAS)に比べてGET(NAS→PC)の値が低い傾向にあり、GETはどうやっても100Mbps強でしか通信できなかったが、環境によっては、さらに良い値も期待できそうだ。

 また、今回のテストで、LAN接続型の子機であるWLI-H4-D600の優秀さも、実感させられた。もちろん、WZR-D1100Hと組み合わせて600Mbpsで通信するための子機だが、他社製の無線LANルーターに接続しても、高い速度で通信が可能なうえ、LANポートも4つ搭載されており、多くの機器を無線化できる。

 機動性が落ちるのでノートPCなどでの利用には検討も必要だが、ハイビジョン番組を転送するなど、家電のネットワーク化を検討しているのであれば、これだけでも導入する価値がありそうだ。


欠点はサイズのみ

 以上、バッファローの600Mbps対応無線LANルーター「WZR-D1100H」とLAN接続子機「WLI-H4-D600」を実際にテストしてみたが、とにかく「速い」の一言に尽きる。

 冒頭でも触れたように、規格としてのタイミングが微妙なため、万人におすすめできるかというと躊躇する面もあるのが、そのリスクを負ってでも欲しいと思わせるパフォーマンスは非常に魅力的だ。

 また、実用を考えても、この40MHz幅、3ストリームの600Mbpsという方式は、案外アリなのではないかとも思える。もちろん、80MHz幅化されたときの1Gbps越えは魅力的だが、現状の20MHz幅と40MHz幅と同様に、帯域が増えれば出力が落ちることになることを考えると、80MHz幅は近距離では威力を発揮できるが、結局、離れた場所では自動的に40MHz幅に落ちてリンクするのではないかと考えられる。

 もちろん、実際にどれくらいの距離でどれくらいでリンクし、そんな実力になるのかは実際に試してみるまでわからないが、40MHz幅でわりきって使うという選択肢も十分にあるだろう。

 このほか、機能的も相変わらず全部入りの豊富さで、USB機器の簡易NAS、PPTPのリモートアクセス、さらに最近リリースされたばかりのスマートフォン向けの簡単接続機能AOSS2も搭載されている。機能面でも不満のない製品と言えそうだ。

簡易NAS機能やWebアクセス、PPTPサーバーなど、豊富な機能も魅力

 唯一、欠点となりそうなのは、サイズだろう。アンテナが内蔵され、スッキリとしたデザインになったのは大いに評価したいところだが、幅34×高さ212×奥行き183mmと、かなり大きい。

 親機側のWZR-D1100Hはまだ良いとしても、テレビやレコーダーを接続するために子機のWLI-H4-D600を設置する際は、テレビ台にスペースを捻出しようか、テレビの後ろに隠そうか、どこに設置しようか悩ましいところだ。大きいがゆえに、アンテナ配置の工夫などでパフォーマンスが高いのかもしれないが、もう少し、国内向けのサイズになってくれるとありがたいところだ。

 最後に、非常にささいなことだが、WZR-D1100の下部には、細長く、薄いセットアップ情報カードが差し込まれている。ちょっと落ちやすいのが難点だが、このカードのおかげで、暗号キーなどを手動で入力するときなどでも、本体の裏側をのぞき込む必要がなくなり、カードをさっと取り出して、PCに打ち込むなどということが手軽にできる。

 もちろん、AOSS2で、自動設定すればいい話なのだが、AOSS2のような自動設定の仕組みを提供したことだけにあぐらをかかず、手動設定のしやすさまで追求している点に感心した。こういった工夫は、ぜひ他社にもまねて欲しいところだ。

本体下部に設定情報がカードで差し込まれている。取り出して設定するときに参照できる



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2012/7/10 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 7」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ