600Mbps対応機と450Mbps対応機どちらを買うべき? バッファロー「WZR-D1100H」と「WZR-450HP」を比較する


 これから買うなら最新の600Mbps対応機か? それとも定番の450Mbps対応機か? バッファローの「WZR-D1100H」と「WZR-450HP」を価格、スペック、パフォーマンスの面で比較しながら、どちらを選択したらよいかを考えてみよう。

気になる「規格」と「価格」

 以前、本コラムでレポートした通り、バッファローから発売された600Mbps対応の無線LANルーター「WZR-D1100H」は、現時点で間違いなく、最速の無線LANルーターだ。

 今回、再度、ベンチマークを取得したので、詳しくは後述するが、FTPによる実測で240Mbpsを超える速度は驚異的で、「速度」という点で製品を選ぶとすれば、現時点で最も有力な選択肢であることは間違いない。

バッファローの600Mbps対応無線LANルーター「WZR-D1100H」と同じく600Mbpsに対応した子機「WLI-H4-D600」

 しかしながら、実際に買うとなると、話は少し変わってくる。高速化の最大の要因となるIEEE802.11acの技術は、正式な規格化が来年以降になると予想されているうえ、IEEE802.11acで採用予定の技術の中で採用されているのは256QAMのみと一部に限られる。

 また、価格も大きな検討要因の1つとなる。現状、無線LANルーターは、300Mbps対応であれば6000円前後、450Mbps対応でも9000円~1万円前後で購入できることを考えると、「WZR-D1100H」の1万5600円(本体のみ)という実売価格は、ワンランク上の価格帯となる。

 つまり、規格と価格、この2つの検討事項をいかに納得できるかが、実際に「WZR-D1100H」を購入するかどうかの分かれ目となるわけだ。


スペックで比較する

 それでは、実際に他のモデルと比較しながら、「WZR-D1100H」のお買い得度を検討していくことにしよう。今回、対象として選んだのは、同じくバッファロー製の無線LANルーター「WZR-450HP」だ。

600Mbps対応の「WZR-D1100H」(左)と450Mbps対応の「WZR-450HP」(右)。どちらを買うか迷う2機種だ
左から、「WZR-D1100H」の正面、側面、背面
左から、「WZR-450HP」の正面、側面、背面

 まずはスペックだが、両者の違いは以下の表のように、主に価格、対応規格、サイズ(デザイン)となる。

【表1】スペック比較

WZR-D1100HWZR-450HP
実売価格(本体)1万5600円1万400円
子機セット価格2万9400円
(WLI-H4-D600付属)
1万6800円
(WLI-UC-G450付属)
準拠規格IEEE802.11n/a/g/b
※11acの一部技術を採用
IEEE802.11n/g/b
対応周波数帯5.2GHz帯/2.4GHz帯
※36/40/44/48chのみ対応
2.4GHz帯
最大速度600Mbps(5.2GHz)/450Mbps(2.4GHz)450Mbps
アンテナ送信×3/受信×3
有線LANWAN×1/LAN×4(1000BASAE-T)
USBポートUSB2.0×1
寸法(本体のみ、幅×高さ×奥行き)34×212×183mm35×158×165mm
アンテナ内蔵外付け

 それぞれの項目を細かく検討していこう。価格に関しては、先にも少し触れたように「WZR-D1100H」が5000円前後高い。少し前なら、無線LANの最新モデルの相場が2万円弱という時代もあったので、個人的には1万5000円前後なら決して高くはないと感じるが、このあたりは「通信機器」に対する個人の価値観も大きく影響する。

 単にスマートフォンやPCを無線LANでつなぐための道具と割り切れば、「通信機器」に、さほど大きな投資をしたくないかもしれないが、現状、利用している無線LANの速度や通信距離に不満がある場合、5,000円をプラスするだけで、無線LANの使える場所が広がったり、スムーズな映像再生環境が手に入るのであれば、投資としては悪くない金額だ。

 実際、「WZR-450HP」は、スマートフォンブームでますます混雑が進む2.4GHz対しか利用することができないが、「WZR-D1100H」であれば、2.4GHzをスマートフォンやゲーム機のために確保しつつ、PCやテレビなどの通信のために空いている5GHz対を確保できる。そう考えると5000円の差は決して高くない。

 ただし、この差はあくまでも親機の金額差のみとなる。「WZR-D1100H」で600Mbpsの通信を実現するには、同じくIEEE802.11ac技術を搭載した専用子機「WLI-H4-D600」が必要になる。これをセットで購入すると、その価格は実売で2万9400円となる。

 「WLI-H4-D600」は、イーサネット接続タイプの子機で、4ポートのハブにPCやテレビ、レコーダー、ゲーム機などを接続して無線LAN化できるため、子機と言っても親機と同程度のコストがかかるためだが、約3万円の出費と、圧倒的な速度や広範囲な無線LAN環境、混雑を避けられる5GHz対の快適な通信環境を天秤にかけて検討すると、その答えも見えてくるだろう。

「WZR-450HP」の子機「WLI-UC-G450」はUSB接続のアダプター。セットモデルでも1万6800円前後となる「WZR-D1100H」の子機「WLI-H4-D600」(写真右)はLAN接続のコンバータータイプ。4ポートのHUBを内蔵し複数の機器を接続可能


機能はほぼ同等も一部違いあり

 続いて機能を比較してみよう。バッファローの無線LANルーターは、多機能なことで有名だが、今回の「WZR-D1100H」、「WZR-450HP」の両製品も、この多機能さを受け継いでいる。

 以下の表は、両製品の主な機能を比較したものとなる。3桁の数字を入力することで無線LANの接続設定が簡単にできる「AOSS2」を筆頭に、来客者に無線LANアクセスポイントを開放できるゲストポート機能、USBポートに接続したHDDをNASとして利用したり、USBスキャナなどをネットワーク経由で利用できるデバイスサーバ機能、さらに外出先から自宅にアクセスする際に役立つWebアクセスやPPTPサーバ機能などは、どちらの機種にも搭載されている。

【表2】機能比較


WZR-D1100HWZR-450HP
設定AOSS2
ルーター機能ON/OFFボタンスイッチスライドスイッチ
セキュリティマルチセキュリティ
フィルタリング
ゲストポート
USB機能簡易NAS
USBデバイス共有
メディアサーバー
USBデータカード×
リモートWebアクセス
PPTPサーバー
WoL
省電力おまかせ節電

 特に両製品ともAOSS2がサポートされているのは大きな魅力だ。詳しくは、本コラムの過去記事を参照してほしいが、本体のボタンを押す、スマートフォンから接続する、3桁の番号を入力するという3ステップで設定が完了するうえ、インターネット接続設定などもスマートフォンの画面から実行できるように工夫されている。

 AOSS2は、他社製の無線LANルーターにはないバッファロー製品ならではの機能となるため、これが両製品ともにきちんとサポートされているのは大きな魅力だ。

AOSS2を搭載し、スマートフォンからの接続が手軽にできる

 では、機能的な違いはどこにあるのかというと、スイッチとUSBデータカード対応となる。スイッチというのは、本体背面にあるルーター機能をON/OFFするためのスイッチとなる。「WZR-D1100H」が押し込むボタン方式となっており、「WZR-450HP」がスライドスイッチとなっている。

 この点に関しては、違いと言ってもできることは同じなので、意識する必要がないのだが、もう一つのUSBデータカード対応は、「WZR-450HP」は対応するが、残念ながら「WZR-D1100H」は対応しない。

 この機能は、携帯電話事業者が提供するデータ通信カード(USBアダプタ)をWAN側の回線として利用するための機能だ。背面のUSBポートにデータ通信カードを装着し、接続設定を登録することで、PCやスマートフォンからインターネット接続を利用可能になる。

 基本的には、固定回線が敷設できない店舗などで利用したり、バックアップ回線として活用するための機能となるため、一般的な家庭でのニーズはあまりないが、どうしても、この機能を使いたいという場合は、「WZR-450HP」を選ぶといいだろう。

「WZR-450HP」はUSBデータカードを利用した通信に対応する


パフォーマンスで選ぶなら「WZR-D1100H」

 最後に、パフォーマンスに関してだが、以下のグラフを見ても明らかなように、やはり600Mbps対応の「WZR-D1100H」に大きなアドバンテージがある。

「WZR-D1100H」と「WZR-450HP」の実測比較

 今回、「WZR-D1100H」と「WZR-450HP」を同時に利用することができたため、あらためて両製品とセットモデルに付属する子機(LAN接続の「WLI-H4D600」/USB接続の「WLI-UC-G450」)を含め、各組み合わせでFTPによる転送速度を計測した結果、「WZR-D1100H」と「WLI-H4-D600」の組み合わせで5GHz帯を利用した際にPUTで244Mbpsをマークすることができた。

 PUT(上り)とGET(下り)で差が出るのは、以前、本コラムで検証した際と同じだが、GETでも実行で100Mbpsを超えており、最も距離が遠く、障害物も多い1F-3Fの通信でもGETで74Mbps、PUTで118Mbpsと非常に高い値をマークしている。

 一方、「WZR-450HP」は、やはり混雑する2.4GHz帯しか利用できない点が大きく響いている印象だ。セットモデルの子機の「WLI-UC-G450」(450Mbps)、今回テストに利用したVAIO Z内蔵のIntel Advanced-N 6250AGN(300Mbps)、「WZR-D1100H」用の子機である「WLI-H4-D600」のいずれを利用したケースでも、1Fで70Mbps~100Mbps、3Fで40Mbps前後という結果となった。

 「WZR-D1100H」の2.4GHz側に接続した場合でも、PUTの値は若干高いものの、ほぼ同程度の値になったため、もはや2.4GHz帯そのものの限界が見えたという印象だ。

 ちなみに、電波の特性を考えると、5GHz帯よりも2.4GHz帯の方が遠くまで届きやすくなっている。実際、2.4GHzで接続した際、1F~3Fのどのフロアでも電波状態は100%近くを示すが、5GHz帯を利用した場合、以下の表のように、2Fで50%前後、3Fで60%前後となった。

 2Fよりも3Fの方が受信状態が良好だが、おそらく2Fでは40MHz幅を維持し、3Fでは40MHz幅から20MHz幅に自動的に変更されていることが原因ではないかと推測される(残念ながら付属ユーティリティでは強度とリンク速度しかわからない)。

 ここまで受信状態が落ちても、実行速度は5GHz帯の方が遙かに高いのだから、2.4GHz帯にこだわる必要はないわけだ。

【表3】電波強度とリンク速度
フロア地点電波強度リンク速度
1FA100600
2FB54540
C57364
D54270
E54243
F57405
3FG66243
H45121
I66135
J66216
K36216


タブレットやスマートテレビも考慮した無線LAN機器選びを

 以上、バッファローの600Mbps対応無線LANルーター「WZR-D1100H」と450Mbps対応無線LANルーター「WZR-450HP」をいくつかの側面から比較してみたが、個人的にはやはり多少の価格差はあっても600Mbps対応の「WZR-D1100H」をおすすめしたいところだ。

 現状、スマートフォンを接続してウェブやメールに利用するという用途だけを考えれば、低価格な「WZR-450HP」でも十分だが、スマートフォンも一部製品を中心に5GHzへの対応が始まっており、音声通話アプリや動画のストリーミングなどのリッチなサービスの利用が広がっていることを考えても、今後、2.4GHzの限界は必ず訪れると考えられる。

 また、スマートフォンだけでなく、タブレットやスマートテレビ、スマートSTBなどの普及が、今年の秋を境に急速に進むであろうことを考えると、これらの端末で映像や音楽などのサービスを快適に使うための通信環境を整えることは急務とも言える。

 そういった意味でも、5GHz帯への移行、それもワンランク上の速度を実現できる600Mbps対応の製品を、今、このタイミングで、手に入れておく価値は十分にある。

 もちろん、IEEE802.11acの動向を待つが王道だが、スマートフォン、タブレット、スマートテレビと、さまざまなデバイスが出揃ってきているのに、それを十二分に活かす通信環境がないという事態は避けたいところだ。また、YouTubeやHulu、ひかりTVなどの動画ストリーミングサービスを無線LAN環境で視聴していて、できれば今すぐに速度を改善したいという場合も、「WZR-D1100H」を試す価値は十分にあるだろう。



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2012/7/24 11:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。