清水理史の「イニシャルB」
すべてのデータをクラウドに預ける覚悟はできているか?
Windows 8.1 PreviewでOSに統合されたSkyDrive
(2013/8/15 06:00)
6月27日、マイクロソフトから、最新版のWindowsである「Windows 8.1 Preview」版が公開された。スタートボタンやUIのカスタマイズなど、数々の改良がなされたOSだが、最大のポイントは「SkyDrive」の統合だ。設定によっては、PC上のすべてのデータがローカルからクラウドへと移行することになる。どういうしくみで、何が、SkyDriveに保存されるのかを調べてみた。
Wordで原稿を書くことになるのか?
Windows 8.1の登場によって、もしかすると、ボクは、使い慣れたエディタを使う事をあきらめ、Wordを使って原稿を書くことになるのかもしれない。
実際、この1カ月前後、筆者と原稿のやり取りをした編集者は、これまで「.txt」だった原稿の形式が何の説明もなしに「.docx」に変わっていることに首をかしげているかもしれないし、今掲載されているこのコラムの元原稿もWordで納品している。
理由は単純で、SkyDrive上にバックアップ目的でファイルのバージョン履歴を保存するためには、Wordを使う必要があるから。
もちろん、文書を作成するためのするためのWordで原稿を書くこと自体は当たり前ではあるのだが、この仕事を始めてから、ずっとエディタで原稿を書いてきたことを考えると、この影響は大きい。
あまり考えたくはないが、近い将来、使い慣れたエディタの操作感を取るか、それとも過去に保存した段階にいつでも戻れるクラウド上のバージョン履歴の利便性を取るか、両者を天秤にかけて、今後、どうやって仕事をするかを決断しなければならない状況になりそうだ。
そもそも、こんなことになったきっかけは、Windows 8.1にSkyDriveが統合されたことにある。
6月末にリリースされたWindows 8.1 Preview版では、これまでデスクトップ版のアプリとして提供されていたSkyDriveとの同期機能がOSの機能として標準で搭載されている。
サインインのアカウントにMicrosoftアカウントを指定すれば、クラウド上と自動的に同期する「SkyDrive」フォルダに、エクスプローラーのナビゲーションウィンドウからアクセスできるようになるうえ、インストール後(アップグレード後)のセットアップでSkyDrive連携を有効にするか、PC設定の「SkyDrive」にある「ファイル」で「ドキュメントを規定でSkyDriveに保存する」を「オン」にすれば、「ドキュメントライブラリ」に、同期対象に設定されたSkyDriveの「ドキュメント」フォルダが追加され、規定の保存先として設定されるようになる。
Windows 8.1 Previewでは、ライブラリが標準で非表示となっているため、若干、わかりにくい印象はあるが、デスクトップアプリの保存ダイアログからもSkyDriveの同期対象となっている「ドキュメント」フォルダを指定して、データを保存できるようになっており、ユーザーが意識せずに、SkyDriveを扱えるようになっている。
少々、複雑なので、わかりやすく図で説明すると、以下のようになる。
Microsoftアカウントでサンインするものの、SkyDrive連携(前述したPC設定の項目)がオフになっている場合、ユーザーが認識する「ドキュメント」は、2つのローカルフォルダと1つのライブラリで構成され、それぞれが図中の右側のローカルディスク上のフォルダに対応することになる。
この場合、ユーザーは、既存のデータ、および新規に作成したデータはこれまで通り「c:\Users\ユーザー名\Documents」に保存し、SkyDriveと同期させたいデータのみを「SkyDrive」配下の「ドキュメント」(c:\Users\ユーザー名\SkyDrive\Documents)に保存することになる。
一方、セットアップ時、もしくはPC設定でSkyDrive連携を有効にすると、以下のような構成になる。
「SkyDrive」配下の「ドキュメント」(c:\Users\ユーザー名\SkyDrive\Documents)が、「ドキュメントライブラリ」に追加され、規定の保存先として設定されるようになるため、デスクトップアプリケーションなどから「ドキュメントライブラリ」を指定してデータを保存すると、ファイルは「c:\Users\ユーザー名\SkyDrive\Documents」に保存されることになる。
この場合、アップグレード前、もしくは移行ツールなどで移行した従来のデータは、ローカルの「ドキュメント」(c:\Users\ユーザー名\Documents)に保存されているものの、アプリケーションで新たに作成したデータは、SkyDriveの「ドキュメント」で管理されることになる。
これだけでも、十二分にややこしいが、以下のように、さらにもう1パターン連携の方法がある。
PCの「ドキュメント」フォルダを、標準の「c:\Users\ユーザー名\Documents」ではなく、SkyDrive配下の「c:\Users\ユーザー名\SkyDrive\Documents」にリダイレクトしてしまう方法だ(PCのドキュメントのプロパティから移動する)。
こうすると、エクスプローラーのナビゲーションペインに表示された「PC」、「SkyDrive」、「ラブラリ」にある各「ドキュメント」が、すべて「c:\Users\ユーザー名\SkyDrive\Documents」へとリダイレクトされ、同時にSkyDriveの同期対象として設定される。
つまり、既存のデータ、アプリで新規に作成したデータ、外出先からSkyDrive経由で利用することを目的にSkyDriveフォルダにコピーしたデータと、すべてのデータを物理的な1カ所のフォルダで管理できることになる。
SkyDrive連携フォルダは「ファイルの履歴」の対象外
筆者は、当初は、なるべくシンプルに運用したいという理由で、上記の3番目、リダイレクトの方法でしばらく使っていたのだが、現在は2番目の単純にPC設定でSkyDrive連携を有効にするだけの方法に戻している。
理由は2つある。1つは、一度設定すると容易には戻せなくなることだ。PC上の「ドキュメント」をSkyDrive配下にリダイレクトすると、「ドキュメント」フォルダのプロパティから、「標準に戻す」を選択したり、元の「c:\Users\ユーザー名\Documents」フォルダを指定して「移動」をクリックしたりしても、エラーで元に戻せないのだ。
恐らく、ファイルの同期処理で何らかのファイルがロックされていることが影響しているのだろう。「HKEY_CURRENT_USER\Software\Microsoft\Windows\CurrentVersion\Explorer\User Shell Folders」の「Personal」の値を変更することで戻せたが、現在のPreviewではこの2つのフォルダを統合することは想定していないようだ。
もう1つの理由は、バックアップだ。PCの「ドキュメント」(c:\Users\ユーザー名\Documents)に保存したデータであれば、Windows 8.1 Previewの「ファイルの履歴」を利用することで、別ドライブやネットワーク上のNASに、履歴を含めた形でデータをバックアップできる。
しかし、どうやらSkyDriveの同期対象となっているフォルダ(c:\Users\ユーザー名\SkyDrive\Documents)は、ファイルの履歴の対象から自動的に除外される仕様になっているようで、ファイルの履歴を有効にしても、c:\Users\ユーザー名\SkyDrive配下のフォルダは、取得された履歴の一覧には見当たらない。PCの「ドキュメント」フォルダをc:\Users\ユーザー名\SkyDrive\Documentsにリダイレクトしても結果は同じだ。
同様の不満は、海外の掲示板でも報告が見られた。以前のデスクトップ版SkyDriveアプリでは、同期対象フォルダであっても「ライブラリ」に追加しておけば、ファイル履歴の対象として扱うことができたが、Windows 8.1 Previewでは、これが不可能となっている。
このあたりは、Preview版ならではの問題のようにも思えるが、マイクロソフトとしてはファイルの履歴はローカルファイルの保護、SkyDrive上のデータはSkyDriveのバージョン履歴機能によって保護するというように、棲み分けをしているのだろう。
SkyDriveで履歴が保存されるのはOffice利用時のみ
では、SkyDrive上のデータはどのように保護されているのかというと、基本的にはごみ箱とバージョン履歴で管理されるようになっている。
SkyDriveには「ごみ箱」が用意されており、ブラウザーからSkyDriveにアクセスした際に削除されたファイルは、「ごみ箱」に一旦保管されるようになっている。このごみ箱では、直近3日分はすべて保管されるが、容量の10%を超えると古いファイルから削除され、30日経過したファイルも削除されるようになっている。また、Windows 8.1 Previewで同期対象に設定されているSkyDriveフォルダ配下のデータを削除した場合も、通常のファイルと同様にローカルのごみ箱に保管されると同時に、SkyDriveのごみ箱にファイルが保存されるようになっている。
クラウド上のSkyDriveの場合、ハードウェアの障害に関してはユーザーが手を出せる範囲にないため、オペレーションミスによるデータの削除からの回復手段が提供されていれば事足りる。このため、ごみ箱を活用するというのは、古典的な方法ながら有効な手段と言える。
ただし、ごみ箱だけでは、誤って更新されてしまったファイルなどに対応できない。そこで、利用されるのがSkyDriveのバージョン履歴だ。
試しに、ブラウザーでSkyDrive(http://skydrive.live.com)にアクセスし、WordやExcel、PowerPointで作成したデータを開き、バックステージビューの「情報」から「以前のバージョン」にアクセスしてみるといいだろう。そのファイルが更新されていれば、現在のバージョンに加えて、過去のバージョンの日付が表示され、そこからファイルを表示したり、ダウンロードしたりできるようになっている。
ただし、この機能を使うには条件がある。1つは、ブラウザーでSkyDriveにアクセスしたときのみ利用可能なこと(エクスプローラーやSkyDriveアプリからはバージョン履歴は参照不可)。もう1つは、Office製品で作成した文書のみが対象となることだ。
ここで冒頭に戻る。
つまり、SkyDriveにデータを保存しつつ、大切なファイルをバックアップしたり、過去のバージョンにも戻れるようにしたりするには、文書の作成にWordやExcel、PowerPointを使う必要があるわけだ。
なので、原稿をエディタで作成し、.txtで保存している限り、削除したファイルは戻せたとしても、更新履歴は保存されず、過去の状態にデータを戻すことはできないわけだ。
果たして、使い慣れたエディタをそのまま使い続け、ローカルのファイルの履歴でデータを保護した方がいいのか、それとも、Wordで原稿を書くことに慣れることに注力し、SkyDrive上でデータそのものとバージョン履歴を管理した方がいいのか? もっと言えば、まだローカルでファイルを管理すべきなのか、それともクラウドに移行すべきなのか? 現状のSkyDriveの仕様では、この決断がまだできない。
なお、SkyDriveでは、7月末のバージョンアップで、新たにテキストエディタが追加され、テキストファイルもオンラインで編集可能になったが、この機能では残念ながらファイルの履歴は利用できない状況だ。
SkyDriveの履歴作成動作を探る
ところで、SkyDriveのバージョン履歴の作成は、なかなか興味深い機能となっている。以下の図は、SkyDrive配下の「ドキュメント」フォルダ上で、右クリックから新規にExcelのファイルを作成し、編集したときに、SkyDrive上のファイルやバージョン履歴がどのように作成されるかを調べたものだ。
9:47。PC上でファイルを新規作成後、ブラウザーでSkyDriveのフォルダを表示すると、同じファイルが作成されたことが確認できた。
9:49。Excelの自動保存の間隔を2分に変更し、ファイルにいくつかのデータを入力。ローカル側が自動保存されたことを確認し、ブラウザーでSkyDrive側を確認すると、入力したデータは反映されておらず、バージョン履歴も作成されていなかった。
9:53。さらにいくつかのデータを入力し、同じく、自動保存されるまで待つ。ローカル側のExcelのバックステージからは自動保存された履歴を確認できるも、やはり、SkyDrive側のファイルには、入力したデータは反映されておらず、バージョン履歴も作成されていない。
9:54。ここではじめてExcelでファイルを手動保存。競合のメッセージ(WebApps側でファイルをきちんと閉じなかったことが影響していると考えられる)が表示されたが強制上書きを実行すると、ファイルがSkyDriveにアップロードされた。ブラウザーで、SkyDriveを確認すると、編集内容が反映され、バージョン履歴として9:47の内容(データなしの空のシート)が登録されたことを確認できた。ただし、これ以降、ローカルの自動保存は機能しなくなる。
9:58。内容を編集して、再び手動保存。再び競合の表示がされるが、強制上書きしてアップロード。ブラウザーで確認したSkyDrive上のファイルは、内容は更新されたものの、バージョン履歴は新たに登録されず、9:47があるのみとなっていた。
10:00。ファイルを更新し、今度はExcelを閉じる。アップロード後、SkyDriveを確認すると、最後の更新内容が反映され、バージョン履歴として、最終の10:00のデータが新たに登録された。
なかなか複雑で、わかりにくいが、まとめると次のようになる。SkyDrive上のデータが更新されるのは、ローカルで手動保存、つまりアップロード操作をした場合のみで、自動保存のデータは反映されない(自動保存は保存先がC:\Users\ユーザー名\AppData\Roaming\Microsoft\Word\となっているため)。
また、SkyDriveのバージョン履歴は、ブラウザーからSkyDriveにアクセスし、OfficeWebAppsのバックステージ、もしくはファイルを選択し、「管理」から「バージョン履歴」を表示したときのみ参照可能で、ローカルのバックステージからは自動保存の履歴しか表示できない。
Office側の対応がローカルとウェブで、今ひとつシームレスに連携していないという印象なうえ、同期処理でファイルの競合が発生したときの動作もいまひとつ明確ではないのが困ったところだ。SkyDriveを使うなら、Officeで文書作成を――という思想もわからなくはないが、であるなら、もう少しわかりやすくしてほしいところだ。
なお、SkyDrive上のバージョン履歴は、SkyDrive内でファイルをリネームしたり、SkyDrive内のフォルダに移動したりした場合は、そのまま保持されるが、削除したファイルをゴミ箱から戻したり、SkyDrive外のフォルダに移動するとクリアされる。バージョン履歴を失いたくない場合は、このあたりのファイル操作にも注意が必要と言えそうだ。
普段の利用には困らない速度
最後に、SkyDriveのパフォーマンスについて触れておこう。Windows 8.1 Previewを利用している場合、バックグラウンドでファイルの同期が実行されるため、普段は、さほどアップロードやダウンロードの速度を気にする必要はないのだが、一応、測定してみた。
以下は、ブラウザーでSkyDriveにアクセスし、ドラッグアンドドロップでZipファイルをアップロード、アップロード済みのZipファイルをダウンロードしたときのタスクマネージャーネットワークパフォーマンスの様子だ。
アップロードは速度にかなりばらつきがあるものの10~14Mbps、ダウンロードは比較的安定しており25Mbps前後の速度で通信できている。比較のために、NTTコミュニケーションズのOCNマイポケットで、同様のテストをしてみたところ、こちらはアップロード、ダウンロードともに50Mbps前後での通信となった。OCNマイポケットは、オンラインストレージサービスの中でもかなり高速なサービスだが、やはりSkyDriveはアップロードが遅い印象がある。
もちろん、ファイルサイズや回線速度にも依存するが、同じMicrosoftアカウントを設定したPCで、SkyDriveフォルダ内の未同期のデータ(オンラインでのみ利用可能と表示されるデータ)をダウンロードするのは、さほど苦にならないが、数十MBクラスのデータをアップロードしようとすると時間がかかるので、基本的にはバックグラウンドで気長にアップロードされるのを待った方がいいだろう。
なお、PC Watchでレポートされていた(http://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/20130806_610536.html)取材と同じ機会を筆者も得ることができたのだが、その際、通信手段としてEV SSLによる暗号化を採用していること(保存データそのものは暗号化なし)、保存先のサーバーは全世界に存在し、転送速度が最も高くなる保存先が自動的に選択されること(つまり日本のユーザーでも海外にいるときに利用すれば海外のサーバーを利用する)、などの情報を得ることができた。
また、パフォーマンスについては、単純な転送速度だけでなく、バックグラウンドで負荷をかけずにすみやかにアップロードする工夫がなされていたり、更新ファイルを発見するためのアルゴリズムも高速化されたりと、さまざまな進化を遂げているとのことだ。
そもそもSkyDrive上のファイルを正とし、ローカルにはテキストデータやメタデータ、サイズの小さなサムネイルデータのみを保存するといった仕組みなど、相当に作り込まれていることからも分かる通り、ローカルに単純にデスクトップアプリをOSに統合しただけでないことは明らかだ。オンラインストレージサービスの考え方をもう一歩先に進めた新世代のサービスと言って差し支えないだろう。
もう少し様子を見たい
以上、Windows 8.1 Previewを利用して、SkyDrive連携の動作を検証してみたが、OS統合によってシームレスにSkyDriveを使えるようになったメリットは大きい。特に、複数PCを使っている場合や外出先でスマートフォンなどを使っている場合は、どこからでも自分のデータにアクセスできるので、非常に利便性が高くなる。
ただし、シームレスであることを意識し過ぎて、若干、動作がわかりにくい部分がある。特に今回メインに取り上げた「履歴」の管理方法については、クラウドとローカルの機能が混在しており、極めてわかりにくい。大切なデータである以上、どのように安全性が確保されるかは、ユーザーとして非常に気になるところなので、もう少し、このあたりをわかりやすくして欲しいものだ。
筆者もすでに10GB以上のデータをSkyDriveに保存したが、今後、このまま運用を続けるかどうかは、もう少し使い込んで判断したいところだ。今のところは、外出先のPCやスマートフォンなどでも、常にデータにアクセスできるメリットを享受できているが、データをすべて預けるには、まだ不安も、機能的な物足りなさもある。
個人的には、SkyDriveで、ローカルと同じ「ファイルの履歴」機能を使えるようにしてくれることを強く希望したい。もちろん、すべてのユーザーに必要かどうかはわからないので、オプションでかまわない。有料で容量を追加するのと同等に、保持する履歴の世代によって異なる料金のオプションを用意してくれてもいいし、年間2000円の50GB追加を申し込んだ場合などに、一定の容量を「ファイルの履歴」用に割り当てられるようにしてくれてもかまわない。
先にも少し触れた、マイクロソフト社への取材の際に得られた情報によれば、バージョン管理については、APIを利用することで他のアプリケーションからも利用可能であるとのことだ。会計ソフト、CADなど、業務アプリケーションなどでは、今後データの履歴を持てるようになる可能性は高いと考えられる。
ただ、個人的にイメージしているのは、繰り返しになるが、ローカルのファイル履歴のようなファイルの種類を問わないスナップショットだ。どんなファイルでも、過去に戻れるようにデータの世代まで管理してくれれば、喜んでSkyDriveを利用するし、有料課金への出費もいとわない。ぜひ、この点を検討して欲しいところだ。