清水理史の「イニシャルB」

4K動画の変換にも対応した2ベイマルチメディアNAS Synology「DiskStation DS216play」

 Synologyから2ベイのコンパクトなNAS「DS216play」が発売となった。型番末尾の「play」が示す通り、マルチメディア機能が強化されたモデルとなっており、4K動画のリアルタイムトランスコードに対応しているのが最大の特徴だ。その実力を検証してみた。

データ保存先として高まるNASの人気

 スマートフォンで撮影したショートムービーから、デジタルビデオカメラで撮影したやたらと長い動画、イベントなどで入手した映像などなど。

 手元の動画データをどうやって保管するのがベストなのか、に悩んでいる人も少なくないのではないだろうか?

 SSDの価格が安くなってきたのは朗報だが、それでも容量が限られているので動画をやたらと放り込んでおくというわけにもいかない。クラウドストレージの無料枠も残念ながら減少傾向にあるうえ、そもそもプライベートな情報のカタマリである動画をクラウドに保管するのもちゅうちょする。そうこう悩んでいるうちに、撮影機器のストレージの中に、他愛(たあい)もない、それでいて数年後に見返すと撮っておいてよかったと思えるような貴重な動画が取り残され、忘れ去られていくのだろう。

 もちろん、プライバシーに気を配りつつ、しっかりと保存しておきたいデータは動画だけに限られるわけではないが、ローカルもクラウドも容量が増え続けるだろう、という前提で肥大化してきたデータの“はしご”が外されかけ、どうにも行き場を失いつつあるようにも思える。

 そんな状況の中、最近注目度が高まってきているのがNASだ。中でも2ベイクラスの手ごろなNASは、本コラムで取り上げた際の人気も高く、データの保存先として興味を持っている人が確実に増えてきている。

 NASの進化によって、ファイルサーバー的なデータの保管だけでなく、スマートフォンからの利用やPC間の同期など、クラウド的な使い方が可能になったり、仮想化機能などサーバーとしての面白さも兼ね備えてきたことも要因だが、根本的な話として、テラバイトクラスのデータを月々のコストをかけずに、自分の管理下でしっかりと保管したいという要望の現れだろう。

 このような状況の中、Synologyから登場したのが「DiskStation DS216play」だ。2ベイのコンパクトなNASだが、ハードウェアベースの動画トンランスコードエンジンを搭載したマルチメディア向けの製品となっている。

2ベイのマルチメディアNAS「DS216play」
本体と付属品一式

 同社のコンシューマー向け2ベイNASには以下のような製品があるが、ラインアップとしてはミドルレンジに位置する製品となっており、他モデルが搭載するハードウェア暗号化エンジンの代わりに、動画用のハードウェアコード変換エンジンを搭載していることになる。

 家庭などでの一般的な使い方の場合、データの暗号化と動画の変換のどちらにメリットがあるかと考えれば、やはり後者の動画変換ということになるだろう。

 DS216playDS216SeDS215jDS215+
CPUSTM STiH412(DualCore 1.5GHz)Marvell Armada 370(SingleCore/800MHz)Marvell Armada 375(DualCore 800MHz)Alpine AL-212(DualCore 1.4GHz)
浮動小数
ハードウェアコード変換エンジン
ハードウェア暗号化エンジン
メモリ1GB DDR3256MB DDR3512MB1GB DDR3
ベイ2222
最大容量16TB16TB16TB16TB
外部ポートUSB 2.0×1/USB 3.0×1USB 2.0×2USB 2.0×1/USB 3.0×1USB 2.0×1/USB 3.0×2
LAN1000Mbps×11000Mbps×11000Mbps×11000Mbps×1
動作音18.5dB18.4dB18.5dB19.2dB
消費電力15.08W13.73W13.42W20.77W
実売価格39,70024,80033,24068,660

ケースを開けてHDDを装着

 それでは、外観を見ていこう。筐体は、つや消しブラックのシンプルな樹脂製。側面のSynologyロゴが目立つくらいで、基本的にはシンプルな構成となっている。

 HDDは、ケースを開けて内部に装着するタイプで、背面のネジを取り外して(出荷時は固定されていない)、前後にスライドさせるようにして開き、内部にネジで固定する。

正面
側面
背面
ケースを開けてHDDを装着する

 SynologyのNASで感心するのは、こういった低価格のモデルでもHDDベイに防振用のゴムがしっかりと備え付けられている点だ。メタルケースを採用した他社製品と比べると、一見、コストが安そうに思えてしまうのだが、こういった見えない部分にも手抜きがないことに感心する。

 背面には、9cm角のファンが1基備えられるほか、電源コネクタ、LAN×1、USB 2.0×1、USB 3.0×1が搭載される。最近では、HDMI出力を備えたNASも存在するが、本モデルではサポートされない。今後の展開次第ではあるが、少なくとも今のところSynologyは、NASをマルチメディア系のフロントエンドとしては考えていないようだ。その分、NAS側でトランスコードなどの裏方の仕事をしっかりとこなし、ユーザーが直接操作する部分はアプリなどに委ねるという考え方なのだろう。

 セットアップは、従来モデル同様に非常に簡単だ。HDD装着後、ネットワーク上のPCから「find.synology.com」にアクセスすることで初期設定を実行できる。なお、2ベイモデルなので、RAIDは標準でRAID1に設定される。

 パフォーマンスについては、以下の通りとなる。エントリー向けの2ベイモデルとしては十分すぎるほどの転送速度で、実用上、まったく不足を感じることはないだろう。

意識せずに使えるハードウェアトランスコード

 注目のトランスコード機能だが、Synology製品では動画の再生時に、再生先の環境や設定に応じて自動的にトランスコードする方式が採用されている。

 他社製のNASでは、動画が保存されたタイミング、もしくは定期的にファイルをチェックして事前にトランスコードする方式が採用されている場合もあるが、そういった方式と異なり、トランスコードによる負荷を再生時のみに限定することができるうえ、トランスコード後のファイルを保存しておく必要もないので、余計なストレージを消費することがないのがメリットだ。

 早速、再生と行きたいところだが、4K動画のトランスコードには事前に設定が必要になる。設定画面のコントロールパネルから「ハードウェアと電源」の設定画面を表示し、「全般」タブの「1個の4Kコード変換を許可する」にチェックを付ける。これで、専用のメモリブロックが割り当てられ、変換が可能になるわけだ。

 ちなみに、この設定を有効にすると、標準で23%ほどだったメモリ使用量が40%ほどまで上昇する。それでもまだまだ余裕があるので、まったく問題ないが、Webサーバーやデータベースサーバーなど、ほかのアプリケーションを併用したい場合は、メモリの増設も検討すべきだろう。

 準備ができたら、いよいよ再生だ。4K動画(3840×2160、H.265やH.264など複数のファイル)をDS216playの「Video」フォルダーに保存し、ネットワーク上のPCから再生してみた。

 SynologyのNASでは、「Video Station」という機能が利用可能となっており、PCのブラウザーやスマートフォン向けのアプリ(DS Video)から、この機能にアクセスすることで動画を再生できるようになっている。

 標準では、オリジナル画質のまま再生されるが、外出先からアクセスした場合などは回線品質や再生環境(動画形式への対応状況)によって自動的に変換されたり、Video Stationの再生画面から品質を選択することでトランスコードを実行できる。

 試しに、GoProで撮影した3840×2160/H.264/23.98fpsの動画を再生した際のCPU負荷だ。DS216playでオリジナルのまま再生した場合、DS216playでトランスコード(再生品質を「低」に設定)した場合、さらにハードウェアトランスコードに対応しないDS1512+(Dual Core 2.13GHz/1GB RAM/5ベイ)を利用し、オリジナル再生時とトランスコード時を比較してみた。

DS216playで4K動画を再生した際のCPU負荷(右下のグラフ)。左側がオリジナル動画を再生した際で、右側がトランスコード時
同じ動画をDS1512+で再生した際のCPU負荷。左側がオリジナルで右側がトランスコード時

 DS216playでは、オリジナル動画の再生で8%だった負荷が、トランスコードを実行しても34%ほどにまでしか上昇していない。これなら、動画の再生中に別のPCからファイルにアクセスしたり、別の処理を実行させたりしても余裕だ。

 一方、ハードウェアトランスコードに対応しないDS1512+では、オリジナル再生時10%のCPU負荷が、一気に98%とほぼ振り切れる状況になってしまった。

 DS1512+では品質を変更してから動画が再生されるまでに時間がかかるうえ、変換が再生に追いつかないようで、再生が開始されてもしばらくすると映像が停止してしまう状況が見られた。DS216playの再生の速さやスムーズ差に比べると、雲泥の違いと言っていいほどだ。

 上記のテストのように、オリジナル再生が選択できる状況(ネットワーク帯域が十分で、しかもクライアント側がそのファイル形式の再生に対応できる場合)であれば、ハードウェアトランスコードの有無はさほど違いとして現れないが、H.265形式などクライアント側でオリジナルでの再生を選択できない場合などは、ハードウェアトランスコードなしでは、再生することはほぼ不可能と言っていいだろう。

 少し遅いとか、少し機能が制限されるとかいうレベルではなく、できる/できないが、ハッキリと二分されてしまうことを考えると、少しでも4K動画を扱う可能性がある場合は、断然、DS216playなどの「play」シリーズを購入することをオススメしたいところだ。

Windows 10向けのDS videoをリリース

 再生環境も強化され、今回、新たにユニバーサルアプリ版(Windowsストア提供アプリ)のDS videoもリリースされた。

 Synologyは、NASベンダーの中でも、クライアント向けのアプリケーションの開発に積極的な企業だ。例えば、NASメーカー各社とも、外出先からNASにアクセスしたり、写真を自動的にアップロードしたりするためのアプリを提供してはいるが、そのほとんどがAndroidとiOS向けとなっている中、Synologyは、この2つの主要なプラットフォームはもちろんのこと、Windows Phone向けのアプリ(DS file/DS photo/DS video)を既にリリースしていた。

 これに加えて、今回、さらにタブレットや2-in-1などのWindows環境向けアプリをリリースしたことになる。

Windows向けのユニバーサルアプリとなるDS videoをリリース

 DS videoは、文字通り、動画再生用のアプリだ。これまで、PCからNAS上の動画ファイルにアクセスするには、前掲のテストと同じように、ブラウザーを使ってVideo Stationにアクセスする必要があったが、DS videoの登場によって、PCからもより簡単かつ直感的な操作でNAS上の動画を楽しめるようになった。

 最近では8~10インチクラスのWindowsタブレットや2-in-1 PCを外出先で使うケースも増えてきたが、こういった端末では、画面が狭いこともあり、ブラウザーからタッチでいろいろな操作をするのが難しい。しかし、Windows版のDS videoを使えるようになったおかげで、タッチ操作でも快適に動画を楽しめるというわけだ。

 こういった細かな配慮は、まさにSynologyならではの特徴と言えそうだ。

DSM 6.0も来年登場予定

 このように、2ベイのリーズナブルなNASでありながら、ハードウェアトランスコードやWindows 10向けDS videoの提供などで動画再生用途に最適化されたDS216playだが、もう1つ楽しみなトピックとして、新OSであるDSM 6.0(現在ベータテスト中)も来年登場予定となっている。

 DSM 6.0の詳細については、こちらのWebページ(https://www.synology.com/ja-jp/dsm/6.0beta/)を参照してほしいが、大きなトピックとしては、仮想化機能(Docker DSM/Virtual DSM)、SSDキャッシュへの対応、データスクラブやスナップショットによるデータ保護、メールだけでなく内部ユーザーにメッセージを送信できるメールクライアントの提供、スプレッドシートの共有などが可能な新しいコラボレーションツールの提供、802.1x認証によるセキュリティ機能、そして新しくなったVideo Stationなどのマルチメディア機能などが挙げられる。

ベータテストが実施されているDSM 6.0

 DS216playで注目したいのは、何と言っても新しいVideo Stationだ。グレーの背景を採用したシンプルなユーザーインターフェイスに刷新されただけでなく、操作性も向上し、ホーム画面上に最近追加した各種ビデオ(ムービーやホームビデオなど)がすぐに表示されるようになった。ビデオのサムネイルにオーバーレイされるボタンによって再生やプレイリストの作成、公開共有などの操作もスムーズに可能だ。

新しくなったVideo Station(左)と従来のVideo Station(右)。UIが大幅に刷新された
動画のサムネイルからさまざまな操作が可能になった

 プレーヤー画面も以前は新しいタブで表示されていたが、サムネイル画面のタブ内で切り替わるようにして再生されるように改善され、再生途中でサムネイル画面に戻る場合などでも、ブラウザーのタブ側を操作する必要がなくなり、Video Station内での操作で完結するようになった。再生や音量などのコントロールボタンも整理され、通常、表示されるのは必要最低限のものとなり、品質の設定などは設定ボタンから変更する仕様に変更された。

 また、ブラウザー上のVideo Stationから、直接、ChromecastやApple TVなどへの映像配信も可能となった(以前はDS videoから可能)。これにより、PCで再生したい動画のみをあらかじめ選んでから、大画面のテレビなどで再生することが可能となった。再生先として、さまざまなデバイスを手軽に扱えるようになったのは大きなメリットと言えそうだ。

再生コントロールのアイコンがシンプルになり、設定関連がまとめられた
ブラウザーからChromecastやApple TVへのキャストが可能になった

 このほか、トランスコードの仕様も変更される予定だ。冒頭でSynologyのNASは、他社製のNASのエンコード機能と異なり、再生時にリアルタイムでトランスコードを実行することを紹介したが、新しいVideo Stationでは、これに加えてオフラインでのトランスコードが搭載予定となっている。現状のベータでは未対応だが、将来的にはリアルタイム、オフラインどちらのトランスコードも可能になる予定だ。

 今回は検証しきれなかったが、Apple Watch用DS audioによりApple Watchで音楽再生をコントロールできるようになったり、写真表示用のPhoto Stationでのウォーターマーク表示対応やWordPressなどのプラグインにより直接CMSから写真を参照できるようになるなど、マルチメディア系機能も大幅に進化する予定なので、DSM 6.0の登場が待ち遠しいところだ。

2ベイNASの中ではイチオシ

 以上、Synologyから新たに登場したDS216playを実際に使ってみたが、同社の2ベイNASの中では、もっともお買い得な製品だと言えそうだ。実売価格は4万円を少し切る程度となるが、上位モデルのDS215+に匹敵する基本性能を持ちながら、ハードウェアトランスコード機能によって動画をスムーズに再生できるようになっている。アプリが充実している点やDSM 6.0によってさらに使いやすくなることが確実な点も大きな魅力と言えるだろう。

 他社製NASと比較すると、HDMI出力がない点が欠点と言えば欠点となるが、直接、テレビなどに接続して動画を再生するのではなく、あくまでもNASは裏方に徹するという考えで、再生はChromecastやApple TV、DLNAにまかせるという考え方をすれば、特に不便を感じることはない。ハードウェアトランスコード対応や次期Video Stationの改良など、そのための環境もしっかりと整えられている。

 これからNASを導入しようと考えているユーザーにとって、なかなか有力な選択肢の1つと言えそうだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。