清水理史の「イニシャルB」
DSM 6.0で格段に使いやすくなったSynology NAS DiskStation 716+/216jの2ベイモデル2製品を試す
(2016/3/11 12:00)
Synologyから、NAS向けOSの最新バージョン「DSM 6.0」がリリースされた。ファイルシステムの見直しが図られるなど、根本的な部分から見直された新世代のOSだ。機能面でも、個人的にとても気に入った「ファイル要求」やOneDriveとGoogleドライブの同一フォルダーへの同期など、「かゆいところに手が届く」改善がなされており、非常に魅力的な製品へと生まれ変わった。
ついに登場DSM 6.0
Synologyというメーカーで感心させられるのは、決してプラットフォームとして破たんするようなことがないことだ。
昨年からベータテストが実施されていた最新OSとなるDSM 6.0がついに正式リリースとなったが、かなり大規模なアップデートでありながら、ユーザーが困惑するような破たんがほとんど見られない。
通常、ここまで大規模なアップデートがかかれば、一部の古いモデルが置き去りにされたり、NASと連携させるためのPCやスマートフォン向けのアプリのリリースが遅れるなど、対応にタイムラグが発生したり、個々の機能やアプリの完成度が犠牲になるものだが、同社は、メジャーバージョンアップでも、こういったあたりをきっちりと整えてくる。
個人的には、数あるNASベンダーの中でも、Synologyはソフトウェアとサービスに強いベンダーという印象があるが、今回の大規模アップデートは、まさにその評価が正しいと感じられた瞬間だ。
もちろん、今回のアップデートの核となるBtrfsなどの一部の新機能はハードウェアへの依存もあるため、現時点では一部のモデルのみの対応となるが、明らかにベンダー側のリソース不足が疑われるような対応の遅れや不備が見られない。
裏を返せば、それだけ、今回のDSM 6.0にかける同社の決意が強いことの表れとも言える。実際、競争が激しくなってきたNAS市場において、これまで他社製品はあってSynologyのNASに欠けていた機能がいくつかあった。Btrfsもそうだし、完全仮想化、オフラインのトランスコード、ファイルの全文検索などがそうだ。
こういった機能をひっくるめ、さらに他社製品にはない数々の機能を新たに盛り込んできたのが、今回のDSM 6.0ということになる。ひとつの勝負に出たという印象さえある期待の最新OSの実力は、果たしていかなるものなのだろうか?
多岐にわたるアップデート
正直、今回のDSM 6.0のアップデート内容は多すぎて確認するだけでも一苦労だ。目玉となるのはBtrfsへの対応だが、現時点でBtrfsに対応しないモデルの場合でも、File StationやVideo Stationなどの機能の強化によって、かなり使い勝手が良くなるのが特徴だ。
具体的なアップデート内容を以下にピックアップするが、それでもすべてではない。これ以外にPC用やスマートフォン用のアプリなどもアップデートなども加えられている。詳細は、同社のWebページで確認するといいだろう。
DSM 6.0の主な新機能
・64bitアーキテクチャへの対応
4GB以上のメモリを利用可能。処理速度も向上
・Btrfsのサポート
クォータ、スナップショットなどに対応。データ整合性も自動的にチェックする最新ファイルシステム
・モジュラー化
一部のビルトインアプリをモジュラー化。メンテナンスとアップデートの柔軟性を向上
・バックアップ機能の強化
ブロックレベルの差分保存でストレージを有効活用。65535バージョンの保持。低負荷のスナップショット。クラウドへのバックアップ/レプリケーションに対応
・スナップショットと複製
共有フォルダーのスナップショットが可能に。ほかのサーバーへの共有フォルダーやLUNの複製にも対応。フェイルオーバーも可能
・2種類の仮想化に対応
コンテナ型のDocker DSM、完全仮想化のVirtual DSMに対応。ライブマイグレーションもサポート
・MailPlus/MailPlus Server
Synology NASをプラットフォームとしたプライベートクラウドメールサービス。ロードバランスやSpamフィルターに対応。スマートフォン向けアプリも提供
・スプレッドシート
Synology NASをプラットフォームとしたプライベートクラウドオフィスアプリ。表計算シートを社内で共有。ラベル管理なども可能
・File Station
700以上のファイル、メタデータに対応した高度かつ高速な全文検索機能。ドキュメントビューアーも備えるうえ、オンラインでファイルを収集するリクエストも可能に
・Video Station 2.0
インターフェイスを刷新。オンライン/オフライントランスコーディングに対応。アプリもWindows 10 Mobileなど多彩なプラットフォームに対応。Chromecastへの動画配信に対応
・Cloud Station
2段階認証のサポート。バージョニングアルゴリズムの刷新。同時ファイル転送数を1万に増強。パフォーマンスの向上。任意の同期フォルダーの選択が可能に。ダウンロードのみのタスクを追加
・セキュリティ機能
有線での802.1x認証サポート。ファイアウォールルールをポート単位で構成可能
・パフォーマンス
最大12ドライブのSSDキャッシュに対応
新モデルも登場
肝心の対応モデルだが、今回のDSM 6.0は、既存のモデルにも対応しており、以下の機種に適用可能となっている。
16シリーズ | RS18016xs+, RS2416RP+, RS2416+, DS416j, DS416, DS716+, DS216se, DS216play, DS216+, DS216 |
15シリーズ | RC18015xs+, DS3615xs, DS2415+, DS2015xs, DS1815+, DS1515+, DS1515, RS815RP+, RS815+, RS815, DS415play, DS415+, DS715, DS215j, DS215+, DS115j, DS115 |
14シリーズ | RS3614xs+, RS3614xs, RS3614RPxs, RS2414RP+, RS2414+, RS814RP+, RS814+, RS814, DS414slim, DS414j, DS414, RS214, DS214se, DS214play, DS214+, DS214, DS114 |
13シリーズ | DS2413+, RS10613xs+, RS3413xs+, DS1813+, DS1513+, DS413j, DS413, DS713+, DS213j, DS213air, DS213+, DS213 |
12シリーズ | DS3612xs, RS3412xs, RS3412RPxs, RS2212RP+, RS2212+, DS1812+, DS1512+, RS812RP+, RS812+, RS812, DS412+, DS712+, RS212, DS212j, DS212+, DS212, DS112j, DS112+, DS112 |
11シリーズ | DS3611xs, DS2411+, RS3411xs, RS3411RPxs, RS2211RP+, RS2211+, DS1511+, RS411, DS411slim, DS411j, DS411+II, DS411+, DS411, DS211j, DS211+, DS211, DS111 |
対応モデル中のDS211などは2010年の発売なので、すでに6年も前の製品となる。同時のOSのバージョンはDSM 3.0だったので、何世代にもわたって、見捨てられることなく、アップデートが続けられてきたことになる。
今回は、これらのモデルの中から2ベイのDS716+を使ってDSM 6.0を検証することにしたが、このほか、今回の新OSリリースに合わせて新モデルも登場してきた。ベストセラーの2ベイモデル「DS215j」の後継となる「DS216j」だ。
スペックは下表の通りで、従来モデルとなるDS215jからCPUが強化され、USBも3.0×2の構成となった。上位モデルのDS216との差がだいぶ縮まったが、HDDは内部に増設するタイプとなるためケースを開けて内部にネジ留めする必要がある。フロントベイからホットスワップ可能な通常のDS216シリーズとの違いはこの点にある。
とは言え、HDDの装着は初回セットアップ時と、故障での交換時程度なので、一般的な家庭での利用であれば、同じDSM 6.0の利用が可能で、機能的にほとんど差がないにもかかわらず、価格的にリーズナブルなDS216jを積極的に選ぶメリットは大きい。USBポートが2ポートとも3.0対応なのも地味に便利だ。
このサイズと価格で、使い勝手の向上したDSM 6.0を使えることを考えるとお買い得と言えるだろう。
DS216j | DS215j | DS216 | |
CPU | Marvel Armada 385 88F6820 デュアルコア1.0GHz | Marvel Armada 375 88F6720 デュアルコア800MHz | Marvel Armada 385 88F6820 デュアルコア1.3GHz |
浮動小数 | ○ | ○ | ○ |
ハードウェア暗号化 | ○ | ○ | ○ |
ハードウェアトランスコード | × | × | × |
メモリ | 512MB | 512MB | 512MB |
ドライブベイ | 2 | 2 | 2 |
USBポート | USB 3.0×2 | USB 2.0×1/USB 3.0×1 | USB 2.0×1/USB 3.0×2 |
LAN | 1GbE×1 | 1GbE×1 | 1GbE×1 |
サイズ(H×W×Dmm) | 165×100×225.5 | 165×100×225.5 | 165×108×233.2 |
消費電力(アクセス時W) | 13.42 | 13.42 | 15.48 |
ファイル管理がさらに便利になった「File Station」
それでは、DSM 6.0の機能中でも特に注目したい機能を、いくつかピックアップして紹介していくことにしよう。まずは、「File Station」と呼ばれるファイル管理機能の新機能だ。
今回のDSM 6.0で、実は個人的に最も感動したのは、File Stationの「ファイル要求」機能だ。
従来のFile Stationでは、インターネット上のファイル共有サービスと同様に、NAS上に保存したファイルのURLを送信してダウンロードしてもらうことができたのだが、このファイル要求は、その逆。つまり、インターネット経由でファイルを集める機能となる。
File Stationでフォルダーを作成後、「ファイル要求作成」を選択すると、ファイル送信時と同様に共有用のURLを作成することができる。このURLを相手に送信すると、ブラウザ経由で、指定したフォルダーにファイルをアップロードしてもらうことができるわけだ。
学校などでレポートを集めたり、アンケートや書類を回収したり、写真を入れてもらったりと、実に多彩な使い方ができる。期限を設定したり、パスワードを設定したりすることもできるうえ、相手がファイルをアップロードするときに「名前」を指定できるのだが、これがサブフォルダーとして使われるため、アップロードした人ごとにデータを自動的に分類可能。さらに、その日時も明確に記録される。
また、同じ名前を利用することで、2回目以降に同じフォルダーにデータをアップロードすることもできる。このとき、同じ名前のファイルをアップロードした場合でも、もちろん以前のファイルが上書きされることはなく、自動的に「名前_1」のファイル名に変更される。
前述したようにレポートの収集に使えば、期限を区切って明確にファイルを集められるうえ、期限内であれば提出者がファイルを更新してアップロードすることも自由。きちんとパスワードでデータを保護できると、非常に完成度が高い。
グループウェアでも使えばいいじゃないか? と言われるかもしれないが、ブラウザのみで特別なアカウントを必要とせず利用できるサービスでありながら、インターネット上ではなくローカルでデータを管理できるという点が素晴らしい。これだけでも、用途によってはDSM 6.0を使う価値がある。
もう1つ、File Stationでのトピックは、ファイルの全文検索が可能になった点だ。以前のバージョンでは、ファイル名でしかファイルを検索できなかったが、DSM 6.0からは、あらかじめコントロールパネルでインデックスの作成を有効化しておくことで、特定の共有フォルダーのデータに対して全文検索を実行できる。
これにより、ブラウザ経由でNASのデータを扱う場合でも、必要なファイルをすばやく探し出せるようになった。
オフライントランスコードにも対応した「Video Station」
続いての注目は動画の管理・再生を可能にする「Video Station」だ。最新版でUIが一新され、従来に比べて「あか抜けた」感じのスタイリッシュな画面へと変更された。操作性も改善されており、再生だけでなく、お気に入りへの登録や動画の公開などの操作がしやすくなった。
このようにガラリと変更されたVideo Stationだが、大きなポイントとなるのは、何と言ってもトランスコード機能だ。
従来のDSM 5.2上の旧Video Stationでも、リアルタイムでのトランスコードに対応しており、ハードウェアコード変換エンジンを搭載したモデル(xxxplay型番など)では、ハードウェアを利用して高速かつ低負荷で動画を変換することが可能だった。これにより、例えば外出先のスマートフォンなど再生フォーマットが限られていたり、回線品質が限られたりする環境でも、最適なフォーマットと品質に自動的に動画を変換して配信することができた。
今回の新Video Stationでも同様の機能を備えているほか、新たにオフラインでのトランスコードにも対応。Video Stationから変換操作を実行することで、動画をあらかじめMP4形式へと変換することが可能となった。
これにより、あらかじめトランスコードしておいた動画をスマートフォンやタブレットへとダウンロードしておくことが可能となり、海外や機内など、通信環境が限られる環境でも動画を楽しむことが可能となった。
実際に、ハードウェアコード変換エンジンを搭載したDS716+で試してみたところ、約15分、1.4GBのMPEG2 TSを12分ほどで280MBのMP4に変換することができた。
ビデオカメラなどで撮影した動画をほかの人に受け渡したい場合などに、あらかじめ小さなサイズにしておくのにも使えそうだし、単純に自分で保管しておくための動画のサイズを小さくしたいというケースにも便利だ。
ちなみに、他社製のNASのようにフォルダーを監視して自動的に変換する機能は搭載されない。基本的には、オンラインでリアルタイムにトランスコードできるため、そちらを使えばいいからだ。オフラインで持ち歩きたい動画だけを手動で変換するという使い分けにすることで、使用頻度が少ない動画まで変換することによるCPUやストレージスペースの無駄遣いを排除できる。
このほか、Chromecastへの動画のキャストがスマートフォン用のアプリだけでなく、Web GUIからも可能になるなど、細かな改善もなされている。動画の保存、配信プラットフォームとして、一層、魅力的になった印象だ。
同期先のフォルダーを自由に選択可能になった「Cloud Station/Cloud Sync」
同期ソリューションとしては、もはやこれが最強と言ってもいいかもしれないというほど、進化したのが「Cloud Station」と「Cloud Sync」だ。
NAS上のフォルダーとPC上のフォルダーを同期するCloud Stationに関しては、デザインの変更に加え、同期モードとしてダウンロードのみのタスクを追加。これにより、NAS上のデータをマスターとして、複数PCで同じデータを使うといったことも可能になった。これにより、例えばモバイル環境などでうっかりファイルを変更したとしても、サーバー上には反映されずに済むようになった。
このほか、同期設定時にサーバー側にもフォルダーを作成できるようになったほか、高度な整合性チェックを無効化してクライアントのリソースや同期速度を高速化するオプションも利用可能になった。
ファインチューニングといったイメージのCloud Stationに対して、クラウド上のオンラインストレージサービスとNASのフォルダーを同期するCloud Syncは、画期的に良くなった。
具体的には、1つのフォルダーを複数のサービスと同期可能になった。
これは地味にすごい。従来は、例えば、OneDrive、Googleドライブと同期させた場合、それぞれのフォルダーが個別に作成されてしまっていたが、今回のバージョンからは「OnlineStorage」などのフォルダーを作成し、そこにOneDriveとGoogleドライブの両方を同期させることができる。
要するに、NASを介して、OneDriveとGoogleドライブなど、複数のオンラインストレージサービス間の同期ができることになる。
もちろん、従来のように個別のフォルダーに同期させることも可能なため、クラウドサービスごとに容量が異なっていたり、用途によって使い分けているという場合であれば、個別に同期させればいい。
しかし、バックアップ目的やすべてのサービスで同じデータを使いたいという場合は、このソリューションは非常に役立つ。クラウドとの親和性という点でも、NASとして、一歩先んじている印象だ。
同期可能なサービスも、Dropbox、Google ドライブ、OneDrive、Amazon Cloud Drive、Box、Baidu Cloud、S3ストレージ、Google Cloud Storage、OpenStack Swift、hubiC、Yandex Disk、MegaDisk、WebDAV(汎用)と非常に多い。
クラウドストレージの統合運用というのは、結構、悩ましい問題なのだが、その1つであるデータの整合性がCloud Syncで解決される可能性があるだろう。
バックアップ
最後にバックアップについて触れておこう。クライアントのバックアップに関しては、前述したCloud Stationの仕組みを利用する。NAS側に同じアプリを利用し、クライアント側に「Cloud Station Backup」という専用ソフトウェアをインストールすることで、PC上の任意のフォルダーのデータをNAS上に自動的にバックアップするという仕組みだ。
従来機能との差は、バックアップ規則によってバックアップから除外するファイルの容量や拡張子を指定できるようになったこと、さらに、バックアップとして保持する履歴が32バージョンまで拡張された点などが挙げられる。
一方、サーバー側のバックアップは、「Hyper Backup」というアプリを利用する。バックアップ先として、ローカルストレージ(USB)、ネットワーク上のほかのSynology NAS、一般的なリモートrsyncサーバーが選べるほか、クラウドストレージサービスとしてS3ストレージ、Microsoft Azure、OpenStack Swift、HiDriveも選択可能と多彩なバックアップ先を指定できる。
また、バックアップのバージョニングも可能となっており、今回の新バージョンでは新たに「スマートリサイクル」という方式に対応。
スマートリサイクルでは、まず指定したバージョン数(標準では256)を超えるまでバックアップバージョンを維持する。さらにバックアップを重ねると、次の条件で過去のバージョンを整理する。
・過去24時間分の時間ごとのバージョンを維持
・日時バージョンを過去1日~1カ月分維持する
・週次バージョンを1カ月分維持する
バックアップから復元する場合、必ずしも直近のデータに戻す場合だけとは限らない。例えば、週次処理、月次処理などが発生する場合、そのデータをなるべく長期間保持したいという場合もある。このニーズに自動的に応えてくれるのがスマートバックアップというわけだ。
手動でバックアップを選別し、保持しておきたいデータをロックするといった手間をかけなくても、一般的に必要とされるバックアップをきちんと保持してくれる。いわば賢いバックアップの管理人と言えるだろう。
最新のOSこそ最良のNAS
以上、DSM 6.0で生まれ変わったSynologyのNASを実際に使ってみたが、かなり良くなっているという印象だ。
「あー、これできないのかぁ」とあきらめていた機能が、バージョンアップの度に「お、できるようになった!」と改善され、「地味にイイ」と感じられる改善が着々と積み上げていくあたりは、まさにSynologyの真骨頂と言えるだろう。
個人的には、ファイル要求、Cloud Sync、この2つの機能はかなりのお気に入りで、これだけでも、SynologyのNASを使う価値があると思えるほどだ。
というわけで、現在、SynologyのNASを利用している場合は、迷わずDSM 6.0に更新すべきだ。もしも、まだNASを手に入れていないのであれば、DSM 6.0になった今こそSynologyのNASを候補としてNASの購入を検討すべきだ。それくらい、今回のアップデートには価値がある。