清水理史の「イニシャルB」

ゲーマーも満足の超高速無線LANルーター 2167Mbps+1000Mbps対応のASUS RT-AC88U

 ASUSから、低遅延が求められるオンラインゲームや、広帯域が要求される4Kストリーミングに最適化された無線LANルーター「RT-AC88U」が登場した。従来の無線LANルーターの限界を打ち破る2167Mbps+1000Mbpsという高い速度と、QoSやWTFastを組み合わせた徹底したパフォーマンス対策が特徴の製品だ。その実力を検証してみた。

強烈な個性

 ASUSから新たに登場した「RT-AC88U」は、一口に言えば「強烈」な製品だ。

 同社のゲーマー向け製品ブランド「ROG」シリーズにも通じる赤をアクセントとしたデザイン、2167Mbps+1000Mbpsという無線LANのスピード、リンクアグリゲーションにも対応したLAN×8/WAN×1の有線LANポート、ビルドインされたWTFastによるGamers Private Networkへの対応など、外見も中身も、すべてが強烈な個性で満たされている。

 かつては地味な裏方の存在だったルーターを、突出したパフォーマンスと豊富な機能で、表舞台へと押し上げたのはほかならぬASUSと言っていいが、この分野で、再び、型にはまった既存製品に対しての新しい提案として登場したのが、このRT-AC88Uということになる。

 「いや、そんなにたくさんの機能は必要ない、無線LANは、簡単に、安定してつながれば、それでいい」と考える人も多いことだろう。もちろん、それが王道ではあるが、その一方で、PCがそうであるように、ゲームなどの特定の用途向けの突出した性能を求めるユーザーも増え始めている。

 こういった層を狙い撃ちするかのように、ある意味ニッチな機能であっても、躊躇することなく搭載してくるのが、ASUSの無線LANルーターの良いところだ。果たして、今回はどのような機能で、われわれを驚かせてくれるのだろうか? その詳細に迫ってみよう。

正面
側面
背面

底知れぬ実力

 最初に触れておきたいのは、今やASUSルーターの最大の特徴とも言えるパフォーマンスだ。

 現状、発売されている無線LANルーターの最大速度は、ハイエンドモデルでも最大1734Mbpsとなっている。

 しかし、今回登場したRT-AC88Uの速度は、これを上回る最大2167Mbpsとなっている。

 もちろん、採用されている規格は、現在主流のIEEE 802.11acそのものだ。5GHz帯の電波を利用し、複数アンテナの同時通信を利用するMIMOのしくみを活用して、送受信それぞれ4本ずつのアンテナを使って通信する点は、最大1734Mbps対応だった従来モデルのRT-AC87Uとまったく同じだ。

 では、どこが異なるのかというと、無線LANの変調方式として1024-QAMを採用している。無線LANでは、デジタルデータを一定の方式で変調させることで搬送波に乗せてやり取りする。従来の最大1734Mbpsでは8bitのデータを表現できる256-QAMが採用されていたが、これが10bitのデータを表現できる1024-QAMに変更されたことで、その速度が1.25倍の2167Mbpsへと向上している。

 同様の1024-QAMを採用した製品は、海外では存在するが、国内では、今回のRT-AC88Uが初の製品となる。

 この技術は、5GHz帯だけでなく2.4GHz帯にも適用されており、4ストリームMIMOで最大1000Mbpsと有線LANの理論上の速度と同じ速度を達成。5GHzで2ギガ越え、2.4GHzでギガ越えを達成したことになる。

 実際の転送速度も高速だ。以下は、木造3階建ての筆者宅で、1階にRT-AC88Uを設置し、iPerfを利用して、各階から無線LAN速度を計測したものだ。

iPerfテスト
RT-AC88U
1F821
2F570
3F457

 結果を見ると、少々、物足りないと思われるかもしれないが、いかんせん、この製品の実力をフルに発揮させられる環境を整えるのが難しい。

 今回のテストでは、クライアントにASUS EA-AC87を利用したが、この製品は1024-QAM対応ではなく、256QAM対応の最大1734Mbps対応の製品となるうえ、有線側も1Gbpsまでとなる。このため、最大で800Mbps台にとどまった。

 とは言え、3階でも450Mbpsをマークする性能は明らかに高く、そう言った意味では、底知れぬ性能の持ち主と言ってよさそうだ。

 ちなみに、WikiDeviによると、RT-AC88Uに搭載されている無線LAN用SoCは、BCM4366とBroadcom製となっている。従来のRT-AC87Uや今回テストで利用したEA-AC87はQuantenna QT3840BCだったので、採用SoCがガラリと変わったことになる。

 個人的には、先のテストでもう少し高い実測値が得られるかと期待したところもあったのだが、今回の結果はSoCの相性が影響している可能性もありそうだ。

 パフォーマンス面では、リンクアグリゲーションに対応した有線LANポートにも注目だ。LANポートが8ポートもあるだけでもありがたいが、このうち1と2のポートはIEEE 802.3adによるリンクアグリゲーションに対応しており、NASなど2ポートのLANを備える機器を接続することで、1Gpbs×2の帯域を利用できる。

 もちろん、2Gbpsという意味ではなく、1Gbpsずつ2系統使えるという意味だ。複数の無線LANクライアントからNASへのアクセスが集中した場合でも、2系統を利用して負荷分散しつつ、個々のクライアントのスループットを向上させることが可能となる。小規模なオフィスなどでも使いがいのある機能と言えそうだ。

8つのLANポートを搭載。うちLAN1とLAN2はリンクアグリゲーションに対応する
リンクアグリゲーション(LAG)で1Gbps×2、トータルで2Gbpsの帯域を確保可能。同じくLAGに対応したNASなどを接続することで、負荷を分散させつつトータルのスループットを向上させることができる

 このほか、簡易NASとしての実力も向上している。以下は、前面のUSB 3.0ポートに256GBのSSD(Samsung 840)を接続し、有線LAN接続のPCから速度を計測した際の値だ。

 リードでシーケンシャル、ランダム共に60MB/s前後、ライトで33MB/sとなっている。ローエンドのNASの目安がだいたいリード80MB/s前後、ライト60MB/s程度なので、値としては若干劣るものの、実際にファイルをコピーした際の使用感はだいぶ専用のNASに近い感じになってきた。

 RAIDやファイル履歴の取得などが必要なければ、もはやルーター+USB HDDという構成でも十分と言えそうだ。

「GPN」に対応

 続いてのポイントは、ゲーマー向けの機能だ。「ゲーマー向け」というと、定義があいまいで、ゲームなどの高いスペックが求められる用途にも対応できるという意味、つまり単純にハイスペックであることを示す目的で使われることもあるが、今回のRT-AC88Uはもっと具体的なゲーマー向けの機能が搭載されている。

 1つはQoSだ。以前のRT-ACシリーズにも搭載されていたので目新しい機能ではないが、今回のRT-AC88Uでは、この機能をワンクリックで有効化できるようになっており、より手軽にゲームの通信に多くの帯域を割いたり、優先的に通信を処理することが可能となった。

ワンクリックでLAN側のQoSを有効化することが可能
ゲームに最適化することで、自動的にゲームの通信を判断し、優先的に処理するようになる

 もう1つはWTFastへの対応だ。LoLなどの海外ゲームに触れた経験があるユーザー以外は、あまりなじみのない機能だが、簡単に言うとゲーマー向けのVPNサービスとなる。

 最近のゲームでは、リアルタイム性が要求されるため、通信の遅延が大きな問題になることがある。海外のゲームサーバーに接続する際は特にシビアで、100msを超えるとラグが気になる場合がある。

 こういった現象を解決するためのサービスがWTFastだ。Gamers Private Network(GPN)を利用してゲームマシンとサーバーを接続することで、サーバーとの間でやり取りされる通信が最適な経路を通過するように調整することができる。

WTFastの設定画面。ルーターから直接GPNに接続可能。有料サービスだが、無料で試すこともできる。対応するゲームはまだ少ない

 従来、WTFastのサービスを利用するには、ゲームマシン(PC)にクライアントソフトをインストールする必要があったが、この機能がRT-AC88Uには内蔵されており、自動的にゲームのパケットをWTFast側へと転送することが可能となっている。

 試しに、WTFastのアカウントを取得し、League of Legendの北米サーバーあてにPingを実行してみたのが以下の結果だ。

・無効時

Pinging 104.160.131.1 with 32 bytes of data:
Reply from 104.160.131.1: bytes=32 time=152ms TTL=48
Reply from 104.160.131.1: bytes=32 time=156ms TTL=48
Reply from 104.160.131.1: bytes=32 time=149ms TTL=48
Reply from 104.160.131.1: bytes=32 time=147ms TTL=48
Reply from 104.160.131.1: bytes=32 time=152ms TTL=48
Reply from 104.160.131.1: bytes=32 time=152ms TTL=48
Reply from 104.160.131.1: bytes=32 time=149ms TTL=48

104.160.131.1 の ping 統計:
パケット数: 送信 = 7、受信 = 7、損失 = 0 (0% の損失)、
ラウンド トリップの概算時間 (ミリ秒):
最小 = 147ms、最大 = 156ms、平均 = 151ms

・有効時

Pinging 104.160.131.1 with 32 bytes of data:
Reply from 104.160.131.1: bytes=32 time=148ms TTL=48
Reply from 104.160.131.1: bytes=32 time=154ms TTL=48
Reply from 104.160.131.1: bytes=32 time=154ms TTL=48
Reply from 104.160.131.1: bytes=32 time=169ms TTL=48
Reply from 104.160.131.1: bytes=32 time=154ms TTL=48
Reply from 104.160.131.1: bytes=32 time=150ms TTL=48
Reply from 104.160.131.1: bytes=32 time=171ms TTL=48

104.160.131.1 の ping 統計:
パケット数: 送信 = 7、受信 = 7、損失 = 0 (0% の損失)、
ラウンド トリップの概算時間 (ミリ秒):
最小 = 148ms、最大 = 171ms、平均 = 157ms

 結果を見ると、残念ながらほとんど差がない。というのも、せっかくの機能だが、残念ながら日本にはWTFastのサーバーが存在しないため、この機能の実力を発揮できないためだ。また、ネットワークの品質が低い新興国向けのサービスとなっており、もともと国内はネットワークの品質が高い日本では、その効果も出にくいという理由もある。

 WTFastが有料サービスとなってしまったり、LoLに関しては日本向けのサーバーがオープンしたこともあり、現段階では微妙なサービスと言えるが、eSPORTSなどのキーワードと共に、海外製のゲームの人気も高まりつつあることを考えると、今後登場する海外向けタイトルを本気でプレイをしたい人にとっては、価値のある機能と言えそうだ。

「速い」だけじゃない

 最後に、セキュリティと使いやすさという点にも触れておこう。

 セキュリティに関しては、本コラムで以前に何度か取り上げているが、RT-ACシリーズならではの「AiProtection」機能に対応している。

 最近、「標的型攻撃」という攻撃が話題になることが多いが、RT-ACシリーズのAiProtectionは、その対策の一部が可能な唯一のコンシューマー向けルーターとなっている。

 具体的には、「悪質サイトブロック」と「感染デバイス検出/ブロック」の2つの機能が効果を発揮する。

 「悪質サイトブロック」は、ペアレンタルコントロール的な機能をイメージする人が多いかもしれないが、もう少し、セキュリティ寄りの機能だ。具体的には、トレンドマイクロのデータベースを利用し、アクセスしようとしているWebサイトがマルウェアなどを配布する悪質なサイトかどうかを判断し、事前にアクセスをブロックすることができる。

 「感染デバイス検出/ブロック」は、被害の拡大を防ぐための機能だ。標的型攻撃では、メールなどでPCをマルウェアに感染させた後、外部のC&Cサーバー(Command and Control)サーバーと通信し、新たなマルウェアを仕込んだり、外部から遠隔操作で情報を盗み出す手口が使われる。このC&Cサーバーとの通信を遮断したり、PCに感染したマルウェアが用意したバックドア経由の通信を遮断するのが、この機能だ。

 もちろん、これだけで標的型攻撃のような高度な攻撃を防げるわけではないが、その第一歩となるWebからの感染を防いだり、万が一の感染後の被害の拡大を防ぐことができる。正直、この機能が使えるだけでも、ASUSのルーターに乗り換える価値はあるだろう。

悪質サイトブロック、感染デバイス検出/ブロック機能を搭載。コンシューマー向けルーターで、ここまでの機能を、無料で使えるのはASUSならではメリット。これだけでも導入を検討する価値がある

 一方、使いやすさという点では、多機能な設定画面(ASUSWRT)の採用によって、無線LAN接続されている端末を一覧表示できるようになっていたり、「ASUS Router App」を利用することで、スマートフォンからルーターのセットアップを実行したり、リアルタイムにトラフィックを確認することなどが可能となっている。

 ASUSのルーターと言うと、どうしてもパフォーマンスにばかり目が行きがちだが、実はセキュリティ面や使いやすさという点でも、かなり優秀な製品となっている。このあたりも製品選びの重要なポイントになるだろう。

多機能なASUSWRT。無線LANで接続されている機器の一覧表などもお手のもの
スマートフォン向けのアプリを提供
初期設定はもちろんのこと、詳細な設定も変更可能

ニッチも極めれば

 以上、ASUSから登場したRT-AC88Uを実際に使ってみたが、従来製品の豊富な機能を継承しつつ、無線LANのスピードやLANポートのリンクアグリゲーション対応など、さまざまな点が改善されたかなり進化した製品と言える。

 安定性に関しても、筆者が1週間ほど実環境で使った限りでは、有線も無線も特に問題はなかった。無線LANルーターの場合、個体差や電源環境で安定性に差が出る場合があるため、断言はできないが、致命的な欠陥はなさそうだ。

 唯一の欠点は、実売で3万5000円前後となる価格だ。ハードウェアのコストに加え、セキュリティ関連も含めた各種セキュリティサービスが無料で使えることを考えると妥当な価格設定とは言えるが、さすがに気軽に支払える金額ではない。最終的には、この予算を確保できるかどうかが購入の決め手となるだろう。

 それにしても、ASUSからルーターが登場した当初、こんなにニッチな製品が受けるのかと心配になったものだが、その傾向は薄まることなく、濃くなる一方だ。もはや、それが製品の魅力になっているのだから、大したものだ。

 WTFastなど、まだ実力を発揮しきれていない機能もあるが、無線LANの性能やセキュリティ機能など、ベースがしっかりしている製品なので、一般的な家庭やオフィスでの利用にも適している。性能重視で選ぶなら、買いと言える製品だ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。