第4回:エレコム LD-WBBR4のWindows Messenger対応ファームを試す



 昨年末、エレコムから同社が販売する無線ブロードバンドルータ「LD-WBBR4」用のWindows Messenger対応ファームウェアが発表された。これにより、ルーター経由でWindows Messengerのビデオチャットが可能となるという注目のものだ。早速、実機を手に入れることができたので、実際の使用感をレポートしていこう。





本格的な普及が見えてきたWindows Messenger

 インターネット上のコミュニケーション手段として、着実に普及しつつある「Windows Messenger」。すでに、友人との会話にこのアプリケーションを利用しているというユーザーも多いことだろう。

 しかし、現状、Windows Messengerには、大きな課題が残されている。ビデオチャットなどの機能がルータ経由で使えないという問題だ。文字ベースのチャットは問題なく使えるものの、その他の機能がルータ経由では動作しない。ビデオチャットやPC to Phoneのような新しいコミュニケーション手段に大きな期待が集まっているものの、これらの機能を実際に使えない点にジレンマを感じていたユーザーも多いことだろう。

 しかし、このような状況もどうやら今年は解消されそうだ。ルータの開発、販売を行っているメーカー、ADSL事業者などがWindows Messengerへの対応予定を発表しており、今年早々にもルータ経由でのWindows Messengerの利用が実現されると予想されている。なかでもいち早くWindows Messengerへの対応を果たしたのが、今回取りあげるエレコムの「LD-WBBR4」だ。





データを解析しアドレスを書き換える

エレコムの無線ブロードバンドルータ「LD-WBBR4」(標準価格3万5000円)。ファームウェアのアップデートのみでWindows Messengerのビデオチャットに対応した業界初のルータ

 LD-WBBR4は、昨年の7月に発売された無線ブロードバンドルータだ。802.11bの無線LANに対応しており、本体には4ポートの10/100Mbpsスイッチングハブ、プリンタ共有用のパラレルポートを搭載している。登場した当初は比較的多機能な製品として注目されたが、今となってはオーソドックスな製品と言えるだろう。

 今回のWindows Messengerへの対応は、ハードウェア的には7月に発売された製品をそのまま利用しながら、ファームウェアのアップデートのみで対応している。具体的には、同社のWebサイトで配布されている最新版のファームウェア「R1.94a」を利用する。これでWindows Messengerへの対応が可能となる。なお、同様の機能を搭載したファームウェアは、今後、同社が発売している他のルータにも対応予定だ。

 仕組み的には、Windows Messengerがやり取りするデータの解析と書き換えを行なう。Windows Messengerのビデオチャットでは、自分のIPアドレスを相手に通知する際に、そのアドレスを相互にやりとりするデータの中に埋め込む。このため、通常のルータでは、DMZなどを利用したとしても無効なIPアドレス(具体的にはルータのDHCPサーバーによって割りあてられたローカルのIPアドレス)が相手に通知されてしまい、セッションが確立できなかった。

 しかし、LD-WBBR4の最新ファームウェアでは、このデータ内に埋め込まれたアドレスを解析し、それをルータのWANポートに割りあてられたグローバルIPアドレスに変換することが可能となっている。これにより、Windows Messengerでのビデオチャットが可能となるわけだ。

 ただし、単にファームウェアをアップデートするだけではビデオチャットは利用できない。ビデオチャットを利用する場合は、利用するPCに固定でIPアドレスを割り当て、ルータ側の設定でDMZホストに設定しておく必要がある。これにより、外部からの接続要求があった場合でも問題なくWindows Messengerを起動しているホストにデータを転送可能となる。


ルータの設定画面で、Windows Messengerを利用するPCをDMZホストに設定。ファームウェアのアップデートと併せて、この設定をしなければビデオチャットは利用できないイー・アクセスの回線にLD-WBBR4を接続し、ビデオチャットをテスト。何の問題もなく映像と音声によるチャットができた

 ためしに、LD-WBBR4経由で接続したPC(イー・アクセスのADSLを利用)とADSLモデムを直結したPC(フレッツ・ADSLを利用)でビデオチャットをしてみたが、何の問題もなく通信を確立できた。ルータ経由でビデオチャットが可能というひとつの可能性を示した点は高く評価できるだろう。





ビデオチャットと引き替えに欠点も…

 ただし、欠点もある。まず、対応している機能だが、筆者がテストしてみたところビデオチャットと音声チャット、そしてファイル転送のみであった。ファームウェアをアップデートし、同様の設定をしたとしてもホワイトボード、アプリケーション共有、リモートアシスタンスの招待などは利用できなかった。ビデオや音声チャットすらできないルータが圧倒的に多いことを考えれば、これだけでも評価したいところだが、いささか残念と言える。

 続いての欠点は、Windows Messengerを動作させるPCをDMZに設定しなければならない点だ。この設定をすることで、確かにビデオチャットは可能となるが、その代償としてセキュリティの問題が浮上してくる。DMZを利用すれば、外部からのパケットは、それが正当なものであろうと、不正なものであろうと必ずPCに転送されてしまう。これでは、不正なアクセスなどあったとしてもPCは完全に無防備となるわけだ。ルータという一種の簡易ファイアウォールの効力が及ばなくなる点には十分に注意すべきだろう。

 また、Windows Messengerが双方向のコミュニケーションを行なうアプリケーションである点も忘れてはならない。LD-WBBR4を最新版のファームウェアで利用すれば、自分の環境でビデオチャットを利用する準備は整う。しかし、相手側がビデオチャットに対応する環境を用意できなければそれまでだ。今後、他のルータが対応してくるまでは実際に使える環境が整ったとは言えないだろう。





やはり本命はUPnP対応ルータ

 このように、いくつかの欠点があることを考えると、あくまでもLD-WBBR4の最新版ファームウェアは暫定的な対処と言える。他社に先駆けて、いちはやく対応した点は高く評価したいが、まだまだ実運用には耐えるものとは言い難い。すでにLD-WBBR4を購入済みであればファームウェアを更新する意味は多いにあるが、Windows Messengerのビデオチャットを使いたいがために新たに購入するほどではないだろう。

 では、今後の展開としてユーザーはどうすべきなのだろうか? やはり、本命となるのはUPnP(Univarsal Plag and Play)に対応したルータの登場を待つことだ。すでにADSL回線事業者のアッカ・ネットワークスが自社のADSL接続サービスで使用しているADSLモデムをUPnPに対応させるためのテストを行なっていることを発表している。

 また、Linksysのブロードバンドルータ「BEFSR41」などは、ユーザーのホームページなどで非公式ながらUPnP対応のベータ版ファームウェアなどが公開されている。メルコなども同社のルータ製品のWindows Messenger対応を予定しているとの発表もあった。

 このようなUPnPへの対応は、おそらく今年の2月以降に集中してくると予想される。もちろん、現時点でどうしてもビデオチャットをしたいというのであれば、LD-WBBR4を選ぶのも悪くはないが、各社の製品が出揃い、それぞれの機能の内容を見極めてから判断しても遅くはないだろう。このあたりは、今後の動向をしっかりと見極めて判断する必要があるだろう。


関連情報

2002/1/8 01:19


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。