第24回:このままでいいのか?
あまりに違うルータのパッケージ記載内容と実性能
期待通りの速度が出ない。対応予定となっている機能がいつまでたってもサポートされない。一部のルータや無線LAN機器では、うたい文句通りの性能が出ないというトラブルが続いている。そろそろ、ユーザーの信頼を回復するための努力が必要なのではないだろうか?
●スループット表記はPPPoE環境も併記すべき
筆者が購入した「BRL-04FB」 |
ウリとなるスループットがパッケージに記載されている |
マイクロ総研では、最近発表した新製品から、スループットの表記にPPPoE環境での測定値も掲載するようになった。これまで、各社のルータは、SmartBits2000と呼ばれるネットワークデバイステスタやLAN環境に構築したFTPサーバーからの転送テストなどをスループット値として公表していたが、ようやく実際の環境に合った値を掲載しようというメーカーが登場したわけだ。これまで、メーカーが製品パッケージやリリース情報、製品情報ページに掲載するスループット値は、はっきり言って現実からかけ離れてたものであったが、ここにきて現実に即したものになりつつあるわけだ。
もちろん、SmartBits2000やFTPでの転送テストであってもルータの処理能力を計測することはできるだろう。実際、有線ブロードネットワークスのようにPPPoEを利用しない光サービスも存在するため、FTPなどによる転送テストはある程度意味あるだろう。しかし、SmartBits2000の値はあきらかに現実的ではない。SmartBits2000はあくまでもテスタなので、基本的にサーバーやネットワーク的なストレスがない状態で計測される。この値が高くなるのは当然のことだ。前述したように、このような値を処理能力の指標と考えれば、パッケージに掲載することは自体は否定しない。しかし、それを「スループット」として掲載するのは、現実離れにもほどがある。
しかも、SmartBits2000やFTPでのテストとPPPoE環境での実測値の間に差がないのかというと、そうではないのが現状だ。たとえば、前述したマイクロ総研の例をあげさせてもらえば、同社の最上位機「NetGenesis SuperOPT90」は、SmartBits2000でのテストで98Mbps、FTPでの転送で94Mbps、そしてPPPoEでの転送で67Mbpsという値が公表されている。つまり、PPPoE環境で利用すれば、公表されているスループットよりも確実に低い値となってしまうわけだ。この値を正直に公表しているマイクロ総研の姿勢は高く評価したいが、このことを知りつつ、PPPoE環境での測定値をなかなか掲載しないメーカーの姿勢には疑問を持たざるを得ない。
顕著な例が7月にプラネックスから発売された、FTP測定で91Mbpsのスループット性能を持つ「BRL-04FB」だろう。インターネット上の掲示板でもかなり話題になっていたが、発売当初に搭載されたファームウェアでは、NTT東日本・西日本の光サービス「Bフレッツ」環境で10Mbps程度とFTP測定値を大きく下回る速度しか出なかった(PPPoEを使わない他の光サービスであれば問題はない)。現在は、ベータ版のファームウェアVer.1.6 Release10、もしくは8月28日に公開された正式版のファームウェア Ver.1.6 Release11でPPPoEの速度について改善が見られるが、製品を出荷する前にきちんとテストしていれば、事前にわかっただろうにという気がしてならない。
ルータは、海外(主に台湾)で開発されたものを輸入し、国内向けにローカライズして販売するという方法が主流で、国内で独自に開発されている製品は非常に少ない。このため、国内で実際にユーザーが使ったときにトラブルが判明するというケースも出てくる可能性がある。パッケージなどで高いスループットをウリにするのもマーケティング的に考えれば有効だろう。しかし、その検証はしっかりとやっていただきたいものだ。そして、その上で、現実に即した値を掲載すべきだろう。そうでなければ、ユーザーは何を信じて良いのかがわからなくなってしまう。
また、大手量販店のルータ売り場の店頭などで、店員とお客のやり取りを聞いていると、やはりパッケージのうたい文句を根拠に製品を勧めている傾向が強い。こういう会話を聞いていると、最終的にしわ寄せを食うのはユーザーなのだと実感してしまう。ほとんどのユーザーがADSL回線で使うことを考えれば、実際にスループットの問題が表面化することが少ないのかもしれない。しかし、実際にパッケージの情報を元に製品を購入するユーザーが多いことを考えると、そこに現実的ではない数値が表記されているのはあまりよろしくない。このあたりはメーカーとしてしっかり対処してほしいところだ。
●搭載予定機能を掲載するのは結構だが、迅速に対応すべき
購入した「METEOR KY-BR-WL100」 |
予定されるアップデート後の仕様が大書きされている |
このような問題はスループットだけにとどまらない。たとえば、京セラの無線LANルータ「METEOR KY-BR-WL100」などでは、出荷されている一部の製品に、「グレードアップ!」と書かれたUPnP対応とスループットを63Mbps(SmartBits2000値)に向上させる予定があるというシールが貼られているが、このファームウェアのリリースが遅れているのだ。
この製品は、2002年の1月に出荷された製品だが、このような問題も含めて、7月にはファームウェアのアップデートが予定されていた。しかし、これが8月中旬に延期され、そして現在は9月下旬に再び延期されている現状となっている。ユーザーにしてみれば、一体、いつリリースされるのか気が気でならないだろう。
そもそも、この製品は、当初から無線LANのMACアドレスフィルタリングに未対応であるなど、その欠点が数多くのメディアで指摘されていた製品だ。無線LANのセキュリティに関しては高い注目が集まっているが、このような改善が他の機能のアップデート予定にひっぱられて遅れ続けているのは、購入して現在も使い続けているユーザーにとっては大きな問題だろう。
なお、9月下旬に予定されているファームウェアのアップデートでは、これまでに対応予定だったUPnP対応、スループットの向上、マルチNAT対応、SNMPサポート、MACアドレスフィルタリングに加え、マルチPPPoE接続とファイアウォール機能のアップグレード(フィルタリング機能の強化とSPIの詳細設定への対応)が新たに追加される模様だ。個人的には、機能を追加することでアップデート予定が延期されるくらいであれば、これまでの欠点を解消すべく、こまめにアップデートを繰り返した方がマシだと思うのだが、どうやらそうはならないようだ。
この製品は、比較的マニュアルなどが良くできており、初心者向けには悪くない製品だと言えるのだが、どうも機能的な部分、そしてリリース後の対応部分のツメが甘い。この点は実に残念だ。ぜひとも迅速にファームウェアをアップデートして欲しいところだ。
●ユーザーを裏切らない製品作りを
このように、ルータのパッケージに記載されている売り文句は、行き過ぎのような気がしてならない。最近はSmartBits2000の数値を前面に出す例は減っているが、メーカー側は、もう少し、ユーザーの視点に立ってマーケティングを考える時期に来ているのではないだろうか?
また、機能面での検証について、もう少し慎重に行なってもらいたいところだ。少しでも早く店頭に並べれば、確かにライバルメーカーよりも売れ行きを伸ばすことができるかもしれない。しかし、長期的な視点で見れば、未完成な製品をリリースするリスクの方が大きいはずだ。今は、スループットを向上させるだけでユーザーが飛びついてくれるかもしれないが、この傾向は長くは続かないはずだ。完成度の高い製品をリリースし、不具合があれば迅速にファームウェアをアップデートする。そのような方法で、ユーザーの信頼を勝ち取って欲しいものだ。
関連情報
2002/9/3 11:11
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