第25回:選択肢が増えてきた802.11a対応製品
NECのAterm WA7500Hを試す



 NECアクセステクニカから、IEEE 802.11a対応の無線LANルータ「Aterm WA7500H」が発売された。54Mbpsの無線LANに加え、高速なルーティングエンジンを搭載する注目の製品だ。早速、製品版を手に入れることができたので、使用感をレポートしていこう。





待望の本格派IEEE 802.11a対応ルータ登場

NECアクセステクニカ Aterm WA7500H

 NECのAtermシリーズと言えば、ISDN TAの時代から、その使いやすさ、高い信頼性が評価されてきた製品だ。他社製品に比べると派手さに欠ける部分もあるが、その堅実な製品作りで多くのユーザーを獲得してきた。今回のWA7500Hもその例にもれない製品だ。

 今回、試用したWA7500Hは、見た目こそ従来のIEEE 802.11b対応のAterm WBR75Hと変わらないものの、その中身は大幅に変更されている。最も大きいのは、セールスポイントでもあるIEEE 802.11aへの対応だ。WARPSTARΔシリーズは、本体上部にある開閉カバーを開け、内部のスロットに無線LANカードを装着することで無線LANに対応できるのだが、このスロットがCardBusに対応したことで、IEEE 802.11a対応の無線LANカードも装着可能になった。

 これにより、IEEE 802.11b対応のカードを装着すれば11Mbpsの無線LANとして、IEEE 802.11a対応のカードを装着すれば54Mbpsの無線LANとして利用可能となる。用途に応じて、どちらにも対応できるのは大きなメリットと言えるだろう。また、これは後で詳しく触れるが、内部のルーティングエンジンの高速化により、スループットも公表値(FTPによる計測)で50Mbpsにまで引き上げられたという特徴も持っている。

 このようなIEEE 802.11a対応の無線LAN製品は、各社からいくつか製品がリリースされているが、単純なアクセスポイントがほとんどで、ルータ機能を内蔵した製品は少なかった。国内では、IEEE 802.11aの登場初期に発売されたソニーやアイ・オー・データ機器の製品、そして最近発売になったアイコムの「SR-21BB」が存在する程度だ。もちろん、ADSLモデムなどにルータ機能が搭載されるようになってきた現状を考えると単純なアクセスポイントを選ぶメリットもある。しかし、環境によってはルータ機能が内蔵されている方が便利なケースもあるだろう。このように考えると、これまで少なかったIEEE 802.11a対応ルータに新たな選択肢が加わったことは歓迎すべき事だ。





IEEE 802.11aの通信速度は標準レベルだが、暗号化で速度低下なし

 実際に利用してみたところ、全体的な印象はこれまでのWARPSTARシリーズとほとんど変わりはなかった。これまでどおり付属のユーティリティの完成度は高く、画面の指示に従っていくだけで、無線LANカードのドライバインストールから本体の設定までが実にスムースに完了する。また、マニュアルもわかりやすく、設定方法が非常に細かく丁寧に解説されている。同社の製品が、ハイエンドユーザーから初心者まで、幅広く利用されている理由は、このあたりにあるのだろう。

 さて、気になるIEEE 802.11aの実力だが、結論から言えば、決して遅くはないが突出して速いというわけではないという印象だった。筆者宅にてFTPによる転送テストをしてみたところ、以下のような結果となった。

サーバークライアントWEP時間転送速度
KB/sMbps
有線LAN有線LAN-11.868437.5565.92
802.11aなし47.872089.9516.33
64bit48.252073.4516.20
128bit47.842091.2616.34
154bit48.232074.3516.21
802.11a有線LANなし47.192120.1216.56
802.11aなし76.051315.5210.28
128bit75.471325.6310.36
Windows 2000 Professional(PentiumIII 733MHz 512MB 120MB HDD)にIISをインストールし、100MBのファイルをクライアントからFTPでダウンロードしたときの時間と転送レートを計測。クライアントにはSONY VAIO SRX7E/P(PentiumIII 800MHz RAM384MB)を利用し、コマンドプロンプトのFTPクライアントにて計測

 IEEE 802.11aの実効速度は概ね16Mbpsというところだった。また、サーバーとクライアントの両方をIEEE 802.11aで接続した場合は10Mbps程度となった。もちろん、この値は利用するPCなどの環境によって異なるので一概には言えないが、中には実測で20Mbpsを超えるような製品も存在するようなので、速度的には多少見劣りする感じだ。

 ただし、WEPによる暗号化を設定してもほとんど速度の低下が見られなかった点には注目したい。802.11bの場合、WEPによる暗号化を設定すると2割ほど速度が低下するケースが多いため、これを嫌ってWEPによる暗号化を設定しないユーザーも少なくなかった。しかし、WA7500Hであれば、このような心配もない。WA7500Hでは、64bit/128bitに加え、152bitというさらに強力なWEPを利用することが可能だが(152bit WEPの利用には付属のサテライトマネージャの利用が必須)、どの方式で暗号化してもほぼ16Mbpsの転送速度を実現できた。速度を犠牲にすることなく、安全な無線LAN環境を構築したいユーザーに最適だろう。

 一方、電波の届く範囲だが、他社製のIEEE 802.11a対応製品に比べて若干感度が高いようだが、やはり障害物などがあると速度は落ちる傾向にあった。筆者宅の各部屋で、どれくらいの受信感度があるかを調査してみたが、リンク速度が48~54Mbpsで接続されるのは見通しが良い場合のみに限られ、壁やドアを隔てると頻繁にフォールバックが発生し、速度が低下してしまった。しかしながら、完全に切断されるようなことはなかったので、一般的な家庭での利用には支障はないだろう。なお、筆者宅はマンションであるため、2階建てなどの一戸建てではまた条件は変わってくる。無線LANの電波は垂直方向に弱いため、おそらく1階と2階での通信では、さらに速度が低下するだろう。


筆者宅の各部屋での速度を調査。値はWindows XPのワイヤレスネットワークに表示されたものなので、実効速度は1/3~1/2程度となる

 ちなみに、筆者宅では、ソニーのVAIOをネットワークに接続し、GigaPocketを使ってネットワーク経由でテレビを再生するという使い方をしているのだが、今回テストした限りではリンク速度が36Mbps程度で接続されていれば、テレビの画質を「高画質(MPEG2 8Mbps)」に設定してもコマ落ちなどなくスムースに映像を再生することができた。802.11bの場合は、実質的に「長時間モード(MPEG1 1.41Mbps)」でないと映像を再生できなかったので、この差は非常に大きい。これにより、使える部屋は限られるが、ノートパソコンを使ってワイヤレスでテレビを楽しむことが可能になった。このような使い方ができることこそ、IEEE 802.11aの醍醐味と言えるだろう。





有線ルータとしての実力も高い

 さて、WA7500Hのもうひとつの特徴と言えるのが、有線ルータとしての実力の高さだ。これまでのAtermシリーズは、BR1500Hを除き、スループットが15Mbps前後とあまり高くなかった。しかし、WA7500Hでは、FTTHなどでの利用も考慮されており、スループットが公称値で50Mbpsにまで向上している。他社製のルータに比べれば控えめな数値だが、50MbpsあればIEEE 802.11aでインターネットに接続した場合などでもルータ側がボトルネックになることはないだろう。

 ちなみに、パッケージには「本体実効スループット50Mbps」と記載されており、IEEE 802.11aを使った場合に50Mbpsの速度が出るわけではないことがさりげなく主張されている。とは言え、これはFTPによる転送速度なので、PPPoE環境での速度ではない。よって、PPPoEの環境(Bフレッツ)でどれくらいの速度が出るのかをテストしてみた。

Mbps
PC直結31.19
有線38.87
802.11a15.88
PPPoE環境(Bフレッツ 100Mタイプ)でのスループットを計測。クライアントにはSONY VAIO SRX7E/P(PentiumIII 800MHz RAM384MB)を利用し、フレッツスクウェアにて計測した

 こちらもPCの環境によって速度が変化する場合もあるので、一概には言えないが、約38Mbps程度のスループットが実現できた。さすがにIEEE 802.11aでアクセスした場合は、IEEE 802.11aがボトルネックになってしまうので約16Mbpsとなったが、これならFTTHなどの環境でも実用範囲だ。ひたすらに速度を追求するユーザーには物足りないかもしれないが、一般的な使い方なら問題ないだろう。

 この他、PPTPパススルーへの対応、DMZへの対応など、これまでのAtermシリーズで対応予定となっていた機能が実装されるなど、機能的な拡張も行なわれている。これまでのAtermシリーズの機能を集大成したといった感じだ。





全体的なバランスが良く買い得感は高い

 このように、WA7500Hは、IEEE 802.11aアクセスポイントとしても、有線ルータとしても比較的高い完成度を持つ製品だと言える。突出して性能が良いというわけではないが、一定のレベルの性能を満たしており、しかも使いやすさという大きなポイントを備えている。全体的なバランスはかなり高いと言えるだろう。これから、無線LANを導入しようという場合、特にIEEE 802.11aの導入を考えている場合は、その候補として是非とも検討しておきたい製品だ。


関連情報

2002/9/10 11:23


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。