第26回:単体製品へと回帰するIEEE 802.11b
小型アクセスポイント3機種を試す



 ルータタイプのADSLモデムの普及などにより、ルータ機能を持たない単体のIEEE 802.11b無線LAN製品への注目が集まっている。これまでの「ルータ+無線LAN」という構成の製品と比べて、その実力はどれほどのものなのだろうか? NECアクセステクニカ、プラネックス、メルコから発売されている小型のアクセスポイント3製品をテストしてみた。





「ルータ+無線LAN」からアクセスポイント単体製品へ

 これまでの無線LAN製品は、無線LAN機能に加え、本体にルータ機能を内蔵したタイプのものが主流となっていた。しかし、この状況が少し変わろうとしている。もちろん、「ルータ+無線LAN」という製品も依然として数は多いが、これに加えてアクセスポイント単体の機能のみを持つ製品が増えてきているのだ。

 この理由は主に2つある。最も大きい理由は、ルータタイプのADSLモデムの普及だ。現状、イー・アクセスやアッカ・ネットワークスのADSL回線を契約すると、ルータタイプのADSLモデムがレンタルされる。このような環境では、すでにルータ機能はADSLモデムに内蔵されているため、無線LAN製品に内蔵する必要はないわけだ。このため、多くのユーザーはADSLモデムのルータ機能を活かしつつ、単体のアクセスポイントを使って無線LANを構築する傾向にある。

 もうひとつの理由としては、高速なルータを求めるユーザーが増えてきた点があげられる。NTT東日本/西日本のフレッツ・ADSLやYahoo!BBなどのサービスではレンタルされるADSLモデムがブリッジタイプとなるため、別途ルータが必要になる。しかし、現状、無線LAN製品に内蔵されているルータ機能は処理速度は決して高速とは言えない。ADSLであまり高いスループットを求める必要があるのかという疑問はあるのだが、ユーザーによってはこれを嫌って、別途高速なルータを設置。無線LAN側にはルータ機能を求めないという傾向が強くなっているわけだ。

 無線LAN製品は、かつてアクセスポイント単体の製品が主流だった。それが時代のニーズと共にルータ機能内蔵へと進化し、そして、ここに来てふたたび単体アクセスポイントへと回帰しようとしている。しかも、単に回帰しようとしているだけでない。各社から発売されている単体アクセスポイントは、非常に小型化が進み、より手軽に使えるようになりつつある。

 今後、IEEE 802.11bの製品は、このような小型のアクセスポイントが主流になると考えられる。そこで、今回は主要メーカーから発売されている小型のアクセスポイント3製品をテストしてみた。はたしてその実力はどれほどのものなのだろうか?


メルコ WLA-S11G(WLS-S11GS)NECアクセステクニカ WL11Eプラネックス GW-AP11H




設定の容易さではメルコに軍配

 今回、テストに利用したのは、NECアクセステクニカの「Atermワイヤレス拡張キット(E)」、プラネックスの「GW-AP11H」、メルコの「WLS-S11GS」の3製品だ。なお、今回は製品手配の都合上、プラネックスの「GW-AP11H」のみがアクセスポイント単体の製品となり、NECアクセステクニカの「Atermワイヤレス拡張キット(E)」(WL11Eの2個が同梱)とメルコの「WLS-S11GS」(アクセスポイントと無線LANカードが同梱)がセットモデルとなったことをあらかじめお断りしておく。

 まずは、設定の容易さから見ていこう。これは初期設定に限定すれば、NECアクセステクニカの「Atermワイヤレス拡張キット(E)」が抜群に良い。この製品は、WL11Eという製品が2個セットになった製品なのだが、それぞれがアクセスポイントとクライアントとして設定済みで、標準でWEPによる暗号化なども設定された状態で出荷される。このため、ユーザーはアクセスポイントとなるWL11Eをルータなどに、クライアント側のWL11EをPCに接続するだけで無線LANを構築できるのだ。つまり、初期設定としてユーザーが行なうことは何もなく、単に接続するだけでいいわけだ。他社製品の中にも基本的につなぐだけで使える機種もあるが、WEPの設定まで標準で設定済みというのはこの製品だけだろう。

 ただし、このような設定の容易さは初期設定に限った話であり、設定を変更しようとしたり、初期化後に再生設定しようとすると、逆に最も設定が面倒な製品になってしまう。設定にはユーティリティが必須で、しかも初期化後の再設定時などはPCとクロスケーブルで直結しないとうまく設定できない。設定を一切変更せずに使うのなら文句のない製品だが、後から設定を変更することなどを考えるとかなり面倒と言える。

 ちなみに、この製品は、ユーティリティの設定によって本体をアクセスポイントにもクライアント(Ethernetに直結するタイプの無線LANアダプタ)にも切り替えることができる。このため、後から別途アクセスポイントを追加したときに、セットに同梱されるWL11Eを両方ともクライアントとして構成するなど、構成変更にも柔軟に可能となっている。他社の製品はアクセスポイントとクライアントが同じ製品のように思えるが、このような動作モードの変更はサポートされておらず、別々の製品としてラインナップされている。どうせなら動作モードの変更をサポートして欲しいところだ。


設定変更にはユーティリティが必須。ブラウザでの設定はサポートされていない。初期化後の再設定などはクロスケーブルでの接続が必要など面倒なのが欠点

 少し話がずれたので本題に戻ろう。さて、NECとは逆に初期設定のみ面倒なのがプラネックスの「GW-AP11H」だ。この製品は、初期設定、設定変更ともにブラウザから可能となっているのだが、標準設定されているIPアドレスが「192.168.1.100」となっているため、これ以外のサブネットで利用している場合はPC側でIPアドレスを変更する必要がある。同社のルータを利用している場合であれば、DCHPサーバーで同じサブネットのアドレスが割り当てられるため問題ないが、そうでない場合は多少設定が面倒となる。ただし、一旦、セットアップしてしまえば、特別なユーティリティなども必要なく、ブラウザから手軽に設定を変更できる。

 その点、もっとも設定しやすかったのはメルコの「WLA-S11GS」だ。IPアドレスは標準でDHCPサーバーから割り当てる方式となっているため、特に設定を意識する必要はない。もちろん、このままでは何番のIPアドレスが割り当てられているかがわからないために設定画面を表示できないが、この問題も付属のクライアントマネージャで解決できる。クライアントマネージャを利用すると、ネットワーク上のアクセスポイントを自動的に検索して、設定画面を表示することができるのだ。必要であれば、ここからIPアドレスを固定に変更してしまえばいいだろう。もちろん、ESS-IDやWEPの設定などを変更する必要がないのであれば、何も設定せずにつなぐだけで利用することも可能だ。初期設定、および設置後の設定変更など、ユーザー側の環境に合わせてフレキシブルに対応できる点は非常に優れている。


クライアントマネージャを利用すれば、ネットワーク上のアクセスポイントを自動的に検索し、設定を行なうことが可能

詳細な設定はブラウザから行なう。WEPによる暗号化やMACアドレスフィルタリングなどの設定も比較的わかりやすい




セキュリティ面の充実が光るプラネックス「GW-AP11H」

 続いて、機能面での比較をしていこう。まずは基本機能だが、これは3製品とも大差ない。どの機種もWEP(64bit/128bit)による暗号化、MACアドレスフィルタリングなどのセキュリティ機能を備えており、アクセスポイントに必要とされる最低限の機能を満たしている。ルータ内蔵のアクセスポイントでもMACアドレスフィルタリングを備えていない機種があることを考えれば、それぞれ合格点を満たしている。

 ただし、プラネックスの「GW-AP11H」は、これらの基本機能に加えて、さらに高度な機能を備えているのが特徴的だ。具体的には、ESS-IDを隠す機能、そしてANYを拒否する機能がサポートされている。これは、セキュリティ面を考えると非常に高いアドバンテージと言える。

 すでに本連載でも紹介したように、無線LANのアクセスポイントを検索するユーティリティなどは比較的手軽に入手可能となっており、このようなユーティリティを使うことで街中のアクセスポイントを検索することが可能となっている。しかし、GW-AP11HでESS-IDを隠す設定をしておけば、このようなユーティリティを利用した場合でもアクセスポイントを発見できなくなる。もちろん、Windows XPのWireless Zero Configでも同様だ。近くにアクセスポイントが存在したとしても利用できるワイヤレスネットワークには表示されない。また、クライアント側でESS-IDにANYが設定されている場合、他の2製品は問題なく接続できてしまうが、GW-AP11Hであればこれを拒否することもできる。


ESS-IDを隠す、ANY拒否などの設定が可能。これにより、高いセキュリティを実現できる。小型のアクセスポイントながら機能は充実している

 これらの機能は、現状、サポートしている製品はまだ少ないが、無線LANの危険性が問題視されている現状を考えると必須とも言える機能だ。小型のアクセスポイントにもこの機能を搭載してきたプラネックスの姿勢は評価できる。ただし、GW-AP11Hでは、WEPキーに16進数しか設定できないなど、設定が多少面倒な部分もある。このあたりが改善されれば、機能的には文句のないところだ。





速度的にはほぼ横並び、バランスを考えるとプラネックス有利

 最後に速度の計測もしてみた。今回取り上げた3機種でFTPによる転送テストを行なったのはもちろんだが、ルータ機能内蔵のアクセスポイントと比較した場合の速度差も気になるところなので、NECアクセステクニカのAterm WA7500HにIEEE 802.11bのカードを装着して同様のテストをしてみた。

製品WEP時間速度
(KB/s)
速度
(Mbps)
NECアクセステクニカ WL11Eなし100.16501.273.92
128bit135.01371.912.91
プラネックス GW-AP11Hなし84.69592.854.63
128bit121.96411.73.22
メルコ WLS-S11GSなし85.04590.414.61
128bit126.32397.473.11
NEC WA7500H
+WL11CA(802.11bカード)
なし83.64600.34.69
128bit116.27431.853.37
Windows 2000 Server(PentiumIII 733MHz 512MB 120MB HDD)にIISをインストールし、50MBのファイルをクライアントからFTPでダウンロードしたときの時間と転送レートを計測。クライアントにはSONY VAIO SRX7E/P(PentiumIII 800MHz RAM384MB 内蔵無線LAN)を利用し、コマンドプロンプトのFTPにて計測

 テスト結果を見ると、NECアクセステクニカの「ワイヤレス拡張キット(E)」が若干速度的に劣るものの、他の2機種はほぼ横並びの結果となった。WEPによる暗号化なしで4.5Mbps程度、暗号化を設定した場合で3Mbps弱なのでIEEE 802.11b製品としては一般的な速度と言えそうだ。実際、WA7500Hの結果も他の3機種と大きな違いはなかったので、性能的にはルータ機能内蔵のアクセスポイントと比べても見劣りしないだろう。

 最終的な結論としては、無線LANをまったく利用したことがない初心者が使うのであれば、NECアクセステクニカの「ワイヤレス拡張キット(E)」をおすすめしたいが、やはりセキュリティ面などを考えるとプラネックスの「GW-AP11H」の完成度が高い。初期設定やWEPキーの設定などに多少の欠点はあるものの、全体的なバランスが非常に良い。このクラスの無線LAN機器の購入を考えている場合は検討してみる価値はあるだろう。

 ただし、これらの製品を「Ethernetアダプタ」や「Ethernetメディアコンバーター」と呼ばれるEtherntに直結するタイプの無線LANアダプタと組み合わせて使う場合は注意が必要だ。筆者がテストした限り、プラネックスのアクセスポイントとNECアクセステクニカのWL11E(クライアントとして利用)の組み合わせでうまく接続することができなかった(そのほかの組み合わせでは問題なかった)。可能な限り、同一メーカーの製品の組み合わせで利用した方が良さそうだ。


関連情報

2002/9/17 11:21


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。