第29回:PPPoE 2セッション同時接続可能になったフレッツ・ADSLを検証



 10月1日から、NTT東日本、西日本が提供するフレッツ・シリーズの同時接続セッション数が拡張された。これでフレッツ・ADSLなどでもPPPoE 2セッションの同時接続が可能になったことになる。果たして2セッション同時接続のメリットはあるのだろうか? 実際に検証してみた。





ようやく実現した2セッション同時接続

 以前から、拡張されるのでは? と噂されていたフレッツ・シリーズの同時接続セッション数がようやく拡張された。フレッツ・シリーズは、登場当初から「フレッツ・スクウェア」などの地域IP網を利用した独自サービスを展開していたが、フレッツ・ADSLやBフレッツのファミリー向けプランに代表されるシングルセッションのサービスでは、いちいち接続先を変更する必要があり、事実上、使い物にならなかった。これが、今回の同時接続セッション数拡張により、ようやくシームレスに使えるようになったわけだ。

 フレッツ・スクウェアが魅力的なコンテンツか? と問われると、まだ現状は発展途上と言いたくなる点もある。しかし、地域IP網を利用したサービスには、この他にもフレッツ・グループアクセスやフレッツ・オンデマンド、先日発表されたばかりのフレッツ・セーフティなど、さまざまなものがあり、2セッション同時接続が可能となった今後はこのような独自サービスの展開が容易になると予想できる。


ようやくシームレスに利用可能になったフレッツ・スクウェア。NTT東西の地域IP網のネットワークだけを使うので、安定したデータ伝送が期待できる

 NTT東日本、西日本はADSLの12Mbpsサービスでこそ他社に開始は遅れるが、このような独自サービスの展開はいち早く手がけており、単純なスピード競争ではないサービス面での顧客獲得にも積極的に取り組んでいる。今回の2セッション同時接続化により、このようなサービス面での他社との差別化をさらに進めたというわけだ。





接続方法は複数あるが、対応ルータを使うメリットが大きい

 それでは、実際に2セッション同時接続を実現するには、どのような方法があるのだろうか? 現状、考えられるのは、以下の2通りの方法だ。

  1. ADSLモデムにハブを接続し、ルータを複数台接続する
  2. 複数セッションの同時接続に対応したルータを利用する

 もちろん、ADSLモデムにスイッチングハブを接続し、そこに複数台のパソコンを接続して、XPのPPPoE接続などを利用する方法も考えられるが、これはあまり実用的ではない。この方法であれば、確かに片方のパソコンはインターネットに、もう片方のPCはフレッツ・スクウェアなどに接続できる。また、両方同時にフレッツ・スクウェアにアクセスすることもできる。しかし、現状は、プロバイダー側のセッションが1つに制限されることが多いため、両方同時にインターネットに接続することができないのだ。また、1台のPCをADSLモデムに直結して、PPPoE接続を複数作成。これで同時に接続するという方法も考えられるが、これはXP側の問題で不可能となる(デバイスが使用中になり同時に接続できない)。


PPPoE 2セッションに対応したプラネックス BRL-04FA

 というわけで、今回、実際にそれぞれの方法を試してみたが、もっとも実用的だったのは、後者の複数セッション対応ルータを利用する方法だった。1.の複数台ルータを使う方法でもインターネット接続とフレッツ・スクウェアへの接続を同時に利用することはできる。しかし、実際の設定がかなり面倒なのだ。具体的には、ADSLモデムにスイッチングハブなどを接続し、そこに複数台のルータを接続する。そして、片方のルータの接続先にプロバイダーを指定し、もう片方にフレッツ・スクウェアを指定する。これで接続自体はうまくいくのだが、問題はPC側の設定だ。

 そのままではデフォルトゲートウェイに指定されているルータしか利用しないので、「route」コマンドなどを利用してPCに静的なルーティングテーブルを記述してやる必要がある。たとえば、デフォルトゲートウェイをインターネット側のルータにしておき、フレッツ・スクウェア(172.26.xxx.xxx)への要求があった場合に、もう片方のルータを経由するようにすればいいわけだ。ただし、このままではフレッツ・スクウェアに接続したときの名前解決ができない。このため、DNSサーバーとしてフレッツ・スクウェア側に接続されているルータのIPアドレスなどもPCに設定しておく必要がある(優先順位を高くしないと失敗する)。

 これに対して、複数セッション同時節接続に対応したルータでは、接続先としてインターネットとフレッツ・スクウェアの両方を登録しておくだけでいい。たとえば、今回は最新のファームウェアを組み込んだプラネックスの「BRL-04FA」を利用したが、接続先の「プライマリ1」にインターネットへの接続先を、「セカンダリ1」にフレッツ・スクウェアへの接続を登録しておくだけで設定は完了する。ルータによっては、どのような場合にプライマリとセカンダリの接続先を使い分けるかを設定する必要があるが、BRL-04FAの場合は標準で「.flets」へのアクセスがあった場合にセカンダリを利用するルールが設定済みとなっている。このため、これを選択するためでパソコンからインターネットとフレッツ・スクウェアを利用可能となる。


プラネックスの「BRL-04FA」の設定画面。プライマリ1にインターネット接続、セカンダリ1にフレッツ・スクウェアへの接続を登録しておくことで、2セッション同時接続が可能。セカンダリ接続利用時のルールも設定可能となっている

 これは非常に楽だ。パソコンからはブラウザを起動して、インターネット、またはフレッツ・スクウェアのURLを入力するだけで、ルータが自動的にルーティングしてくれる。プラネックスによると、今回のファームウェア(3.0436)では、複数セッションの対応などによって機能強化されたため、ルータ自体のスループットが多少低下するとのことだが、ADSLであればこれもあまり気にする必要はないだろう。現状、低価格ながら複数同時セッションの接続が可能なルータが少ないことを考えると、この製品の存在意義は大きい。

 ちなみに、ここまで主にインターネットとフレッツ・スクウェアを同時に利用する方法について説明してきたが、BRL-04FAの場合、セカンダリセッションを利用するルールとして、送信元PCのIPアドレスも指定することができる。このため、複数のプロバイダーと契約し、PCごとにプロバイダーを使い分けたいという場合にも対応できる。





ルータによっては別の方法でも利用可能

 このような複数セッションの同時接続は、ルータによっては、少し変わった方法で実現されているケースもある。たとえばNECアクセステクニカのAterm BR1500H、およびWARPSTARΔシリーズでは、「PPPoEブリッジ」という機能がサポートされている。これは、ルータに接続したPCからであっても、ADSLモデムにPCを直結したときと同様に、Windows XPのPPPoEなどを利用してインターネットに接続できる機能のことだ。PCのPPPoE要求をルータがADSLモデムにブリッジするために、こう呼ばれている。

 この機能は、これまでのように回線側が1セッションに限られていたときは、ルータ側での接続を切断してからでないと利用できなかった。しかし、メーカーから正式には発表されていないが、今回テストした限りでは、この機能による2セッション同時接続が可能となっていた。つまり、普段はルータによる接続で利用しているパソコンに、フレッツ・スクウェアなどへのPPPoE接続を作成し、それを起動するとルータでの接続と同時にPPPoEブリッジでの接続も確立されるわけだ。

 もちろん、PC側でPPPoE接続を確立すると、PPPoEブリッジでの接続が優先されるため、ルータ側での接続は利用できなくなる。このため、BRL-04FAのようにインターネットとフレッツ・スクウェアをシームレスに利用することはできない。しかし、これの制限はあくまでもPPPoEを起動したPCのみに限られる。特定のPCでPPPoEブリッジを利用している最中でも、ルータに接続されている他のPCでは問題なくインターネットに接続できる。つまり、普段はルータ側の接続でインターネットを利用し、フレッツ・スクウェアなどに接続したいときだけPPPoE接続を利用するという使い方ができるわけだ。


NECアクセステクニカのAterm BR1500Hの設定画面。ステータスを見ると、ルータでの接続とPPPoEブリッジでの接続の両方がアクティブになっているのがわかる

PPPoEブリッジによる2セッション同時接続のイメージ。ルータでの接続を維持しながら、PPPoEブリッジで接続したPCのみ別の接続先に接続することが可能となる

 PPPoEブリッジは、シームレスにフレッツ・スクウェアを利用できる環境に比べると、使い勝手は多少悪いが、これはこれで応用範囲が広い。たとえば、ネットワークゲームなどでの利用が便利だろう。ネットワークゲームなどによっては、ポートフォワードやDMZの設定を利用しないと動作しないケースがある。しかし、ポートフォワードやDMZの設定はセキュリティ上、問題になることもある。一度設定してしまうと、削除しないかぎり、常に外部からの要求が通過してしまうからだ。

 その点、PPPoEブリッジであれば、PPPoE接続を起動したPCにのみグローバルIPアドレスを割り当てることができる。つまり、普段はルータ側の接続でインターネットを利用し、ネットワークゲームなどを利用するときだけ、このようにPPPoEブリッジで接続するようにすれば、面倒なポートフォワードやDMZなどの設定も不要なうえ、PPPoEブリッジを利用しないときのセキュリティも確保できるわけだ。

 もちろん、同じプロバイダーで2セッション確立することは難しいので、PPPoEブリッジ用のプロバイダーが必要になるが、最近ではASAHIネットやぷららなど、数百円程度の料金でフレッツ・ADSL用の接続を提供しているプロバイダーも存在する。これらのプロバイダーを利用すれば、PCの接続方法の切替も容易になるというわけだ。





2セッションを活かせるかは今後のサービス次第

 このように、今回はフレッツ・ADSLの複数セッション同時接続を検証してみたが、技術的には利用することは難しくないものの、現時点で実際の利用価値があるかというと微妙なところだと感じた。確かに、これまで利用が面倒だったフレッツ・スクウェアなどは手軽に利用可能になる。しかし、冒頭でも触れたとおり、フレッツ・スクウェアのコンテンツにはあまり魅力を感じない。かといって、フレッツ・コネクトやフレッツ・オンデマンド、フレッツ・グループアクセスなどの有料サービスをどれほどのユーザーが利用するかも難しいところだ。

 ただし、これは技術が先か、コンテンツが先かという違いに過ぎないので、同時接続セッション数が可能になった今後は、このような問題も次第にクリアされていくはずだ。もともと、フレッツ・シリーズで利用されている地域IP網は、インターネットなどと異なりトラフィックの混雑が問題になりにくいという特徴を持っている。このため、ストリーミングサーバーやネットワークゲーム用のサーバーが積極的に地域IP網に提供されるようになれば、トラフィックが読めないインターネットなどと異なり、快適なサービスの提供が可能になる。このような土壌が、今回の複数セッション同時接続のサポートにより整ったわけだ。NTT東日本、西日本の狙いもここにあるのだろう。

 この目論見が成功すれば、フレッツ・シリーズは強力なコンテンツとサービスという大きな武器を得ることになる。現状、ADSLをはじめとする回線事業は、その訴求点が主に速度にフォーカスされている。しかし、将来的にこの限界が来ることは明白で、早々に方向性を転換しなければならない。今回の複数セッション同時接続で、この分野で一歩先を歩むこととなったNTT東日本、西日本だが、はたして実際にコンテンツやサービスを充実させ、勝ち組になれるのかは今後の展開次第と言えそうだ。


関連情報

2002/10/8 11:15


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。