第31回:インターネット経由でテレビが見たい!
「INFOCITY ドコデモTV」を試す



 ホームサーバー機能搭載PCやネットワーク対応HDDレコーダーの登場など、今やネットワーク経由でテレビを見ることも珍しくなくなった。これをもう一歩進め、インターネット経由でテレビを見ることはできないのだろうか? INFOCITYから販売されている「ドコデモTV」を使って実際に挑戦してみた。





問題は上りの帯域不足

 「今、欲しいものをひとつ挙げてください」と言われて、ホームサーバー機能搭載PCやネットワーク対応HDDレコーダーを挙げる人は、かなり多いのではないだろうか。確かに、TVチューナー搭載パソコンや家電としてのHDDレコーダーは、すでに数年前から販売されていた。しかし、この秋から、これらの製品のネットワーク化が一気に進み、より魅力的な商品へと進化しつつある。家電のネットワーク化が騒がれるようになって久しいが、それがようやく現実的かつ、実用的な姿で登場したわけだ。

 しかし、このようなホームサーバー機能搭載PCやネットワーク対応HDDレコーダーは、あくまでもLAN経由で利用するためのものだ。もちろん、それはそれで大変便利なのだが、欲を言えば、インターネット経由でもホームサーバーの映像を見られるようになるともっと便利だ。これが実現すれば、会社やホットスポットなど、いつでもどこでもテレビが見られるようになる。

 実は、このように考えて過去に何度か挑戦したことがあった。筆者宅ではGigaPocketを搭載したソニーのVAIO Rを利用しているのだが、外出先からVPN(PPTP)で自宅のVAIO Rにアクセスし、何度かテレビを再生したことがあった。しかし、GigaPocketは、もともとLANでの利用を前提にしているため、映像のビットレートが最低でも1.41Mbps(MPEG1)もあり、結局コマ送りのようにしか再生することはできなかった。

 これは、回線速度がボトルネックになっているためだ。もちろん下りの回線速度ではない。自宅側から外出先にデータを送るのだから上りの回線速度だ。ADSLの場合、上りの速度は最大1Mbpsだが、実効速度は600~800kbps程度となる。これでは1Mbpsクラスの映像をまとも再生できないのも当然だろう。





ドコデモTVで帯域の問題をクリア

ドコデモTVも同梱されるエルザジャパン「ELSA EX-VISION 500TV」
この問題を解決するには、上りの速度を速くするか、映像のビットレートを落とすかのどちらかしかない。もちろん、FTTHなどを導入して上りの速度を向上させるのがベストだが、住宅事情によりFTTHを導入できないケースも多い。そう考えると、現実的にはビットレートを落とすしかないだろう。

 そこで、今回は、INFOCITYから販売されている「ドコデモTV」というソフトウェアを利用してみた。この製品は、市販のTVチューナー付きキャプチャカード、もしくはTVチューナー搭載PCで、ネットワーク経由でのテレビ再生を可能にするアプリケーションだ。製品は、サーバーソフトとクライアントソフトで構成されており、サーバーソフトでエンコードしたテレビ映像をクライアント側でデコードして再生するという構成になっている。

 ただし、残念ながら、筆者の所有するVAIO Rは対応機種に含まれていなかったため、今回は「ドコデモTV」が標準添付されているエルザジャパンの「ELSA EX-VISION 500TV」というTVチューナー付きキャプチャカードを利用してテストしてみた。

 実際に利用してみたところ、LAN環境では問題なく利用できた。ただし、インターネット上のストリーミングのようにバッファへの読込が必要となるため、チャンネルを変えるたびにしばらく待たされるなど、軽快に使えるとは言い難い印象だ。また、ビットレートは標準では、映像500Kbps、音声96Kbps(フレームレート30、320×160)に設定されており、こちらもあまり高画質とは言えない。今回はインターネット経由での利用を考えているため、ビットレートが低いことはむしろ好都合だが、LAN環境で本格的に使いたいユーザーにはあまり向いていないかもしれない。


ドコデモTVのサーバーソフト。ビットレートや利用するポートなども自由に変更できる。Windowsからログオフした状態でも動作可能

ドコデモTVのクライアントソフト。チャンネルなどを変更するとバッファに多少時間がかかるため、LANでの利用でもあまり快適とは言えない

 なお、映像や音声のビットレート、フレームレート、コーデックなどは自由に変更できるが、利用するTVチューナー付きキャプチャカードによっては、変更した設定で正常に再生できないこともあるようだ。





まずはVPNでテスト

 LAN環境で問題なく利用できることがわかったので、さっそくインターネット経由でもテレビが見られるかを試してみた。まずは、ルータにVPNサーバー機能をサポートするオムロンのMR104FHを利用し、VPNで自宅にアクセスしてテストしてみた。


MR104FHのVPN設定画面。ユーザー名とパスワードを設定するだけでPPTPサーバーとして動作する。地味だが結構便利なルータ

 これは、当たり前だが、何の問題もなくテレビを再生することができた。ビットレートも596kbpsなので、上りの帯域が1Mbps以下でも映像が途切れることなく、実にスムーズに再生できた。LAN環境のときと同様に、チャンネルを変更するたびにバッファに時間がかかるのは同じだが、インターネット経由で使えることを考えれば、あまり苦にならない。これは、実に快適だ。

 しかしながら、問題はVPNを使わなければならない点だ。PPTPはWindowsに標準装備されるので、クライアントソフトは問題ない。しかし、公衆無線LANアクセスサービスなどではPPTPパススルーに対応していないケースが多いため、外出先で使える環境は限られてしまう。現状、対応できるのは端末にグローバルIPアドレスが割り振られる一部の無線LANサービスや、プライベートIPアドレスが割り振られてもアドレス変換部分がVPNパススルーに対応するサービスや場所だけだ。会社などでもPPTPパススルーに対応していないことも考えられるので、実際にどこでもテレビを見られるとは言い難いだろう。





ポートフォワードなどでの接続は不可能

 VPNが使えないときのため、今回はルータのポートフォワードなどの機能を利用してテレビが再生できるかもテストしてみた。

 まず、ドコデモTVが利用するポートだが、テレビのコントロールにポート「80」を、映像の配信にポート「8080」を利用する。よって単純に考えれば、これらをLAN側のPCにフォワードすれば済むわけだ。早速、ルータ側でポートフォワードの設定をしてみたが、これだけでは利用できなかった。ドコデモTVは、起動時にユーザー名とパスワードを入力して認証しないとテレビが再生されないのだが、この認証画面が表示されないのだ。


ポートフォワードで80と8080をLAN側のPCにフォワード。しかし、これだけでは動作しない

 いろいろ調べた結果、どうやらドコデモTVは、起動時にICMPを利用して、サーバー側のPCが起動しているかを確認しているようだ。このため、ルータ側でPINGを拒否するなどの設定がなされていると、サーバーが起動していないと判断してしまい、接続に失敗していまう。よって、ルータ側でPINGを受け付けるように設定を変更してみたところ、認証画面までは表示されるようになった。


ドコデモTVはICMPでサーバーの状態を確認する。このため、PINGを受け付ける設定にしないと認証画面などが表示されない

 なお余談になるが、今回、このようなプロセスを調べるために、Windows XPのパーソナルファイアウォールを利用した。LAN環境でサーバーとなるPCにパーソナルファイアウォールを設定し、その上でドコデモTVを起動し、ログを調べたわけだ。このログには、ICMPをドロップしたなどの情報が詳細に表示されるので、これが大きな手がかりになるわけだ。ルータのログ機能は貧弱なこともあるので、ルータ経由などで動作しないアプリケーションの情報を調べる方法としては、結構使える手かもしれない。

 さて、このように認証プロセスまではポートフォワードでも利用可能になったものの、結局のところ映像を再生することはできなかった。サーバ側のPCをDMZに設定したり、フィルタリングを無効にしたり、クライアント側にグローバルIPアドレスが割り当てられるようにするなど、いろいろな方法を試したが、どうしてもストリームデータを取得できないのだ。このため、結局、ポートフォワードなどの方法でテレビを再生することはあきらめざるを得なかった。





利用環境限定なら結構使える

 このように、VPNを利用しない限り、インターネット経由でテレビが見られないことがわかった。それでも低い上りの帯域でもテレビが見られるようになるのは、大きなメリットと言える。VPNを利用するため、利用環境は限られるが、このような環境でクライアントを利用する機会が多い場合は重宝するだろう。

 それにしても、ホットスポットでVPNが使えないのは、何とかならないものだろうか。冒頭でも触れた通り、家電などのネットワーク化が進んでくれば、それを外出先からも使いたいというニーズは確実に出てくる。もちろん、外出先から会社にVPNでアクセスしたいというニーズは多いはずだ。このあたりは、各ホットスポット事業者の早期の対応が望まれるところだ。


関連情報

2002/10/29 11:10


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。