第40回:どうする? どうなる? 引越に伴うADSLの移設



 諸般の事情により、引っ越しをすることになった筆者宅。荷物は引っ越し屋にまかせておけばいいが、ADSL回線はそうはいかない。どのような手続きをして、どう回線を移設すればいいのか、筆者の体験を元にレポートをお届けしていこう。





SOHO環境で悩ましい回線のやりくり

 今回、引っ越しに伴う回線移設で、一番頭を悩ませたのは回線のやりくりだ。通常の家庭であれば、今使っている回線をそのまま移設すればいいのだが、筆者宅では仕事上の関係で複数の回線が引き込まれているため、どの回線を解約し、どの回線を移設するのかをよく考えなければならない。

 移転前の筆者宅に引き込まれているのは、ISDN1回線と3回線のADSLだ。ISDNは主に音声用として利用しており、i・ナンバーサービスを利用して、家庭用、仕事用、FAXと3つの電話番号を使い分けている。一方、ADSLは、NTT東日本のフレッツ・ADSL モア(タイプ2)、アッカ・ネットワークスの12Mbps ADSL(タイプ2)、Yahoo! BB 12M(タイプ1)の3本が存在する。

 今回、引っ越しするにあたり、まず考えたのは、音声通話の回線をどのように確保するかだ。最近では固定電話を利用せず、もっぱら携帯電話で音声通話をする人が多いようだが、家で仕事をする関係上、固定電話は必須となる。しかも、家庭用、仕事用、FAXと3つの電話番号を使い分けることも必須条件だ。

 ISDNをそのまま移設すれば話は早いのだが、ADSLを複数回線引き込むことを考えると、ADSLと共用するアナログ回線で音声通話も利用した方がコスト的には有利だ。音声通話のサービスとしては多機能なISDNの方が圧倒的に便利なのは確かだが、今回は悩みに悩んだ末、ISDNをやめてアナログ化し、タイプ2で利用している回線もタイプ1に変更して、すべてアナログ回線で統一することにした。

旧回線新回線電話加入権
フレッツ・ADSL モア
(タイプ2)
→解約  
アッカ 12M
(タイプ2)
→解約・新規→アッカ 12M
(タイプ1)
新たに購入
Yahoo! BB 12M
(タイプ1)
→移設→Yahoo! BB 12M
(タイプ1)
加入電話ライト
ISDN(音声用)→アナログ化→イー・アクセス 12M
(タイプ1)
既存の加入権
を流用
 新設→Bフレッツ・
ニューファミリー
 
現状、音声用のISDNに加え、3回線のADSLが存在する。音声通話用に3つの電話番号が必要なため、これをどのようにやりくりするかに最も頭を悩ませた

 余談だが、筆者のようなSOHO、中小企業などのケースでは、引っ越しに限らず、このような回線のやりくりに頭を悩ませているケースは少なくない。ADSLを利用したいが、現状、ISDNで複数の電話番号を利用しているため、アナログ回線への変更が必要なADSLの導入に踏み切れないという話もよく聞く。もちろん、以前の筆者宅のように音声通話用としてISDNを利用し、タイプ2でADSLを敷設するのがもっとも効率的だが、ISDNのADSLへの干渉も懸念される。実際には、同一住宅にISDNとADSLを敷設した場合でも、同一カッドもしくは隣接カッドに収容されない限り、ISDNがADSLに干渉を起こす可能性は低いのだが(もちろんないとは言えない)、思い切ってすべてアナログ化してしまうのもひとつの手だろう。





「光収容」かどうかを事前に確認

 さて、音声通話の回線が確保できたので、後は単純に移設の手続きを進めるだけだ。しかしながら、この窓口や方法が複数あり、実際には非常に面倒だった。これは、回線種別によってアプローチの方法が変わってくるからだ。ISDNやタイプ1・ADSLの場合、回線自体がNTTの管理となるため、116番に電話をかけるなどNTT側での手続きが必要になる。一方、タイプ2の場合は通信事業者、もしくはプロバイダー(ホールセールの場合)側での手続きとなる。

 筆者の場合、新居では、すべてタイプ1の利用に変更することもあり、まずはNTTに相談することにした。ISDNをアナログ化したい旨、現状のアナログ回線を移転したい旨、そして新たに1回線アナログ回線を敷設したい旨を伝え、必要な手続きを取った。このとき、最も重要なのは、回線の収容先を確認しておくことだ。移転先の回線が光収容などになっていると、ADSLの導入が難しくなり、もう一度、回線のやりくりを考え直さなければならない。

 そこで、NTTへの手続きの際に、この点をあらかじめ確認しておいた。NTTに手続きを行なうと、移転先での新しい電話番号が伝えられるが、その際に「ADSLを利用したいため光収容かどうかを調べて欲しい」という旨を伝え、あらかじめ回線の収容先を確認してもらった。幸いなことに、筆者のケースではすべての回線が光収容ではなかったため、その後、問題なくADSLを導入できたが、場合によっては光収容となってしまうケースも考えられる。最悪の場合、アナログ回線の敷設後、光収容であることが判明し、ADSLの導入をあきらめざるを得なくなったり、収容替えの手続きをとらなければならなくなってしまう。このような面倒を避けるためにも回線の敷設時に必ず光収容かどうかを確認しておくといいだろう。

 なお、今回、アナログ回線を1回線新設したが、通常、回線の新設には72,000円の施設設置負担金(加入権)が必要になる。しかし、今回は親しい友人から加入権を譲渡してもらい、このコストを最小限に抑えることができた。加入権を休止させて眠らせている人は意外に多いので、回線を新設する場合は、まずは親類や友人に加入権を余らせていないかを尋ねてみるといいだろう。





事業者によって異なる移転手続き

 電話回線の準備が整ったら、いよいよADSLの移転手続きとなる。しかし、この方法は事業者(プロバイダー)によって異なる。現在、利用している回線を移転の手続きだけで、そのまま移転できるケースもあれば、一旦、解約して、新たに契約し直さなければならないケースもある。筆者の場合、Yahoo! BB 12Mが前者のそのまま移転できるケースとなり、アッカ・ネットワークスの回線が後者の解約するケースとなった。

 まずは、Yahoo! BBの回線だが、こちらは手続き的には非常に簡単だった。同社では、引っ越しなどの際による回線の移転サービスを実施しており、Webサイト上から移転の申し込みをするだけで簡単に手続きを済ませることができるようになっている。この手続きを行なうには、新居のNTT回線が移転後3カ月以内であることや、名義人の変更がない場合などのいくつかの条件があるが、それさえ満たしていれば、モデムの返却などする必要がなく、回線の移設日とほぼ同時にADSLを利用することが可能となる。

 手続きは、移転先の住所や新しい電話番号、回線の移設日、NTT(116番)の担当者名などをWebサイトで入力するだけで手続きを完了させることができた。実際、この手続きを引っ越しの2週間前に行なったところ、申し込みから3日後に同社から移転手続き受付の連絡がメールで届き、電話回線の移設日とまったく同じ日にADSLを開通させることができた。このあたりの対応は非常にスピーディで好印象だ。


Yahoo! BBの移転サービス。回線の移設日や新電話番号などを入力すれば、オンラインで手続きが完了する。移転手続きの進捗などはメールやホームページ上で確認できる

 一方、アッカ・ネットワークスの回線の場合、一旦、ADSLを解約する必要があるため、手続き的にはかなり面倒だった。まずは、プロバイダー(筆者の場合はSo-net)側でコース変更を申し込み、ADSLの解約手続きをする(FAXでの手続き)。すると、ADSLの解約日近くになると、アッカ・ネットワークス側からADSLモデムの返却キットが届くので、それにADSLモデムを梱包して返却すると解約手続きが完了する。その後、引っ越し先での新電話番号が決まってから、新たにADSLを申し込むと、結果的にADSLが移転できるわけだ。

 ただし、引っ越しが伴う場合は、日程に十分注意する必要がある。あまりにも早くADSLを新規申し込みすると、NTT側での回線の準備が間に合わない可能性があるうえ、新住所にモデムが送られた際に受け取れない可能性がある。現状、タイプ1でADSLを申し込んだ場合、NTTの適合調査などを含め、ほぼ1週間ほどでADSLが開通する傾向にある。このため、解約はいつでもかまわないが、新規申し込みは引っ越しの1週間前か、もしくはもう少し後に行なうようにした方がいいだろう。

 筆者の場合は、回線の移設日のちょうど1週間前に新規申し込みを行ない、回線の移設日の翌日にADSLが開通した。このようにうまく日程を調整すれば、ほぼタイムラグなく引っ越し先でもADSLを使えるはずだ。





Yahoo! BBでは別途、個人情報の変更も必要

 なお、これは後から気づいたのだが、Yahoo! BBの場合はひとつ注意点がある。確かに上記の移転手続きによってADSLは開通するのだが、この手続きでは同社のYahoo JAPAN IDの情報が変更されない点だ。これには、料金の決済などに利用されるYahoo!ウォレットの登録情報なども含まれる。ここに登録されている住所や連絡先などは、移転手続きでは変更されないため、後から自分で変更しなければならないのだ。決済で利用する重要な情報なのだから、このあたりの手続きの流れをわかりやすくユーザーにアナウンスする必要はあるだろう。


Yahoo! BBでは、Yahoo! JAPAN IDの登録情報変更が必要になる。移転の際には忘れずに変更しておきたい

 このように、移転手続き自体は、移転サービスを実施しているYahoo! BBがはるかに手間なく簡単であった。もちろん、今回は事前に光収容でないことなどを確認しておいたので、スムーズに移転できたのだが、場合によっては光収容など、NTTの適合調査でNGとなり、うまく移転できない可能性もある。このようなトラブルがある可能性を考えると、アッカ・ネットワークスのように一旦、解約して、新たに申し込むという方法の方がトラブル時でも柔軟な対応ができる。まあ、どちらの方法も一長一短といったところだが、両社とも引っ越しとほぼ同時にADSLが開通できた点は高く評価したいところだ。


関連情報

2003/1/7 11:20


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。