第55回:PHSと無線LANの一発切替ツールが登場
b-mobileはモバイル通信の救世主となるか?



 日本通信から、同社のデータ通信サービス「b-mobile」に対応したユーティリティ「bアクセス 3.0」が発表された。PHSによるデータ通信と無線LANのローミングに対応し、ボタン1つで簡単に接続を切替えられるユーティリティだ。モニターサービス向けのベータ版製品をお借りすることができたので、早速、利用してみた。





決定打に欠けるモバイル通信インフラ

 現状、モバイル通信のインフラとして最も一般的なのはPHSだろう。対応エリアが広く、利用方法も簡単、各社から定額制のサービスなども登場しており、外出先での通信手段として幅広く利用されている。

 しかしながら、PHSによるモバイル通信の最大の欠点は、その速度だ。ADSLやFTTHの普及によって、家庭内や企業内のネットワークが一気にMbpsクラスにまで引き上げられたのに対して、PHSでは最大でも128kbpsの通信速度しか実現できない。テキストメールの送受信程度であれば、この通信速度でも必要十分だが、さすがにWebページの閲覧には多少のストレスを感じるうえ、ストリーミングなどのブロードバンド向けコンテンツの利用にも不向きとなる。

 そこで注目されはじめたのが公衆無線LANサービス(いわゆるホットスポット)だが、こちらも期待通りの成長を遂げているとは言えない。IEEE 802.11bの11Mbpsという速度は大きな魅力だが、何と言っても利用できる場所が少ない。最近では、主要都市を中心にエリアが拡大しつつあり、事業者間のローミング実験なども行なわれるようになってはいるが、さすがにPHSのようにどこでも接続できるものにまではなっていない。

 ユーザーにとってみれば、公衆無線LANのような高速な通信サービスをPHSのようにあらゆる場所で利用できるのが理想だが、現状、それぞれのサービスを個別に利用する限り、速度か利用場所のどちらかに制限を受けてしまうというわけだ。





PHSと無線LANのローミングをより手軽に

今回試用したCFタイプの通信カード「BM-U100C-6M」。PHSによる通信が6カ月間利用可能となっているうえ、公衆無線LANのローミングも利用可能

 このような現状に着目し、いち早くPHSと無線LANの融合を実現したのが、日本通信の「b-mobile」だ。同社はDDIポケットの卸売り回線を利用したプリペイド方式の通信サービスを展開する事業者として知られているが、PHSによる通信サービスだけでにとどまらず、他事業者が展開する公衆無線LANサービスとのローミングサービスも展開。すでに2003年3月下旬から、NTTコミュニケーションズの「HOTSPOT」、理経の「BizPortal」、JR東日本の「無線による、駅でのインターネット接続実験」などとのローミングサービスを実現している。これにより、対応エリアが広いPHSによるデータ通信と高速な公衆無線LAN、それぞれのメリットを活かした通信環境が提供されるようになったわけだ。

 今回、日本通信から発表された「bアクセス 3.0」は、このようなPHSと公衆無線LANのローミングサービスを手軽に利用できるようにと工夫されたユーティリティだ。b-mobileでは同社のIDとパスワードを利用することで、事前登録なしに提携している公衆無線LANが利用可能になっているが、このユーティリティを利用することで、より手軽に双方の接続を切り替えることが可能になっている。

 具体的には、PHSの接続と無線LANの接続を1つのインターフェイスに統合したユーティリティと考えればいいだろう。起動すると、画面上に「PHS」、「無線LAN」という2つのボタンが表示され、それぞれをクリックすることで接続を手軽に切り替えられる。


bアクセス3.0。起動すると「PHS」と「無線LAN」という2つのボタンが表示され、手軽に接続を切替えられる

 実際に利用してみたが、確かに手軽な印象を受けた。PHSで接続した状態のまま、公衆無線LAN(今回はNTTコミュニケーションズのHOTSPOTを利用)のサービスエリアに移動すると、ユーティリティが公衆無線LANのアクセスポイントを自動的に発見するので、「PHS」ボタンをクリックしてPHSでの接続を切断してから、「無線LAN」ボタンをクリックすることで、何の問題もなく接続を無線LANへ切り替えることができた。

 公衆無線LANの場合、各事業者ごとにWEPキーの設定などが必要だが、bアクセス3.0には対応する公衆無線LANサービスのWEPキーがあらかじめ登録済みとなっている。このため、面倒な無線LANの設定は一切必要ない。また、前述したようにb-mobileのIDとパスワードが公衆無線LANでもそのまま利用可能となるため、接続時に必要なWebページでの認証もb-mobileのIDとパスワードをそのまま入力するだけでかまわない。このあたりは、かなり手軽だ。


対応する公衆無線LANサービスの設定があらかじめ登録済み。WEPキーの設定をしなくても手軽に公衆無線LANを利用できる

 ただし、公衆無線LANのローミングを利用するには、あらかじめいくつかの手続きが必要となる。ひとつは独自のユーザーIDとパスワードを登録しておくこと、そしてローミングサービスを利用可能に設定しておくことだ。とは言え、どちらもb-mobileのサイトから設定可能となっており、数十分もあれば設定可能だ(登録したユーザーIDが利用可能になるまで15分程度かかる)。公衆無線LANのエリア内でPHSでインターネットに接続し、その場で設定を済ませることもできるだろう。


公衆無線LANでもb-mobileのユーザーIDとパスワードをそのまま利用可能。ただし、オリジナルのユーザーIDをあらかじめ取得しておく必要がある

 もちろん、Windows XPのWireless Zero Configでも、初期設定さえ済ませておけば、公衆無線LAN自体への接続はそれほど面倒ではない。しかし、このユーティリティを利用すれば、無線LANの知識がない場合でも手軽に公衆無線LANを利用できるうえ、接続の切り替えも手軽だ。自社のサービスをより手軽に使える環境をユーザーに提供している点は高く評価したい。





独特な料金体系

 気になる料金体系だが、b-mobileではハードウェアの料金に加え、6ヶ月、もしくは1年間のインターネット接続料、データ通信料などがすべて含まれた形態となっているため、有料の公衆無線LANのローミングサービスを利用した場合でも、別途、料金を請求されることはない。

 では、どのように料金が清算されるのかというと、ネットワーク等価交換方式が採用されている。具体的には、NTTコミュニケーションズのHOTSPOTや理経のBizPortalなど、有料の公衆無線LANサービスを1日利用した場合(午前5時から翌日5時までを1日とする)、PHSの利用可能日数から2日間が減算されるようになっている(利用可能な日数はbアクセス3.0から確認可能)。


利用可能な日数はbアクセス3.0で確認可能。公衆無線LANの利用によって日数が減算された場合でも残り日数を把握できる

 公衆無線LANの利用頻度にあわせてPHSの利用期間が短縮されるので、割高に感じるかもしれないが、料金的には妥当なところだ。現在、b-mobileの料金は、CFタイプで1年間利用可能な「BM-U100C」で実売89,800円前後。365日で割った1日あたりの料金は246円なので、公衆無線LANの1日分の利用料金はPHS料金の2日分なので492円となる。これに対して、NTTコミュニケーションズのHOTSPOTでは、1日だけの利用が可能なプリぺイドカード「1DAY PASSPORT」の価格が500円だ。つまり、ほぼ同等の料金となる。

 もちろん、NTTコミュニケーションズのHOTSPOTの場合、月額1,600円支払えば使い放題になるので、やはり割高な印象はある。このため、実質的にb-mobileのローミングサービスを利用するかどうかは、公衆無線LANをどれくらい利用するかを考慮すべきだ。公衆無線LANを月に1~2回程度しか利用しないのであればお得だが、それ以上利用するのであればローミングサービスではなく、公衆無線LAN自体を契約した方が単純な料金計算のうえでは得だろう。

 ただし、これはあくまでもNTTコミュニケーションズのHOTSPOTのみを利用した場合の例だ。現状、公衆無線LANは事業者間でのローミングサービスがあまり進んでいない。このため、さまざまな場所で公衆無線LANを利用したい場合は、複数の事業者と契約しなければならないことも考えられる。複数の事業者と契約し、毎月多額の基本料を支払うくらいなら、使いたいときだけ自由に使えるb-mobileのローミングサービスの方が割安と言える。





家庭内での利用は多少面倒

 このように、b-mobile自体、そして新たに提供されたbアクセス3.0は、公衆無線LANをより身近にする画期的な製品だと言えるが、家庭内での利用となるとあまり使いやすいとは言えない面もある。特に家庭内に設置したアクセスポイントにbアクセス3.0で接続する場合、いくつかの制限がある。

 最も注意しなければならないのは、アクセスポイント側のセキュリティ設定だ。たとえば、アクセスポイント側でESS-IDを隠す設定にしていたり、ANYを拒否する設定にしていると、bアクセス3.0でアクセスポイントに接続することはできない(WEPによる暗号化を設定していなければ接続できるが、WEPなしでESS-IDだけを隠す設定というのは考えにくい)。

 これは、bアクセス3.0の仕様上の制約だ。bアクセス3.0では、「ユーザー定義」として未対応の公衆無線LANサービスや家庭内のアクセスポイントの情報(ESS-IDやWEPキー)を登録できるようになっている。しかし、一般的な無線LANユーティリティと異なり、bアクセス3.0では、実際にユーティリティ上でアクセスポイントを検索できない限り、いくらユーザー定義でアクセスポイントの情報を登録していても接続できないようになっている。このため、家庭内でもbアクセス3.0を利用する場合は、ESS-IDを保護する設定を解除し、セキュリティレベルをワンランク落とさなければならない。これは欠点と言えるだろう。

 また、WEPキーの設定に関しても同様に制限がある。bアクセス3.0で設定可能なのは、16進数のWEPキーのみに限られており、文字(ASCII)でWEPキーを設定することはできない。現状、公衆無線LANでは16進数でWEPキーを設定するため問題はないが、家庭内では文字で設定してあるケースもある。このような場合は、家庭内のアクセスポイントの設定を変更しなければならない。この点も多少面倒だ。


ユーザー定義により、他事業者の公衆無線LANサービスや自宅の無線LANにも接続可能。ただし、セキュリティ設定によっては接続できない。また設定可能なWEPキーも16進数に限られる

 確かにbアクセス3.0を利用すると、外出先での切替え操作は格段に楽になる。しかし、その反面で家庭内や社内のネットワークに接続するのはかなり面倒だ。特に企業などでは、運用の問題で、アクセスポイント側のセキュリティの設定をおいそれと変更できない状況も考えられる。現状はベータ版なので、製品版で、もう少し柔軟な設定に変更されることを期待したいところだ。





公衆無線LANをより活用するための工夫を

 このように、実際にb-mobileとbアクセス3.0を利用してみたが、家庭内や社内で利用する制限はあるものの、外出先での利用にはかなり使いやすい製品だという印象を受けた。すでにb-mobileを利用している場合はもちろんのこと、これからモバイルでの接続環境を整備したいと考えているユーザーも導入を検討する価値はあるだろう。特に、主な通信手段はPHSで、まれに公衆無線LANを利用することがあるというユーザーに向いている。

 ただし、個人的には、もうひと工夫してほしいと思える点があった。それは、公衆無線LANが使える場所を手軽に検索できるようにしてほしいという点だ。もちろん、PHSが利用できるので、事業者のホームページから利用可能なエリアを検索すれば済むのだが、通信速度が遅いPHSでリンクをたどりながらエリアを検索するのは苦痛だ。

 理想としては、PHSの位置情報サービスを利用して、近くの公衆無線LAN利用可能エリアを表示してくれるようなユーティリティがあると良いのだが、そこまでできなくてもbアクセス3.0に各事業者のエリア情報ページへのリンクを用意してくれるだけでも良い。せっかくbアクセス3.0で切替えの手間が減るのだから、なるべく少ない手間でユーザーが公衆無線LANエリアを探せるようにしてほしいところだ。そうなれば、もっと面白いサービスになるはずだ。


関連情報

2003/5/20 11:08


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。