第69回:アッカ・ネットワークスの26Mbps ADSL開通!
~他のADSL事業者との違いが明確に~



 Yahoo! BB、イー・アクセスに続き、筆者宅にアッカ・ネットワークスの26Mbps ADSLが開通した。あらためて3事業者の回線を同一環境で比較してみると、同じ20Mbps超ADSLでも、事業者によって違いがあることがよくわかった。回線の実力や他事業者との違いについて検証してみる。





意外に時間がかかった12Mタイプからの移行

 7月23日にプロバイダー経由で12Mタイプからの移行を申し込んでから約1カ月、8月下旬になって、ようやくアッカの26Mbps ADSLが開通した。新規申し込みや付加サービスを利用しない場合は、もう少し早く開通したケースもあったようだが、筆者の場合は12MタイプでIP電話を利用していたため、開通までに意外に時間がかかった。どうやら、IP電話対応のADSLモデムの供給に多少時間がかかってしまったのが原因のようだ。

 とは言え、依然として既存の12Mbps ADSLからの移行を開始していない事業者も存在することを考えると、移行サービスとしては比較的早い段階での開始となる。実際に12Mbpsから24/26Mbpsへ乗り換えるかどうかは別にして、早期に移行という選択肢が用意されたこと自体は評価すべき点だろう。





デフォルト設定のままAnnexIで接続

 このように、筆者宅の回線の中では最後に開通したアッカの回線だが、実際に利用してみると他事業者とは異なる特性があることがわかった。筆者宅に届けられたADSLモデム「WD632GV」では、デフォルトの設定のまま、AnnexIで接続された点だ。

 これは意外だった。以前にも何度か紹介したが、筆者宅の回線状況は、線路長が1.57km、伝送損失が28dBと、線路長のわりに伝送損失が大きい回線となっている。このため、AnnexIの効果がでるかどうかは微妙なところで、実際、前回レポートしたイー・アクセスの回線では標準でAnnexCで接続されていた。ちなみに、Yahoo! BBはG.992.5 AnnexAで接続されていると思われるが、ユーザー側では確認できない。


アッカの26M ADSLの回線状況。標準でAnnexIで接続され、9632Kbpsのリンクアップ速度が実現できた

モデムの設定画面ではキャリアチャート(ビットマップ)も確認可能。AnnexIで帯域は広がったが、やはり各ビンの搭載ビット数はAnnexCに比べると少ない

 どうやら、このあたりの判断基準が事業者によって異なるようだ。もちろん、同じ宅内に引き込んでいると言っても、厳密には異なるメタル回線であるため、多少の特性の違いがあることが考えられる。しかし、イー・アクセスの回線で強制的にAnnexIで接続した場合に、多少の速度の向上が見られたことを考えると、筆者宅の環境は決してAnnexIが無理な環境ではないと考えられる。このため、標準でAnnexIで接続されたのだろう。

 ただし、これは良い方に考えて良いのか、悪い方に考えて良いのかの判断が微妙なところだ。良い方に考えれば、AnnexIとAnnexCを比較してより高速なモードを選んでいると考えられるが、悪い方に考えると、単に線路長や伝送損失など、接続モードを選ぶ際の基準が甘いだけとも考えられる。前者ならどのような環境でも常に高速な方のモードが選ばれるだろうが、後者の場合はAnnexIで接続されてしまったがために本来よりも速度が低下してしまう可能性も考えられる。このあたりは、内部的にどのような判断基準が設けられているのかがわからないだけに、判断が難しい。





AnnexIは横並びの実力だがAnnexCは…

 気になる回線の速度だが、以下の表の通りだ。リンクアップ速度は下りが9,632Kbps、上りが928Kbps。実効速度は7~8Mbpsほどとなり、以前の12Mbps ADSLから約1Mbpsの速度向上が見られた。

24/26M ADSL比較
事業者契約タイププロバイダーモデム接続モードリンク速度RBB TODAYBB Speed Checker
下り上り下り上り下り
Yahoo! BB12MYahoo! BB12M用トリオモデムG.992.1 AnnexA--6.83Mbps802.19kbps6,700Kbps
26M26M用新型モデムG.992.5 AnnexA(?)--8.01Mbps860kbps8,660Kbps
イー・アクセスADSLプラスBIGLOBEDR202CG.992.1 AnnexC8,416Kbps1,024Kbps--7,252Kbps
ADSLプラス?DIONDR304CVG.992.1 AnnexC8,960Kbps1,120Kbps7.57Mbps939Kbps7,723Kbps
G.992.1 AnnexI9,600Kbps1,120Kbps7.98Mbps934Kbps8,374Kbps
アッカ12MbpsSo-netFLASHWAVE 2040V1G.992.1 AnnexC8,416Kbps1,024Kbps7.06Mbps837Kbps7,530Kbps
26MbpsWD632GVG.992.1 AnnexC8,288Kbps1,024Kbps6.73Mbps854Kbps7,075Kbps
G.992.1 AnnexI9,632Kbps928Kbps7.80Mbps764Kbps8,211Kbps
筆者宅に敷設した3回線の速度比較。アッカの回線は9632Kbpsでリンクアップしている

 3回線を比較してみると、実効速度ベースではYahoo! BB 26Mが若干速いが、PPPoAやPPPoEによるボトルネックを考えれば、ほぼ横並びと考えて良いだろう。ダブルスペクトラムを利用した方式は、いまのところ事業者による違いはほとんど無いと言ってよさそうだ。

 なお、アッカの26Mbps ADSLで利用されているモデムもNECアクセステクニカ製であるため、前回紹介した方法を使って強制的に接続モードを変更してみたところ、ここでも面白い特性が表れた。強制的にAnnexCで接続した場合に、以前の12Mbpsの環境と比べて、新しいモデムを利用した方が数百Kbpsほど速度が低いのだ。

 このことから考えると、環境によっては、12Mbpsから26Mbpsサービスに移行することで速度低下が見られるかもしれないことが想像できる。筆者宅の場合は、幸運にもAnnexIの効果が期待できる環境であるからよいものの、そうでない環境、つまり長い線路長や大きな伝送損失でAnnexCでしか接続できないようなケースでは、速度向上は期待できないかもしれない。

 先日、アッカから「9月に26Mbpsサービス対応モデムの特性改善を予定」という発表があったが、このあたりが関係しているのかもしれない。新しいファームウェアの登場によって、どこまで改善されるのかが期待されるところだ。





無線LAN対応の新型モデム

 回線速度の面でのチューニングが今一歩足りない印象の26Mbps対応モデム「WD632GV」だが、機能面に関しては文句のない出来と言える。特に無線LANに対応している点は高く評価したい。WD632GVの本体上部には、PCカードスロットが用意されており、ここに無線LANカードを装着することで無線LANに対応できるようになっている。

 本体がNECアクセステクニカ製であることから、装着できる無線LANカードも同社製のものに限られるが、利用する無線LANカードによってはIEEE 802.11a/b/gのすべてに対応させることも可能だ。試しに、IEEE 802.11a/b/gに対応したAterm WL54AGを装着してみたところ、何の問題もなく認識され、無線LANを利用することができた(IEEE 802.11aかIEEE 802.11b/gの同時通信は不可で切替え式)。内部構造まで詳しく確認していないので詳細はわからないが、機能的にはNECアクセステクニカが発売している「Aterm WR7600H」と同等だと考えられる。設定画面の構成もIP電話やADSLモデムの設定画面が追加されているだけでWR7600Hとほぼ同じだ。


アッカの26M ADSLでレンタルされるIP電話機能付きADSLモデム。無線LANカードを装着することで、IEEE 802.11a/b/gの無線LAN環境も構築できる

 もともとAtermシリーズは完成度が高く、使いやすいという定評があるが、これと同等の機能が事業者からレンタルされるADSLモデムで使えるというのは大きなメリットだろう。このモデムを利用している限り、別途、ブロードバンドルータや無線LAN製品を購入する必要はないとさえ言える。

 現状、12Mbps ADSLと26Mbps ADSLの料金差が月額数百円程度となることを考えると、極端な話、このモデムをレンタルするためだけに26Mbps ADSLに移行するのもひとつの手かもしれない。





移行の基準は1Mbps程度の速度向上を求めるかどうか

 このように、アッカの場合、26Mbps ADSLへの移行によって、筆者宅では約1Mbpsの速度向上が見られた。今後、ファームウェアの更新によって速度が向上するかもしれない可能性がある点、そして新型モデムによって無線LANが利用可能になる点を考えれば、12Mbps ADSLからの移行を考えるのも悪くはないだろう。

 ただし、問題は、この1Mbps(環境によっては数百Kbps~数Mbps)の向上にどれくらいの価値を見いだせるかだ。確かに、インターネット上の速度測定サイトにアクセスすれば、向上した速度を実感することができる。しかし、その他の用途で速度向上を体感できることはほとんどない。Webの閲覧が快適になるわけでもなければ、ソフトウェアのダウンロードもさほど変わらず、ましてやこの程度の速度向上によって、新しいことができる可能性は低い。

 技術の向上によって、より高品質なインフラをユーザーに提供することは確かに大切かもしれないが、それによって何も生まれなければ意味はないだろう。そろそろ、速度が向上して、「よかった!」と実感させてくれるような何かを、誰かが提供してほしいものだ。


関連情報

2003/9/2 11:12


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。