第156回:IEEE 802.11aの新チャネルをテスト
5.25~5.35GHz帯はどれほどレーダーの影響を受けるのか



 気象レーダーと帯域を共用するIEEE 802.11aの新チャネル。果たしてこの帯域で気象レーダーによる干渉が発生するのか。そしてその回避方法は? レーダー干渉について実際のテストを交えながら検証してみよう。





W53でのレーダー干渉をテスト

 5月16日の電波法改正を受け、IEEE 802.11aでは従来まで使っていた5.15~5.25GHzに加えて、5.25~5.35GHz(W53)の帯域が新たに利用できるようになった。

 ただし、新しく割り当てられた帯域は今までの帯域とまったく同じというわけではない。この帯域は、すでに航空管制レーダーや気象レーダーが利用している周波数帯域のため、レーダーを検出するための仕組みであるDFS(Dynamic Frequency Control)が義務づけられており、これによって無線LANの利用が制限される可能性があるのだ。

 具体的にはW53のチャネルを設定した場合、DFSによってアクセスポイントの電源投入時に1分間電波をスキャンし、そのチャネルが空いている場合のみ利用可能になる。また、無線LANの運用中に航空管制レーダーや気象レーダーの電波をキャッチした場合、10秒以内に該当チャネルの利用が中止され、別のチャネルへの変更が行なわれるようになっている。

 一般的には、「レーダー干渉については心配する必要がない」という意見が多いが、環境による違いも影響するため、実際に確認してみないことには何とも言えないところだ。そこで、今回は、実際にレーダー干渉が発生するのかどうかを筆者宅で実際に確認してみた。

 まずは、今回のテスト環境を説明しておこう。テストに利用した機器は、バッファローからすでに発売されている新11a対応の無線LANルータとクライアントのセット「WER-AM54G54/P」だ。この機器を筆者宅のさまざまな環境に設置し、レーダーの干渉が発生するかどうかをテストしてみた。

利用機器
バッファローアクセスポイントWER-AM54G54
バッファロー無線LANカードWLI-CB-AMG54
PCマザーボードMSI K8T Neo2-FSI
CPUAMD Athlon64 3000+
RAM1GB
HDD80GB
PCICardbus Slot PCIカード
(ここにカード装着)


清水家(東京西部:木造3階建て。)1/2/3FにAPを設置し、1Fにクライアントを設置してテスト

テスト環境:アクセスポイント……無線……クライアント
既存ネットワークから切り離した単独環境。AP側はLAN側接続なし、WAN側も接続なしで利用。クライアント側は無線接続のみで、他の無線LANの影響を避けるために家庭内で稼働中のほかのAPはすべて電源OFF。また、11g側での接続を避けるため、WER-AM54G54にて11gをOFF。AP-CL間の接続にはAOSSを利用(WPA-PSK AESで接続)





テスト1:干渉が発生する場所を探す

 まずは、レーダーの干渉そのものが発生するかどうかを確認してみた。上記テスト環境において、1F、2F、3Fの各フロアの窓際(1~6)にアクセスポイントを設置。W53の各チャネル(52/56/60/64)を1つずつ設定し、DFSによるチャネル変更が発生するかどうかを調べてみた。

 結果は、どの場所においても干渉は発生せず、クライアントからも問題なく接続できた。アクセスポイントのログを見ても、特別なメッセージなどは記録されていなかったので、通常はレーダーの干渉をあまり気にする必要はなさそうだ。





テスト2:窓の開閉による影響をチェック

 テスト1では、すべての窓を閉めた状態でのテストであったが、今度は窓を開けた状態でテストしてみた。窓を開けた状態の方が、外部からの電波が届きやすいため、レーダーの干渉が発生する可能性も高くなると考えたからだ。

 合計6カ所のテストの結果、3Fの(6)の部分にアクセスポイントを設置し、窓を開けたケースでのみ、DFSによってチャネルの自動変更が発生、レーダーの干渉を確認できた。


3階で窓を開けたケースでチャネルの自動変更を確認

 この際のアクセスポイントの画面が以下の通りだ。また、この際のログを確認すると(9:54前後)、「11a A radar pulse detected at 52ch by DFS」という記録が残っていることを確認できた。


DFSによってチャネルが変更された画面。無線LANのチャネル初期設定は52chだが、現在は「44」となっていることが確認できる変更時のシステムログ。ログに「11a A radar pulse detected at 52ch by DFS」という記録があり、レーダーの検知が確認できる(なお、時刻を合わせていないため、表示時刻は正確ではない)

 ただし、干渉が発生すると言っても、W53のすべてのチャネルで干渉を受けるわけではなかった。(6)の場所で窓を開けた状態で、W53の全チャネルを設定してみたが、筆者宅で干渉を受けるのは52/56chのみで、60/64chに関しては干渉は確認できなかった。総務省や各メーカーの情報によると、すべてのチャネルが干渉するわけではなく、干渉を受けたとしても2チャネル程度ということだが、筆者宅のテスト結果もその通りの結果となった。





通信中の切断が発生する可能性は?

 ここまでのテストで、極めて限られた環境ではあるが、レーダーの干渉によってW53のチャネルが変更される可能性はゼロではないことがわかった。では、このような干渉を無線LANの通信中に受け、通信が突然切断されることはあるのだろうか?

 通常、ユーザーがレーダーの影響を受けるのは、アクセスポイントを初めて設置する時と考えてよいだろう。一方、気象レーダーの運用は24時間365日安定しているため、一般的には、無線LANの通信中に突然切断される心配はないと考えていいが、ごく限られたケースでは通信中の切断が発生する可能性も考えられる。

 たとえば、前述のテストでは窓の開閉によってチャネル干渉が発生しているが、窓を閉めた状態で無線LANの初期設定を済ませ、何らかの通信を開始した後に窓を開けた場合、DFSによるチャネル変更が発生する可能性も考えられる。

 また、筆者宅では52ch以外に、56chでもDFSによるチャネル変更を確認したが、このチャネルでは5回に1回程度、DFSによるチャネル変更が起きており、レーダーの干渉を受ける頻度が低かった。この場合も、レーダーの干渉を受けないタイミングで初期設定を行なった後、レーダーを検知することも考えられる。





テスト3:通信中の切断を確認

 このような可能性を確認するため、実際に筆者宅3Fの東南方向の窓際で、窓を閉めた状態でアクセスポイントを52chで起動。クライアントから接続後、アクセスポイントに対してPINGを送信し、途中で窓を開けるというテストを実施してみた。この際のログが以下の画面だ。


画面中の10時15分前後のログに注目。ログ中で10時13分にクライアントからの接続に成功。通信開始から約2分後の10時15分にレーダーを検知してDFSによるチャネル変更が発生したDFSによるチャネル変更時のPINGのログ。アクセスポイントから正常な応答が途中で途切れ、DFSによるチャネル変更後、再び正常に通信が再開されている

 このテストでは、ちょうど窓を開けたタイミングの10時15分ごろに、レーダーの干渉によってDFSが働き、チャネルが変更されていることがわかる。つまり、クライアントからの接続開始時と接続後で環境が異なる場合(この場合は窓の開閉)、通信中にDFSによるチャネル変更が発生し、通信が中断されるということも起こり得るわけだ。

 もちろん、これは通信の中断を予想した上での意図的なテストであり、この状況が一般的かと言われると決してそうではない。アクセスポイントの設置場所がレーダーの干渉を受ける可能性があり、さらに何らかの理由によって、アクセスポイントの設置時には干渉が発生せず、後から干渉が現れたという2つの原因が重なる必要がある。

 つまり、通信中の切断についても、運用次第で回避することが可能だ。アクセスポイントを窓際に設置しなければ、そもそもレーダーの干渉を受ける可能性が低く、途中でレーダーから受ける影響が変化する可能性も低いのだから、前述したようにアクセスポイントを家の中心に設置するように心がければいい。

 また、レーダーの干渉は数分~数十分程度で確認できるので、アクセスポイントの設置後にしばらく様子を見ることも大切だろう。干渉が発生していなければそのまま使えばいいし、干渉が発生していたとしてもDFSによってチャネルが変更されているはずなので、これもそのまま利用することが可能となる。一般的には、アクセスポイントの設置後、1日も経過すれば、途中で通信が切れるというようなトラブルの発生を心配する必要もなくなるだろう。





ユーザーとしてはレーダーの干渉をどのように考えればいいか?

 今回のテストからは、以下の結論が得られる。

  • 地域によってはレーダーの干渉を受ける可能性がある
  • 高い場所、窓際、窓を開けるという不利な状況下では干渉の確率が高くなる
  • AP起動時と通信時の条件が異なる場合(窓の開閉やレーダーのタイミング)は  通信切断の可能性もゼロではない

 ただし、各テストの中でも触れたが、これらはあまり一般的な事例ではない。また、すべて以下のような運用で回避できる問題でもある。

  • 高い場所や窓際を避け、家の中心にAPを設置する
  • W53を利用する場合はAP起動後、すぐに利用せずにしばらく様子を見る
  • W53のいくつかのチャネルを試し、干渉を避けられるチャネルを探す(複数チャネルを利用したい場合など)

 もちろん、実際にはそこまで注意しなくても、DFSによってレーダーによる干渉を自動的に回避できるが、場合によってはDFSによるチャネル変更が発生して欲しくないケースも考えられる。

 たとえば、企業などで複数のアクセスポイントを設置する場合は、アクセスポイント同士の干渉が発生しないよう、各場所に設置するアクセスポイントのチャネルを綿密に設計する必要がある。このようなケースで、運悪く、窓際に設置したアクセスポイントでDFSによるチャネル変更が発生すると、せっかく干渉しないように設計したチャネルの配置設計が崩れてしまう可能性がある(このあたりはアクセスポイント側のチャネル選択の仕組みも関係するが……)。

 このため、W53を積極的に利用したい場合は、各チャネルをテストして、確実に空いているチャネルを探すことをおすすめしたいところだ。実際、筆者宅では60/64chがレーダーの干渉を受けないことが、上記のテストで判明している。これにより、現状、ほとんどユーザーが存在しないW53の帯域を利用し、他のアクセスポイントからの干渉も避けつつ、快適に新11aを利用できている。

 今後、11gを利用したホットスポットサービスが新たに提供される予定となっていることなどを考えると、独立したチャネルは3つまでしか使えない2.4GHz帯の干渉は、今まで以上に無視できないほど大きな問題となる可能性が高い。となると、今後は11aの利用が注目され始める可能性もあるだろう。既存11a製品のアップデートサービスがまだ開始されないなど若干の問題点はあるが、今回の検証結果からは、レーダーの干渉問題は運用次第で解決できると考えられるため、、新11a製品への移行を積極的に考えても良さそうだ。


関連情報

2005/7/19 13:07


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。